世界観警察

架空の世界を護るために

晩秋のデンマーク遠征2023 - 旅日記⑥

 こんばんは、茅野です。

本日4月24日は、我らが殿下の命日グレゴリオ暦)! 今年で彼の没後159年となります。近代からどんどん遠ざかっていく寂しさ。Куда, куда, куда вы удалились...

 せめて著しい進歩が見られればよいんですけれどもね、今のロシアなんか間違っても心優しい殿下には見せられませんからね。スタシュレーヴィチ先生のお言葉(「最早我々は彼の命に相応しくない存在なのだとしても、せめて彼の思い出に相応しい存在になれるように努力しよう。」)を胸に刻んでいきたいところです。

 

 というわけで今回は、聖地巡礼デンマーク遠征旅日記シリーズです。

↑ シリーズの概要となる初回はこちらから。

第6回(シリーズとしては9回目)となる今回は、6日目・11月6日編をお送りします。

 

 前回から引き続き、聖地巡礼を敢行。ベルンストルフ城内部に潜入し、更にそこからフレデンスボー、フレデリクスボーへ遠征します。

 それでは、お付き合いの程、宜しくお願い致します!

 

 

前回のあらすじ・厩舎の夜

 今回は前回の第五回と完全に続きものになるので、先に簡単におさらいしておきます。

↑ 詳しくはこちら。

 車を借りて首都・コペンハーゲンを離脱、クランペンボーにあるお姫の没地を見た後、ゲントフテへ。

お姫が住んでいたゲントフテのベルンストルフ城の元厩舎は、宿に改造されており、お姫の愛馬となりそこに一泊することに! ~当記事へ続く~

 

 

 ベルンストルフ城は、現在2階が貸し会議室に改装されており、借りることができます。

厩舎ホテルの方は、わたしのようなオタクたち向けというより、この会議室を借りる人向けの施設、という様相です。

 わたしが泊まった11月5-6日は、泊まりがけで会議室を借りた団体はなかったらしく、見たところ、わたし達の他、一組しか宿泊客がいない様子。

従業員さんもいないので、あの広い建物に、四人しかいなかったわけです。

 

 ベルンストルフ城の庭園は、前回探索したように、広大で、手入れされたバラ園などもあるものの、原則的には自然な野原や森、という場所です。

従って、街灯の類いも少なく、辺りは完全な漆黒の闇に閉ざされています。

 晩秋の滞在でしたが、意外にも虫や鳥の声さえなく、完璧な静寂。現代でこれなのだから、近代だってきっとこのような闇と静寂の世界だったのだろうな、と思わされます。

 

 わたしは、東京のコンクリートジャングルの生まれ育ちで、このような静寂の世界とは基本的には縁がありません。そのような世界に対する一抹の憧れもあります。

尤も、わたしは『オネーギン』のオタクなので、このような状況になると、頭に鳴り響くのは「手紙」のここの一節なのですが……。

Вообрази: я здесь одна!
Никто меня не понимает!

考えてもみて、私はここに独りぼっち!
誰も私のことなんて理解してくれません!

 大量の落ち葉を手に、これを叫びながら全力疾走したいところでした(変質者)。

↓参考

↑ 秋だったので、物理的にこれができそうだった。やりたかった。寒いけど。カーセン演出はいいぞ。

 「片田舎に独りぼっち」、想像以上にハードモードかもしれない……と、改めて思ったりしました。ターニャが夢見る夢子さんになるのは必然なのかもしれない。

 このような広大な自然の中で育ったお姫ですが、彼女には理解ある、仲の良い姉や兄がいたから、このような気持ちになることはなかったのかな。

 

ベルンストルフ城、潜入

 ……などと考えているうちに、朝に。

Ах, ночь минула,
Проснулось все и солнышко встает.
Пастух играет... Спокойно все.
А я-то! Я-то?!

ああ、夜が明けた
全てが目覚め、お日様が昇る
牧童が笛を吹いてる……全てが穏やかだわ
それなのに私は……私ったら……

ターニャって世間知らずで情熱的すぎて空回りするところはあるけど、やっぱり可愛いよね

 

 厩舎ホテルはチェックアウト時間が早く(9時)、それまでに朝ごはんを食べて、荷物を纏めなければいけません。早起きです。

 

 身支度をしたら、まずは……。

↑ ついている……電気が!!

 早くも感動。朝っぱらから、お姫の居城に潜入です!!

 

 中に入ると、まずはお姫の父・クリスチャン9世の肖像画が。ここベルンストルフ城は、彼の時代からの城ですからね。

↑ 左側は一応ホテルのフロント。開いていることの方が稀だけど。

 短い距離ですが、コートを着てきたので、裏口から入って右手の無人クロークにコートを掛けます。

↑ ハンガーなどの備品にも全て " Bernstorff Slot " のロゴが。これどこで売ってる? 欲しいんだが。

 

 お城の中、めっちゃめちゃ綺麗です。赤~ピンクを基調とした生花が至る所に飾られています。

 殿下とお姫の共通の趣味は「花を愛でること」と雅やかで、恐らくお互いにそのことを知っていたように思われます。

殿下からお姫宛の恋文の一つには、「花言葉を完璧に習得したので、この薔薇で花束を作って君の足下に置きたい」という文章が入ったものもあります。

あの殿下が自ら「完璧に習得した」と仰るからにはまあ間違いなく完璧なのだろうし、その上でどのような意味で構成された花束を作りたかったのか、大変気になるところですね。

 

朝ごはん

 さて、何故朝っぱらからお城に潜入したのかといえば、それは勿論!!

↑ ホールが美しすぎる。最初に裏口から入ってこの光景が目の前に広がったときの興奮を言葉にすることは難しい。

↑ ビュッフェスタイル。美しいし豪華!

 お城のホールが朝ごはん会場になっているから、なんですね!!

この為に来た、これだけの為に来た。ゲントフテに。

 

 一階ホールは、今はレストランになっています。

↑ 8人掛けの円卓が並ぶ。席も素敵。

 殿下がベルンストルフの庭園でお姫にプロポーズし、お姫から熱烈な返答を貰った後、ここベルンストルフでは宴会があったようです。

 30日、ベルンストルフで大宴会があった。

ダウマー姫は、皇帝からの10万ダーラーもする六連の真珠のネックレス、大公からのダイヤモンドのブレスレット、そして皇后からの最高級の美しい大粒の真珠でできたブレスレットで自身を飾り立てていた。

婚約を巡る書簡集 ⑷ - 翻訳

 10万ダーラー、計算方法やレートにもよるのですが、現代円にすると約25億円相当になるのですが……、ロマノフ家は本当に……。

 

 また、恐らく「ワインが酸っぱい事件」も、正にここ、ベルンストルフのホールで行われたものと思われます(※フレデンスボーの可能性もあり、確定していません)

おさらいすると、ロシアでは、結婚式などで客が「ワインが苦い/酸っぱい!」と叫び、ワインを甘くするという名目で新郎新婦が公衆の面前でキスをする、という風習があります。

 殿下は、ロシアの風習をデンマーク人に強要することを好まなかったものの、司令官ゴロヴァチョフが「ワインが酸っぱい!」と叫びだし収拾が付かなくなったため、致し方なくお姫にキスする許可を求め、頬にキスしたところ、何も知らない彼女から熱烈なお返しを頂いた、というエピソードです。慎重な殿下と無邪気なお姫の性格の差が現れていて、非常にかわいい。

 

 ……というベルンストルフのホールで、朝ごはんを食べているんですねわたしは!!

↑ 薄もやの掛かった早朝のゲントフテも素敵。

 お宿は厩舎ですが、朝ごはんの質は非常に高く、美味しかったです。

特にラズベリーのペイストリーが抜きん出て美味で、この旅で食べたもので一番美味しかったものランキング最上位争い。ビュッフェスタイルなのをいいことに、そればっかり沢山食べてしまいました。無限に食べられる。カロリーはアドレナリンで燃えます。

 

 食後のお紅茶には王室御用達の A. C. Perch's Thehandel のセットが。「そうか……ここお城だものな……」と再認識。

沢山の種類のブレンドがありましたが、わたしはアールグレイ党員なので、こちらをチョイス。

↑ 王室御用達を表す王冠マーク付き。

 1835年創業なので、お姫の時代からあります。なんならプーシキン存命時代からあるということですね。

但し、王室御用達になったのは2002年と最近なので、彼女らが飲んだことがあるかどうかは不明です。

 お姫もお紅茶はお好きだったんでしょうか。

 

 いやしかし、目視したところ、宿泊客がわたしとパパ上を含めて四人しかいないのですが、この量の豪華な朝ごはんを置いていて大丈夫なのでしょうか!? わたしはラズベリーのペイストリーばっかり食べてるし!?

 環境先進国・デンマークのことですから、フードロス対策も何かしらしているとは思うのですが、客数に反してごはんが豪華なので、ちょっと驚きました。

お姫の馬って待遇いいんだな……(?)。

 

ベルンストルフ城、探索

 おなかを膨らませた後は、お城を探索。

こちらは半地下のお手洗い。お手洗いまで綺麗なので、つい写真を撮ってしまった(人いなかったし)。

↑ 窓の下のオイルヒーターを見ると、「ヨーロッパだ……」という感じがする。なんとなく。

 このフロアにはキッチンがあるようで、外の窓からは調理場が見えます。移民と思しきコックさんが鼻歌交じりにフライパン振ってた。可愛かった

 

 また、地下にはバーがあるのですが、勿論この時(朝7-8時)には開いていません。

このバーでは、一時期「お姫をイメージしたカクテル」を出していたようで、本気で気になるのですが。ベルンストルフ城のバーテンダーの考える「お姫カクテル」、何味なのか気になりすぎませんか!?

 

 探索を続けます。

半地下がバー、1階ホールがレストラン、2階が会議室になっているので、上にも行ってみましょう。

↑ 階段。シックでお洒落。

 

 2階の棚の上には、本が積まれていたのですが……。

↑ 一番上はお姫の伝記!

 5冊中、3冊はわたしも持っているっていうね。オタクだからね、致し方ないね。

お城にも置くような本だったのか、と謎の安心。

 

 階段の壁には、お姫の兄・フレディことフレゼリク8世の肖像画も。

↑ 即位したのが遅かったので、肖像画は老年時代のものが多い兄上。折角お顔立ち整っているのに勿体ない。

 

 会議室には、それぞれ人名が付いている模様。デンマーク王室に実在した人の名前が付いているようです。

↑ こちらは「プリンセス・マリー」。出典はお姫かな??

 

 会議室は、部屋の大きさにかなりばらつきがある印象でした。元々はお姫時代の王家の面々のそれぞれの寝室だったのですよね。

 王家って、主に2階に住んでいる印象があります。殿下も、エカテリーナ宮・冬宮共に自室は2階にありますし、ニースのベルモン荘では、既に一人で階段を上りきれないほど衰弱していたにも関わらず2階を使っていて3階に聞き耳を立てている不審者がいるから気をつけてくれコペンハーゲントット邸でも、本人が「階段を駆け上がって自分の部屋へ」と書いているので、2階に住んでいたことがわかります。

↑ こちらは広めのお部屋。

 1階は近代の趣を残していましたが、2階の調度品には現代的なものも。

↑ 王家の肖像画ではなく、現代アートが掛かっている部屋も幾つか。

 宿泊はしていないものの、ここで会議をする団体がいるらしく、途中から人がぞろぞろとやってきました。ここで会議するの、絶対に楽しいだろうなあ……。

 

 探索していると、従業員さんが声を掛けてくれました。陽気な金髪お姉さまとは英語で、おじさまとはデンマーク語で会話演習を実践。

お姉さま「(大興奮で写真を撮りまくっているわたしを見て)楽しんでる? 困ったことがあったら気軽に言ってね~」

わたし「今更だけど写真撮って大丈夫!? っていうか、わたし会議しないけどここにいていいの?」

お姉様「全然大丈夫、好きなだけ見て回ってね。会議が始まったら、その邪魔にならないようにだけして貰えたら」

わたし「OK!!」

優しい。

 

 チェックアウト時間が迫っていたので、一度部屋に戻り、荷物を纏めてからお城に戻ります。

フロントで係員のおじさまに「チェックアウトしたいんだけど……」と話しかけたら、「カウンターの上に鍵置いておいてくれればそれでいいから~。ありがとう」とのこと。本当にゆるいな!? 大丈夫か!?

 しかし折角なので、勇気を出してデンマーク語会話を実践。

わたし「Undskyld, må jeg spørge dig om noget? Jeg er interesseret i Christian IXs børn - ved du, hvem der boede på hvilket værelse?(すみません、質問してもいいですか? わたしはクリスチャン9世の子供たちに関心があるんだけど、誰がどの部屋を使っていたかってわかりますか?)」

おじさま「Åh... Jeg kender kun til generationen efter den.(あ~……僕はその後の世代のことしかわからないな。)」

撃沈!! でもデンマーク語会話自体には成功したから、その点は嬉しい、かな……。

 今度はガイドツアーの日に狙ってみるかなあ、しかし、デンマーク語の解説を聞き取れるか、それが問題だ。

 

 午前は、今一度ベルンストルフ城の庭園を散策してみることに。昨日、回りきらなかったので!

↑ 改めて、お城の正面から。電気が灯っているの、素敵だ……。

 ここにお姫が住んでいたんだもんなあ、と改めて感動しました。

 

 紅葉が大変美しいです。常に灰色がかった空模様のデンマークですが、少し陽も差してきて、殊更色合いが美しく……。

 

 デンマークの人々はホスピタリティ精神が凄まじく、わたしが看板の前で立ち止まっていると、通りすがりの白髪のおじさまが英語で話しかけてくれました。

おじさま「どうかした? 行きたいところがあるなら、道教えてあげるよ!」

わたし「あー……っと、この看板に何が書いてあるのかな、と思って……(デンマーク語でのみ書かれた看板を指しながら)」

おじさま「OK、読んであげる。ちょっと待って……」

 そうして英語に訳してくれました。優しすぎる。曰く、門の開閉の時間についての注意書きだったようです。

 

 また、ベルンストルフ城の庭園には、今は犬を連れた人がとても沢山います。とても広大な庭なので、犬のお散歩にピッタリなようです。

中にはわたしの足にじゃれついてくるフレンドリーなわんこもいて、動物が得意ではないにも関わらず、思わず「老後はゲントフテで犬を飼って暮らすか……」と考えてしまいました。

 お姫もデンマーク時代、わんこ飼ってますしね……。猟犬なんだろうか?

↑ とにかくお姫がかわいい。

↑ 明らかに同じ子ですね。スパニエル犬らしいです、なにちゃんと言うのだろうか。

 

 わんこの飼い主さん方に "Godmorgen!(デンマーク語で「おはよう」)" と声を掛けてみると、必ず同じように返して貰えて、「多少なりともデンマーク語やっておいてよかった……」と思いました。

ゲントフテでは、結構デンマーク語を使う機会があって、嬉しかったです!

 

 後ろ髪を引かれすぎてスキンヘッドになりつつ、時間もありますし、次の目的地へ。

 

フレデンスボー城

 車を更に北上させ、向かった先は、フレデンスボー城です!

殿下のお手紙によると、コペンハーゲンからフレデンスボー城まで、馬車で3時間掛かったそうですが、現代では、車を使うとコペンハーゲンからでも約45分で行くことができます。かがくのちからってすげー。

 

 フレデンスボー城は、デンマーク王家の夏の離宮です。これまでのデンマークのお城に反し、ここはかなり巨大で、我々の想像する「お城」という様相。

↑ 兵隊さんもいました。お帽子が英国風で、イギリスとデンマークが地理的に近いことを想起させます。

 殿下が初めてデンマークを訪れたのは9月の初めだったので、お姫と初めて会ったのはここ、フレデンスボー城です。こちらの写真の奥に見える大階段で初対面を果たし、お互いに一目惚れ。完全に童話です、本当にありがとうございました。

 

 ややこしいのですが、デンマーク王家がフレデンスボーに住むのは夏の間だけなので、殿下の二回目の滞在では先ほどのベルンストルフに戻っており、彼はそこでプロポーズをしたのでした。

 ちなみに、サーシャ大公(後のアレクサンドル3世)がお姫にプロポーズしたのはこちらの夏のフレデンスボーの方で、彼女の部屋で行われました。詳しくは以前の連載をご確認ください。

↑ わたしは殿下×お姫CP推しですが、皇帝夫妻も好きです。彼らの恋愛物語は、大公との結婚まで含めて完成だと思っています。あんまり胸糞悪くないレヴィレート婚。

 

 今でもデンマーク王家は夏にフレデンスボーに滞在しているので、夏の間しか中に入ることができません。わたしが『オネーギン』が観たかったばかりに……フレデンスボー潜入のチャンスを逃してしまった……。

いつか必ず夏にリベンジしたいところです!!

 

 というわけで、お城の周りを探索。フレデンスボーに着くと、太陽が輝きを増して、本当に美しくて!!  見てください、秋のデンマーク、最強ですよ。

ボタニカルガーデンにもあったような美しい温室。こういうところで柑橘類とか育てていたのかな。

 

 並木道ですら美しく……。

↑ 紅葉がまた最高でですね。

 わたしはよく知っているのですが、近代のアクティヴなカップルは、このような一本道にさしかかると、必ず馬で競走をします。

 もしかして、このエピソードの現場とかってこの辺りだったりするんだろうか……と思いながら歩いていました。

 ここ数週間、乗馬をするときに愛するニクサのことを考えなかったことは一度もありません。というのも、一緒に乗馬に出掛けて、ギャロップに移行した時に、彼は痛みを堪え苦しそうにしていて、その時初めて、私は彼が本当は速く走りたくないのだということに気が付いて、そのことがとても印象的だったからです。

婚約を巡る書簡集 ⑺ - 翻訳

 是非とも健康な時に出逢って欲しかったよな……と思いますね。

 

 それから、開けた場所には東屋も。 

↑ 高低差がかなりあります。

 大公曰く、フレデンスボー滞在時に、お姫から「東屋でニクサとキスをした」という話を聞かされたそうで、その東屋ってもしかしなくてもここでは……!? になりました。史料で見た記述と現実が繋がる感動ったらありません。最高だ……。

 

 余談。森エリアを歩いているとなんとも絵に描いたような色合いのキノコが……。

↑ わあ。

 これってもしかしてベニテングタケ? あかんやつでは??

以前植物の考証をやっていたときに知りましたが、ベニテングタケは白樺と共生関係にあるので、寒い地域に多いんですよね。皆様、キノコ狩りの際には細心の注意を払ってくださいませ。

 

 森を抜けると、湖があります。森と湖、それも童話っぽい。エスルム湖というとても巨大な湖です。

↑ この向きだと対岸が見えますが、横の方だと見えません。最早海。

 殿下の手紙には、以下のような記述もあります。

 昨日は素晴らしい一日で、外気も暖かく感じた。

僕たちは教会に行った後、セーリングに出掛けた。概して歓楽的だった。僕たちは隣同士に座って、舟は風だけで進み、皆良い雰囲気に満たされていた。

ダグマールは魅力的だった―――素晴らしい一日

 夜、僕たちはフレデンスボーを去った。

離れるのがとても哀しかった。ダグマールの兄が、今日彼女も寂しそうだったと教えてくれた。

婚約を巡る書簡集 ⑴ - 翻訳

 セーリングに出かけた湖って、絶対ここだ~! と確信しました。

殿下たちの「舟が風だけで進」んだことを証明するかのように、風が物凄く強くて。

↑ ボボボボボボボボボ(風の音)。

 

 波の上には「みにくいアヒルの子」もいて、「なるほど、これが白鳥の湖ですか……!」とも思いました。まあ殿下はお姫に一途なので、オディールに誘惑される危険はありませんが。

↑ まだ毛が生え替わりきっていない、ちびちゃんたち。

 

 庭園には、謎の建造物もいくつかあります。

↑ ぐるっと木々に囲まれた、謎のオベリスク

 

 庭は舗装されていないところばかりで、靴が大層汚れます。

「お城に行くのだから!」とシンデレラのようにおめかししたい気持ちは大変よくわかるのですが、全力で探索を楽しみたいのなら、防水加工されたスニーカーで来ることを強く強くお勧めします。わたしたちは舞踏会へ行くのではなく、聖地巡礼に行くのだからな!!

↑ わたしの足下。ゴアテックスを信じろ。

 

 フレデンスボー城は裏側から見ても美しいです。白い外壁と青銅のコントラストが素晴らしい。

↑ 夏に来たら絶対中に入るんだ~……。

 

 デンマーク王家には、婚約をしたときに、ここフレデンスボー城の窓にカップルでサインを彫る風習があります。

従って、あるはずなんですよね、殿下とお姫のものも、ここに……! 以前、その窓を撮った写真を探していたらネットで見つけたので、載せておきます。

↑ 中央右側に Dagmar の文字が見えます。お姫、彫るのが上手い! お姫の D の書き方は、ロシア語の Д に近いですよね。右下には1864という年号も。

↑ もう少し別の角度から見ると、左側に Nicola の文字が見えます。N の最初の方が二重線になっているので、彫るのに苦戦したのかな、なんてことも窺えて楽しいです。

 二人で彫ったんですよね、これ……、尊い。わたしも生で見たいところです。

 

 いつか夏にリベンジするぞ! と誓い、次の目的地へ!

 

フレデリクスボー城

 お次に向かったのは、中世の城・フレデリクスボー城です。

↑ レンガの外壁が歴史を感じさせます。英国風の景色で美しい。

↑ 湖の上に建っています。カッコイイ!

↑ 入り口前には噴水が。

 火災や崩壊の度に同じ場所に建て直しているフレデリクスボー城。現在のこのお城の外壁は、主に1620年頃に建てられた近世のもの。それもあって、ローゼンボー城に似たものを感じますね。あちらをそのまま大きくしたような。

 

 内部も豪勢です。入ってみましょう!

↑ また目眩がしそうな天井の彫刻。

 

 フレデリクスボー城の最大の見所は、内部にある教会です。

その壮麗な礼拝堂が、こちら!

↑ 広い! デンマークらしくなくキンキラキン! 壮観です。

 2階の回廊部分を歩くことができます。1階には普段は降りられません。

↑ 教壇側から。語彙力なくなりますね。

 いやしかし、申し訳ない、不死人にはオンスモ部屋にしか見えないんじゃ…….。わかる人には絶対同意して貰えると思う。やっぱアノロンって近世の城モデルだよね

 

 ステンドグラスも美しいです。

↑ 上部はキリスト教的モチーフ、下部は王権的モチーフ。

 

 この部屋の回廊の入って右側には、各国の盾が飾られており、無論日本のものもあります。

↑ 他国のものと比べても、黒地に金の菊の御紋、存在感あります。

 こうやって他国で天皇家の紋章を見ると、ああ、そういえば日本も一応は君主制なんだったな……ということを思い出しますね。

 

 探索を続けます。どの部屋も、近世らしく豪勢な美術品が並んでいます。

↑ こちらは如何にもチェス向きなセットが組まれた一室。こちらは『うみねこ』っぽい。

 お姫パパことクリスチャン9世像なども。

↑ この鏡像がある展示室は、期間限定でプラネタリウム的な展示も行っており、照明が暗くて写真が撮りづらかった。

 

 更には、お姫姉妹の全身像もありました! 置かれている場所の問題で、正面からだと完全に後光が差した状態となり、逆光で暗くなってしまって上手く撮れなかったので、斜めから。

↑ お花と手袋を持ち、少し憂いを帯びた印象のほうがお姉様。

↑ お手紙(?)を持ち、肘掛けにもたれて堂々とした印象のほうが我らがお姫。

なんというか、解釈一致です。立派になられて……。

 

 反対側には、肖像画も飾られています。

↑ イギリス王妃となられたお姉様。

↑ お姫とアレクサンドル3世、ニキ君こと後のニコライ2世

 お年を召されても変わらず美しいですね。

 

 フレデリクスボー城は、中近世のお城で、近代には既に居城としては使われていませんでした。

1859年12月に火事があり、内装はほぼ焼け落ちてしまい、殿下がデンマークに来た頃は、焼けたままの状態になっていました。

↑ わかりやすい映像があったので、撮っておきました。

 殿下が一回目の訪問で滞在されたのはフレデンスボーだったので、そこから近いフレデリクスボー城には、皆で訪れたそうです。手紙には、その時には焼け落ちていたことが記されています。

 二日目は午前9時の身内でのティータイムから始まり、その後散歩に出た。

午後1時、昼食の後に、数年前に焼け落ちた有名なフレデリクスボー城に出掛けた。

素晴らしい旅だった。天気にも恵まれて、輝くばかりの森を抜け、興味深い教会もあった。

僕たちは一台の大きなシャラバンに11人全員で乗ったんだけれど、ダグマールはとても愛らしかった。

 この旅のことは絶対に忘れない。

婚約を巡る書簡集 ⑴ - 翻訳

 この「11人」というのは、国王夫妻、お姫を含めた兄弟4人、アンハルト=デッサウ公女、アーデルハイト・マリー公女、ヴィルヘルム・フォン・ヘッセン=カッセル公、ハンス王子、殿下、で11人だと思われます。

つまり、殿下はデンマーク王家の中に文字通り一人だったことになります。それでもすぐに打ち解けてしまう殿下のコミュ力の高さは相変わらずですね。

 

 フレデリクスボー城は、お城のみならず、庭園が美しいことでも有名です。外に出てみましょう。

↑ 一部が工事中でしたが、湖の反対側から。太陽を背にした、影絵のようなシルエットも素敵です。

↑ 高台から庭園を見下ろす形。模様が作り上げられていて美しいです。

↑ 庭から高台側を見上げる形。デンマークは自然豊かなので、秋に来たのはやはり正解だったのかも。ありがとう『オネーギン』、一生好き。

 

 城下町へと続く道もとても素敵でした。

↑ しかし、やはりちょっとダクソっぽい……。

 殿下がフレデリクスボーに来たのもお天気がよい日だったようですが、わたしもお天気の日に来られてよかったです!

 

ベリーの襲撃

 フレデリクスボー城探索を堪能し、レンタカーの返却の時間もあるので、コペンハーゲンに帰ろうとすると、思わぬ事態が発生していました。

 駐車場は、木々に囲まれた場所にあるのですが、戻ってみると……。(ちょっと閲覧注意)。

↑ うわあああ!!!! 助手席からの景色。

 木からスグリ系の果実が落ちて、フロントガラスを襲撃

「そんなん払いのければよくない?」と思うじゃないですか。ベッッタリと完全にこびりついてしまっていて、ワイパーで掃除しようが、ウェットティッシュティッシュで拭こうが、ぜんっぜん落ちないんですねこれ。

 な、なんだこのトラップは……。AV○S のお兄さんマジごめん……という少し憂鬱な気持ちで帰路につきます。

 

最後の晩餐

 この非常に汚らしくお化粧をしてしまった車で、コペンハーゲンに戻ります。

 

 最後の宿にチェックインして荷物をお部屋に置いた後、レンタカー屋さんへ。

返却時のチェックを担当してくれたお姉さんは、「何があったの? どこ行ってきたの?」の一言さえもなく、「おっかえり~! 楽しかった~!?」とニッッコニコで対応してくれました。その笑顔に心底救われたわたしがいます。神対応すぎる。お姉さん、本当にありがとう。

 

 大量に詰め込んだとはいえ、この日のお食事は朝にベルンストルフでラズベリーのペイストリーを食べて以来だったので、とても空腹でした!

 次の日には誠に残念ながら帰国となり、これはデンマークでの「最後の晩餐」となりますから、パパ上と「ちょっといいもの食べに行こうぜ」という話になり、ニューハウンまでお散歩。

↑ ライトアップされたニューハウン。

 一晩しか離れていないのに、最早実家のような安心感。小遠征って面白いものですね。

 

 ニューハウンは完全にレストラン街で、ごはんどころが所狭しと並んでいるので迷うところですが、その中の一軒に突撃してみます。

↑ ディナー時ということもあり、洒落た店内のレストラン。居心地の良いソファ席に通して貰えました。

 

 このときはハロウィンが終わったばかりでしたが、商売というのは気が早いもので、既にクリスマスメニュー(!)が出ていました。

 「デンマークのクリスマスメニューってどんなもんだろう?」という話になり、そちらを注文してみることに。

↑ フレスケスタイ(ローストポーク)、リュドコール(紫キャベツの蒸し煮)、カラメル・ポテト、スグリのゼリー。

 フレスケスタイは、「これデンマーク語の教科書に出てきた!」と、進○ゼミ状態に。

↑ 第16課のスキットに登場。

 帰国後に調べてみると、これらのメニューはすべて、コッテコテの伝統的なデンマークのクリスマス料理だということがわかりました。クリスマスにはまだ早い時期でしたが、実際のクリスマスの時期のコペンハーゲンはとても寒いだろうし、本場で食べられて良かったですね。

 地味にこのカラメリゼしてある甘いジャガイモが美味しくて、これ子供は絶対好きなやつ! と思いました。

 

 デザートとして、エイブルスキーバーを組み合わせれば、完璧です。

 外には屋台なども並んでおり、食べ歩きも楽しそうでした。

 

 食後のお紅茶は、またも A. C. Perch's Thehandel で、コペンハーゲンでも、少し高級路線のレストランはこちらのものを置く印象でした(ファストフード~安価寄りのお店は、Pukka が多い印象です)。

 

 宿に戻り、熱いシャワーを浴びて、この日はお終いとなります!

濃い、幸せな一日だった……。Блажен, кто ведал их волненья!

 

最後に

 通読ありがとうございました! 1万3000字強です。この記事は夕方から一気に書き上げたのですが、8000字くらい書いた時、今日中に書き終えることができるのか不安になりました。なんとかなって良かったです。

 

 さて、今日は4月24日ですから、今年のオレンジ日記を簡単に。

↑ 昨年のオレンジ育成日記。

 昨年は、この日には寧ろ満開から数日経ち、早いものは花弁が落ち始めていたのですが、今年は寒い日もあったせいか、発育が遅めで、我が家のオレンジはまだ花開いておりません。

↑ 蕾は大きくなっています。本日は空も喪の様相か、雨模様で、水滴がついています。

 間に合わなかったか~! と思いつつ、本当に開花時期の短いオレンジの花の季節に命日があるのだな、ということを、逆に改めて思い知らされましたね。

 

 二人の恋文にも薔薇の話がでてきますし、プロポーズの場所も恐らく薔薇園に近く、お姫のウェディングドレスには沢山の薔薇の刺繍がされており(まあ彼女は絶対結婚式の花にオレンジを選ばないだろうとは思っていましたが)、お花の中でも薔薇のイメージが強いお姫。

 一方で同じ花好きでも、殿下は、枕花は白く小さなオレンジの花、墓前に供えられるのはスミレの花束であったりと、やはり豪華というよりも儚い印象を持つ花が似合いますね。

 この二人、どうしても殿下の方がヒロインっぽくなってしまうのだよな。溌剌系ヒロイン×儚い系ヒロイン。いや、わたしはジェンダー役割という概念が嫌いなので、それはそれでよいのですが……、かわいいし……。

 咲いたらまたご報告したいと思います!

 

 さて、旅日記連載は、いよいよ次回が最終回。帰国までを描き、総括を書く予定です! 最後までお付き合いのほど、宜しくお願い致します!

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でお目にかかれれば幸いです!

↑ 最終回書けました! こちらからどうぞ。