世界観警察

架空の世界を護るために

オペラ入門の手引き

 おはようございます、茅野です。

この記事は一晩で一気書きしましたことを報告致します。朝になってしまった……。

 

 先日、今をときめく覇権コンテンツ、『ウマ娘』に登場する、オペラに関する発言を解説する記事を書きました。

↑ 以前盛大にバズった記事。ありがとうございます!

↑ 昨日書いた記事。他のウマ娘関連記事はこちらから。

 

 これらの記事は、「全くオペラを観たことがない人を対象に、なるべく平易にオペラ作品を解説していく」ということをコンセプトにしたものです。

そうしましたら、読んで下さった方の中から、「このような形で、全くオペラに触れたことがない人の為の、超初心者向けオペラ入門ガイドを書いて欲しい」という声を幾つか賜りましたので、そのリクエストに応えたのがこちらの記事になります。

 

 わたくしは専門家ではなく、単なるオペラ鑑賞ファンであり、差し出がましいのではないかとも考えましたが、マチュアであるからこそ、親しみやすい文章が書けるのではないか、と考えを改めました。

↑ オペラ関連記事はこちらから。レビューが主です。

   企業が出しているオペラ入門ガイドは、「ソプラノとは何か、テノールとは何か」とか、「バロックとは何か、ヴェリズモとは何か」というような内容のものは沢山ありますが、正直それは「最初の1歩」ではなく「2歩目」であって、「そもそもオペラって何? どこでやってんの?」みたいな、完全ゼロベースの入門書がもっとあっても良いとは以前から感じていたので、もう自分で書いてしまいました(脳筋)。

 

 というわけで今回は、全くオペラに触れたことがない人が抱きがちな疑問を、Q & A 方式で15問に纏めてみました。

自分自身がオペラに入門したときのことを想起しながら、もし「周りに詳しい人が誰もいない状況で、一人で初めて歌劇場に行ってみる」ことになったら、どのようなことを不安に思うか、を想定して書いてみました。超初心者向けですのでご安心を。

ご参考になれば幸いです。

 

 それでは、お付き合いの程、宜しくお願い致します!

 

 

Q1. そもそも、どうやって公演情報を見つけたらいいの?

A. 幾つか方法があります。

 見つけ方として、代表的なものを四つ挙げます。

① 劇場に行ってチラシを貰ってくる

② 劇場や歌劇団、招聘会社のホームページを見てみる

③ 公演情報誌を見てみる

④ 劇場や出演者の SNS を見てみる

 順番に詳しく見て参りましょう。

 

① 劇場に行ってチラシを貰ってくる

 「だから、何をやっているのか知らないんだってば!」と慌てることなかれ。もし近所に歌劇場があるのなら、実際に行ってしまうのが正直一番手っ取り早いです。

何故かと言うと、そこに情報があるから。オペラ鑑賞はインターネットが普及する以前から存在する娯楽です。彼らはどうやって公演情報を得ていたのでしょうか。そう、チラシです。

 劇場の入り口には大抵、公演情報が載ったチラシや情報誌を置いていますし(※チケットもぎりの奥にあることもあるので、席を買う方が確実です)、取り敢えず何でも構わないから勇気を持って1公演出向いてみると、今後の公演についてのチラシを大量に手渡されますので、その中から行きたい演目をピックアップしてみましょう。

 「チラシってちょっと……アナログすぎない?」とお思いかもしれませんが、オペラの客層の平均年齢は非常に高いのです、お察し下さい。わたくし(20代前半)ですら、どちらかというと異端の部類です。若者大歓迎。

しかし、これが意外と便利だったりするのですよ。実際に配られたチラシ群をパラパラ捲る中で、「あ、これ面白そう、行ってみよう」と思った公演は幾つもあります。

 一歩足を踏み出せば、あとはもう簡単です。めくるめくオペラの世界があなたを待っています。

 

② 劇場や歌劇団、招聘会社のホームページを見てみる

 勿論、公式のページを見るのは確実な方法です。東京を拠点としているものを中心に、代表的なものを幾つかご紹介します。

 

新国立劇場

 初台(新宿の側)にある歌劇場です。オペラ、バレエ、演劇をメインとする唯一の国立劇場で、毎年9月-7月の間に9-10演目上演しています(このような方式を「シーズン制」といいます)。個人的にも最もよく行く歌劇場です。

 

東京文化会館

 上野にある歌劇場です。歴史があり、客席数が多いのが特徴。国外からの引っ越し公演などでもよく使われます。

 

東京二期会】

 「日本人のオペラ従事者を育成する」という理念の元、日本人による舞台を主催している団体です。前述の東京文化会館や、日比谷の日生劇場でよく公演を行っています。

 

藤原歌劇団

 二期会と同じく、日本人のメンバーを主軸とする団体です。有名作品のみならず、結構尖った演目を持ってくることも多いので、オペラ通の度肝を抜くこともしばしば。

 

NBS

 国外の歌劇団やバレエ団を招聘しているのが NBS です。有名な歌劇場の非常にハイレベルな公演を楽しむことができます。その分、チケット代が高額になりがちなのが玉に瑕……。

 

 ホームページから探す場合は、チケット購入ページにすぐ辿り着ける、というのも魅力ですね!

 

③ 公演情報誌を見てみる

 情報誌を確認するのも有用です。最もポピュラーなものは「ぶらあぼ」。

 オンラインサイトもありますが、より見やすい紙媒体が欲しい場合は、やはり劇場などに実際に赴くことになりますので、結局①と同様になってしまいますが……。

ぶらあぼ」はフリーマガジンなので、無料ですし、本屋さんではなく、劇場に置いています。お近くの劇場が配布場所になっているかどうか、こちらから確認してみて下さい!

 

④ 劇場や出演者の SNS を見てみる

 このご時世ですから、殆どの歌劇場、公演団体、招聘会社、オーケストラ、指揮者や歌手などの出演者は SNS のアカウントを持っています

気になる歌手などをフォローし、情報を集めましょう!

 

 これらの方法を用いて、行きたい公演を見つけてみて下さい!

 

Q2. 本当に何も知らないんだけど、ミリしらで行っても楽しめる?

A. 安心して下さい、大丈夫です。

 どんな歴戦の猛者にだって、必ず初心者時代はあるものです。無知を恥じる必要はありません。

 

 まるで新作の映画を観に行くかのように、全く知識を持たないまま歌劇場に赴くのだって、立派な楽しみ方です。

 例外もないわけではありませんが、基本的にオペラのストーリーはシンプル。常時頭を働かせていないとお話がわからなくなる! ということはありません。

 「オペラは総合芸術」と言われます。「オペラ」は日本語で「歌劇」と訳されていますが、音楽だけではなく、演技や踊り、舞台美術や視覚効果など、ありとあらゆる芸術の結晶が「オペラ」です。細部にまで拘り抜いた上演を、是非お楽しみ下さい。

 

 「それでもちょっと心配。やはりある程度の事前知識は欲しいな」という方にも朗報です。

 基本的に、キャスト表や物語のあらすじは劇場で無料配布されます。

 また、歌劇場のホワイエ(ロビー)では、研究者による解説や、場合によっては演出家や出演者のインタビューなどが載った、有料のパンフレットを販売しているケースが多いです。お値段は1000-3000円程度。

少し早めに劇場に行って、これらを読んで観劇に備える、というのがお勧めです!

 

 「あんまり時間は取れないけど、少しだけでも予習をしていきたい! どうしたらいいの?」という方には、以下の方法をオススメします。

 YouTube で有名な曲だけ聴いてから劇場に行くのです。

観に行く作品のタイトル(できれば原語が望ましい)に加え、「aria(アリア:見せ場・聞かせ所となるソロ歌唱のこと。覚えやすいメロディだったり、超絶技巧だったりすることが多い。)」や「overture(序曲:読んで字の如く、最初に演奏されるオープニングのこと。作中のいちばん綺麗な旋律のメドレー的な曲であることが多い。)」などのキーワードを加えて、検索してみてください。作中の有名な曲が、優れた歌手や指揮者によって演奏されているものが上位にヒットするはずです(検索の一例)。

 知っている曲があれば、少しは安心できるというもの。「この曲を聴きに行くんだ!」というモチベーションになるような、お気に入りの曲に出逢えるといいですね!

 

Q3. 劇場にはどんな服装で行ったらいいの? ラフすぎるのは NG ?

A. 公序良俗に反していなければ、何を着て来ても問題ありません。

 「スーツやドレスでなければダメ!」なんていうことはありません。極端なことを言えば、Tシャツにジーンズ、サンダルで来ても問題ありません。逆に、折角だからとドレスや着物で着飾ってきても、然程浮くことはないと思います。

 

 但し、注意点は幾つかあります。

 歌劇場は、冷暖房がキツい場合が多いです。体温調節が可能な服装が望ましいでしょう。

 オペラは、主に音楽を楽しむ娯楽。鈴など、音の出る装飾品は控えましょう

 そして、視界の妨げにならないように、頭頂部にボリュームのある髪型や、劇場内での帽子の着用は辞めましょう

 

 確かに、歌劇場には着物などでいらっしゃる方もいますが、初めてのオペラ鑑賞なら辞めておいた方が無難だと思います。着物でのオペラ鑑賞は訓練が必要です。

上演時間が長い演目も多いので(休憩時間も合わせて、原則的に3-5時間程度)、長時間同じ姿勢でいても不快感の少ない服を選びましょう

 

Q4. 開演の何分前に劇場に着いていたらいいの?

A. 余裕を持って到着するようにしましょう。

 歌劇場には、「時間」と「時間」があります。絶対に遅刻してはいけないのは後者の方です。開場時間は、開演時間の30-60分前であることが多いです。

 必ず開場時間中に劇場内に到着するようにしましょう。オペラの場合、映画館のようにいつでも客席に出入りできるわけではありません。遅刻してしまうと、下手したら1幕丸々見損なう可能性があります。時間厳守で! 宜しくお願いします。

 

 劇場にあまり馴れていないなら、開演時間の30分前には劇場に到着していると安心できるでしょう。大きな歌劇場では、2-3000も席があるので、中で迷う時間を考慮して下さい。

また、特に女性はお手洗いが混む傾向にあるので、早めに来ることをお勧めします。

 

 Q2. でも前述しましたが、早めに行って、パンフレットを買って予習する、というのもお勧めです!

 

Q5. 外国語で歌うんだよね? 英語とか、苦手なんだけど……

A. 外国語歌唱の作品が大半ですが、日本の歌劇場での上演では、十中八九日本語字幕がありますので安心して下さい。

 

 不安な場合は、赴く演目に「日本語字幕付き」という記載があるかどうかを確認してみて下さい。

 また、日本語だけではなく、英語の字幕がついている公演もあるので、そのような公演には日本語話者ではない友人と一緒に行くこともできるでしょう。

 

 オペラに於いて、歌唱言語は、上演機会が多いものから順に、イタリア語>ドイツ語>フランス語>ロシア語>チェコ語>英語>その他……となるでしょうか。信じ難いことに、オペラ界では英語はかなりのマイナー言語。従って、英語力の有無などは基本的に全く関係ありません

一部のコアなオペラオタクや語学ガチ勢以外、つまり観客の大半は原語を理解していないと思われますので、その点はご安心下さい。

 

 また、日本語歌唱のオペラ作品も存在します

喫緊の上演だと、記事執筆現在(2023/5/12)では、藤原歌劇団上演の『夕鶴』がありますね。

 日本オペラの最高傑作の一つです。ご関心があれば、是非!

 

Q6. 歌劇場ってなんか格式高いイメージ。劇場マナーって厳しいの?

A. 映画館でのマナーと殆ど同じだと考えて貰って結構です。

 「郷に入っては郷に従え」とは言うものの、初めての場所では戸惑うもの。なんとなく格式高いイメージをもたれる歌劇場ですが、然程厳しいルールは存在しません。

 

 映画館と同じように、開演前に観客が守るべき事項がアナウンスされるので、それに従って下さい。基本的な事項ばかりなので、恐れる必要はありません。

 

 但し、映画館と異なるのは主に三点。

 一つは、劇場内では飲食ができない、という点です。長い演目を観る際は、事前に軽食を摂っておくを強くお勧めします。劇場内でお腹が鳴ると、結構目立ちます。劇場のホワイエ(ロビー)で軽食を販売していることも多いので、時間がなければそこを利用するのも手。

 二つ目は、前述しましたが、突然の体調不良や地震などの緊急の場合を除き、基本的には幕が開いている間は出入りができない、という点です。お手洗いなどは事前に済ませましょう。

 三つ目は、映画館よりもずっと雑音に厳しい、という点です。オペラの主眼は音楽。客席から出る音は、どんなに些細なものであっても白眼視されますので、細心の注意を払ってください。上演中は、どんなに親しい友人や恋人同士であっても、お喋りが御法度なのは当然のことながら、咳やクシャミ(誰だって出ちゃうときは出ちゃいますが)、ものを落としたりなども敬遠されます。

コロナのこともありますし、歌劇場には体調が万全の時にいらして下さいね!

 

Q7. チケット代、高くない!? もっと安く観られないの? 座席はどこがお勧め?

A. 学生割、年齢割、シニア割などの割引がある場合があります。

 前述のように、オペラは総合芸術です。上演には莫大な費用が掛かり、それを賄うために、チケット代も高騰しがちです。

日本は、芸術に対する補助金が微々たるものなので、諸外国と比較すると、ずっと高額になってしまいます。

 

 しかし、もしあなたが学生だったり、若かったり、逆にお年をお召しになられたりしている場合は、割引が適用できる可能性があります。

 わたくしが頻繁に利用しているのは、新国立劇場の「U25」という制度です。U は Under の略。つまり、25歳以下の若者に対する割引制度です。

 新国立劇場の場合、15歳以下、25歳以下、39歳以下に対しては割引があります。

39歳は全然若者じゃなくね……?」とお思いかもしれませんが、前述の通り、オペラファンの年齢層はとても高いのです!! 若者よ、オペラを観よう。

 新国立劇場のみならず、他の公演でも、似た制度はありますので、是非とも調べてみて下さい!

 

 また、座席に関してですが、基本的にはお財布と相談して決められるとよいでしょう。

親切なところでは、チケット購入ページの側に座席からの見え方の写真を公開している劇場もあるので、参考にしてみてください。

日生劇場の例。

 初めての場合は、やはり舞台がよく見えた方が宜しいかとは思います。

公演にもよりますが、一般的には、非常に良い席と、一番安価な席は、売り切れるのが早いです。

狙っている公演がある場合は、必ずチケット発売開始日を確認し、すぐにチケットを購入するようにしてください。

 

Q8. どのタイミングで拍手したらいいのかわからないよ

A. 原則的には指揮者が腕を下げたタイミングです。

 難しいのが、拍手のタイミングです。前述のように、上演中は、客席から出る音は非常に嫌われます。しかし、唯一の例外が拍手(と Bravo! などの声援)です。

 

 タイミングが早い拍手や声援は、出演者や他の観客から「フライング拍手(フラ拍)」や「フライングブラヴォー(フラブラ)」と揶揄され、憎まれる傾向にあります。音楽を聴きに来ているのだから、音楽を掻き消すような行為は御法度なのです。

 従って、慣れないうちは、素直に他の観客に従うのが無難です。オペラ通は拍手のタイミングを心得ているので、場内にいる彼らに従っておくのが確実でしょう。

 最初の頃は、上演中に「さっきの曲の切れ目は拍手しなかったのに、ここでは拍手をするの?」などの疑問が湧くかもしれませんが、慣習によるものも大きいので、この点は慣れるしかありません。沢山公演に出向くうちに、いつ拍手するのかのタイミングがわかってくるようになるはずです。

 

 上演中は少しタイミングが難しい拍手問題ですが、終演後のカーテンコールは、拍手し放題、声援かけ放題なので、カーテンコール中は惜しみない拍手を送ってあげて下さい!

 

Q9. 初心者すぎて、どんな演目を観たらいいのかわからないよ

A. 「この演目から観なければいけない」というルールはありません。心惹かれる演目に行きましょう!

 

 「そんなことを言われても、どの演目が面白いのかわからないよ」とお考えかもしれません。

 もし好きな作曲家や出演者がいれば、その公演に赴くのが一番ですが、そのような一切の手掛かりがない場合、基本的には、「上演時間が短めで」「有名な曲の多い」演目がよいでしょう。

 

 これらに則り、一番初心者にオススメされやすいのが、ジョルジュ・ビゼー作曲の『カルメン』です。こちらは序曲ですが、オペラに関心がない方でもご存じなのではないでしょうか。

 カルメン』はこの曲以外にも有名な曲が満載で、殆ど全て聴いたことがあるのではないのかな、というくらいです。知名度で劣る曲も、耳に馴染みやすい旋律が多いので、入門向きな作品であると思いますよ!

 

 入門するなら、耳馴染みの良いロマン派の作品が良いと思います。物凄く乱暴ですが、手っ取り早い見分け方は、初演された年が19世紀、即ち「18xx年」であるもの、です。

イタリアオペラ作曲家の二大巨頭、ジュゼッペ・ヴェルディジャコモ・プッチーニの作品は、上演回数も多いですし、人気が高く、その多くの作品が入門に最適です。

 

 逆に、一番最初のオペラ鑑賞にはお勧めしづらいのが、上演時間が非常に長い作品と、17-8世紀に好まれたバロック・オペラ、20-1世紀に作曲された現代オペラです。

 勿論、これらにも沢山の良さがありますが、コアな通向けであることが多いので、「ほんとうの最初」にはあまりお勧めしません。少しオペラに慣れてから挑戦してみて下さい(※ちなみにわたくしは中学生の時にとあるバロック・オペラを観て、それが好きになれず、暫くオペラに対して苦手意識を持っていました。今ではその演目も、バロック・オペラも好きですけどね! 順番って大事ですよ~)

 また、有名なリヒャルト・ワーグナーの楽劇は、上演時間が非常に長いものが多いので、必ず上演時間を確認して下さいね!

 

 とはいえ、そもそも上演していなかったら観ることができませんので、最初は歌劇場のページなどから、「何を上演しているのか、何を上演する予定があるのか」を確認し、そこから選ぶ方が早いと思います。

 

Q10. 行きたい公演に「演奏会形式」とあるんだけど、それってなに?

A. 演奏会形式とは、演奏会(コンサート)のように、舞台上にオーケストラが乗っていて、その前で歌手が歌う形式のことです。

 何度も申し上げている通り、オペラは総合芸術。音楽に、演技に、舞台美術に、踊りにと、全てがあります。

しかし、演奏会形式は、音楽以外の要素を削ったもの。シンプルに、演奏一本勝負です!

 

 言葉だけだと伝わりづらいかもしれないので、例を出しますね。オペラ『アイーダ』の非常に有名な「凱旋行進曲」で比較してみましょう。サッカーなどで用いられているので、少なくとも数分聴いて頂けると、絶対聴いたことがある旋律が出てくると思います。

 まずこちらの動画は、クラシカルで豪華な演出のものです。一般的なオペラ上演では、このような舞台セットにお衣装、演技、躍り(主にバレエ)が含まれます

古代エジプトを再現した、煌びやかで豪華な舞台!

 

 一方こちらは、同じ曲ですが、「演奏会形式」で上演されているものです。

 一目瞭然ですが、普通のクラシック音楽のコンサートのように、舞台上にはオーケストラがいます。舞台後方には合唱隊が控えており、お衣装も身に着けていません。

 このような、主にコンサートホールで上演される、音楽以外の要素を削ぎ落としたオペラ公演を「演奏会形式」と呼称しています。

 

 演奏会形式は、舞台セットなどを用いないので、演出付きのオペラ公演よりも安価です。

 一般的なオペラ公演では、オーケストラはオーケストラピット(舞台の前の凹んだスペース。客席からは殆ど見えません。一般的なオペラ上演では、オーケストラはこのスペースで演奏します)に引っ込んでしまいますが、演奏会形式ではオーケストラも見易く、プロの奏者の演奏を目でも楽しむことができます

 音楽に完全に集中することができるので、「寧ろ演奏会形式の方が好き」という方もいらっしゃると思います。単なるコスト削減ではなく、一長一短あると思います。

 

 しかし、やはりオペラは総合芸術であるということを一度は体感して欲しいので、是非とも演奏会形式ではない上演にも赴いて欲しいと思います!

 

Q11. 近所に歌劇場がないよ! ネットとかで観られたりしない?

A. 自宅や映画館でも沢山オペラを観ることができます。

 インターネットが発達した現代社会、自宅を歌劇場に変えることも不可能ではありません!

 

 自宅で観るオペラを観る方法と、映画館でオペラを観る方法をほんの少しだけご紹介します。

 一つは、Blu-ray や DVD を購入する、というものです。日本語字幕付きの映像もあるので、もし気に入ったものがあれば、いつでも観られるように購入してしまうのがお勧めです! HMVタワーレコードなどのショップや、Amazon などの通販サイトにも沢山あります。

 

 二つ目は、ストリーミングサービスを用いることです。無料のものと有料のものがあります。日本の公演だと、新国立劇場は過去の公演を配信していることがあります。

 

 テレビだと、NHK の「プレミアムシアター」という番組では、オペラを放映しています。是非とも録画して下さいね!

 

 もし WOWOW を契約していれば、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場の上演を放映しているので、こちらを観るのも良いと思います。

 

 もし日本語字幕がなくてもよければ(大抵は英語字幕は付いています)、思い切って国外のストリーミングサービスを用いるのも手です。

 わたくしもよくお世話になっているオススメの国外サイトは「Opera Vision」。ヨーロッパ圏の質の高い上演が無料で観られます。

 

 また、勿論、YouTube も大変有用です。

 

 その他、三つ目として、映画館ライブビューイングを上映していることもあります。

一番オススメなのは、「METライブビューイング」。全国の一部映画館で、一演目約一週間上映しています。

 

 こちらはバレエと半々ですが、「ROHシネマ」も有用です! こちらも全国の一部映画館で上映しているので、赴き易いと思いますよ!

 

Q12. 気になる演目があるんだけど、日本語字幕がなさそう。どうしたらいい?

A. リブレット(台本)の翻訳を探してみましょう。

 相当語学に自信がない限り、日本語字幕がないのは心細いもの。特に、初めて観る演目となると……。

 オペラにはそれぞれ、「リブレット」と呼ばれる台本があります。基本的には、この台本通り演じるので、先にリブレットに目を通しておけば、日本語字幕が無くてもある程度は大丈夫なはずです。

 

 日本語訳のリブレットが読みたい場合、一番手っ取り早いのは、「オペラ対訳プロジェクト」というサイトを閲覧することです。かなり数多くのオペラの対訳があります。

 但し、一点注意したいのは、Wikipedia 同様、一般の有志が編集しているので、誤訳も結構多い、という点です。わたくし自身、編集不可ページでの誤訳を幾つか見つけたことがあるので、情報の正確性を求めたい場合は頼りすぎない方がいいかもしれません。

 綺麗に纏まっていて、ザッと確認するには持ってこいなのですが。わたくしもよくお世話になっています。

 

 信頼の置ける学術的なものが読みたい場合は、音楽之友社の「オペラ対訳ライブラリー」シリーズを手に取るのがお勧めです。

 有名な作品の対訳、並びに解説が載っています。もし好きな作品がこの中にあれば、手元に置いておいて損はないでしょう!

 

 あなたの気になる演目が、どちらにも存在しない場合、日本語訳自体が存在しないか、存在したとしても非常に入手困難である可能性が高いです。

その場合は、諦めて英訳を探すなり、原語にチャレンジするしかなさそうです。

 

Q13. ミュージカルは好きなんだけど、オペラとミュージカルは何が違うの?

A. 主に発声の違いだと言われています。

 明確な定義は存在しないと思われますが、主に、オペラは声楽的な発声、ミュージカルは地声に近い発声をするという違い、オペラではオーケストラ主体のクラシック音楽を、ミュージカルではポップスなどをベースとしている、という違いがあります。

 

 オペラとミュージカルの比較をしてみましょう。アメリカの作曲家ジョージ・ガーシュウィンは、オペラとミュージカルの両方を書いているので、彼の書いた音楽を聴き比べてみましょう。

 まずはミュージカルから。『君に捧げる歌(Of Thee I Sing)』です。どうぞ。

 歌は中盤からになりますが、「古き良きアメリカ!」という雰囲気のある名曲ですね。

 

 次にオペラを観てみます。ガーシュウィンのオペラの代表作、『ポーギーとベス』より『サマータイム』です。どうぞ。

 『サマータイム』はこのオペラの中で最も人気のあるアリア。ブルース風のアリアという、画期的な一曲です。

 

 違い、何となくご理解頂けたでしょうか?

ちなみに、紛らわしいですが、オペラ座の怪人』はミュージカル、ですからね!

 

Q14. オペラってなんか古いんだよね? 新作とかってないの?

A. あります。21世紀のオペラも堪能しましょう!

 確かに、オペラは非常に歴史ある芸術形態です。16世紀にまで遡れると言われております。

そんなにも歴史があるのだから、現代では廃れてしまったのか、というと、否、断じてそんなことはありません!

 

 21世紀に入ってからも、新作オペラは沢山作られています。ポップスや映画音楽に近い、耳馴染みのよいものから、コアな通向けの作品まで、幅広いラインナップがあります。

  個人的な新作のお気に入りは、マシュー・オーコイン作曲の『ユーリディシー』。2020年初演です。

↑ 1分しかないトレーラーなので、取り敢えず観てみて欲しい!

 耳馴染みの良い旋律と、英語歌唱なので、幅広い層に愛される作品だと思います。

↑ レビューも書いたので、宜しければ。

 

 また、オペラには「演出」というものがあります。これは歌手の演技や、舞台セットなどを構想することで、演出によって大分差が出てきます。

 リブレットは同じ(=同じ音楽と歌詞)でも、舞台セットやお衣装、演技や踊りなどの音楽以外の部分は、演出によって異なります。1演目ごとに多種多様な演出があるので、これらを見較べることによって、何度も観た演目でも新鮮に楽しむことができるんです!

 

 現代のオペラ演出では、「読み替え演出」といって、意図的に元のリブレット(台本)から大幅に外れた形にすることがあります。これは大分好き嫌いが分かれますし、同じ演目を何度も観た、観飽きたと言って良いようなオペラ通向けに作られているので、是非とも、初めて観るなら、古典的な演出から観るようにして下さい。

 

 演出の差がよくわかる例を出しますね。ジャコモ・プッチーニ作曲のオペラ『ラ・ボエーム』の中の名アリア、『冷たい手を』で比較してみましょう。

 まずご覧頂きたいこちらは、リブレットに則った、ジャン=カルロ・メノッティ氏による古典的な演出です。ちなみに、歌っているのは伝説の「太陽のテノール」、ルチアーノ・パヴァロッティ

 このシーンは、19世紀、パリの貧しい若者同士が、粗末な屋根裏部屋で出逢うシーン。舞台セットもお衣装も、そのように組んでありますよね。

 

 一方こちらは、2017年にパリ・オペラ座で初演された、クラウス・グート氏演出の『ラ・ボエーム』です。通称「スペースボエーム」或いは「宇宙ボエーム」。

先程の動画と同じ箇所から始まるようにしていますので、是非どうぞ。

 なんと大胆にも、19世紀のパリの物語を、宇宙船の中に「読み替え」ています

このように、リブレットから大幅に外れた演出を、「読み替え演出」といいます。実質リメイクみたいなもので、ある意味で「新作」と言えるかも知れません。

 この「スペースボエーム」は、非常に賛否両論で、というか圧倒的に否の方が多かった、物議を醸しました。

 「読み替え演出」は、成功する時もありますが、批判を多く喚び起こすことも多いです。もしオペラに慣れてきたら、挑戦してみるのも良いかもしれませんね。

 

 好みの演出家が見つかれば、演出家で観るものを選ぶ、ということもできます。

豪奢な演出、シンプルな演出、古典的なもの、現代的なもの、色々なものがあります。同じリブレットとは思えない程、多様な世界が拡がっています。

 是非とも好きな演出を見つけてみてくださいね。

 

Q15. 筆者のお勧めのオペラを教えて!

A. さあ今すぐに『エヴゲーニー・オネーギン』を観るんだ。

 ここまでこの記事を書いてきたわたくし茅野ですが、一つ蒙愛している作品があります。ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲のオペラ、『エヴゲーニー・オネーギン』です。

 これは「ロシアの詩聖」と讃えられる国民的詩人、アレクサンドル・プーシキンの同題の韻文小説を元にしたロシア語のオペラなのですが、チャイコフスキーらしい非常に官能的な旋律が堪らない、最高のオペラです。

↑ 大好きな第1幕第2場序曲。冗談抜きに世界で一番美しい曲だと思っています。

 

 今ではこのような記事まで執筆していますが、下記の記事などにも書いているように、わたくしは元々オペラが好きではありませんでした。そんなわたくしがオペラ沼に頭から爪先まで突っ込むことになったのは、全てこの作品のせいです。

 このオペラには、人生を狂わせる力があります

 

 この記事から巣立つあなたには、是非ともこのオペラを観て欲しいのです。作品の解説なども書いておりますので、良ければ役立てて下さい。

↑ 解説。DL もできるようにしてあります。

↑ 現在販売されている円盤一覧。どれを買うか迷ったら参考にして下さい。

 

 もし観るオペラに迷ったら、是非とも『オネーギン』を選んで頂けると心の底から喜びます。

 あのバレエ『白鳥の湖』や、ディズニー映画でも使われている『眠りの森の美女』などで有名なチャイコフスキーなので、音楽も優美ですし、上演時間も2時間半程度と、一般的な長さに収まっていますので、入門にも向いているのではないでしょうか。

 ロシアオペラは上演機会があまり多くなく(=メジャーではなく)、日本語字幕が付いた映像も少ないのが唯一の弱点ですが、不肖わたくし、『オネーギン』のことでしたら精一杯お手伝い致しますので、気軽にお声掛け頂けると幸いです。

 

 

 Q & A は以上となりますが、疑問や懸念は解消されましたでしょうか。

皆様の快適なオペラ鑑賞ライフを、心よりお祈り申し上げます。

 

最後に

 通読ありがとうございました! 1万2000字強です。

この手引きが、少しでもお役に立てていれば幸いです。

 

 まだ解決されていない疑問や懸念がある場合は、そのお悩みをお寄せ頂けると幸いです。

匿名が宜しい場合はマシュマロなどでも結構ですので! 宜しくお願いします。

 

 わたくし東京の歌劇場にはよく出没致しますので、同じ劇場ゴウアーの仲間が一人でも増えるといいな、と願っております。劇場でぼくと握手!

 

 それでは、今回はここでお開きとします。また別の記事で、或いは劇場にてお目に掛かれれば幸いです!