世界観警察

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ゲーム考察を考察する - ゲーム考察入門書

 こんにちは、茅野です。

先日、こんな記事を書きました。

 我ながらデカいタイトルを付けたな……とおもいますが、ゲーム考察を書いていたことによって人生が好転した……という、己のゲーム考察勢としての6年間を振り返った文章です。

 当記事は全面的に「そんな大層なことやる資格あんのか貴様」と言わざるを得ないものですので、筆者の素性が気になる方は是非こちらを読んでやって下さい。

 

 今はコロナ禍で少し時間に余裕があるので復帰していますが、上記の「ゲーム考察人生の総括」を書いたように、こういった不測の事態にも陥らない限り、わたしがガッツリゲーム考察勢に戻ることはないだろうと思っています。尤も、ゲーム考察するの好きなので、時間が出来ればちょくちょく戻ってくるとは思いますが。

 

 そこで今回は、読み専・初心者のためのゲーム考察マニュアルみたいなものを書いてみようとおもいます。後継者を育てよう的なムーヴメント。

わたしが知らないだけかもしれませんが、ゲーム考察には未だきちんとしたセオリーが構築されていません

というわけで、今回は「ゲーム考察を考察する」と題しまして、ある程度のセオリー化を図ることを目的とします。熟練者諸賢には、「なんだ、そんな基礎的なこと……」と言われそうですが、セオリー化は大事だとおもいますので、復習がてらお付き合いください。

 

 さて、一口に「ゲーム」と言っても、その種類は千差万別です。RPGからノベルゲー、パズルゲー、色々あるとおもいます。

しかし、「考察」に於いては、基本的にどのゲームでもやることは変わりません。基本的なものとして、1.問いを立てる 2.仮説を立てる 3.検証する 4.文章化する 5. 議論する というフローが存在します。今回の記事では、これらを分解し、出来るだけわかりやすく説明していきます。それでは宜しくお願いします。

 

 きみは いま! ゲームこうさつ への だいいっぽ を ふみだした!

 

 

0. 考察ってなに?

 さて、ゲーム考察執筆に興味を持ったあなた。ところで「ゲーム考察」ってなんだ?

「ゲーム中のわからないことを明らかにする」……とか、そんな感じが共通見解でしょうか。大枠は正解です。

 ここで、大辞泉先生に「考察」について教えて貰いましょう。

こう-さつ【考察】

物事を明らかにするために、よく調べて考えをめぐらすこと

そうなのです。実は、「明らかになったかどうか」は問題ではなく、「よく調べて考えをめぐらすこと」に考察の本質はあります。仮に答えに辿り着けなかったとしても、あなたの努力は考察の一環です。肩の力を抜いて、しかし胸を張って考察の世界へ飛び込みましょう!

 

1. 問いを立てる

 さあ、ゲーム考察をはじめましょう! ……と言われたところで、何をすればいいんだ、という話ですよね。

いつなんどきでも、どのようなゲームに於いても、ゲーム考察で一番最初にやることは「問いを立てる」ことです。

 

 実はこれ、意外と厄介。真に関心が無ければ、問いは生まれません。まずは対象を愛することです。

しかし、始め方はとっても簡単。ゲームをプレイする中で、「これなんだろう?」と思うこと。終わりです。ほんとうにそれだけ。疑問はすべての出発点です。

わからないこと、知らないことは悪ではない。どんどん疑問を抱いて、どんどん考察を書きましょう。

 

 基本的に、考察界を目指す人はそのゲームについて何かしらの疑問を持っているはずです。疑問を抱いた時点で、あなたはもう考察勢の卵。自信を持ちましょう。 

 

 こちらは意外にも、考察フローに於いて、初心者にとっては一番簡単なものであり、熟練者にとっては一番難しいものです。

何故なら、考察を書きまくっているうちに、様々な疑問が己の中で解決され、「他になにかあったかな……」という状態に陥るからです。要は、疑問の枯渇状態です。

 「そんなことある?」とお思いのあなた。実は結構あります。少なくともわたしはその状態になったゲームが幾つかあります。そこまで行くと、この「問いを立てる」ということが一番難しくなってくるのです。

 

 そうなった際、一番簡単なのは他者から「議題を募集すること」です。疑問が枯渇するほど考察を書きまくったあなたは、今や立派な考察ガチ勢。そんなあなたには、他者から疑問が大いに寄せられることでしょう。是非応えてあげてください。

 他に、どうしても自分だけの力で問いを立てたい場合は、「初心に返り、根本的なものに目を向ける」ことです。

基本的に、考察はベーシックな問いから始まり、だんだん細部に向いていくもの。疑問が枯渇したら、最初の地点に戻ってみましょう。何か見落としがあるかもしれません。

 

2. 仮説を立てる

 さて、問いが立ったら次は仮説を立てます。言い換えると、立てた問いの答えを予想するのです。

……とは言っても、自分の頭の中だけで解決するような問いならば、それは問いとして相応しくありません。「1. 問いを立てる」に戻る。

 

 仮説を立てるときに重要なのは、如何に与えられた情報を駆使できるか、です。何か情報が足りていないと、根本的な誤りに繋がったりします。ですので、考察勢は同時にやり込み勢でもあるわけです。

 又、これは次節の 3. 検証する と同じ要素もあり、境目があやふやになることがしばしばあります。そして、慣れると省かれやすいタームでもあります。

 

 しかし、最初は一度コントローラを置いて、 Google から離れて、紙とペンを用意し、あなたが持っている情報を全て書き出し、考察の筋道を立て、検証へ向かう用意をすること。わたしは今でもアナログ(紙とペン)を使うことが多いです。図なども書きやすいので、個人的にはこちらをお勧めしています。

これを習慣付けておくと、基礎がバッチリ身につき、後々楽になります。最初に頭を使うこと、大事です。

 

3. 検証する

 次は立てた仮説が正しいのかどうか検証するタームに入ります。考察のミソと言っても良いですね。ここでは、様々な検証方法をご紹介します。

 ゲーム考察界からアカデミック世界へ移動したとき(詳しくはゲーム考察書いてたら人生優勝した話)、ゲーム考察の検証方法は驚くほどアカデミックな手法に近いことに気が付きました。だから優勝できたわけです。

 そこで、各検証方法に学術の名前を冠させて頂きました。「○○学的アプローチ」は筆者が適当に命名したもので、完全にその学問の手法に沿うわけではない上に、ここから外れたものは検証方法として認められないということは絶対にない、ということを断言させてください。あくまでセオリー化する上でわかりやすいように分類したものです。

 自分のやり方、自分のやりたいゲームに合わせてアプローチ方法を選んでみて下さい。それでは見てみましょう。

 

社会学的アプローチ

 まずご紹介したいのが、社会学的なアプローチ方法。こちらは、とくに RPG 系のゲームで考察をしたい場合に有効になります。

RPG 系のゲームは、自由にそのフィールドを駆け回れるのが最大のつよみ。そのフィールドには、ヒントとなるようなものが沢山あるはず。それを駆使して検証を行います。

例えば……

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↑例1 『DARK SOULS III』ロスリックの高壁より

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↑例2 『ABZU』Chapter3 より

 このように、RPG系のゲームには、像や壁画、絵画、レリーフ、オブジェクトなどがつきもの。ここから読み解けることを探していくのが社会学的アプローチです。それは何かとの類似であったり、何かの暗示であったりするでしょう。ゲーム内外の他情報と組み合わせながら、答えを探究してみてください。

 

 お手本として、例1の『DARK SOULS III』の像について、社会学的アプローチで考察を書いてみましょう。

「ロスリックの高壁」には、罪の大剣を持つ男性像が存在する。

この像は他の像と比べ明らかに大きく、目立つ位置にあり、意匠も凝っている。

ロスリックの民にとって、この男性像が重要な意味を持つこと、或いは持っていたことが伺える。

……と、このようになります。

 

論理学的アプローチ

 次に、よりパズルらしい検証について考えましょう。これは特にノベルゲームなどのテキストが豊富なゲーム考察でよく使われる手法です。

例えば……

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↑例3 『うみねこのなく頃に』Episode 2より

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↑例4 『Everybody's Gone to the Rapture 幸福な消失』 Chapter 2より

 このように、テクストが豊富なゲームでは、文章という最もわかりやすい方法で沢山の情報が提示されますこれをパズルのように組み合わせることによって、検証を行うのが論理学的アプローチです。論理学的アプローチのコツは、「全て作中内に示され、事実と認定されている情報のみを用いること」です。ここで一つでも欠けると、途端に信憑性が薄くなります。気をつけましょう。

 又、このような考察を必要とするノベルゲームの類いでは、レトリック、ミスリードなどが多用される傾向にあるので注意が必要です。一字一句テクストと向き合うことが肝要です。

 

 論理学の基礎は、レトリック分解に大きく役立ちます。

「この入門記事は読み易いし、わかり易い」の否定は

「この入門記事は読み易くもないし、わかり易くもない」であり、

即ち「この入門記事は読み易いということも、わかり易いということもない」に言い換えられ、

それは「この入門記事は少なくとも読み辛いか、わかり辛いかのいずれかである」ということである。

この例文だと「何言ってんだおまえ」感しかないとおもいますが、これは「ド・モルガンの法則」という歴とした論理学の一部を用いたものです。このように、分解して一字一句検討することで、レトリックを見破り易くなります

 

 例として、過去に『DARK SOULS』の王家の家系図について考えましたが、その際書いた考察を見てみましょう。

白竜シースは「グウィン王の外戚」である(『分け与えられた王のソウル』『DARK SOULS』より)。

"外戚"とは、母方の親族のことである。

それは即ち、シースの娘がグウィンに嫁いだということである。

 このように、「外戚」というあまり聞き慣れない単語を丁寧に紐解くことで、推論を用いることなく暈かされた事実を暴きました。これこそが「論理学的アプローチ」です。

 論理学的アプローチで導き出した考察は、その『事実を組み合わせる』という性質上、如何なる検証方法よりも精度が高くなることが特徴です。論理学的アプローチが可能な状況であれば、できるだけこの手法を試してみてください。

 

文献学的アプローチ

 次にご紹介するのは文献学的アプローチです。その名の通り、テクストやデータを読み解くことによって検証しますので、テクストやデータが存在するゲームが対象の検証方法です。文献学の中でも、原典解釈に重きを置いた命名です。

例えば……

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↑例5 『DARK SOULS REMASTERED』より

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↑例6 『DARK SOULS III』より

 文章を扱う、という点に於いては、先程の論理学的アプローチと共通ですが、文献学的アプローチは検証方法が異なります。こちらはアプローチ方法としてはより社会学的アプローチに近いのです。

どういうことかというと、『テクストやデータを元に推論を立てる』という出力の仕方が、文献学的アプローチです。又、テクストに限らず、何らかの数値なども用いることが多いという特徴もあります。

お浚いすると、論理学的アプローチで用いるのは『テクストで述べられた事実のみ』であり、推論を用いないのでしたね。ここを明確に区別すると、後に議論がし易くなったりします

 

 お手本として、例5, 6で挙げたダークソウルシリーズの奇跡『沈黙の禁則』について、文献学的アプローチで迫ってみましょう。

DARK SOULS』にも『DARK SOULS III』にも奇跡『沈黙の禁則』は登場し、デザイン、効果とも同様である。しかし、テクストは大きく異なる。

無印では、「黒髪の魔女ベルカの伝える秘技」(『沈黙の禁則』『DARK SOULS』より)であったのに対し、IIIでは「ロンドール黒教会の奇跡」(『沈黙の禁則』『DARK SOULS III』より)となっている。

このことから、黒髪の魔女ベルカと、ロンドール黒教会の間に何らかの関係があることが伺える

……と、こうなります。

 

4. 文章化する

 理論が組み上がったら、後はそれを文章化して、出来ればインターネットの海に放り投げましょう。

……ここに関しては言うことはない……ですよね? 読み手が理解できる文章だったら何でも良いです。とにかく書くべし

 強いて言うなら、このフローに沿って書くと理解を得やすいとおもいます。即ち、「1. 問い 2. 仮説 3. 検証結果 4. 結論」という纏め方です。

或いは「先に 1. 問い と 4. 結論 だけ書いてしまい、注意を引いたところで 2. 仮説 と3. 検証手順・結果 を開示する」というやり方。個人的には、後者の方がインパクトがあって好みです。

 例として、過去にわたしが執筆した『ABZU』考察の第一回をみてみましょう。これは後者の手順で書いています。

ここでは、「ABZUとはなにか」という問いをまず立てました(1. 問い)。

次に、ABZUが結論として「生命を維持する原初の深淵の淡水」であることを記します(4. 結論)。

ここに至った手順として、「アッカド神話にABZUと呼ばれる淡水や神が出て来るので、それと関係しているのではないか」と提示しました(2. 仮説)。

そして、「実際にアッカド神話を読み、関連性を明らかに」しました(3. 検証)。

よって、「ABZUというのは、アッカド神話に出て来る "生命を維持する原初の深淵の淡水" である」という結論が導ける、というわけです。

 

 考察を上げる場所ですが、わたしは「個人サイト」や「ブログ」をオススメします。気兼ねなく長文を書くことが出来るからです。

Twitter」はメモ書きとしては優秀ですが、長文を書くのが難しいという点がネックです。「考察板(○ちゃんねるや Discode , Reddit などのチャット、各ゲームの wiki のコメント欄など)」は、利用者が多く、人口が多い為議論が発生しやすいのが利点ですが、ゲームによっては相当治安が悪いので、あんまりオススメできません。

 「個人サイト」や「ブログ」であれば、コメント欄で議論をすることも出来ますし、他者が匿名の度合いを調節できる(名乗ることも名乗らないこともできる)ので、余計なトラブルを生みづらいという利点もあります。わたしはこのブログ立ち上げて後悔したことは今のところありません。是非。

 

5. 議論する

 さて、ゲーム考察フローもラストスパートです。ここまでは、全て独りで出来る作業でした。つまり、逆に言うと考察界に参入したい場合は、ここまで独りでこなす必要があります(勿論最初から最後まで友人らと議論を重ねながら進めることもできます)。

 しかし、ゲーム考察はここで終わりではありません! 最後に、他の考察勢と議論してブラッシュアップしていく、というタームが存在します。

尤も、ここでは自分以外の存在が必要となってくるため、確実にできるとは限りません。あなたが考察を書いたゲームが超マイナーで、他に考察勢が独りもいない……という状況でしたら、お友達を頑張って考察沼に堕とすか、潔く諦めましょう。

 

 長い時間と頭を使って捻り出した、我が子のような自分の説を否定されると、心臓を締め付けられるような思いがします。それは6年間ゲーム考察を書いてきたわたしも未だにそうなので、鋼の心臓を持つ自信がある方以外は諦めましょう。但し、それを緩和する方法は存在します。

 まず、簡単な話、クオリティの高い考察を書くことです。どんないちゃもんも弾き返すような、そんな考察が書ければ、自信も付くし、議論の発生余地もないでしょう。しかしまあ、それができれば苦労しねえよ、という話なのであり……。

それ以外の方法としては、「自分」と「自分の書いた考察」を切り離して考えることです。反論を喰らっているのは「自分の考察」であって、「あなた」ではありません。治安の悪い考察板に行くと「バカ」とか「無能」みたいな、「あなた」をdisってくる人もいるでしょうが、無視しましょう。それが肝要です。

 

 多くの人は、議論の際に二極化します。「相手の指摘を鵜呑みにしてしまう人」と「相手の指摘を受け入れられない人」です。しかしこれではブラッシュアップは難しい。深呼吸をしてから、「ベースとなる考察は自分で書いたものだ」ということは一旦忘れて、客観的に自分の説と、他者からの反論を読んでみましょう。そして、自分の説と相手の反論の中に含まれる、"事実" だけに注目してください。

全ての考察は "事実" から派生します"事実" に基づかないものは、"考察" ではなく、"妄想" となりますどちらがより "事実" に向き合えているか? 自分の説と相手の反論、それ以外に考えられることはないか? ……このように考えると、議論も上達していくはずです。日本人は、一般的に議論があまり上手くないと言われています。どうでしょう、ここで差を付けられてみては。GOOD LUCK.

 

考察のコツ1: 根拠の提示

 さて、立派に考察で一筆やってみたとします。そうしたところ、他者から「それはただの妄想だ!」といちゃもんを付けられたとします。さあ困った。ここでは、出来るだけ妄想っぽくならない考察の書き方について述べます。

 一番大切なのは、根拠を提示することです。考察と妄想の違いは、まず何よりも根拠があるか否かにあるからです。先程の「社会学的アプローチ」で書いた例を再度取り上げてみましょう。

 「ロスリックの高壁」には、罪の大剣を持つ男性像が存在する事実)。

この像は他の像と比べ明らかに大きく、目立つ位置にあり、意匠も凝っている(事実)。

ロスリックの民にとって、この男性像が重要な意味を持つこと、或いは持っていたことが伺える推論)。

 ……このように、事実を重ねた上で推論を置くことで、考察が尤もらしく見えます。コツは、動詞に着目することです。「存在する」「〜とある」は事実、「伺える」「考えられる」などが推論になりますね。

 根拠がテクストにある場合は、必ず出典を明記することがポイントです。又、テクストは出来るだけそのまま引用するのが丁寧でよいでしょう。「文献学的アプローチ」の例をお浚いしましょう。

 『DARK SOULS』にも『DARK SOULS III』にも奇跡『沈黙の禁則』は登場し、デザイン、効果とも同様である(事実)。

しかし、テクストは大きく異なる(事実)。

無印では、「黒髪の魔女ベルカの伝える秘技」(『沈黙の禁則』『DARK SOULS』より)であったのに対し、IIIでは「ロンドール黒教会の奇跡」(『沈黙の禁則』『DARK SOULS III』より)となっている(事実)。

このことから、黒髪の魔女ベルカと、ロンドール黒教会の間に何らかの関係があることが伺える(推論)。

 この例ではちょっとクドいかもしれませんが、丁寧な根拠の提示が如何に重要かということに思いを馳せて頂ければ筆者冥利に尽きます。

 

考察のコツ2: 考察と妄想の境界線

 さて、ここからは一歩踏み入って、中・上級者でも頭を抱える問題を見ていきます。

「考察のコツ1」をモデルに、根拠までしっかり提示して書いた考察は、推論が余りにもブッ飛んでいない限りは、尤もらしいはずです。

しかし、読んでいてひっくり返るような、ブッ飛び推論というものは存在します

 

 それを避ける際のコツとして、ひとつの事実の上にひとつの推論を立てる、ということが重要です。推論の上に推論を重ねるのは非常に危険です。どんな状況であれ、それは辞したほうが無難でしょう。全ての推論が事実に基づいているか、今一度確認しましょう

その上で、「それは妄想だ」という意見が絶えない場合があります。何故か?

 

 考察を行う上で最も危険な単語を伝授します。それは、「似ている」です

主に「社会学的アプローチ」で検証を進める際、この問題に遭遇すると思います。これは死ぬほど曲者です。

 個人の考えですが、わたしは「 "似ている" ことのみを根拠とするのは、原則、根拠として不十分である」と考えます。「似ている」は、個人の主観に基づくため、乱用すると際限がなくなります

最終的には、「キャラAとキャラBは茶髪の女性であるという共通点があるから、同一人物だ」みたいな、ブッ飛び論が生まれる危険性を孕みます。これは最早考察でもなんでもありません。

 

 だからと言って「似ている」という語を封じると、考察の幅を大きく狭める危険性もあります。だからこそ曲者なのです。よって、わたしが推奨したいのは、「どこがどう似ている」ということをできるだけ丁寧に、明確に、客観的に提示することです。あとは、他の考察勢との議論でブラッシュアップしてそれが無理がないものかどうか考えてみて下さい。

 

考察のコツ3: ゲーム外情報の運用

 最後に、ワンランク上の考察を目指す方の為に上級編を書いておきます。それはゲーム外情報の運用です。

 記事「ゲーム考察書いてたら人生優勝した話」に詳しいですが、かつて、考察界にはH氏という神がいました。わたしの敬愛する唯一のゲーム考察の師です。彼はゲーム考察の為に科学的論文を読み解いてそれを根拠とする、という荒技をやってのけた最初のひとりです。

 ……そこまでやるかどうかは皆様次第ですが、この「本や論文から根拠を持ってくる」というのはとても有効な手段です。特に、そのゲームと書籍の関連性が明らかな場合、読まない方が逆に問題かと存じます。

 例として、わたしが執筆した『Everybody's Gone to the Rapture 幸福な消失』考察の第五回を見てみましょう。『Everybody's Gone to the Rapture』には、「VALIS TOWER」という天体観測所が出てきますが、これは明らかにフィリップ・K・ディックの『VALIS』という小説を元にしていると考えられます。よって、考察第五回ではこの『VALIS』を読み解き、考察に運用しました。

 このように、ゲームとなにか書籍などの関連が明らかな場合は、寧ろ読まないと真相が見えない、ということがあります。大いに活用しましょう。

 一方で、ひとつの書籍に固執して、無理矢理に関連性を見出すと、考察が大きく歪んでしまい、根拠があるはずなのにいつの間にやら妄想に…… なんてことにもなりかねません。ゲーム外情報の運用も、扱いが非常に難しい諸刃の剣なのです。ゲーム考察、難しい……。

 

 又、ゲーム外情報に関して、考察勢の間でも大きく意見が割れる問題があります。それは「没データ」「作者インタビュー」の扱いです。これを考察に組み込むか否か、というのは、最終的に個人の好みの話にまでなります。ご利用は計画的に。

 この問題について掘り下げました。こちらからどうぞ。↓

 

最後に

 お疲れ様でした! ここまでお付き合い頂いてありがとうございます。これを実践して考察を書けば、見栄えのするものが書ける……はずです!

 最後に、我が師の一言を紹介します。「真に有用な文章とは、事実の上に、新たなる付加価値を与えたものである」。これがゲーム考察の極意です。あくまで事実の上に。新たなる付加価値を。

 この記事から考察書く人が増えればいいな~とおもいます。そしてあわよくば考察界を牽引して行って欲しいですね。

 

 この記事を書いたことで漸く心置きなく一線を引退出来るぜ……という気持ちなのですが、逆に何故今までこのようなセオリーを書いてこなかったのか、という話を少しだけします。

何度も出して申し訳ないのですが、「ゲーム考察書いてたら人生優勝した話」にあるように、わたしがゲーム考察を書いていた時代は死ぬほど殺伐としたフィールドでした。弱肉強食の世界でした。ですので、自分が良い検証方法などを閃いたとして、それは自分の中にだけ取っておき、自分だけが良い思いをする……というのが当たり前の世界だったのですね。しかし、それではこの世界、発展しませんよね。わたしも一度身を引いたことでオトナになったというか、なんというか……。自分が身につけたものが、どこかしらで役立てばいいなぁとおもい、この記事を書くに至ったのでした。

 

 しっかし、この記事、例がダークソウルばっかりですね。反省しています……過去、ダクソ考察歴が長かったもので……。ダクソ考察、たのしいよね……。勿論、検証手法としてはどのようなゲームにも通用するものだとおもいますので、安心してください。

 それでは、長くなりましたが、これでお開きとさせて頂きます。あなたの考察が読めることを願って。