世界観警察

架空の世界を護るために

マシュー・ボーンの『ロミオとジュリエット』2024/04/19Matinée - レビュー

 こんばんは、茅野です。

春というか最早夏日が来た! と思ったら、ここ一週間は冷え込むとの由。どうなっているんだ。皆様、お体にお気を付けください。

 

 さて、今回はレビュー記事。先日はマシュー・ボーン振付版バレエロミオとジュリエット』にお邪魔しました。4月19日マチネの回で御座います。

↑ サイトの作りとかがもう普段のバレエ公演とは全然違うよね(後述)。

 

 わたしはご承知の通り近代(1789-1914辺り)のオタクですから、普段は現代ものは観ないのですが、今回は席を譲って頂きまして……。ありがとうございます!

こう、自分では選ばないような演目を融通して貰えるととても有難いですよね。

現代ものに慣れぬわたしでも、プロコフィエフなら観易かろうというところでですね……。

 

 今回は備忘がてらこちらの雑感を記して参ります。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

 

キャスト

ロミオ:パリス・フィッツパトリック
ジュリエット:モニーク・ジョナス
ティボルト:ダニー・ルーベンス
マキューシオ/精神科医:ロリー・マクラウド
バルサザー:ハリー・オンドラック・ライト
ベンヴォーリオ:ユアン・ガレット
ローレンス牧師/モンタギュー上院議員夫人/看護師:ケイト・リオンズ
モンタギュー上院議員/看守/看護師:アラン・ヴィンセント
フレンチー:アニャ・ファーディナンド
ドーガス:ブライオニー・ペニントン
マグダレン/エスカラス所長:ターシャ・チュウ
ラヴィニア:ハンナ・クレマー
モーガン:タニシャ・アディコット
マーサ:釜萢来美
エドマンド:キャメロン・フリン
レノックス:イヴ・ンボコタ
セバスチャン:レオナルド・マッコーキンデイル
ファビアン:ディラン・ジョーンズ
フェイス:ライラ・トレグラウン
振付:マシュー・ボーン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

 

雑感

 初めてのシアターオーブでした。貼ってある広告的に、普段ミュージカルなどを演っている劇場なのかな。道理でご縁がないわけだ(基本的にオペラ・バレエ勢)。
バレエをやるには狭いんでしょうか。一応オケピはあるように見えましたが……。

 

 本日は強風につき、数多の物が舞い上がったようで。

使う路線が、飛来物により大幅遅延(帰りにも何か引っかかったらしい)。今日はもうダメだ。

まあ個人的な心象としては、急病人やら人身事故じゃないならまあいいんだけど……というところではあるのですが。

というわけで、思いっきり遅延に巻き込まれ、遅刻ギリギリ……というかこれ遅刻では?

観劇遅刻するの久々だ……コペンハーゲンでもなんとかなったというのに……(その時も電車の遅延だった『夜泣き鶯』以来)

 結局、見損ねたのは最初の20秒くらいなので、ギリギリセーフ(?)ということで……。レセプショニストさんありがとうございました。

 

 今回は、バレエファンの間で、「激烈に席が埋まっていないのでは」という説がありました。というのも、ギリギリになって割引席などが出回ったようだからです。毎度お馴染み馴染むな、改良しろ、「バレエの広報さあ」案件です。

 しかし、それを思えば、思ったよりは人が入っていた印象です。

とはいえ、前の方は確かに割と埋まっていたものの、後列5列くらいはほぼ空席でした。この日はみんな大好き上野水香さんを交えたトークショーもあり、その効果が期待できたのにも関わらず、5列空席か……。

そして2階席は解放していたのだろうか……。

 お陰様で、U25 ですが良い席に通して貰えました。ありがとうございます。

 

 「広報さあ」案件と言えば、某人種差別主義者が、この公演のポスターについて「黒人のジュリエット(笑)」とか書いて大炎上していましたが、その火消しも鬼ほど下手くそでしたね……。

作中の設定を問わず誰が何を演じてもいいし、レイシストと戦う姿勢を示し、且つ広報に繋げればよいものを。

 

 また、キャストの発表が遅く、大半の人はキャストを選んで観に行く(らしい)バレエの購買層とはやり方が合っていなかったのかな、と感じました。

まあわたしは演目が『オネーギン』であればキャストが誰であれ行く層なので、逆に演目も発表せずチケットを売り出す夏の某アレの姿勢に賛同できないのですが。結局、AプロBプロどっちで『オネーギン』やるの!?

 

 著名人からコメントを貰って掲載するのも、公演のグッズを大量に作るのも、バレエというより映画やミュージカルの広報手段なんだろうなと感じ、いつもと主催が違う……と思いました。

 

と、前置きが長くなりましたので、そろそろ本編の話をしましょう。

 

第1幕・第2幕

 第1幕・第2幕を続けてやって60分、休憩20分を挟んで3幕30分、という構成。上演時間全1時間半か、短いな! とお思いのそこのあなた。なんと、『オネーギン』と上演時間一緒です。

 

 キャスト陣をよく存じ上げない上、お衣装が全員ほぼ同じ白い上下なので、誰が誰だかわからない。『カルメル会』現象再び。

途中のパーティシーンで、私服に着替えるので、そこで一致させるしかありません。キルトお兄さん(マキューシオに相当?)がわかりやすくて助かる。

 

 コンテンポラリーに慣れていないので、どう評したものかわかりませんが、ジュリエットは体幹が強そうなことがよくわかりました。YouTube などで調べてみると、やはり基礎がしっかりできているからこそ現代物にも付いていけるんだな……と痛感。

 ロミオは背が高く、華があります。全く埋もれず、主役オーラがバシバシ出ていました。感覚的な話で申し訳ないのですが、バレエって割と顕著にあるんですよね、登場時から「あ、この人が主役ね」と理解させられる、説得力のあるオーラが。最近名誉ある賞に輝いたとのことを後になって知りましたが、納得ですね。

 

 設定の細かいところがよくわからない(公式サイトにきちんと読み替え設定くらいは書いておくべきでは?)のですが、若者達は矯正施設の収容者ということでよいのかな。

キャスト表を見ればわかるように、彼らは一人一人名前が与えられており、「モブ」とか「コール・ド」という感じはしません。

全員が全員ほぼ出ずっぱりで、激しく動き踊ります。そんな中、ロミオの収容から物語が動き出す、という形です。

 

 収容者たちは、肌の色や体型にかなり多様性があり、カンパニーの方向性にも合っていると思います。だからこそ例の区議が以下略

なんというか、アメリカのホームドラマやリアリティーショーみたいだな、と思いました。

設定も、明らかにゲイやレズビアン系の子がいたり、設定上も多様性があります。

 

 文化会館や新国などの劇場よりも舞台は狭いと思いますし、舞台後方に書き割りではない、オペラのようなセットが組んであるので、殊更狭いと思うのですが、それでも何故か舞台の狭さを感じませんでした。

動きが小さく纏まっている、というわけでもなく、ダイナミックなのに、どうして狭さを感じさせないのか、個人的にはとても不思議で、謎が解明できた方はヒントを教えてください。宜しくお願いします。

 

 マシュー・ボーン作品の鑑賞は初めてでしたが、思ったよりはアクロバティックな動きは少なく、高難易度でゴリ押しするようなタイプではなく、現代バレエでよく見られるような動きの組み合わせでできているな、と感じました。

「読み替え」は(バレエの舞台としては)奇抜なのは間違いありませんが、動き自体が奇抜なタイプじゃないんだな、という印象です。

 ドラマティックとコンテンポラリーの間の子という感じで、演劇的で展開もスピーディ、現代物初心者でも飽きずに楽しめます。

 

 個人的には、わたしは「読み替え」はあまり好きでは無い芸術保守派に属します。

わたしはブログ名にもあるように、所謂「世界観警察」で、一番好きなのはキャラクターやストーリーよりも、その世界や社会、というタイプのオタクです。従って、舞台を変えられてしまうと、わたしにとっては推しキャラをリストラされたような気分になるのです。

 そもそも、読み替えって同一性保持権辺りの観点から考えると結構危ういよな、と思うこともあり、有名作の名前を借りないでオリジナルで勝負しろよ、と思ったりもします。

 「読み替え」などが進みすぎると、そのうち「テセウスの船」みたいになって来るんじゃないか、と危惧もします。

 バレエに於いては、その作品の根幹となるのは、意外にも「音楽」です。とはいえ、切り貼りしたり順番をめちゃくちゃにしたりするので、必ずしもそうとは言い切れませんが。バレエ界はもっと音楽を大切にして欲しいよな、と思う案件もしばしば

 ストーリーを「読み替え」、振付を変えても、音楽がプロコフィエフなら『ロミオとジュリエット』、というわけです。

 

 ソ連の某評論家は、「『オネーギン』からプーシキンの韻律とチャイコフスキーの音楽を取り上げたら、それは単なるメロドラマだ」と言ったとか。

意外かもしれませんが(?)、わたしはこの考えに割と賛成で、この二つを削ったらそれはもう『オネーギン』ではないよな、と感じます。いや、個人的には、舞台を1820年代ロシアからずらされるのも嫌いですが……そこも根幹だと考えているので……。

というわけで、『オネーギン』を題材としていると自負するのなら、せめてチャイコフスキーの音楽くらいは使って欲しいですよね。

 

 気を抜くとすぐ『オネーギン』の話をしてしまうので、『RJ』に戻します。

 みんな大好き「モンタギュー家とキャピュレット家」。この二つの家の対立関係がない今作ではどう処理してくるのかな、と思ったら、普通に収容者たちの群舞がメインで、三拍子の中間部でロミオとジュリエットの二人にフォーカスされます。

今作ではパリスもリストラ。この辺りの設定までそぎ落としてしまうと、本当に『ロミオとジュリエット』なのか、と突っ込みたくもなります。

 膝をガンガン床に打ち付けるような振りが多く、痣いっぱいできそう……、きちんとケアして欲しい……と思いながら観ていました。

 

 2幕冒頭のベッドシーン(語弊)、好きです。面白かった。上で飛び跳ねても全然弾まなくて、随分硬いベッドなんだな……と思いながら観ていました。普通に素材が気になる。

 ところで、この辺りのシーンでは、ダンサーさん裸足でしたか? 人を裸足で舞台上に上げるなとあれほど……、毎回書いている気がする……。でも、コンテンポラリーだと寧ろ裸足が普通だったりするのであろうか。未知の世界だ……。

 

 また、その直後も面白くて、「フィジカル・ドリル」が始まった……! と思いました。フィジカル・ドリル、嫌いな人いるんですかね? 好きすぎる。

ショスタコーヴィチバレエ×デニス・サーヴィン=最強。数年前まで意味不明だった指示出しのロシア語が割と聞き取れるようになっていて感動。

 『ボルト』も生で観てみたいですけど、いやー、観る機会よ……(取り敢えず侵攻なんとかしろ……)


 今回、舞台セットとして、収容施設の壁が組まれています。バレエにしては本格的なセットです。

上部は「バルコニー」のようになっており、『RJ』だものな、というところ。バルコニーへは、階段もありますが、足を引っかける、ボルダリングのような足場があり、「懸垂! 懸垂だ!」と確信。『RJ』と言えば懸垂ですからね(誤った認知)。

 

 しかし意外なことに、懸垂担当(?)はどちらかというとロミオではなくマキューシオ。落っこちそうになる演技が上手すぎる。

 バレエ初心者が「マキューシオってなかなか死なないよね、もう死んでも良いよ」などと言ってバレエガチ勢が燃やしにかかるのは最早『RJ』様式美ですが(?)、今回の振付では、思いっきり脇腹を撃たれていました。脇腹かすった程度だったら、そりゃなかなか死ねないよな……と妙に納得。失血死なんだろうか。

 

 今回の演出では現代(近未来)読み替えになっており、登場人物として医師が出てくることもあって、「(踊ってないで医者呼べよ……)」とか野暮なことを思ってしまうところですが、収容者たちは苦しむマキューシオをよそに、復讐に夢中。

看守(?)ティボルトの首にベルトを巻いて、全員で窒息死を狙います。まさかのジュリエットも殺人に加担!

ただ、絵面が完全に『おおきなかぶ』だった……。うんとこしょ、どっこいしょ。それでもティボルトは死にません。

 マキューシオが死んだとき、嘆くというよりも死体そのものにビックリしているバルサザーが印象的でした。舞台芸術だとそういう描写って意外に少ない気がするので。

 

 みんなで殺したのに、発見された際の状況から、主にロミオにだけ罪が被せられて幕となります。

 

第3幕

 幕間中もダンサーは舞台上に。休憩できてますか、してください。

 

 『RJ』で最も魅力的なのは、 Before parting だと信じて疑っていません。バルコニーよりもこちら派。

チャイコフスキープロコフィエフも、同志 before parting 派。

 バルコニーでは床を転げ回るような振りが多かったのに対し、こちらでは寧ろ高度を利用している印象を受けました。

 

 そして衝撃のラスト。ジュリエットが、(自身の死因となった)ベルトを持ったティボルトを幻視し、ロミオを刺し殺してしまいます。

精神的トラウマってことなんだろうか。確かに、もう既にロミオは殺人者ではあるし……。

なんとなく『デッドマン・ウォーキング』を想起しました。

 ロミオが刺された箇所も同じ脇腹であるところは示唆的です。マシュー・ボーン先生は致命傷を避けるのがお好きらしい。

 

 寧ろジュリエットの方がぐったりしたロミオをリフトするような振りさえあり、筋力お化けだ……になりました。結構身長差もあるように見えたのですが! お見事。

斃れたロミオの肩から腰のラインが非常に「美」でした。何かがわかったよ、バタイユ先生……!

 瀕死のロミオを見て我に返ったジュリエットが同じように己を刺し、幕となります。

 

アフタートーク

 終演後、暫くしてジュリエット役3人+上野水香さん+森菜穂美さんのアフタートークがありました。

日によって毎回同じ演目ながら違う役を踊っていて、頭こんがらがらないのだろうか。やはりダンサーは凄い。

 

 第一印象:今回ジュリエット役を演じられていたモニーク・ジョナスさん、声が可愛すぎる。ずっと聞いていられる。声優もできるよ(?)。

 

 上野水香さんは、この演目は舞台で観たことがなく、映像のみとの由。ええ……ちょっと困惑というか、それでいてこういう企画が組まれちゃうんだ……というか。お忙しいのでしょうが、今日観て、それからトーク、とかじゃないんだ……という。

 

 「演劇やミュージカルを観ているような」というご意見には賛同です。コンテンポラリーながら、ドラマティックでした。両刀。

「後味が悪くない」というお話でしたが、確かに『リゴレット』的な後味の悪さはないものの(わたしは『リゴレット』終幕のストーリーが胸くそ悪くて苦手である)、人が死んでいるわけで、爽快な物語では断じてないのだよな……。

そういえば、今回はバレエでは珍しく、しっかり血糊を使ってもいましたね。それも演劇性を高めている要因かも。お衣装が白なので、目立ちます。

 

 ジュリエットちゃん達の解釈は、そこまで奇抜なものはなく、「まあ順当に考えればそうなるよね……」というような模範解答が多かった印象です。

ただ、その点を含めて、答え合わせができて良かったですね。

 

 こんなところでしょうか! 初めてのマシュー・ボーン作品で、楽しめるか少し不安でしたが、鑑賞することができてよかったです!

わざわざ極東の島国まではるばる来てくださってありがとうございました。

 

最後に

 通読ありがとうございました。6500字。その半分くらいに纏めようと思っていたのに何故……。余計な話を書きすぎる悪癖!

 

 今は特にバレエの購入済みの席はないので、お勧めの公演がありましたら教えてくださいませ。

この流れのまま東バの『ロミオとジュリエット』に行くべきか。

 

 そういえば、新国もKバもそれぞれ新作の『人魚姫』をやるようで……、流行っているのか。昨年デンマークで遊んできたので(旅日記)、アンデルセンにはつい反応してしまいますね。ディズニー寄りよりも、原作寄りでやってくれたら嬉しいところ。両方気になります。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです。