世界観警察

架空の世界を護るために

ROHライブビューイング2024『白鳥の湖』 - レビュー

 おはようございます、茅野です。

バレエ鑑賞ラッシュ及びレビュー執筆マラソン中です。でも流石に今回で終わりになりそうな予感! 観るのはいいんですが、書くのが大変ですからね。

↑ 前回の記事。いつも通り、考証とかしてます。

 

 というわけで先日は、ロイヤル・オペラ・ハウス(以下 ROH )のライブビューイングより、バレエ『白鳥の湖』にお邪魔しました。

↑ 数日前までキャストも違ったし誤植も酷かったんだけど、あれは何だったの……。

 

 ROH のライブビューイングはどうせ古典演目しかやらないしな〜、とあんまり注目していなかったのですが、「丁度今やってるよ」と教えて頂いたので、予習無しで突発的に凸してみました。

 我らがホーム(?)、ボリショイのライブビューイングが続いていればな〜。プーチン政権許すまじ。はあ〜『巨匠とマルガリータ』観たいよ〜〜(最近それしか言っていない)。続いていたら上映してくれていた可能性が高いだけに惜しい、惜しすぎる……。

 

 今回も、備忘がてらこちらの雑感を記して参ります。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

↑ 今回は広報画像も随分シンプル。

 

 

キャスト

オデット/オディール:ヤスミン・ナグディ
ジークフリート王子:マシュー・ボール
ロットバルト:トーマス・ホワイトヘッド
ベンノ:ジョンヒュク・ジュン
指揮:マーティン・ゲオルギエフ
管弦楽:ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
振付:リアム・スカーレット

 

雑感

 ROH のスカーレット版は、美術もシックで素敵ですし、振付も原典をベースにしていて取っ付きやすく、初心者にも勧めやすい版です。

 …………であるがゆえに、例の事件さあ……の気持ちなんですが。色々最悪だよ。ROH はいつまでスカーレット版をやってくれるんだろうか。

 何が気持ち悪いと言って、結局ハラスメントは疑惑止まりで立証されていないこと、その上で民事・刑事告発せずにキャンセルカルチャーのみで対処したこと、そしてその結果です。

 罪があったなら、立証し、法に裁きを委ねるべきであって、何故カンパニーだけで対処しようとしたのか理解に苦しみます。それで人死にを出してしまうとか最悪の極み。英国ってもっと人権や遵法意識が進んでいるかと思っていたのに、シンプルに失望ですよね(英国だけではなくデンマークとかも乗っかっているので、全てを英国の責にはできないことに注意)

 それで、ROH が「夭折の~」とか書いているのは流石に胸糞悪すぎるし、芸監のオヘアさんが「彼がいなくて寂しいですね(意訳)」とか言っているのは吐き気案件ですよ。お前だよ!! わかっているんですか。

 罪があったなら裁かれるべきですが、裁く主体はカンパニーや世間ではありません。私人逮捕系 YouTuber とかとやっていること一緒だという自覚を持って欲しいですね。

 

 「で、どういう顔してやんだかな」と思っていたら、最初のインタビューや特典映像で、「例のこと」には触れずにガッツリ振付家の解説をしていて、普通に「キモ……」と思ってしまいました。生前は「二度と ROH に関わることはない」とか宣っていたくせに、死んだら禊完了なのか。いや、キモいな……。論理的に辻褄が合わなすぎる……。

 

 わたしはスカーレット版『白鳥の湖』という作品を素敵だと思っていますが、別の論点として、例の事件や、ROH の対応はハッキリ言って気持ち悪いです。

作品には罪はないと考えますし、「事件」そのものにキャンセルカルチャーの問題も絡んでいますので、わたしは観ますが、報道から理解する限りでは、ROH の態度は擁護できないということは先に書いておきたいと思います。

 

 (この前書きは、以下の記事を参照して書いています。英語だし、長いし、初っぱなからとてもショッキングな内容が書かれているので、閲覧には注意すること)。

 

第1幕

 さて、この版を語る上では欠かせないことではありますが、胸糞悪い話を書いてしまいましたので、気を取り直して。

 

 ご案内はホワイエから。MET とは違い、 ROH は司会がいつも同じですね。ボリは広報担当のノヴィコワ姐さん。恋しい

 

 今回の公演は、4月24日であったとの由。なんということだ。

わたしがこの日付に過剰反応することを、弊ブログの読者さんならご理解いただけるはずだ。(今回初めて弊ブログを開いた人向け:推しの命日です。わたしはその日はこの記事書いてたぞ。いい加減そろそろ推し関連の記事書きたいんですが……

 

 4幕は完全にオリジナル振付だそうです。『白鳥』は色々な版がありすぎるので、見比べるのも体力要りますよね。今度『白鳥』マラソンとか走ってみたいな。一緒に走ってくれる方を募集します。

 

 ラウラ・モレーラ氏はスカーレット財団の「芸術監修」とのことで。芸監は芸監でも「芸術監督」ではないのか、それとも単なる表記揺れ?

財団にも芸監っているんだな……ということを今更知りました。クランコ財団が著作権に鬼ほど厳しい話は有名ですが、スカーレット財団はどのような方針でいくのか、気になります。

 

 スカーレット版のロットバルトの目的は「王国の乗っ取り」であると明言されていました。いいですね!←政治ウォッチャー。特に王政を観測するのが好き。

王子、女王の権威を失墜させたい宰相枠。面白いです。もう童話とか恋愛とかいいから、政治の話をしよう。女王とロットバルトがやる政治の話が見たいよ(※多分異端)

 

 インタビューで、ヒロインを演じるナグディ氏は、「チャイコフスキーの音楽が血管や体に染みる」と発言していました。わかる。とてもよくわかる。特に一番染みるのは『オネーギン』、ですよね! え、違う?

 

 

 さて、いつも通り前置きが長くなりましたが、そろそろ本編の話を。

 

 出からホルンがコケます。正気かよ。

 また、スカーレット版では、序曲でオデットが王女から白鳥に変えられるシーンが挿入されますが、王女が流石にナグディさんに似ていなさすぎる。「お約束」としてわかっているからいいものの、もうちょっと似ている人いなかったのか。お顔立ちはともかく、背格好だけでも!

 

 一番見慣れている舞台がボリショイのヒストリカル・ステージなせいで、別の劇場では何を見ても「舞台狭くない?」と思ってしまいます。いい加減一般的なステージの広さに慣れるべき。

しかし、スカーレット版の1幕、3幕は、セットが豪華な分、更に狭くなっていそう。

 

 ROH は、相変わらず、ほんとに多国籍ですね!

肌の色や体型に多様性があるのは素晴らしいですし、敢えてこういう言い方をしますが、ぶっちゃけ全然「気にならない」のですが、だからと言って動きが揃ってないのはどうか、と思いますね。そこに多様性は要らないんじゃ。キチッと揃っていて欲しい。特に、『白鳥』なんか、「白のバレエ」の一画ですし。

 コール・ドが一番上手いバレエ団ってどこなんだろうな~。どこだと思いますか? ご意見お聞かせください。

 ROH って、あんまりメソッドとかの話が出ない気がしますが(演劇性は特徴の一つですが、それはメソッドという感じでもなし)、古典ということもあってか、コール・ドは結構柔らかめに動くんだな~ということを確認しました。

 

 コール・ド、特に男女4組は全然動きが揃っていなくて「およよ……」案件ですね。特に上手側のペアが遅れがち。

 ROH の魅力は、オケとコール・ドの水準の高さにもあると思っていたのですが、今回ちょっと考え直した方がいいかもしれない……と思いました。商売熱心さと、プリンシパルの質と層の厚さの方が特筆点だわ。

 

 今回、引きの画では爪先が見切れています。カメラさん!! バレエで爪先見切れてたら何観るんだよ!! そこ一番重要だから!!!

 

 インタビュー・特典映像から、オケから、コール・ドから、ちょっと「今日は失敗だったかもしれない」と思っていたところに、救いの手が。ベンノが……上手いです……!!

動きが軽い。素人目から見てもわかりやすく上手い。とてもいいです。まだソリストなのが意外すぎる。まだ若い(24歳?)からかな。今後の出世に期待ですね。要チェックだな。

 

 王子も跳躍が高くて素敵ですが、まあそうじゃなかったらこの振付(フォーメーション)だと埋もれますよね。背が低かったり、跳躍苦手なダンサーを全力で殺しに掛かる鬼畜振付である。容赦が無い。

 

 女王の描き方は英国ならでは。女王が強い国ですからね。女王という存在を見慣れているし、皆にとって身近だし、描きやすいんだろうな。

しかしまあ女王が出てくる時の管は終了してましたけどね……。管も陛下を讃えて。

 

 説明曰く、設定は1890年代らしいです。プログラムは毎回誤植祭りだから本当なのか知らんけど時代考証を……走れと……!? 任せてください。

 早速ですが、1890年代なのに、クロスボウをプレゼントとは! 骨董品か? この時代はクロスボウじゃなくて銃で狩りやりますんで。殿下も銃で白鷺撃ってますよ。

↑ 『白鳥の湖』ニアピン賞をする現実の王子様の話。今回のエピソードではありませんが、狩りの途中に森で迷子になったことも。しかし彼は己の恋人に忠実で一途だから、オディールに誘惑される心配はないのだ。

 

 どうでもいいですが、王子とロットバルトが並ぶと、中の人のお顔立ちから『ハリー・ポッター』でも始まったのかと思いますよね。マシュー・ボールさんって超典型的な THE・英国人ってお顔立ちだなといつも思うんだけど、わたしだけ?

 

 「その曲ベンノが踊るんか」案件がいくつか。もしかしなくても、王子より見せ場多くないですか? 今日のベンノは超上手いので、いいけど……。

U字を描くような移動が多い振付で、疲れそうですね。これボリショイのヒストリカル・ステージでやったら絶対息上がりますよ

 上手いです。跳躍の最後に左手が更にグッと伸びるのも素敵。韓国出身のジョンヒュク・ジュンさんですね、名前覚えました。もしかしたら、割とすぐレンスキーくらい踊るかもですね。楽しみ。

カブリオールの時に空中で足を打ちつける音も響き渡ります。

 

 PdT。お姉様(妹?)の一人は手足が長くて綺麗ですが、背が高すぎるせいか、ベンノとの相性が宜しくないように見受けられます。それとも、サポートはそんなにお得意ではないのかな。

 

 王子ソロ。照明が暗い中踊ります。スカーレット版って意外と王子の見せ場ないですよね。

筋肉が前腿に付いているせいか、膝がもっと伸びそうに見えてしまいますね。明るいところで見せてくれ。アティテュードで回るのは綺麗です。

 

第2幕

 そのまま続けて第2幕。

 

 王子がベンノに「あっち行けよ!」とした後、ちょっと後悔して手の平を返すのが好きです。心の機微の演技はなんぼあってもいいのでね。

 

 ロットバルトはお衣装だけではなく、歯の特殊メイクも凄いです。メイクに何時間くらいかかるんだろう。すぐお着替えしなきゃいけないから意外と簡単なのかな。

 

 白鳥群舞、最後のピチカートにポーズが合っていないのが気になりました。コール・ドの問題なのか、指揮・オケの問題なのか知りませんが。今回はオケもかなり怪しいし……。

 

 ハープの音で王子が出てきてちょっと笑いました。それ明らかに王子登場の音楽ではないだろ! 随分神秘的な王子様だな。ルサールカか何か? オネーギンなんかほぼ毎回チェロの低音で出てくるぞ。 

 

 オデット。特に2幕では、物凄くテンポをスローにするのが特徴です。テクニックに重きを置いていますが、それでいてあまりバランスに時間を取らないこともあるので、偏重というわけでもなさそう。

 最後のクペで空を掻くような振りのところ(正式名称なんですか?)が細かすぎて、それはもう痙攣なんだわ……と思って観ていました。水中で痙攣起こしたら鳥といえど死ぬぞ。

 王子がチュチュを思いっきり巻き込んだままリフトしていて、滑って落とさないでね〜! とちょっとヒヤヒヤしました。勿論落としませんでした。流石。

 

 4羽はもっとメリハリが欲しいですね。

どうでもいいんですが、かつて La Folle Journée で売っていた、4羽の白鳥の真ん中にトウシューズを履いたチャイコフスキーが混ざっている風刺画、マジで買えばよかったと後悔しています。定期的に思い出し笑いしては悔いている。見つけたら教えてください。今度こそ買うので。『オネーギン』のポスターの横に貼っておく

 3羽を2羽にリストラするのは流行りなのか。下手側の子は明らかに鍛錬不足ですね。バランス頑張りましょう。

 

 オデットの Va. も恐ろしくスローです。

上手奥から音階で上がっていくところから著しくクレッシェンド・アッチェレランドします。3幕でも思いましたが(後述)、それは指揮どうなん……? 割と踊りづらそうに見えましたが。

 オデットは、テクニックは素晴らしいのですが、演技は薄味ですね。静謐な感じはするけれども。個人的にはもっと濃い味の方が好きかな……。

 

 コーダでは、Bravo させる隙を与えなかったな……と思いましたけど、最後のポーズがリフトだからでしょうね。喝采の間ずっとリフトし続けるというのは流石に大変そうですし。

その次から主題に入ります。

 

第3幕

 休憩を挟み、インタビューや衣装製作の舞台裏密着からスタート。

スカーレット版『白鳥』には、120の役があるらしいです。『リーマン・トリロジー』超えとるがな……。

↑ NTL 最大の当たり作品だと思っています。個人的な好みでもあるけど、脚本・演出・演技全ての面で至高の品質だと確信している。円盤欲しすぎて泣いてる。

 『リーマン』のように3人で回す『白鳥の湖』、面白そう。キャスト体力勝負すぎて死にそうだけど。

 

 白鳥のチュチュの羽根を貼り合わせるだけで60時間掛かるとか。この時代に、全て手作業との由。ようやるわ……。

「こんな豪華な服を作るのなんてバレエ団か軍隊しかいない」というコメントに笑いました。バレエ団と軍隊の共通点が語られることなんて、ここくらいしかないのでは。

 

 3幕のジークフリートのお衣装は中綿を入れて照明で輝くようにしているらしいです。スカーレット版の王子のお衣装カッコイイですよね。それこそ軍服風でしょうか。

 

 美術担当のジョン・マクファーレンさんご自身が試行錯誤して手作りしたそうです。

個人的には、スカーレット版が素晴らしいのは、ぶっちゃけストーリーテリングや振付よりも美術だと思っています。美術での加点が大きすぎる。美術では他の版を圧倒していると思います。大層美しい。

 

 白鳥はコール・ドだけで26羽編成だそうです。そういえば2幕で数え忘れたな……とこの時気付きました。助かる。

 ボディス、装飾、スカートの3部分からなり、12層のスカート、1着に8mのチュールを使うとのこと。それ、売るとしたら、一着幾らくらいになるんだろう円安のことは考えたくない

 ここの製作風景映像の時の BGM がピアノ版『白鳥』で嬉しかったです。チャイコフスキーはピアノ・ソロでも美しいのだ。

 

 

 それでは本編です。

 個人的には『白鳥の湖』は3幕が一番好きです。国際政治の研究会にいたので、各国が参加するコンペティションみたいなものは、研究会を想起させられてテンション上がるものでして。毎回最良の大使団を品定めするのが趣味です。

 しかし、設定が1890年代であることを考えると、大使団が「イタリア」ではなく「ナポリ」というのは不自然なのではあるまいか。もう既にイタリア統一は済んでいますよ。ウンベルト王子怒るで

一応、クレジットだと「イタリア王女」とはなっているものの、ウンベルト王子には娘いないよ??

 

 スカーレット版では、各国のお衣装の華美さや、人数に大きな差があり、国家財政について考えさせられます。

ナポリは資金難なのかな……。やはりこの世界線ではイタリア統一されていないのか?

 個人的には、「王女は必要か? 民族舞踊だけでよくないか?」と思ってしまうのですが、まあ一応婚約者を選ぶ会という設定だから必要か。デンマーク王女を呼べ

 

 「ベンノがその曲踊るの?」その3。ほんとに王子より見せ場多いと思う。バランス頑張ってました。

姉妹の踊りの際にマイクに何かが当たった模様。今回カメラさん音声さん大丈夫そうか? 以前『眠り』を観たときはこんなじゃなかったのに……。

 

 スカーレット版ではスペイン大使団は闇堕ちしていません。闇墜ちスペイン大使団が好きなので(スペインという国家に対して他意はない)、ちょっと寂しいです。

↑ 闇堕ちスペイン大使団の遍歴。

スカーレット版では、所謂「スペイン・ボーイズ」が健在。しかしまあ、特に出世株は見当たらず……。取り敢えずベンノに出世して欲しい。

 

 今回のベスト・デリゲーツはハンガリー大使団に! メインのお姉様のカメラ目線目ヂカラにやられました。カッコよかった。好きです(ちょろい)

実際、ハンガリー大使団が一番人数多くてお衣装も豪華で金持ってそうでしたし、同盟相手としては申し分ないのでは?政略結婚目線

しかしまあ、本当に1890年代という設定なら、ハンガリーはアウグスライヒしてるんですかね。では実質的にオーストリアでもあるのか? あ、ルドルフ皇太子もう死んでる?

 しかしオケはもっと頑張って欲しかったです。

 

 ナポリ大使団は2人だけですが、その分振付の難易度が最も高く、少数精鋭部隊です。それぞれの国の方針が窺えて面白いかもしれない。

 途中でタンバリン投げてて笑いました。受け取ったジークフリート王子の王国の侍従が叩いてくれていて、流石に面白すぎる。タンバリストも自前で用意しましょうね。いきなりタンバリン投げられて正確に叩いてくれる王国の侍従が凄いわ。

 

 ポーランドはお衣装が暖かそうで豪華で、個人的にはお衣装は一番好きかも。踊りとしての見せ場はそんなに無いですが。

で、また考証の話に戻るのですが、ポーランドは独立に成功しているんですかね? ロシア、大丈夫そうか?

 ぶっちゃけ、当時のロシア帝国にとって反動的で文化も宗教も言語も違うポーランドって癌でしかないんですけど、殿下が統治するならポーランドは切り離すのかなあ。立場上、父やポーランド総督の叔父に従ってポーランドの武力制圧に許可は出しているんですけど、「戦争になるならせめて前線に行きたい」と仰っているし、別所で「叔父とは政治的な考えが合わない」とも仰っているし、ポーランド問題が未解決の課題であることはとてもよく理解しておられるし。あ~殿下に統治して欲しいな!

 

 オディール。妖艶というより、余裕に溢れた解釈です。しかし、ちょっと「優等生感」が抜け切れていないように見えます。「魔性の女」というより、「黒鳥軍団の頼れるリーダー」みたいな。

所謂 6 o'clock 、お見事です。フェッテはいきなり4回転でした? 安定感凄まじいです。

PDD のピルエットはサポート頼りになってしまったのが惜しい。

 

 王子の Va.。

ヴァイオリン頑張れ。普通に踊りを妨害しているレベル。流石にコケすぎよ! でも王子も最後手ついちゃったしいいか(よくない)

 終始苦しそうな顔して踊っている印象を受けました。ムンタギロフ王子の終始貼り付けたような笑顔よりはいいですけどもうちょっと演技に幅が合ってもいいかも。

 それを挽回しようとしてか、コーダではえげつないくらい高速回転して客席もどよめいていましたが、ここのオケ、ちょっと有り得なくないですか!? えっ指揮者さんはジークフリートのアンチなの? ってくらい酷い加速で。確かにここのテクニックは素晴らしかったのですが、それよりも王子が可哀想という気持ちが勝りました。指揮者さんは上演終わったらボール氏に謝罪入れた方がいいよ……。

 

 結婚の誓いのマイムでは、左手の薬指を指していますが、ロシアでは結婚指輪は右手の薬指にするのが普通なので、本来の振付では逆だったんじゃない? と唐突に思いました。

 確認の為に『明るい小川』を観たら(?)、やっぱり右手の薬指を指していますね。

↑ 右手の薬指を指そうとするシーン。『小川』のバレエダンサー役はルスラン・スクヴォルツォフ兄貴しか勝たんので胸毛!!!、可及的速やかに全幕円盤化してください。画像はアンドレイ・メルクリエフ氏。

 スカーレット版など、ロシア国外で振り付けられたものは左手になるのかな。色々見比べてみたくなりました。

 

 王子が愛を誓う前、「本当に本当なんだな?」と念を押すようにオディールとロットバルトが王子の顔を覗き込むのが好きです。最終確認。確認してくれるの優しい(?)。

 ジークフリート王子は、バレエファンの間では「ポンコツ」とか「優柔不断」とか「クソ男」呼ばわりされがち。しかし、一方的に騙されてしまった王子は単なる被害者であり、悪いのは普通にロットバルトとオディールなんですよね。版にも拠りますが、王子に落ち度はない。

ここでジークフリートを弾劾するのは、「騙される方が悪い」みたいな悪しき自己責任論に毒されすぎていて感心しません。まあ、不甲斐なく見えること自体は否定しないけども。

 

 女王は王冠を取られてしまいます。えー! それキツいな。やっぱり象徴的なものが強奪されたり破壊されたりって、心理的にキますからね。

この版では、やはり彼女は「未亡人の王妃」ではなく「女王」なんだろうな、って感じしますし。しかし宰相が裏切り者は最悪すぎますね。哀れな……。

 

第4幕

 休憩を挟んで第4幕です。

 

 インタビューは指揮者さん。マーティン・ゲオルギエフさんと言うらしい。ヴァレリー親分をお呼びになって

 11年働いてきて、初めて『白鳥』を振ったとの由。副指揮者だったが昨年正指揮者になったそうです。終始嬉しそうでチャーミングなインタビューでしたが、技術的にはもうちょいと鍛錬が必要だったのでは? と思わざるを得ないのが悲しい。

 「オディールはポップスターのよう」らしい。まあ、そうとも言えるかもしれません。

 いやしかし、この演奏で指揮者呼ぶんか……、ある意味公開処刑なんでは? の域。あれで顔出しするの結構しんどいだろう。バレエ関係者・ファンの多くは音楽に関心がなく、評価が甘いですが、いやー、これはちょっと……←誠に遺憾ながら、数少ない音楽に関心のあるバレエファン

 

 4幕開始早々、前方の席から盛大ないびきが。結構席離れていそうでしたが響いていたので、お近くの席の方々は大変だったんじゃないかしら。舞台鑑賞は前日よく寝てからお越しくださいまし。

 

 2羽の白鳥は、アップで映すのをわざわざあまりお上手ではない下手側のかたにしなくても……。上手側のかたを映して差し上げて。

 

 4幕はあまりバレエ的な見せ場はなく、ストーリー重視で進みます。

折角の主題を踊りの見せ場にしません。まあこれは多くの版でそうではありますが。

 

 今回は、メインキャスト陣でしっかり演技をやってくれるのロットバルトだけで、基本的に薄味です。その意味で、4幕ではロットバルトを応援したくなりました。頑張ってくれ! 演技面での最後の希望だ!

 倒れた王子が微動だにしなさすぎて、ストーリーを知っているにも関わらず、死んだかと思いました。大体呼吸で肩が動いたりするものですが、それすらないんですもん。もういっそのこと死ぬ役やったら(?)。

 

 この版、ロットバルトの死因がよくわからないのですが……。やっぱりお約束的に、「愛は最後に勝つ」的な? しかし、それを振付や演技や演出で描き切れていないように思うのだよな。特に理由なく死ぬので、「え、急に何?」となります。

 また、最後王女に戻ったオデットが生きているのかどうかもわかりません。答えが明かされない、「オクターヴの秘密」スタイルなのか? 設定がちゃんと決まっているなら知りたいところですが、ぶっちゃけ伝わっていません。

 この辺りのことから、ストーリー上不完全燃焼感が残るのが勿体ないと思います。

 

 

 こんなところでしょうか!

 ちょっと今回はオケやコール・ドやカメラに課題ありと見受けました。古典中の古典『白鳥の湖』ですから、粗があると目立っちゃうんですよね。

 リアム・スカーレットに対するオヘア芸監らの言及も気持ち悪かったですし……。モレーラ氏やエイヴィス氏など、財団で作品の存続に取り組んでいる人は実直な態度であるように見受けられたので、彼らが可哀想に思えます。

 主演二人は、勿論テクニックは素晴らしく、全体的に高水準なのは間違いないのですが、「彼らでしか味わえない何か」が足りず、歯がゆさを覚えました。

 前回が、テクニック神・ネラ(マリアネラ・ヌニェス)様と、ワディム・ムンタギロフ氏ペアでしたから、ちょっと超えるべきハードルが高過ぎたように思います。特にネラ様を比較対象とするのは可哀想でさえあるのですが、同じ振付でやっているのですから、やはり比較せざるを得ないんですよね。

↑ ネラ様がヤバいのは周知の事実ですが、何回観ても安定感エグすぎない?? 現代の女性ダンサーでは、テクニックの面で頭二つ三つ抜けていると思っています。

 ナグディさんは、テクニック面を重視しているように見受けられましたが、テクニック一本勝負でネラ様と戦っていくにはまだ少し厳しいように見受けられます。「それだったら別にネラ様観りゃよくない?」になってしまうんですよね。

 例えば、音の取り方とか、演技的な表現力を磨くといったような形で差別化を図り、「絶対に彼女にしか出せないユニークな味」を体得できれば、とてもよいダンサーに成長するだろうと思います。間違いなく素地は素晴らしいのでね。

改めて、比較対象が化け物であることが前提ですが、まだ「テクニックに優れた優等生」の域を出ていないように感じました。今後の成長に期待ですね。

 

 以上!

 

最後に

 通読ありがとうございました。1万1000字越えです……。『オネーギン』じゃないのに……何故……。余計なことを書きすぎた……。

 

 別に最近初演されたというわけでもないのに、唐突にバレエ版『巨匠とマルガリータ』が観たい症候群になり、理解を深めるべく原作を買って履修を始めました。

ブルガーコフの大傑作、今まで読んでなかったんかい! という話なんですが、すみません、キリスト教に明るくないので尻込みしてまして……。最近キリスト教の本や映像を読んだり観たりして、基礎的な知識がついてきたので、そろそろいけるかな~と思いましてね。

↑ 岩波版で。キリスト教の知識が必要ですし、難解なことでも有名ですが、ソ連時代の文学ではNo.1に挙げられることも多いくらい、ロシア人に殊更愛される大作です。

 悪魔ヴォランドのソロの音楽と振付が良すぎるんですよ。ちょっとわたしの為と思って観てくれませんか。3分ほど時間をください。

↑ よ、良すぎる。しかし、最初マジでどうなってるの? この体勢、満員の死体安置所に置かれてる死後硬直死体でしか見たことないぞ(元某所管理人の意見)。

 色々なダンサーがこの Va. を踊っているのを見比べたんですが、やっぱり贔屓(ヴラディスラフ・ラントラートフ氏)が一番ですね……。誰よりも音の取り方に秀でているし、動きが明瞭で、演技力・表現力に富み、何をしたいのか、何を伝えたいのかよくわかる。多くの振付家が彼のことを好きなのも理解できます。

 質の面では、現在大躍進中の若手・イリダール・ガイヌディーノフ君も凄く上手いんですけど、彼の役作りはロットバルト系の奇天烈さの強い悪魔像で、こちらの動画のミステリアスで知的な解釈のヴラドとは対照的。好みですが、やっぱりわたしはヴラドのミステリアスで知的な役作りが好きだなあ……、文字通り、彼のオネーギンで育ったもんですから……。

 こちらの感想もお寄せください、今この作品への言及に飢えているので。宜しくお願いします。

 

 次回の記事をどうするかは未定です。『ウマ娘』の解説記事を書くかもしれませんが、まだ準備はしていませんし、来週はオペラの席を取っているので、そちらが先になるかも。

 今後のバレエの席は取っていないので、お勧めの公演がありましたら教えてください。で、そろそろバレエフェスはAプロBプロどちらで『オネーギン』をやるのか決まったか?

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!