世界観警察

架空の世界を護るために

新国立劇場『白鳥の湖』2023/6/10 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

先日、フィリップ・グラスのオペラ『アクナーテン』の音源を購入し、とうとうこのオペラに入門しました。

↑ まずジャケ写が良すぎじゃん。

これ、めっちゃくちゃ良いですね……、お勧めです。但し、作業用BGMには非常に不向きで、脳内ジャックされます。集中して聴きましょう。

 

 さて、本日は我らが新国立劇場のバレエ『白鳥の湖』にお邪魔しました。6月10日初日の回で御座います。

 頭の中が完全に『アクナーテン』だったので、チャイコフスキーに戻すのに最初少し苦労しましたが……。いや、普段はチャイコフスキーのオペラばっかり聴いているんですけどね!?

今回はフォロワーさんから席を譲って頂きまして……。ありがとうございます!!

 更に来週も、わたしが粗忽なばかりにオペラコンサートのダブルブッキングをしでかし、チケット取引に協力頂いたので(こちらは無事ロシアオペラオタク仲間の手に渡りました。よかった!)、今月はチケット交換祭りです。頼れる観劇仲間に心から感謝を……。今後とも宜しくお願い致します!

 

 今回は忘れないうちに、こちらの雑感を簡単に記しておきます。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

キャスト

オデット/オディール:米沢唯

ジークフリート王子:福岡雄大

ベンノ:木下嘉人

ロットバルト:中家正博

指揮:ポール・マーフィー

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

演出:ピーター・ライト

 

雑感

 いやこれどうしても最初に書きたいんですけど、この間の『サロメ』からですが、東フィル金管隊は一体全体どうしちゃったんですか!? 超絶好調じゃないですか!

↑ 『サロメ』のレビュー。

全体のバランスを破壊しかねない勢いでスっコーーンと突き抜けています。でも気持ちがいいので全然いいです。今回は歌手への配慮とか要らないですからね、全力投球大歓迎ですよ!

 なんで『ボリス』の時にそれやってくれなかったんですか??って思いましたが、あれは都響だったからですね、はい。『オネーギン』のポロネーズでもそれやってくださいよ、って思ったけどそれも都響ですね!! なんだ、ロシアオペラは都響がやるルールでもあるのか。いや別に都響が悪いってわけではないんですけども。

東フィル様……新国じゃなくてもいいのでロシアオペラを……お願いします……! あのペット隊のポロネーズ聴きたいよ~……。

 日本でこのクオリティのチャイコフスキーを浴びられたらもう文句も出まい。ヴァイオリンソロはちょっと縮緬ヴィブラートすぎる気もしますが、多分千秋楽にはよくなるでしょう。

 

 土曜日ですし、初日なので、席の埋まりは良さげです。珍しく U25 も出ていたので、とうとう『白鳥』も飽きられたかと思いましたが。

 新国の『白鳥』は2回目の鑑賞でしたが、レビューを書いていないという怠け癖により、他の版と記憶が混ざってうろ覚え状態でした。今度こそしっかりレビューを書くぞ!

 

 先王のお葬式から始まる、黒を基調とした(喪の)舞台セットです。

先王の死により若くして即位したドイツの王子、そして白鳥オタク(?)、というと、どうしてもバイエルンの狂王ルートヴィヒ2世を想起しますよね。

 しかし、この版では、先王の死の直後にその息子が結婚式を挙げるということで、どちらかというとニコライ2世でしょうか。ルートヴィヒ2世にせよ、ニコライ2世にせよ、その行く末を含めて、どうかと思いますが……。真面目に政治やってくれよ……(普段は君主制研究をしている者の悪癖)

どの版にせよ、ジークフリート王子の国の国民にはなりたくないなあ、と余計なことを考えてしまいます。

 

 福岡×米沢ペアは、この間の『マクベス』からの続投です。

 従って、最初の方はなんとなく『白鳥の湖』というより『ハムレット』みたいだな、と感じたり。優柔不断な王子に、溺死する女性……。

 そういえば、コンテンポラリー系以外ではバレエで『ハムレット』って聞かないですよね。バレエにしづらいのかな。

あ、でも、ボリショイの拳銃ジュテ(文字通り)はめちゃ好きです。

↑ これで照準合うわけねえだろ! と突っ込んだら負け。

 

 『白鳥の湖』は原典問題が非常に厄介なので致し方ない側面はあるのですが、やはり曲順は気になりますね。

白鳥の湖』は「人間界」と「自然界」、「聖なるもの」と「邪なるもの」の二項対立、そこからあぶれ混じり合う二人のカップル、という構図が基本なので、音楽でもここを余計に混ぜないで欲しいな……と感じます。

尤も、ライト版は主に第3幕に現在ではあまり使われない曲が入っているくらいで、他の版よりは聴きやすいとは思いますが。

 

 出からベンノが良すぎますね。王子を喰っちゃうかと思いました(王子は王子でよかったので、そんなことはなかった)。

ノーブルな佇まいで、アンニュイな王子との対比としてキビキビと凜々しく動くので、『ドン・カルロ』のロドリーゴ的な有能キャラとして解釈しているのだな、と受け取りました。

 それにしても、ジュテの最上空でダメ押しとばかりに更に一段階開脚が広がるの、あれなんなんですか。怖い。そして黒マントが似合いすぎる。オネーギンっていう役があるんですけどね、ご興味ありませんか? 

 

 対する福岡王子は、あなたの方が妖精だったか、というくらい跳躍と着地が柔らかい。カブリオールが最早スローモーションだし、着地音ゼロです。シルフィードできますよこれ(?)。

 とにかく安定感があります。ハラハラ感が良い意味で無くて、「あ、これは絶対大丈夫だ」と、観ていて安心できる。土台がしっかりしていることがよくわかるので、地力が問われるクラシックでも全然問題ありません。福岡さんは、ドラマティックよりもクラシックの方が合いそうな感じがしますね。

 

 米沢姫は、愛らしい童顔からなんとなく小柄な印象を受けるので(実際は163cm程らしい)、大柄な体格を求められる白鳥/黒鳥は合うのだろうか? と思っていましたが、華があるので全く問題ないですね。手足が長く、しっかり鳥感(?)あります。

白のバレエでは、群舞とお衣装がそっくりで、その中に混ざるので、下手したら埋もれてしまいますが、そんなことは一切なかった。主役オーラがバチバチに出ていました。どこにいても直ぐにわかる。

 

 第2幕、オデットの Va.。冒頭の足を震わせるような動きの入る横グラン・バットマン的な振り(説明が下手!)の時、大分足裏を床に擦ります。ここは結構ダンサーさんによって違うと思うのですが、こう、しっっかり摩擦を感じるような見事なタンデュ→デガジェ。

 ピケ・トゥールの四回目、ゆっくりパッセから軸足に下ろしていきますが、上半身がブレなすぎて、上半身に注視していると、いつパッセから下ろしているのかがわからないレベルですね。背中が板。

 

 PDDの時、王子に凭れて、前方に上げた片足を下ろしていく振り(画像参照)を大分溜めていて、超ゆっくりです。腹筋半端ない。

↑ ここ。バレエ用語を大分忘れて、説明が下手すぎるのをなんとかしたい。

 

  2幕最後、上手奥に引っ込む前のバランスも凄まじいです。最早動画(というかリアル)じゃなくて写真。

 

 個人的には一番好きな第3幕です。チャイコフスキーの民族舞踊風ディベルティスマンが好きなのです。楽しいですよね。


 ロシア大使団はリストラ。まあ追加組ですし、残当ですね(?)。ヒューストン・バレエの版では、謎に準主役級でしたが……。

↑ ちなみにこちらは逆にオケが酷すぎた。これが「良かった」と書く人とは縁を切ろうと思うくらい酷かった。

 

 ライト版のエスニックはお衣装がかなり紛らわしいです。

ハンガリー大使団はココシニク(ロシアの頭冠)だし、ナポリ大使団はお衣装のカラーリングがスペイン風だし……。音楽でわかるから良いものの、最初はかなり混乱します。

 また、王女たちのお衣装に個性がないのも個人的には勿体無いと思います。折角のエスニックなのに……民族衣装風お衣装可愛いのに……。

三人とも、クラシカルであまり差異のないお衣装でカッチリと Va. を踊るので、コンクールのようです。確かに、王子の心を射止めるための婚活コンペティションなので、演出上間違ってはいないとは思うのですが、少々物足りなさも覚えます。

 

 ポーランド王女が何度かつまずき、かなり盛大にずべしゃっと転倒がありました。怖かった……。持ち直して踊りきったのは流石の一言に尽きますが、お怪我は無かったでしょうか。最近の新国は怪我人続出なこともあって、心配ですね。シューズが滑りやすかったのかな……。

 

 さて、今回のベスト・デリゲーツですが、ペット隊が優勝している時点で、ナポリ大使団の勝利は確定したようなものです。冠はナポリ大使団(というかコルネットソロ)に捧げたいと思います。

最近コルネットの勉強をしているので、心底尊敬します……。

 

 ライト版では、皆大好き(?)闇堕ちスペイン大使団が観測できます。やったー! 

↑ 過去に書いた考察記事。何故スペイン大使団は悪役になってしまったのかについて紐解きます。

いや、スペインに対して何の恨みもないんですけども、闇堕ちしたスペイン大使団ってカッコいいですよね。『白鳥』のスペイン大使団は完全に黒であって欲しい。悪役に憧れる厨二病的愛です。すきです。

 よく見直したら、この記事、そもそも新国の『白鳥』に触発されて書いてたんですね(自分で書いて忘れている)。確かにこれ観たら書きたくなりますわ、過去の自分に共感します(?)。

 

 さて、オディールです。

米沢姫は童顔で愛らしいので、完全にオデット派かと思いましたが(偏見)、深紅の口紅の映えること映えること。この間のマクベス夫人の時も感じましたが、意外と悪女も合いますねえ。

 お化粧・お衣装のみならず、滑らかで優雅なオデットから、ぱりっとしたメリハリのある動きのオディールへの転身、お見事です。この見較べは『白鳥』の醍醐味の一つ。

 

 第3幕コーダ。まず出の金管から最高だからな……、そこです。今日はそこ!

福岡王子のふんわりジャンプも素敵ですが、何と言ってみんな大好き32回転ですよ。えげつないです。えげつないです(大事なことなので二回言いました)。

 3回転混ぜまくるのも勿論凄いのですが、何より軸足のブレがゼロなのが怖い。あんなに回って殆ど位置変わりません。怖……。安定感の鬼。涼しい顔して主役の貫禄凄まじいです。

過去のお宝映像みたいなとんでもないものは抜きにしても、これまで生で観た『白鳥』の中で一番安定感あったと思います。素晴らしい。

 

 第4幕はもわっもわのスモークと白鳥群舞からスタートです。

スモークの中に伏せているので、幻想的な雰囲気は最高なものの、なんか呼吸苦しくなったり視界遮ったりされないのかな……と余計な心配をしてしまいますが。

 やはり、『白鳥』というか、白のバレエと言ったらこれなんですよ。群舞を上階席から観るのが正解です。流石新国バレエ団、一糸乱れぬとはこのことで、ピタッと揃っていて美しいです。

 

 ライト版はバッドエンドというかメリーバッドエンドというか……というバージョンです。

心中というか後追い自殺でハッピーエンド面されるのは、個人的には解せないのですが(遺された国民とか他の白鳥ちゃんたちはどうするんだよ、と思ってしまう)。人が自ら死を選んでそれがハッピーエンドなわけあるかいな。

トリスタンとイゾルデ』全否定発言すぎますねこれ。ワグネリアンに殺されそう。やめます。

 

 最後、溺死した王子を抱き運ぶベンノのマントが、遺体の目元に掛かっているのが妙にえっちめちゃくちゃよかったです。えっこれいいな。『オネーギン』でもこれやりませんか? 輸入しよう(※『オネーギン』は超全年齢作品なので、死体は出てきません。撃たれて崩れ落ちるレンスキーは中幕の奥です)。

↑ ちなみに中幕の奥はこうなっているらしい。この写真、芸術点が高すぎませんか? よく撮れたな……。どうでもいいですが、個人的に一番好きなキャスト陣です。

ていうかほんとにオネーギン役やりませんか?? あ、いや、でも、数回くらいはレンスキー踏んでからやって欲しいな……。実力の問題ではなくて、両方観たい的な意味で……。

 

 本日はとても酔えました!! 久しぶりに「カーテンコール短くない? こんなもんでいいの?(拍手する時間と量が)」と思いましたもの。

 前日、スケジュール管理が雑魚ゆえに深夜まで文字書きしてしまっていたので(書いていたもの)、ちょっと不安だったのですが、まあ全然吹き飛ばされましたね。冗談抜きに、ここ数年の新国バレエで一番良かったのではなかろうか。

非常に満足感高い公演でした!

 

最後に

 通読ありがとうございました。5500字ほど。

 

 先程、ロイヤル・バレエ姫路公演の演目が発表されましたが……。

なんでそういうことするんですかね???

 ヌニェス様のターニャは全人類観たいじゃないですか。少なくとも、わたしが観たくないと思うわけがないじゃないですか。どうしてそういう……。

これあれですか、 Ах! Счастье было так возможно, Так близко! Так близко!(ああ! 幸福は手を伸ばせば届いたのに、こんなにも近くに! こんなにも近くに!)っていう。そういうの要らないですね(直球)。

 ともあれ、観劇が叶う幸運な『オネーギン』ファンの皆様は必ずわたくしに感想を送りつけて下さい。宜しくお願い致します。

 

  次回ですが、今のところ8月までバレエの席は何も確保しておりません。お勧めの公演がありましたら、是非とも教えて下さい。

来週はオペラに参ります。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!