こんばんは、茅野です。
皆様は五月病に罹患しましたか、していませんか。
わたしは久々に長い記事を書いたら生活リズムが完全に崩れたので、数日うだうだしていました。
↑ ゲーム『ウマ娘』の解説というより、最早音楽とイタリア語の解説。後編もあります。
本来は書きかけだったこちらのレビュー記事を先に仕上げる予定だったのですが、上記解説記事を書き始めたら筆が乗ってしまい、先にそちらを投稿することにしました。
従って、大分時間が空いてしまいましたが、今回はオペラのレビューになります。
先月末、METライブビューイングのオペラ『運命の力』にお邪魔しました。
↑ 今シーズンも残り少なくなってきました。
前回の『カルメン』には行かなかったので、なんだか久しぶりな感じがします。ちなみに、その『カルメン』は人の入りがなかなか良かったそうで……。
新国の『椿』なんかもそうですけど、やはり人気演目に人が集まるんですね。どういう層が観ているのか全くわかりませんが。毎度入門者がそんなに現れるとは思えませんし、歴戦の猛者は見飽きているのでは……。
そうして毎度のこと、客の入りの少ない公演に通うことになるのであった。どうして。みんなロシアオペラ観て。
今回は、備忘がてらこちらの雑感を簡単に記して参ります。
それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!
キャスト
レオノーラ:リーゼ・ダーヴィドセン
ドン・アルヴァーロ:ブライアン・ジェイド
ドン・カルロ:イーゴリ・ゴロヴァテンコ
プレツィオジッラ:ユディット・クタージ
メリトーネ修道士:パトリック・カルフィッツィ
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
演出:マリウシュ・トレリンスキ
雑感
『運命の力』はヴェルディ作品の中でも上演頻度が低いので、気になっていました。
ただ、上演時間が長い(4時間半)のと、演出でちょっと気乗りしない側面も。
演出家は、コスパ激悪演出でお馴染みのマリウシュ・トレリンスキさん。
「誰?」という方のために復習しておくと、新国『ボリス』の人です。
↑ いや~…………うん。わたしが個人的に読み替えが好きではない以前の問題なんだよな。
『ボリス』が酷……かったので、「この人か~~今度は何をやらかすんだ~~……」という気持ちがありました。
『運命の力』は、前述のように上演機会が少なく、わたしも全然ご縁がありませんでした。正直に言って、有名な序曲と『神よ、平和を与えたまえ』くらいしか知りませんでした。
とはいえ、1862年マリインスキー劇場初演ということで、その辺りも気になってはいました。当時の皇帝・アレクサンドル2世はオペラというか音楽が嫌いなのですが(1865年の手紙には「この私が『オテロ』を最後まで観たんだ、褒めて欲しいね。」という内容のものも! まあ確かに、オペラ嫌いの人が『オテロ』を全幕観るのはまあまあ凄いかも)、一応御前公演はやったらしい。果たして最後まで観たんだろうか。
ヴェルディは、皇帝の弟・コンスタンティン大公(ココ叔父さん)とは面識があるらしいです。胸熱だ。それで、殿下は? そこが最重要なのでは!? イタリアのオペラ王とロシアの希望の夢の対談どこで見られますか!?
さて、そろそろ公演の話を。
序曲が始まる前、無音の状態から既に演技が始まります。わたしはバレエのマイヨー版『じゃじゃ馬馴らし』(幕の前で女中がトウシューズを履くところから始まる)以外でこのような始め方をするのはそんなに好みではないのですが……。
序曲なんか特に、オケピの中観たくないですか? ライブビューイングの美点はオケピの中も映してくれることにあるので、そちらが観たかったですね。
後述しますが、今回はオケピの中は一度も演奏中に映してくれなくて寂しかったです。折角のネゼ=セガン指揮なのになあ。
有名な序曲。演出としてはパーティの様子なのですが、父にケーキを差し出されたレオノーラは、それを払いのけ、ケーキがベシャッと床に落ちてしまいます。えー! ケーキ!! 可哀想に! 勿体ない!
今は某リンゴ製品の動画が炎上していますが、こう、楽器とか、食べ物とかが粗末な扱いを受けるシーンって苦手な人多いのでは? わたしも嫌いです。
というか、レオノーラって割と父のことは好きな設定だと認識していたので、え、そんな払いのけちゃったりするんだ? 仲悪くね? リブレットと話合わなくない? と思ってしまいました。
セットは凝っていて、最初はホテルの入り口 / パーティ会場 / レオノーラの部屋で三等分され、そのセットがぐるぐる回ります。
インタビュー曰く、特に時代に設定はないらしく、20世紀~かな、というところ。また時代考証やるの面倒くさがってる……。
序盤は出番超控えめなドン・アルヴァーロ。実際、最初に出てきたらその後1時間近く休憩なんだとか。
a 系の母音が柔らかすぎる気もしますが、声は響く、大劇場に合うテノールでしたね。
トレリンスキさんが動物の頭蓋骨マスクがヘキなのはわかりました(『ボリス』でも観たので)。
映像を映すのが好きなのもわかりました(『ボリス』でも観たので)。元々は映像作家さんだかららしい。それに関しては納得はしましたが。
血糊が大好きなのもわかりました(『ボリス』でも観たので)。ちなみに新国では、血糊を使いすぎて拭き取るタオルが足らず、舞台関係以外のスタッフからもタオルを徴収していたらしい。いや、何してんの……。
歌唱的な見せ場で照明を薄暗くするのが好きなのもわかりました(『ボリス』でも観たので)。特にこれは辞めて欲しいですね。
クレジットが出ないと全くわからない演出家 / 見るからにあの人だな! となる演出家は概ね二分されますが、トレリンスキさんは後者らしい。そんな使い回しとまでは言わないまでもわかりやすく似た部分が他演目でもあるとは。
『運命の力』初見なので素でビックリしちゃったんですけど、いや、" Viva la guerra !(戦争万歳!)" はどう考えてもマズいでしょ。特に今はこんな情勢下だし。(『ナブッコ』の字幕の件、忘れてないからな)。
しかも、普通に音楽は良い曲で耳に残りやすいっていう。作中で一番鼻歌しやすい曲まである。
ヴェルディは、「帝政ロシアではこれがウケる」って考えたってことなんですかね。いや、帝政ロシアのイメージどうなってんだ。野蛮か? 否定はできない。
アレクサンドル2世時代の検閲、掛ける方向を間違えていると思うよ……。
アルヴァーロのアリア。最後のクラリネットガン無視で Bravo が出ました。天下の MET にもフラブラマンがいるらしい。まあ実際、アルヴァーロよかったので、気持ちわからなくもない……けども!
……と思っていたら、珍しく主席クラリネット奏者ががインタビュー対象(!)でした。指揮者以外のオケピの中の人にインタビューが回るのは初めて見ました。ネイディーン・シエラ御大ですら降りるの初めてって仰ってましたし。
折角のインタビューなのに、折角の一番の聴かせどころを妨害されていて、何とも形容しがたい気持ちに。可哀想に……。
MET はオケの人も人柄がよさそうで仲よさそうで良いなあ。
ドン・カルロとドン・アルヴァーロは、友情を築くのも破壊されるのも早いです。ストーリーが簡素なオペラにしたって最速レベルです。
『ドン・カルロ』に似ているという指摘があるのは理解できるのですが、あちらは幼馴染なのに対して、こちらは刹那的。「あなたは命の恩人だ!」→「やっぱり敵!」の流れが速すぎます。
それで、主役じゃない方のドン・カルロ兄さんの方ですが、誰とどんな重唱になっても絶対に埋もれないのが凄いですね。相手によってはこれバランスブレイカーになるだろ、ってくらい強いバリトンです。
ロシア人だし、絶対オネーギン歌ってるでしょ、と思ったら案の定でした。助かる。
↑ しかし、うーん……?? ……思ったよりは合わない……? 今回と比べて本調子ではない気もする。
オネーギンやるにはちょっと軽いかなあ……。
幕間では、合唱指揮のパルンボさん(いつもの人)にインタビュー。
この間、合唱に初めて混ざる機会があったので、なんだか見方が変わって新鮮でした! なるほど、やはり「一度やる側に回ってみる」というのも大事ですね。
基本的にしっかり褒めるスタイルで、これは参加していて自尊心もモチベーションも上がるだろうなあ、と思いました。ネゼ=セガン御大もこのようなタイプらしい。素晴らしい。
ボリショイはそのパワハラ体制をいい加減辞めないと MET に追いつけなくなるぞ……。
次回予告はベルナイム氏! 個人的に暫定「わたしのレンスキー」候補です。ロシア語はちょっと怪しいけど、一番解釈一致します。素晴らしいテノールです。
今回の司会のネイディーン・シエラ様と次の『ロミオとジュリエット』で共演する予定で、仲良しな様子。二人とも完全に見つめ合ってお話してしまい、客としては、「仲良いのはいいんですが、カメラに目線ちょうだいね!!」の気持ちになりました。カメラさんも大変だっただろうと思う。
『RJ』は行きたいと思っています!! 楽しみ!!
終幕。二重唱のバスの低音がえげつないです。なんだそれは。これが MET か。
一人だけロッシーニの世界から来た人がいました。ここヴェルディだよ? 迷い込んできた??
こういうキャラクターが、話の重たい4幕に出てくるっていうのがいいですね。緩和剤。
ここまで触れてこなかったヒロインについて。
特にピーター・ゲルブ総裁や、合唱指揮のパルンボさんイチオシのソプラノのようで、他の共演者からも「彼女と共演できるなんて!」ととても高評価を得ていて、ここまでの推し方は流石にレアだな、と感じました。
実際、クリアながらも力強い声をお持ちで、期待されるのもとてもよくわかります。タチヤーナ歌って欲しいですね。
みんな大好き『神よ、平和を与えたまえ』。pp が一回途切れかけましたが、響きはとても綺麗でした。
"Maledizione! Maledizione! Maledizione!(呪われよ! 呪われよ! 呪われよ!)" はもう少し重い方が合うかもしれません。
最後は投身自殺なし。「あれっないのかー!」と思ってしまいました。そこが有名なのでは?(?)。いつかあるバージョンも観たいですね。
「流石に冒涜的すぎる」とカットになったようですが、『トスカ』でもやってるし、舞台芸術では日常茶飯事!(?)。いけるよいける(?)。治安が悪い。
このストーリーに「運命の力」というタイトルを付けちゃうのかー、と考えてしまいますね。みんな運命論者なんだろうか。
↑ 『英雄』はいいぞ。「運命論者」まで読んでください。
ヴェルディってほんとこういう話好きだよね、と改めて思ってしまいました。
ストーリーは彼のオリジナルってわけではないのに、どうしてこんなに「ヴェルディの味」で統一されているんだろう。ほんとうに好みがわかりやすい人だったんだろうか?
わたしはヴェルディオペラのストーリーは概ねあんまり好きではない方なのですが(音楽はともかく)、本人の嗜好なら致し方ないですね。
こんなところでしょうか?
歌手陣は相変わらず最強でしたが、今回は演出が好みが分かれそうな形でしたね(『ボリス』より断然マシだけど)。セットは豪華で、映画のようで面白さはありましたが、やはりオペラの演出としてはゴチャゴチャしすぎている印象です。
また、個人的に今更ながら『運命の力』の鑑賞は初めてだったので、新鮮な気持ちで観ました。ヴェルディオペラもちゃんと勉強していきたいですね! 以上!
最後に
通読ありがとうございました。5000字強。
次は『ロミオとジュリエット』! もう上映が始まっています。早すぎます。
来週は、コンサートで抜粋ながらも生『オネーギン』が待っているので、可能な限り予定を空けたいのですが、駆け込まないといけません。なんとかなれーッ。
こちらの『RJ』の中の有名な「ジュリエットのワルツ」は、『ウマ娘』でも引用されていたのですが、歌詞が一般的なものとは異なり、このことについてめちゃくちゃリサーチを走らされた思い出。ここの謎が解けた方はご報告ください。
↑ 普通に楽譜の出版史とか調べました。ガチ勢様、助けてください。
『ウマ娘』では、毎回音楽の解説を書く係です。こちらの映画も行かなければ……。映画2本やるのですが、両方オペラオー君出るので、『ウマ娘』に関心がない音楽・オペラファンの皆様も観てくださいね!!!(?)。
それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!