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METライブビューイング『ローエングリン』 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

ウマ娘』の新作アニメ、しかも我らがテイエムオペラオー君が主役級である『Road to the Top』が始まりましたね! きちんと追っています。全話終了後、一本記事を書きたいと思いつつ。

↑ ゲーマーがオペラ鑑賞に、オペラファンがゲームに入門して貰う切っ掛けに。オペラオー君カッコ可愛いので育成してください。トレーナー諸君はオペラ観て下さい。

 今回は、こちらの記事でも軽く解説を書いた作品を鑑賞して参りましたよ!

 

 というわけで、 MET ライブビューイングのオペラ『ローエングリン』で御座います。恐ろしき五時間上映……! ワーグナー……ッ!!!

 

 今回はこちらの簡単な雑感を記して参りたいと思います。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

↑ 禍々しいというか神々しいというか。

 

キャスト

ローエングリン:ピョートル・ベチャワ

エルザ:タマラ・ウィルソン

オルトルート:クリスティーン・ガーキー

テルラムント:エヴゲーニー・ニキーティン

ハインリヒ:ギュンター・グロイスベック

指揮:ヤニック・ネゼ=セガ

演出:フランソワ・ジラール

 

雑感

 大迫力! やはりワーグナーはこちらを圧倒してくれないといけない。

以前の『メデア』は圧巻の一人芝居! という感じでしたが、今回はワーグナーなので、物量・スペクタクルでもグイグイ押すタイプ。

↑ こちらはこちらで大変良かった。

 

 出の伝令から綺麗で、これはいける、と確信。ヴィブラートに良い意味で少し癖がありますが、艶があって美しい。いや、MET ライビュで大ゴケだったことって殆どないと思いますが……。

 

 「あの MET の舞台が小さく見える……!」と思ったら、舞台上に合唱隊が130人もいたとか……! 多すぎません?? 流石ワーグナー(n回目)。

逆に、130人乗ってあそこまで余裕がある、と思うと、やはり MET の舞台は大きい……ということなんでしょうね……。

 

 演出は、なんというか21世紀的だな、という印象を受けました。19世紀ほど写実的でもなく、20世紀ほど尖ってもいなくて、折衷されているかんじ。

 主要登場人物のお衣装は中世ドイツの面影を残していますが(それより、どちらかというと『ハリー・ポッター』を想起するような気もしますが)、題名役のみワイシャツ+パンツというスタイル。一人だけ現代演出から迷い込んでしまったような感じ。

インタビューで「実際のサラリーマンを参考にした」と仰っていて、そう言われると、なんだか昨今のライトノベルの所謂「異世界転生モノ」っぽいような気がしてきます(ちゃんと読んだことないですが……)。確かに、異界から来た感じは凄くします。宇宙人ローエングリン。文化が統一されていないことが大事。但しドイツ語は喋る(歌う)。

 

 特徴的なのはコーラスのお衣装で、モモンガのような形をしたマントを掲げ、背景の色を作り替えてゆきます。

ローエングリン・エルザは白王・伝令は緑テルラムント伯・オルトルートは赤と、ライトモティーフならぬイメージカラーが決まっており、いずれかの勢力が優勢になると、それに賛同するかのように、コーラスのお衣装の色が変わっていきます。ちなみに、マグネットが付いているらしい。手に取ってみてみたい。

視覚的に非常にわかりやすいですし、シンプルながら洒落ています。これ素敵ですね。

 

 背景は SF 風です。なんでも、荒廃した地球で、洞穴の中から月を見上げている……というコンセプトなのだそう。読み替え演出……というか、そこまではいかないというか……? 『ARMORED CORE』感あるな……(新作発表おめでとうございます!!)

 演出自体も『パルジファル』の連作なのだそうで、こちらもちょっと観てみたくなりました。観る手段あるのかな。

 しかし、新国の『ボリス・ゴドゥノフ』もそうでしたが、オペラの背景としてのプロジェクターってなんであんなに安っぽくなっちゃうんでしょうか。やはりまだ古典的な総合芸術と、現代的な映像技術はマッチする段階に無いというのか……。

 

 歌手陣はワーグナーを悠々と歌う声量、体力を持ち合わせていますが、たまにオケに押され気味な場面も。いや、十二分以上だと確信しているのですが、何と言って、ネゼ=セガン氏がいつにも増して歌手に対する手加減ゼロな大迫力の演奏でしたので……。「ここまで押しても負けないだろう!」という信頼関係あっての熱演なのかもしれません。

 指揮は切れ味が鋭く、メリハリがあって、欲しいところは爆音で鳴らしてくれるし、静かなところは丁寧で、非常に気持ちが良い演奏でした。ワーグナーはこうでなくてはなあ~(n回目)。

 

 同題役ベチャワ氏。『フェドーラ』から連投で、劇場からどれだけ愛されているんだ……と思ったり。

帝政ロシアのオタクなので、観ないという選択肢がなかった『フェドーラ』。

 こちらの記事にも書きましたが、いつの間にかめちゃくちゃ良くなっていてびっくりしました……。MET でワーグナーのタイトルロール張れる歌手というイメージ全然なかったんですけどね……。

インタビューで、「イタリアオペラ、ドイツオペラを得意とされていますね(それって要は主だったところ殆どでは?)」と言われていて、今更「そうだったのか……」と思ったり(?)。ロシアオペラも……宜しくお願いしたいところなんですが……。今歌ったら良くなってるのかな? どうなんでしょう。

 良い感じにヘルデンしてましたね。前回、「イタリアオペラ合うじゃん! よい!」と思いましたが、ワーグナーもよく合います。どちらがより良いか、と問われるとかなり迷うレベル。いつの間に……。

 

 エルザもよかったですね。オルトルートと同じソプラノとは思えない程。表現の幅。

ワーグナーオペラに求められる力強さも持ち合わせているのに、弱音ではコロラトゥーラすら思わせるような軽やかな声に。ヒロイン感抜群で素敵です。

ライブビューイングなので、口の中の舌の動きまで鮮明に見えます。今回は特にそれを感じましたね。「ああ、声楽に詳しければより楽しめるのだろうに……!」と思いつつ……。やはり入門すべきなのか!?

 

 対するオルトルートも好演です。インタビューでも言われていたとおり、確かに演技派。カラスがモティーフとのこと。赤の長髪似合う……。

個人的に、オペラの役柄だと、敵側に回るメゾ系の方が好きなので(オルトルートはソプラノですが)、内心「オルトルート頑張れ~」と謎に応援しつつ。

非常に力強くて、これぞワーグナー歌い! と言ったところ。神々の名前を呼ぶところ好き。

 インタビューで、"I'm good to be bad." と仰っていて、一瞬混乱し、英語の難しさを再確認(?)。めちゃくちゃ楽しそうで好感度爆上がりです。

また、役に入り込むコツとして、「作中の世界で唯一自分だけが正しいと信じ込むこと」と仰っていて、め、めちゃくちゃわかる~~となりました。特に悪役を演じる時ってそうですよね。わかる……わたしもそういう風にしていました……。

 

 テルラムント伯はロシアンバリトン・ニキーティン氏。ロシアオペラを歌って欲しい。もっと言うとオネーギン歌って欲しい。オネーギンには重い気もしますが、レパートリーに入ってるし……。ボリスが合いそうだし観たいなあ……。来日予定が削られたのが痛い。プーチンめ。

 音域の問題か、他の主要人物よりオケに消されてしまうことが多かったのが少し勿体なかったですね。しかしそれは爆音オーケストレーションを書いたワーグナーが悪いので……(?)。

バリトンの中でも重い方なので、威厳あるキャラクターがよく合うと思います。ドイツ語も全く問題なし。流石です。

 

 国王陛下は、伸ばすときに下唇を時計回りに動かすような動きをするのが、興味深いなあと思って観ていました。これは発声の問題なのか、単なる癖なのか……(ちょっと草食動物みたいだった……お衣装緑だし……(?))

 この間、トランペットの本を読んだんですけれど、『ローエングリン』を観ていると、「やはりトランペットは王者の楽器なのだなあ……」と否応なく感じますよね。国王が歌うところは絶対に出て来る。

↑ かなり硬めの内容です。紀元前からやります。

そして、それに負けてはならないのだ……! 

 

 それにしても、幕間のネゼ=セガン氏の解説が最高すぎます。熱心なワグネリアンにとっては、「そんな初歩的なこと!」と感じられる内容かもしれませんが、オペラ鑑賞初心者や、ドイツオペラにはあまり縁のない人には最高の解説であったと思います。普通に勉強になる。

こういうの毎回やって欲しい……。

 

 今回は上演史の解説もありましたね。『ローエングリン』は、MET でのワーグナー作品上演回数1位なんだとか! そうだったのか……。

ワーグナーには有名作が多いので、どれが一番なのかは存じませんでした。『トリスタン』とかかと思いきや。

ちなみに、日本の新国立劇場だと『蝶々夫人(でしょうね)、ロシアのボリショイ劇場だと『オネーギン』が一位です(でしょうね!)バイロイトだとどうなんでしょうか。

 

 「ワーグナー楽劇斯く在るべし、MET 斯く在るべし!」という、大迫力の名演でした。これは劇場で観たい。

わたくしは『オネーギン』のような、所謂「地味オペラ」が好きですが、やはりオペラ鑑賞ファンたるもの、定期的にワーグナー楽劇や『アイーダ』などの大スペクタクル作品も観たいというもの。

 ただ……やっぱり5時間は長いですって! 半分に纏めて欲しい……とはどうしても思ってしまいますね。東劇の椅子がふかふかなのが救いです。

 

最後に

 通読ありがとうございました。4500字強。

 

 前述の通り、『Road to the Top』を観たことを切っ掛けに、凄くオペラを欲していたので、沢山浴びられて良かったです。かなり満足しました。

 

 『ローエングリン』といえば、我らが殿下の友人、バイエルン国王ルートヴィヒ2世を「狂わせた」演目としても有名です。

↑ この辺りの記事に簡単に紹介入れています。

市民目線では、「こんなの(とか言っちゃいますが)が国王とか最悪すぎる~……!」と思ってしまうのですが、個人的には、自分も『オネーギン』に盛大に狂っているので、気持ちはわかっちゃうんですよね……。いやわかるよ……金と権力があればそりゃ……帝政ロシア建国しちゃうよな……!(そうではない)

 

 次に関してですが、今シーズンは、後は『チャンピオン』以外古典が続きますし、特に心惹かれる上演無いんですよね……。うーむ、MET ライビュ好きなので、通いたいんですが。

突発的に何かに伺うかもしれませんが、今の所予定は立てておりません。お勧めの上演がありましたら是非とも教えて下さい。

 

 レビュー系記事としては、次は数日後にバレエ鑑賞を控えておりますので、そちらも一記事やりたいと考えております。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです。