こんばんは、茅野です。
急に冷え込みますね。3月じゃなかったんかい。皆様、お体にお気を付けください。
レビューラッシュ期間の継続です。あと3, 4記事くらい連続すると思います。本当にどうなっているんだ。
というわけで先日は、新国立劇場オペラ研修所の『カルメル会修道女の対話』にお邪魔して来ました。3月3日マチネ、千秋楽の回で御座います。
↑ 新国研修所はいいぞ。
新国研修所のオペラ公演に伺うのは三回目で、過去に『イオランタ』、『領事』を観ました。そりゃあチャイコフスキーのオペラやるなら行くじゃん……? からスタートしましたが、マイナー寄りの質の高い幕物を取り上げてくれるので、有り難いです。
観劇ラッシュで時間があまりないので、今回も備忘がてらこちらの雑感を簡単に記して参ります。
それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!
キャスト
ブランシュ:冨永春菜
コンスタンス:渡邉美沙季
ド・クロワシー修道院長:前島眞奈美
リドワーヌ修道院長:大髙レナ
マリー修道女長:大城みなみ
ド・ラ・フォルス騎士:城宏憲
ド・ラ・フォルス侯爵:佐藤克彦
指揮:ジョナサン・ストックハマー
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
演出:シュテファン・グレーグラー
雑感
今回は2階席1列目にしてみました。中劇場にはあまり潜入の機会がないので、2階席に座ったことがなく、行ってみようと思い立ちまして。
それなのに、久々にオペラグラスを忘れるという失態。中劇場ですし、オペラなのでそこまでダメージはありませんでしたが、ちょっと悲しかった……。
2階1列目、立ち上がると、照明の熱気をダイレクトに感じて驚きますね。照明器具って放熱するんだなあということを再確認(?)。
席としては、見通しがよく、良い席ではあるのですが、席ガチャはかなりの失敗。
隣のおじさまは、とてもゴツい双眼鏡を弄っていて、「やる気満々か……!?」と思っていたら、前半は終始爆睡、イビキまで掻き始める。おいおい。寝るならその双眼鏡貸してくれ、というかイビキは NG。
反対隣のおじさまは、後半に号泣。題材も題材ですし、それ自体は構いませんが、一生鼻をすすり続けるのやめてくれ。もうこの際垂れ流して良いから。客席暗いし見えないから。
『カルメル会』は、前々から関心はあったものの、機会に恵まれず、観たことがない演目でもありました。
コアなオペラファンってみんな『カルメル会』好きな印象あるんですけど(偏見というか、少なくともわたしの周囲はそう)、上演機会があまりないんですよね。やはり出演者が女性ばかりだから、少しやりづらいのであろうか。
従って、「なんか怖い演目、フランス版『ホヴァーンシチナ』」みたいな雑な印象しか持っていませんでした(※宗教的迫害に遭って、終盤に集団自殺/処刑される演目シリーズ)。
しかし、その状態で観るのは不味かろうと思い、直前に MET の録画で予習しておきました。
↑ 相変わらずの豪華キャストだし、演出も良かった。
こちらで入門して、「あ~~通が好むのもわかるわ~~」という感想に。音楽もとても聴きやすいし、筋にも不自然なところはないし、狂乱の場に聖歌にと女性の見せ場満載で、とっても良いですね。一気に自分の中の「好きなフランスオペラランキング」を駆け登っていくのを感じました。
でもまあ、話が暗すぎるし、フランス革命などの時代背景の理解を求められるし、「ここが聴かせどころのアリアです!」みたいな区切りも無く、同じ服装(修道服)の女性しかほぼ出て来ないので、確かに一般受けはしづらいのかもしれない。「カルメル会修道女の対話」という、如何にもお硬そうなタイトルも、近寄りがたい感じが多少するかも。どうなんだろう。
そんな『カルメル会』ですが、新国研修所では、2009年3月に一度上演している模様。新国オペラ研修所、本当に上演演目の趣味が良いですね……!? 今後もこの路線で行って欲しい……!
字幕は、表示方法は大劇場と同じで、左右に出るスタイル。どうでもいいのですが、しかし大劇場とは字幕のフォントが違いますね。わたしはフォントソムリエではないので特定はできませんが……(瞬時にあらゆるフォントを特定するフォントソムリエは結構存在する。わたしはリアルの友人で少なくとも4人います)。
さて、上演に関して。
パンフレットには、所長の佐藤さんが「イタリア語には慣れているがフランス語は難しく~」というお話を書いていますが、ド・ラ・フォルス兄妹はフランス語が綺麗です。日本語訛りな感じも全然しなかったし、「ローマへお帰りください」みたいな歌い方でもなかった。
兄騎士は、MET の方だとかなりレッジェーロな印象を受けましたが、今回はそうでもなく。どういう声質がハマるのかは、もう少し研究が必要そうです。
ブランシュはフランス語が上手いだけではなく、既に女優さんです。演技が明瞭で、自信を持って演じられているように見受けられました。いいですね。
ただ、これは MET の方のイザベル・レナード様も然りですけれど、「異常なほどの怖がり」という設定は、元から知っていないとわからないかも……とは思いました。主演を張るスターが演じるキャラクター設定ではない気もする。意外と難しいのかもしれない。
確かにまだちょっと荒削りなところは見受けられるものの、素質抜群です。今後に大いに期待。
コンスタンス、リドワーヌ修道院長は、最初にエリン・モーリー様やアドリアンヌ・ピエチョンカ様で観ちゃったからな……ちょっとハードル上げすぎたな……という印象。
ド・クロワシー修道院長は、頭一つ抜けていますね。一人だけガチ勢出てきた……って感じでした。この役は、舞台芸術にしては珍しいことに、ヒロインではないのに「狂乱の場」がある、難しいながらも美味しい役です。
前島さんは、『領事』では母親役でしたよね。お若いのに、既に老女役に定評がある。とても良いと思います。是非フィリピエヴナもやって欲しい……!!
上演は二部構成で、2幕2場で休憩が入ります。上演前は「え、何故……?」と思っていましたが、割と納得の構成です。
1幕最終場は、ド・クロワシー修道院長が死亡して本当にすぐに終わるので、後味の悪さ異常なんですよね(終幕もそうと言えばそうなんですけど)。オペラあるある・「どういう気持ちで休憩したらいいんだ」現象が発生するので、お葬式のシーンも先にやってしまうのは正解かもしれません。
ここでのコンスタンスの「修道院長のような立派な方があんなに苦しんで亡くなるなんて。神が別の人の死と間違えちゃったんだと思うわ」という辺りの歌詞が好きです(何とは言わないけども)。
コンスタンスって、基本は年若い不思議ちゃんですが、急に的を射たことを言う枠で、美味しいキャラクターですよね。
マザー・マリーは、逆に、ちょっと損な役なのかな……と今回思いました。というのも、特にブランシュの元へ迎えに行く終盤のシーンなどはとても素晴らしかったのですが、中盤は、オケが騒がしくなるところに限ってマザー・マリーの歌唱部分な気がしました。
大城さんは『領事』の秘書も素晴らしかったし、もうちょっと歌声を堪能できる役で聴きたかったかも。
『カルメル会』でわたしが一番好きなのは、3幕4場序曲です。もうここばっかりヘビロテしています。ちなみに、歩いている時に聴くとリズムがぴったり合って丁度良かったりする。お勧め(?)。
結局 MET がトレイラーで使用している部分が作中で一番カッコいいインストルメンタル部分の法則。
↑ めちゃくちゃ良くないですか?
ちなみに、『オネーギン』だと、ネトコさん回では「手紙」のトランペットがメロディ取るところ(旋律は Вообрази, я здесь одна ~辺りと同じ)、ホロ様回ではポロネーズです。
驚いたのが、今回乗っているのが東フィルということですね。
前回赴いた『領事』がピアノ伴奏だったので、何も調べず勝手に今回もピアノ伴奏だとばかり思っていました。
劇場に入ったら、ちゃんとオケがいるし、なんなら知っている顔が幾つかあり、「あれ、これ東フィル……!?」となりまして(遅い)。
『イオランタ』の時は小劇場だったし(ちなみにわたしはこの時が新国小劇場デビューだった)、『領事』では、ピアノ伴奏だったものの中劇場に昇格し(この時が中劇場デビュー以下略)、どんどん規模が大きくなっていっている……! と思ったら、今回は中劇場で大手オケの演奏に。
もうこのままオペラパレス公演を乗っ取りましょう。なんですか来シーズンのラインナップのやる気のなさは。『カルメル会』の方がずっとよくないか?
P. S. 有識フォロワーさんが補足入れて下さいました! なるほど、確かにこれまで観劇行ったのは夏だったかも。ありがとうございます!
なーるほど!! 左様でしたか! 補足ありがとうございます🙏❤
— 茅野 (@a_mon_avis84) 2024年3月7日
ほんとですよねー。これからもこの路線で行ってくれるなら通います……👀👀#マシュマロを投げ合おうhttps://t.co/oLzvknuJ9e
新国『サロメ』以降、東フィルの金管隊(特にペット隊)のファンなので、東フィルで3幕4場序曲を聴けて、この点だけでかなり大満足です。大感謝。
最後の『サルヴェ・レジーナ』。
最初にこんなヤバい演出考えたのは一体何者なんですか。原作も戯曲版も入手困難だったせいで、文字媒体での予習ができていないのですが。
修道女たちの聖歌合唱が、一人ずつ斬首されることで歌う人がどんどん減っていき、最後は一人になり、途切れるって、もう、怖すぎるんですが。ライトなオペラファン層はそりゃドン引くってば。
わたしは、特に胸くそ悪いものに、今や安い言葉と化した「感動」という語を使うのが嫌いなのですが、とにかく、良くも悪くも心を動かされますよね。「オペラ史上最高の幕切れ」の謳い文句は伊達ではなかった。
前述のように、『ホヴァーンシチナ』に近いのですが(こちらも迫害を受け、聖歌を歌い、集団焼身自殺をして幕)、でも「一人ずつ殺されるので歌い手が物理的に減っていく」とかいう超胸くそ台本の『カルメル会』の方が演出の妙という意味で優勝です。わたしもこれがオペラの幕切れとして、色々な意味で最強だと思います。
え、えげつないことしよる……、それでいて『カルメル会』も『ホヴァーンシチナ』も史実ベースというのだから、やっぱり一番狂っているのは脚本家や演出家よりも人間そのものかもしれない。
お隣のおじさまが大号泣だったのもわかります(うるさいけど)。MET でネゼ=セガン御大も仰っていましたが、ここで涙腺が破壊される人は多いらしい。『カルメル会』で平静を保てる人は、かなり涙腺のネジが硬い自信を持ってください。
ここまで触れてきませんでしたが、美術も簡素ながらとてもよくて、しっかり貴族の館・修道院・革命広場を表せています。中劇の廻り舞台も上手く利用していました。
驚いたのは、中劇場の奥行きで、殺された修道女たちはその後も闇に包まれながら後方へゆっくり歩を進めるのですが(白いお衣装も相俟ってこの演出もとても良い)、めちゃくちゃ奥行き広いんですね! これ奥舞台も開放して使っているのかな。
ド・ラ・フォルス邸の背の高い不思議な形の柱は、最初はカーテンで覆われているものの、「ああ、これがギロチン台になるわけか……」とすぐに察しが付きましたが、その暗示も悪くないですね。良かったです。
カーテンコールでは、正直出演者の方々をよく存じ上げていないし、オペラグラスは忘れたし、お衣装が全員ほぼ同じなので、ちゃんとそれぞれに拍手したいものの、「だ、誰役の方……」状態に。『カルメル会』あるある。
二回も奥から一人ずつ出てくる必要あったのかな?(二回目は最初から全員集合でよいのでは?)、とも思いましたが、まあ千秋楽だしいいか。最後に奥からガチダッシュしてくる指揮者さんにも癒やされましたし。
皆様、オペラ史上恐らく最も重たい演目、お疲れ様で御座いました!!
少し話しが逸れますが、前述のように『ホヴァーンシチナ』では集団焼身自殺を図るんですけれども、こちらのニュースは記憶に新しいところで……。
今回配布された公演パンフレットでは、研修所長の佐藤さんが、能登半島、ウクライナ、パレスチナにも言及しており、この記事でも名前を出しているどこかの大劇場とは違うな……! と、好感度高まりました。
全体として、相変わらずの新国オペラ研修所、高クオリティです。特にド・クロワシー修道院長は頭一つ抜けています。好き。
演奏も東フィルで申し分なく、演出も悪くなかったので、とても満足できました。並の大劇場公演より全然満足度高い。やはりオペラパレスを乗っ取るべき。
またマイナーどころの演目をやっていたら突撃したいなと思っているので、是非ともこのセンスの良さを捨てず、この路線を継続してください!!
以上です!
最後に
通読ありがとうございました。6000字です。
わたしは「ストーリーが胸くそ悪い」という理由で『リゴレット』が好きでは無いのですが、それでいて『カルメル会』は、(こちらも胸くそ悪いとは思いつつも)好きで観られちゃうのなんなんでしょうね。自分の「胸くそ」ポイントが世間一般とズレているかもしれない。一応形式的にでも死を受容しているのがセーフ認定なのかな。R-18G 界隈でも、受容死はカテゴリ別だからね。
『リゴレット』の「やった! 仇敵を殺したっ!」と思ったら実は死んだのは愛娘でした、っていうのが、個人的にはとてもキツい……、期待を裏切られるパターンが一番効きます。ぬか喜びシステムは邪悪。
折角なので、『カルメル会』の mp3 も買いました。最も入手が容易なものを選んだら、連続でケント・ナガノさん指揮のものに。入手容易な録音が多数出ているのはとても良いことですね。
↑ 買ったばかりなので、まだ聴き込めてはいませんが、3幕4場序曲はよいです。
お勧め盤ありましたら教えてください!
それにしても、フランス革命というか、革命怖すぎですねー。フランス革命は世界史上でもトップレベルの大事件であり、これによって改善されたことも多く、現代社会から振り返ると、結論としては「やってよかった出来事」にはなるとは思うのですが、ほんとうに人を殺しすぎ。マジで。まあ熱狂の時代なので、本当に理性ブチ飛んでるんでしょうけども、飛ばすなそもそも。
改めて、「フランス革命のお陰で興味深い時代になったよね」とか言い始める皇太子、怖すぎるな……の気持ちを強めました。革命が起きたらあなた殺される側だからね。
さて、次回ですが、席を買ったので、バレエのレビューになる予定です。この記事を書いていたら大分夜が更けてきてしまったので、絶起しないようにしなければ。
期待せずお待ちくださいませー。
それでは、今回はここでお開きと致します! また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです。