世界観警察

架空の世界を護るために

『冨平安希子 ソプラノリサイタル vol. 1』 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

まさかの今月三回目! の『オネーギン』で御座います。全部抜粋ですが。全幕観たい。今回はオペラです。

↑ 『オネーギン』をひたすら追い回しているオタクです(自己紹介)。

 ここが天国か……? いやでも天国はこんなに暑くないか……。灼熱地獄に垂れたロシア帝国製の蜘蛛の糸『オネーギン』か……(?)。

 

 そんなわけで、先日は冨平安希子さんの『ソプラノリサイタル vol. 1』にお邪魔しました。vol. 1 !! めでたい!!

↑ 初の武蔵野公会堂でした。

 

 東京のソプラノリサイタルで『オネーギン』を取り上げて貰えるのは、今年二回目ですね(わたくしが観逃していなければ)。有り難いことです。四月には、黒澤麻美先生のリサイタルにお邪魔していました。

↑ 一応レビュー記事をば。

 いや~、このままどんどん取り上げられていって欲しいですね。オペラではそこまでメジャー言語でもないロシア語で(伊独仏露と、大体四番手)、且つ「手紙」は一曲約12-4分と長いので、上演側は大変だと思いますが……。この演目の上演を熱望している観客もおります。

 

 今回は、折角ですので、こちらの公演の雑感をば。相変わらず9割くらい『オネーギン』の話をしています。ご了承下さい。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

↑ このポスターを拝見して速攻メールしました。

 

 

出演

ソプラノ:富平安希子
ピアノ:富平恭平

 

雑感

 自由席ですし、初めてのホールだったので、少し余裕を持って伺い、開始前にプログラムを読みました。

このプログラムノートが既に面白いです。

どうですか? タチアナ渾身の激重ラブレター。「夜書いた手紙は朝必ず見直せ」という諺?の見本となるような内容です。

ほんとそれです。一回落ち着こう、ってなりますよねあの内容。恋に恋する夢見る16歳の乙女で、可愛いといえば可愛いですが、痛いといえば痛いという、絶妙な線です。

また、冨平恭平さんは Finaler(?)仲間ということで、嬉しいですね。わたくしも手探りで使って遊んでいます。


 前半はドイツ・リート。

非ドイツ語母語勢が必ず苦戦するドイツ・リートですが、流石本場で活動されていたとあって、申し分ないです。しっっかりドイツ語。目隠しして聴いたら、日本人が歌っているとは思えないですね(※批評で頻出する「日本人とは思えない」発言問題ですが、ここでは褒め言葉として受け取って下さい……)

シュトゥットガルトといえば、『オネーギン』界(?)ではバレエ・クランコ版の本場として有名ですが、オペラの方も人気だったりするのでしょうか。

 ドイツ・リートが十八番というのは強いですね。高音に強く、鋭いです。恐らく音楽専用ではない小ホールでも、子音でも、綺麗に響きます。流石です。

 

 しかし、それにしても、コンサートホール・劇場に出現するという「妖怪・飴パリパリ」がこんなところにも存在するとは……。幕間で「飴ありがとうねぇ~」という会話が聞こえたので、共犯(?)もいるのか……。上演中は辞めましょうね!!

 

 後半はオペラ・アリアです。

前半との対比か、ドイツものではなく、伊・仏・捷・露からの選曲です。後半の東欧推し! 嬉しい!

 

 『コジ・ファン・トゥッテ』の時点で、低音は苦手なのかなと感じました。得意とする声域を外れると、途端に萎れてしまうのが勿体ない。

「手紙」にはそこまで低い音はありませんが、ターニャはかなり重い声を要求するので、この時点で「ターニャいけるか……!?」と思いつつ。

 

 また、ドイツ語はあんなにも明瞭だったのに、それ以外だと歌詞が聞き取りづらいのも寂しいところ。いやしかし、他言語と比較しても歌うのが難しいドイツ語が一番綺麗という人もいるんだ……と驚きました。

わたくしは多少ご縁があるのはフランス語とロシア語のみですが、それらよりも、明らかにドイツ語の方が聞き取りやすかったと思います。

 

 それにしても、プーランクってこんな頭おかしいオペラ書いてたんですね……し、知らなかった……。『カルメル会』との温度差えげつなくないですか? 多才というべきか……。

ピアノの冨平恭平さんの方も間の手のように歌に参加していて、その度に会場が沸いていました。これは楽しい。

 

「手紙の場」

 最後の最後で「手紙」が来ます。大トリです。最後にこれを持ってくるのが既に凄い。

前述のように、まず長いですし(12-4分)、その分内容も濃いです。ロシアオペラなので、声質も重さを要求されます。色々な意味で重いです。

ご本人も仰っていましたが、凄いプログラムです。

 

 どうでもいいですが、プログラムは「手紙の場」になっているものの、字幕では「手紙の歌」になっていました。« Сцена письма » なので、「手紙の場」の方が正確ではありますが、正直どちらでもいいと思います。

 

 テンポはかなり速めです。ピアノソロだとイントロが複雑なので大変そう。

また、「手紙」には « В прозрачной темноте мелькнул, » の辺りなど、早口ゾーンも多いので(最後の二重唱のオネーギンほどではありませんが)、テンポはある程度余裕があった方がよいかもしれません。


 早口なのも相俟ってか、硬母音が弱い印象を受けましたね。わたくしもロシア語でスペルミスするときは у の入れ忘れが多いので(特に人名とか……)、気持ちは大変よくわかるんですけれども。他の語にはあんまりないですよね。

ドイツ語に強く、つまり子音だけの音作りは逸品なのですが、ロシア語は母音が多い上に(だからこそこの言語は歌には向いているのでは? と思ったりもするものですが)、軟音記号なんてのもいますので、母音に力を置いても良い気がしました。

 一方、語末の ю、я は意識的な強調が伺えました。« Везде, везде, он предо мною! » とか、« Не ты ль с отрадой и любовью » とか。ここ、たっぷり溜めますしね。

« Но так и быть! » の後、地味に四連続で ю で終わったりするんですけど(尤も、押韻は男・女・男・女ですが)、結構速いんであんまり目立たないのちょっと勿体ないですよね。チャイコフスキー御大が詰めすぎたんだ。

 

 速めのテンポでさらさら進みますが、 « То воля неба: я твоя! » で少し減速する伝統(?)は踏襲され、守護天使前のところはたっぷり間を置きます。

« Вот он! » は下げる派。上げる派殆ど見ませんが……。

 

 演奏会形式なので、演技がないのは全然構わないのですが、折角の一人舞台で魅せる場面のオペラなので、もう少し表情があっても良いのではないかと感じました。

手紙の文面を書きながら読み上げる場面(勿論 « Я к вам пишу, - чего же боле? » のライン)と独白の部分に差が見られないのは勿体ないですね。

 「手紙」は特にオーケストラが雄弁で、よく知られているように、手紙を書く場面では木管が必ず同じフレーズを奏でていたり、 « Ты в сновиденьях мне являлся, » からは в сновиденьях(夢の中に)に対応するかのように、幻想的で殊更ロマンティックな旋律になったりと、非常にわかりやすいです。

激情的に叫ぶ場面もあれば、狼狽する場面もあったりと、演じ甲斐のあるシーンでもあると思いますので、是非とも。

 

 高音がクリアなので、 « Давно... нет, это был не сон! » の辺りなどは大変よいです。

尤も、全体としては、もう少し重めの声質の方が合うかと思いますが……。「嵌まり役」という意味では、アンコールでのムゼッタの方が合うことは正直疑いないかと思います。

 ロシアオペラはもう、基本的に重ければ重いほど良いまでありますからね。殆どの場合、何聴いても「もうちょっと重くて良い」って言っている気がします。

でも、あらゆる人に挑戦して欲しい演目でもあります。

 

 子音が強いので、最後の « Увы, заслуженным укором! » も綺麗です。これはフェチズムのようなものですが(?)、ここの р と о の境界線がとても好きなので(細かすぎて伝わらない選手権)、 р の方だけでもきっちり伸ばしてくれる歌い方が個人的には好きです。

日本語では基本的に子音と母音はセットであり、同時に発音しますが、ここでは別れていると思っています。音声学の細かいことは無学にして存じ上げませんが。はい。

 

 字幕は服部容子さん・冨平安希子さんが手掛けているとあるので、オリジナルでしょうか? 確かに見慣れないものであったような気がします。歌に集中していたので、字幕をしっかり見る余裕まで無かったのですが……。

冒頭の方の、« Я пью волшебный яд желаний! » の所か、その次でしょうか? 「〜な私」と倒置になっていたのが変わっているなあと思って見ていました。

 

 こんなところでしょうか。

 ゲストも無しのソロ・リサイタル、しかも vol. 1 ということで、冨平さんをたっっぷりと堪能できる公演でした。

大好きな『オネーギン』の、「手紙」を聴けて個人的にも満足です。ありがとうございます。

連続で同じ選曲はしないかもしれませんが、また次の機会にも取り上げて頂けたら大変嬉しく思います!!

 

最後に

 通読ありがとうございました。4500字程。

 

 今回のこちらの公演も、親切なフォロイーさんが教えて下さったことで気が付くことができました。皆様情報共有をありがとうございます。

自分でも日々サーチをして追うようにはしていますが、見逃しも多々発生しますので、スローガンは「全ての『オネーギン』情報を茅野へ」で宜しくお願い致します(?)。チケット購入ページを貼り付けてわたくしに送って下さい。

 また、広報の際には、画像だけではなく、必ずタイトルを文字で打つようにしてください。検索に引っ掛からないので。重ねて宜しくお願い致します。

 

 東京では、暫くは『オネーギン』の予定はなさそうですね。新国の来シーズンのオペラになるでしょうか。

歌手は楽しみですが、演出がどうもな……というところなので、とても複雑な心境です。『オネーギン』の上演を心の底から楽しみにできないことなんてあるんだ……と、我ながら驚くところです。

 特に悪名高き扇風機に関しては擁護のしようがなく。皆様、宜しければご意見の提出にご協力下さい。

↑ 例。ちゃんと出しました。

 新国の舞台に扇風機はいらない。しかし今は欲しい(暑すぎるので)。そんな心境であります。

 

 よくわからないことを書いたところで、今回はお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!!