こんばんは、茅野です。
珍しいことに、バレエのレビューが連続します。連載も書きたいし、単発も書きたいところですが、今月はレビューラッシュですね……。
というわけで先日は、新国立劇場のバレエ『ホフマン物語』にお邪魔しました。2月23日マチネの回で御座います。
『ホフマン物語』もバレエ化されていることを、今回初めて知りました。無論、初見です。
意外とあるんだなあ、オペラとバレエで同じ題材の作品! 他にも隠れた作品がありましたら教えてください。
今回も、備忘がてら、簡単にこちらの雑感を記して参ります。
それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!
キャスト
ホフマン:福岡雄大
オリンピア:池田理沙子
アントニア:小野絢子
ジュリエッタ:柴山紗帆
リンドルフ ほか:渡邊峻郁
指揮:ポール・マーフィー
管弦楽:東京交響楽団
振付・台本:ピーター・ダレル
音楽:ジャック・オッフェンバック
編曲:ジョン・ランチベリー
雑感
今回は、数日前に「そういえば、『ホフマン』やるんだっけ、行くか」くらいの雑なノリで席を取りました。4階の末席です。
翌日のソワレだったら珍しく U25 が出ていたので、スケジュール管理をミスったな……と思いつつ。売れ行き予想、バレエはキャストが変わるので、曜日よりもキャストを注視した方がいいんだよな……。
それにしても、祝日ですし、キャストも豊富にプリンシパルを使っていて豪華なのに、席の埋まりは頗る悪そうでしたが……、ほんとうにバレエの観客って保守的だな!?
観劇ラッシュ・突発凸だったのもあり、予習はゼロ。但し、フォロワーさんから「曲もストーリーもほぼオペラと一緒だから大丈夫だよ」と教えて貰ったので、心配はしていませんでした。
新国では、先シーズンにオペラの方の『ホフマン物語』を上演していました。一応行きました。この調子で、新国バレエ団も『オネーギン』を上演しようね。
↑ 文字通り雑な雑感。
音楽はともかく、正直に言って、『ホフマン物語』は脚本が好きではありません。
確かに、「ホフマン作品のいい所取り」という面はあるのですが、何よりも作品の主人公をリストラして、作家本人に置き換えてしまうというのは、作家本人にも、作品に対してもリスペクトが足らんのではないでしょうか。
考えてもみてください、『オネーギン』に於いて、オネーギンがリストラされて、プーシキンにされたらどうですか。間違いなく、プシュキニストは憤死しますよ(まあ、原作だとオネーギンはプーシキンの友人という設定なので、それは流石に無いでしょうが)。そもそもプーシキンあんなキャラじゃないし……、それはホフマンも然りです。
そこがどうしても気になってしまい、楽しめないのですが、オペラとバレエで同題材の作品を観比べるのは好きなので、取り敢えず観に行こうの精神です。
それでは、本編について書いていきます。初見なので、9割9分演目そのものに関してです。では始めます。
プロローグ
幕が手塚治虫風ホフマン(?)です。何故だ。
「でも確かに、ホフマン作品と手塚治虫って相性良さそうだな……(?)」と思い、取り敢えず調べてみたら、こんな記事が。
手塚は、<この物語をかこうとしたのは、オッフェンバッハのオペラ「ホフマン物語」からのインスピレーションです>とあとがきで書いている。<「ホフマン物語」は、ぼくにとって青春の感慨であり、人生訓なのです>
やっぱり意図的……なのか……!?
また、幕に書いてある詩は近代英国の詩人シェリーから。有名な詩で、知っている作品で助かりました。(ちなみに『オネーギン』の中幕のフランス語の文法が間違っていることは界隈では有名な話。ていうか『オネーギン』でプーシキンのロシア語を引かないのは最早冒涜の域。)
しかし、何故そこでホフマンを引用しないのか、理解に苦しむところですが……。
The fountains mingle with the river
And the rivers with the ocean,
The winds of heaven mix for ever
With a sweet emotion;
Nothing in the world is single;
All things by a law divine
In one spirit meet and mingle.
Why not I with thine?—See the mountains kiss high heaven
And the waves clasp one another;
No sister-flower would be forgiven
If it disdained its brother;
And the sunlight clasps the earth
And the moonbeams kiss the sea:
What is all this sweet work worth
If thou kiss not me?
バレエ版はイギリスの作品ですし、初演からこれだったんでしょうか、それとも美術の変更でこうなったのか。
まあ、ドイツ語を書いてもイギリスの客(勿論日本の客も)は読めないだろうけど、それにしたって……という所ではありますよね。『ホフマン物語』ってタイトルなんだぞ!
序曲がオペラと一緒で、「あれ? 何観に来たっけ今日?」状態でした。東響ですし。
折角なら、中間部だけではなく、『クラインザックの伝説』の提示部ももっと入れて欲しかったなあ。
↑ 原字幕付き。クリック、クラック! クリック、クラック!
美術に関して。街並みはドイツというよりイギリス風に見えます。ヤーナム市街。
まあ、『ホフマン物語』って、複数の物語を繋げちゃったせいで、設定よくわかんなくなってますけども。オペラはフランスものだし……カオスだ……。
オペラのヘルマン(ハーマン)・ナタナエル(ナサーニエル)は、「ホフマンの友人」として、ほぼそのまま登場。ルーテルだけ、何故か若返っ、た……??
ニクラウスがリストラされているのが痛いですね。ホフマンの次に重要な人物だと思っていたので、そもそも存在しないのは想定外でした。
友人三人衆はみんな良かったと思います。
ラ・ステラはほぼ踊る要素がないのに、プリンシパルを起用するのは贅沢ですね。
オペラグラスで凝視したら、彼女が出演するのは『ドン・ジョヴァンニ』のようですね。「確かに『ホフマン物語』の構造にも近いものがあるけど、歌姫が主演を張る作品! って感じでもないのに、何故……。ポスターが女性一人なのも違和感……」とか色々悶々と考えていたのですが、オペラから既に、『ドン・ジョヴァンニ』に出演している、という設定だったんですね! 普通に今知った。脚本が好きではないので、オペラの方も全然詳しくは無い。
リンドルフさんは、黒のインバネスで恋文をグシャグシャポイするので、オネーギン適正◎(?)。
第1幕
『ホフマン物語』に於いて、一番物語性があるのってやっぱりオランピア(オリンピア)のくだりだと思うのですよね。バレエだと特に、『コッペリア』は人気ですし。
オペラにつられて、ついつい「オランピア」と表記してしまいますが、よく考えたら、ドイツの作家の物語が、フランスオペラになって、イギリスでバレエ化されてるのって、まあまあ複雑な歴史ですね。西欧中で愛されている……。
リンドルフ系列の渡邊さんはキャラクターダンスも上手くて、「この人何でもアリか?」になりました。ある意味で、リンドルフ系列は、一つの作品内でコスプレ大会色々な要素を演じることができて、一番やり甲斐ありそうですよね。
話は前後しますが、最後に崩壊するオランピアの胴の裏からホフマンを見ている時の表情がとてもよかったです。4階からでもバッチリ見えました。
みんな大好きオランピアのクプレ。オランピアのクプレで踊ることは全オペラファンの夢ですからね(?)。羨ましい(?)。
個人的には、至高のオランピア歌いであるパトリシア・ヤネチコヴァちゃんが亡くなってしまったので、もうオランピアに関しては完全に封印・永久欠番案件なのですが……。もうこれを超えることは無いと断言していいので……。
↑ 歌も容姿も演技も完璧。熱烈なファンというほどではないものの、ヤネチコヴァちゃんは同い年(!)ですし、好きで応援していたのですが、昨年乳癌で早逝してしまいました。文字通りの佳人薄命すぎる。本人はオランピアというよりアントニアだな。怖いし悲しいし寂しいし世界の大損失……。
ヤネチコヴァちゃんの訃報以降初めて観る『ホフマン』だったので、正直とても複雑な気持ちでしたが、普通に良かった……ですね。なんだろうこの感情。
シンプルに人形振りが上手すぎませんか? 頭ではわかっていても、「いつ人間に変わった……?」と混乱します。最初のあれはメイクかと思ったけども仮面なのかな? 遠いと流石によくわからない……。
Va. で一回転んでしまったのが怖かったですが。以前の『白鳥』もですが、新国の舞台、滑り易いのかなあ。お怪我はありませんか。
プログラム曰く、オランピアの池田さんは『コッペリア』の主演(ということは必然的にスワニルダですよね)も演じるとのことでしたので、そちらも気になります。
最後のワルツのフォーメーションが綺麗ですね。この点に関しては上階席で良かったです。
男性の方が順番にがズレるから、オランピアが中央固定、ホフマンが時計回りに動いて舞台後方に行くわけですね。洒落ています。
第2幕
休憩を挟みまして第2幕。
舞台芸術のよくないところではあるのですが、キャスト表を見て、「なるほど、アントニアがメインなのね。しかし、『ホフマン物語』では、特にヒロインに優劣はない印象なので、何故?」と思っていたのですが、これは納得ですね。
バレエ版だと、実質的にアントニアがメインヒロイン枠です。
オペラとは違い、死に至る要因を歌ではなく踊りにすることによって、完全に『ジゼル』風になりました。まあ、そうせざるを得ないよな、とも思いつつ。
尤も、近代の上流階級のお嬢さんがバレエを踊ることはまずないので、身分制の概念どこ行った……案件ではあるのですが……(※バレエファンには言いづらいのですが、ドガの名画などが示すように、近代に於いてバレリーナは娼婦一歩手前という扱いでした)。
アントニアのシニヨンから少し髪が垂れているのは、小野さん自身にもとてもお似合いですし、アントニアのキャラクター性にも合っていて可愛いのですが、とにかく顔にベチベチ当たっていて、すっごく邪魔そうでした。
この辺りは折り合い付けるの難しいですよね。
ピアノを弾くホフマンの動きが凝っていました。そこはクロスで右手で弾くわけですね。なるほど。
途中から、『ドン・キ』の夢の場のような幻想的な場面に早変わり。
三羽ならぬ3人組は、音の取り方が、登場時の順に、下手側の方は標準、中央は速め、上手の方は遅めで、特に振り付けの腕の動きが速いのもあり、大きなズレがあるのが気になりました。
アントニアの Va. は、ライモンダの Va. を彷彿とさせますね。鳴らすのは手じゃなくて足ですが。流石の美しさです。
最後、現実世界(?)に戻った時も振りに似たところがあって、物語性を感じました。
みんな大好き三重唱。紛うこと無き名旋律なのですが、オペラも観る層としては、やっぱりドクター・ミラクルの「アッハッハッハッハァ!」がないと物足りないですね。
ちょっと数十秒だけ聴いてください。皆さんにも、これ以後、この笑いが無いと物足りないと感じてもらいます。
↑ 皆さんは誰の「アッハッハッハッハァ」が好きですか? こちらの動画でドクターを演じているハンプトン先生には申し訳ないのですが、わたしの回答はアーウィン・シュロット。圧倒的に一番邪悪(※最大限褒めています)。CD出して欲しい。
小野さんの『ジゼル』は以前観たことがあったので、かなりデジャヴュ。脚が下手側にくるのも一緒ですよね。今日も死後硬直素敵でした(※心から褒めています)。
↑ 以前の雑感。
バレリーナは、皆様体幹えげつないのに、ビジュアル的には「か弱くて死にそう」だから、病弱設定なヒロインも観ていて違和感なくていいですよね。オペラ『椿姫』初演ショックは起きそうもないです。
第3幕
再び休憩を挟みまして第3幕。
『オネーギン』オタクのわたしが言えた口ではないのですが、上演時間35分・休憩時間25分はやりすぎなのでは? (『オネーギン』だと2幕25分・休憩25分・3幕25分とかいうバグが発生する。)
ヴェネツィアという設定のはずが、何故かバレエあるあるなオリエンタル・なんちゃって中東風に。
ジュリエッタは「高級娼婦」という設定ですが、官能性を押し出されすぎていて、少し困惑。この間オペラ座の『マノン』を観たばかりでしたし、「娼館か……?」となりました。
まあ、それこそ『ライモンダ』や『シェエラザード』風で、見応えがあるといえばあるのですが。
作中で恐らく最も有名な舟歌。歌詞がないのもあり、以前新国で観た藤原歌劇団の『二人のフォスカリ』の舟歌と謎に混ざり、「これから何やるんだっけ? ヤコポ死ぬ?(?)」とか思っていました。
↑ 個人的に一番好きな『舟歌』はフォーレ。そこはチャイコフスキーって言えよって話ですね、仰るとおりで……。
ニクラウスがいないので、誰も " Belle nuit, ô nuit d’amour, / Souris à nos ivresses! / Nuit plus douce que le jour, / O belle nuit d’amour! " してくれません。寂しすぎる。もう自分で歌いたかったまである(誰?)。
Pas de Six。複雑なリフトはそれこそマクミラン風で、強い影響を受けていることが窺えました。
クランコ・マクミランと同期とのことですが、影響はマクミランの方が強そうだな、と思います。
それにしても、男性陣のその格好は一体……(パンツ一丁に、レッグウォーマー……?)。変態度が高すぎる……、芸術的でさえある。
鏡を使う演出ですが、「鏡のPDD」程の洒落た仕掛けはなく、鏡になったり壁になったり、というところです。影を取られる、というより、鏡に映らなくなる、という感じですね。
エピローグ
まず一言。まさかのバッドエンド……! そうか、ニクラウスがいないと、こういうことになるのか……!! ニクラウス~~!! 戻ってきて~~!!
ここまでタイトルロールのホフマンにほぼ言及無しで申し訳ないのですが、これは脚本の問題で、ホフマンという役が完全に破綻しているのが悪いので、印象が薄いのは福岡さんのせいではないです。ないですが、印象薄いのは事実です。すみません。
この役を上手く演じるの、シンプルに無理だと思う……。
でも終幕は、 Позор!.. Тоска!.. О жалкий, жребий мой! って感じで良かったです。
初見でしたので、主に演目に関しての雑感でした。
『コッペリア』『ジゼル』『ライモンダ』『シェエラザード』辺りのいいところ取りという感じで、幕物にも関わらず、ガラ公演を観ているような、不思議な演目でした。この「お得感」に関しては、オペラよりも良いと感じましたし、バレエ初心者に勧め易いかも、と思いました。
ストーリーや音楽に関しても、元から脚本が破綻しているのはともかく、他のオペラと題材が共通するドラマティック作品(『椿姫』『オネーギン』『マノン』など)に比べて、圧倒的にオペラに忠実。歌が無いのが物足りないの領域。
だからこそ、バレエとしても、ストーリー・音楽としても、新規性に欠ける側面は大いにあります。観易いのですが、「わざわざこの演目でなくてもいいかな?」というような。
とはいえ、コンパクトに色々なバレエのエッセンスが楽しめて、良い作品ではあると感じました。これほどの作品にしては、界隈に膾炙されていないし、もっと上演回数が増えても良いと思います。
実質的に、東響で『ホフマン』を聴けたのも幸せでした。新国バレエファンの皆様、皆様は音楽的に毎度めちゃくちゃ恵まれていますからね(来日の演奏が大体恐ろしく酷い)、自覚してください! 幸福なことです!
プログラム・終演後の話
プログラムについて。これを無料で貰えるのは強いですね。超有り難い。オペラだと有料ですからね。
特に、岸先生の解説はとても勉強になりました。『ホフマン物語』にそんな経緯があったとは……! だからバッドエンドなんですね……!! 面白すぎる。この見開き2ページの為だけに劇場に行く価値がある。
編曲はランチベリー御大。『Mayerling』の編曲でお馴染みですね。以前書きましたよ、解説……!!
↑ 楽曲解説シリーズで一番大変だった。『葬送』から『夕べの調べ』への繋がりが余りにも好きすぎて、毎回ここでわたしの方が昇天しそうになる。
『ホフマン』はそんなに聴き込んでいないので、細かいところはわかりませんが、『Mayerling』ほど複雑な造りにはしていないように見受けられます。
オッフェンバック有識者による解析が待たれます。宜しくお願いします(丸投げ)。
そういえば、『ホフマン』は脚本への苦手意識が強すぎて、 CD 持っていないかも……と思って、今更買いました。バケモンみたいなキャストのものが、Amazon の mp3 で1000円とかいう有り得ない破格値で売られていたので……。
↑ シンプルにヤバくない? それにしても、うん、やっぱり、音楽は素敵ですね。
以前、レンスキーの話でボロクソに書いてしまいましたが、アラーニャ御大、マジでフランスオペラに関しては天才的に上手いですよね、この差はなんなんでしょうね、ずっとフランスもの歌っていて……。
こちら、とてもお勧めです!!
終演後は、『オネーギン』にも来てくださった相互さんとお茶に行けました。ありがとうございます!!!
オタクとしてのスタンスが合う方で、こういう方は(特にバレエでは)大変貴重なので、邂逅できたことがとても嬉しく、お話も盛り上がってとても楽しかったです!
またご一緒させてください!!
以上です!!!
最後に
通読ありがとうございました。また意外と書いてしまい、8000字ほど。それでいて、バレエの話を殆ど書いていない気もする。なんだろうこの記事。
月末・来月初めは本当に観劇ラッシュです。なんでこんなに密集しているんだ?? 興行師は何を考えているんですかね?? でも観たい……レビューを書く時間が本当に物理的に存在しない……助けて欲しい……。
珍しく、オペラのみならずバレエも多く観る予定です。逐一レビューを書くつもりではいますので、期待せずお待ちくださいませー。
それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!