世界観警察

架空の世界を護るために

新国立劇場『トスカ』2024/07/10 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

いよいよ、WOWOW で我らが『チャンピオン』が放映されましたね! 皆様、ちゃんと録画しましたか! 観ましたか!!!

WOWOW での放映情報。

 最近の新作オペラでは頭一つ抜けてますからね。一度観た方も是非ね。何回観ても良いのでね。

↑ 初見時のレビュー。

 

 さて、今回はオペラのレビュー記事です。先日は新国立劇場のオペラ『トスカ』にお邪魔しました。7月10日の回です。

↑ 新国が持っている演出の中でダントツで好き。一生変えないで欲しい。定期的に浴びたい。

なんだかオペラを観るのは久々な気がします。最近はバレエが続きましたからね。シーズン終わりも近く、寂しくなりますね。

 

 今回は備忘がてらこちらの雑感を簡単に記して参ります。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

↑ 画がよすぎるー!!

 

キャスト

トスカ:ジョイス・エル=コーリー
カヴァラドッシ:テオドール・イリンカイ
スカルピア:青山貴
アンジェロッティ:妻屋秀和
指揮:マウリツィオ・ベニーニ
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団
演出:アントネッロ・マダウ=ディアツ

 

雑感

 今回は U25 で1階後方上手側です。もしかしなくても、オペラに U25 で入れるのはこれが最後なのでは……。怖い話すぎる、勘弁してください。来シーズンのラインナップが全く魅力的ではないのは幸か不幸か……

たまに U25 席を回してくださる読者さんがいらっしゃいますが、来月後半から受け取れなくなりますので!! すみませんが、宜しくお願いします。

 

 平日ということもあってか、高校生が多いです。わたしのお隣も制服の高校生カップルでした。今日は「高校生のための芸術鑑賞」の日じゃないんですけどね。

しかし、『トスカ』はストーリーが超ドラマティックですし、愛あり死ありで、音楽も耳馴染みがいいし、新国のものは演出もクラシカルで素敵だし、観やすいんじゃないかしら。ぶっちゃけ『椿姫』や『魔笛』よりずっと入門向きだと思っています。オネーギン』観ろ

 

 今回もメモ持参で参りました。ほんとうに楽。近くの席にも持参勢がいました。読者?

メモを書いておけば、レビュー記事を脱稿するのが遅れても記憶が薄れないから便利

 

第1幕

 それでは本編です。

 

 序盤から、スカルピアの主題が爆音! インパクトあります。「お、今日はオケはカッ飛ばしていくスタイルね、了解」となりました。

個人的には、プッチーニは酔うことさえできれば、然るべき場所の音量は爆音で良い派閥なのですが、「歌手が潰れなければ」という前提があります。インストは幾らでも盛ってよしとされています。

 

 これはこの記事で今後何回も出てきますが、美術良すぎ問題。まあ『トスカ』の演出・美術で外れることってそうそうありませんが……。

『トスカ』は、現存するローマの建物が舞台になっているせいもあってか、美術はあまり遊びがなく、元ネタ通りの、写実的なものが多いですよね。非常によいと思います。演出に関しては保守派なので、クラシカル・古典的・写実的、どんとこいです。

堂主がカーテンを引くと光が入ってくる演出も好きです。ほんとうに綺麗。

 

 よく意外がられるのですが、わたしは『トスカ』が好きです。少なくともプッチーニのオペラの中で一番好きです。従って、よくこのような会話が発生します。

 『トスカ』は、時代考証がかなりしっかりしていることでも知られていますし、近代オタクは垂涎の作品だと思うんですけどね、もっと歴オタ層にウケてもいいはずなんだが……。啓蒙活動が足りないか!?

 

 アンジェロッティの妻屋さんは迫真の演技。舞台映えするので、脱獄してきて弱っているというより、『SEKIRO』辺りのボスキャラっぽかったけど

わたしは気付かなかったのですが、ブーイングがあったらしいですね。何故? 言いたいだけの感じの人? 

 この日は偶然イタリア語学習中の父と一緒だったんですが(別々にチケットを買っていた)、「一番イタリア語聞き取りやすいまである」と言っていました。

 

 堂主は安定のいつもの志村さん。この役何回やっているんだろうか。

 

 さて、主役級です。

カヴァラドッシは、声が暗く、重いです! えっこれはイタオペの主人公テノールをやる声……か? カヴァラドッシは、もっと若くて明るくて、スッコーンと突き抜けた声がいい……。高音にならないとイタオペ感が出ません。もしかしなくても、ロシアオペラの方が得意なのでは?

……と思って、調べてみたら、ありました、ありましたとも。

 2009年と、結構昔の映像なので、今はどうかわかりませんが、やはりカヴァラドッシよりレンスキーの方が合っていると思う。この方、そんなに遠くないうちにバリ転するかもですね。

 弱音に安定感がなく、下降で音程が飛ぶと、声が変わってしまいます。特に1幕の愛の二重唱は、このような音型が非常に多いので、音の跳躍が苦手なのはかなりの痛手。

↑ 譜例。音が飛ぶ(特に下降)のが難しいのはよくわかるんだけど!

 1幕の二重唱は、ロマンティックな旋律で本当に美しい聴かせどころなので、個人的には好きなのですが。

 まあでも、声自体は飛んでいて、新国で響かせられるのはなかなかの声量の持ち主である印です。

 

 一方のタイトルロール、トスカ。癖……強……ッッ!! ある意味で、唯一無二なお声とは言えるかもしれません。相当好き嫌いが分かれる声だと思います。わたしは……そんなに……好みでは……ないかな……。

 ついでなので調べたら、なんとカーセン演出のターニャ経験者だった!

↑ ロシア語は相当怪しい。

 でもこうやって聴くと、やはりパワフルな声はお持ちだし、トスカは当たりの部類なんだろうな~とは思います。ターニャも充分できてるし。ターニャの方がクセ感はないかも。あのクセ感を言語化する語彙を持ち合わせていないのですが……。

 

 『トスカ』は歌詞を精確に覚えているわけではないので(イタリア語未習ですし)、今回初めてカヴァラドッシがトスカに対して "Mia sirena!" と言うことに気付きました。

字幕は「僕の女神様!」になっていました。女神……? 今あなたらキリスト教会にいるんだよね……? ま、まあいいか……。

 「シレーナ」は、『ラ・ボエーム』でマルチェッロがムゼッタにかける言葉でもあり、プッチーニ的には、こういう女性はみんな「シレーナ」なのかもしれない。気持ちはわかるよ、と言っておこう推しの愛称がロシア語版「シレーナ」のオタク

 

 二重唱の後のコンバスは音が太く、個人的には好きです。全然 pppp (楽譜の指示)ではなかったけど。今回は低音太め設計です。

 

 オケがいなくなることもあってか、カヴァラドッシはアンジェロッティに対する「何があっても君を助けよう!(La vita mi costasse, vi salverò!)」が作中で一番響いてたまであります。助けきってくれ。

 

 堂主と子供合唱はオケとズレがちで、堂主が合わせようと一生懸命頑張っていたように見えました。新国は子供合唱もレベルが高いので、これは珍しいかも。

 

 スカルピアが初登場すると、雷でも落ちたんかというくらい白色のライトがビカーッと灯る演出、好きです。演出全部好き。これぞラスボス登場の演出である。強そう。

 

 字幕の話ですが、「ヤーゴ」て。一瞬なにかと思いました。「イアーゴ」でよくないですか?

どうでもいいけど、「ヨシフ」も「イオシフ」表記の方が好きです

 ついでに、モブの参拝男性の白靴下が19世紀初頭っぽくて好きです。19世紀初頭が舞台なら、ピッッチピチのタイツ穿いていて欲しいですよね(考証班並)。

 

 1場ラストのインストルメンタルの愛の主題。いつ聴いても名旋律がすぎます。しかし、だからこそ、もっと酔えるはずだ。段々改善されはするのですが、特に序盤はパワープレイに走りがちで、官能的なところは官能的に奏でて欲しい。プッチーニの旋律は本来とてもえろいのだ。

 

 第2場。『テ・デウム』だけのために場を変えるのほんと贅沢ですよね。でもそれだけの意義がありますよね、この曲には。聖と俗の対比がここまで綺麗に決まったことがあろうか。

 

 意外とセットを動かす音はしっかりします。まああれだけ大きかったら、しないほうがおかしい。それよりも音が大きかった某扇風機の方がおかしかったんや。

 

 マジで美術好きです(2回目)。この1幕2場は記事のサムネにもしていますが、全ての場の美術が美しい。眼福です。光り輝いています。

兜を被っているとはいえ、ハルバード隊がデカくてビビります。強そう。遠近感狂う。

 

 スカルピアは急遽降板となり、代役。また、「高校生の~」でも出演されるため、ほぼ出ずっぱり状態で、我々観客は心配していました。喉潰さないでください。

従って、正直あんまり期待はしていませんでした。セーブしていても責められないスケジュールだし。

思っていたよりはずっと良い……ですが、やはりスカルピア的な気迫には欠ける印象です。

 悪役感がなく、凄く真面目そう。腐敗がなさそうな警視庁だ。贔屓が悪役が得意なのですぐ忘れるのですがやはり悪役は技術だよなあ……。

 

 爆音オケが最後は全部持っていきましたけど、合唱は良いです。新国の売りは合唱なのに(だと思っています)、『トスカ』は合唱の出番少ないですからね、ここで目立っておきませんと。

 最後はかなり加速し、アップテンポに。

 

 今回は1幕ごとに幕前レヴェランスあり。流行っているんでしょうか。

 

第2幕

 休憩を挟みまして、第2幕です。美術が豪華ですから、舞台転換に時間が掛かるんでしょうけど、休憩が長いですね。もっと削ってくれてよいです。

 

 美術、好き(3回目)。第2幕の舞台となるファルネーゼ宮は、現在はフランス大使館です。デンマークといい、イタリアといい、フランス大使館はほんとうに聖地潰しで困るぜ。聖地巡礼できないじゃないか。中見せてくれ、中。

 

 『トスカ』あるある、ファーストネームとラストネーム、どっちで呼ぶのかバラバラ問題。ここも「アンジェロッティとマリオ」ですからね。トスカに至っては、恋人ですら名前じゃなくて苗字で呼んでいたりする。何故だ。わたしは割と本気で最初のころ、ロシア語一般名詞 тоска だと思っていたぞ(意味:憂鬱)。

 

 どうでもいいですが、呼び鈴のタイミングは絶対そこですよね。前回もそこだったの、覚えてます。確かに丁度いいかも。

 

 スカルピアに「下手」と一蹴されてしまうガヴォット。下手じゃないよ! フルートいいよ!!

 

 スカルピアは、エンジンが掛かったか、2幕から声は更に出るようになりましたが、真面目そうなのは抜けないですね。まあスカルピアは2幕で退場しますから、ここでエンジン全開にしておかないと意味がありません。

 

 床にワインを捨て、その傍にスポレッタを転がします。お衣装に赤ワイン(多分中身は違うけど)がついてないといいですね。

 

 考証班が気になるポイント:植物。スカルピア、ブドウ食べてましたね!! まあローマならよいのでは。とはいえ、『トスカ』の物語は6月なので、季節的にはブドウには少し早いか?

 

 「Mai Tosca alla scena più tragica fu!(トスカの舞台でもこんな悲劇は無い!)」←これ笑うとこですよね? 割とメタいセリフがあります。

 

 カヴァラドッシを拷問している時のオケは勇ましいのですが、それだけに歌手の迫力不足が目立ちますね。バランスがあんまり宜しくない。

 

 気を失ったカヴァラドッシ運ぶの重たそう。頑張れ

 

 トスカが絶望しているとき、裏でスポレッタが歌っていることに今更気付きました。字幕が出ないので、帰って調べたら、祈っているんですね。悪代官様の部下も大変だな……。

 

 イタオペの定番「Vittoria!」が重く低くてびっくりしました。い、イタオペっぽくない……!

わたしはここの共和制を讃えるカヴァラドッシの歌詞と、慌てふためくスカルピアやトスカが大好きです。ここ観る度に「19世紀が好きでよかった……ッ!」って思う。

ここの爆音オケ効きますね。そこは爆音で OK です。ちゃんとナポレオンは勝てたらしい。

 

 「Piuttosto giù mi avvento!(飛び降りた方がマシだわ)」←フラグです。メタいセリフ2回目。

ところで、ファルネーゼ宮って別にそんな高層建築じゃなくないですか? たぶん3階建てですよね。

スカルピアの部屋が何階にあるのか知りませんが、2, 3階の高さでは、余程打ち所が悪くないと死ねなくないか? と思ったものの、別に死ななくてもいいのか(?)。そりゃあ、死なずに脱出できたほうがいいですよね。

 

 みんな大好きトスカのアリア『歌に生き、愛に生き』。あの特徴的な声のまま pp になります。ボリュームのつまみを捻るタイプの人だ! 久々にお目に(お耳に)掛かりました。

それゆえか(?)、まさかの Brava おじさん不在。これにはビックリしました。みんないつもフライングしてでも Brava するのに……。

 今回は曲中の拍手・歓声は少なかったですね。客層にもよるんでしょうが、指揮者が一々止めずにサクサク進めるタイプだったせいもあるのかも。

 

 基本的に真面目で実直なスカルピア、トスカに迫る「Ebbene?(宜しいですね?)」だけねっちょりとしたキモさを出そうと頑張った形跡がありました。ここはキモいのが正解なので、褒めています。もっとキモくて大丈夫です。寧ろキモければキモいほどよいとされています。スカルピアが良い男だとストーリーが破綻します。

 

 スカルピアの死の主題。大好きです。『トスカ』で一番好きな旋律まである。好きなところ無限にありますが、わたしは弦のぶっとい重低音が好きなのです。厚ければ厚いほどよいのです。これはもう DNA に刻まれているレベルの嗜好なので仕方ないのです。

 この主題の間、スカルピアが通行証を書き、トスカは下手前で祈っています。

ところで、スカルピアは紙をパタパタしてインクを乾かしていますが、この頃は吸い取り砂を使うんじゃない?(考証班並)。

 どうでもいいのですが、イタリアの地理に詳しくないので、「チヴェタヴェッキア=『トスカ』2幕で出てくる地名」というイメージでした。しかしこの間、イタリア史の本を読んでいたら、普通にこの地名がよく出てきて、わたしが知らないだけで結構なメジャー地名だったのかもしれない……とか思いました。何があるんでしょう。行ってみたいかも。

 

 蝋燭を吹き消し、静寂、pp でスカルピアの主題。「キス」は印象に残らなかったので割愛

 蝋燭と十字架を置く時、後方にトスカの影ができるのオシャレすぎます。マジで演出好き。新国立劇場が持っている演出でダントツで一番好き。もっとやって。

 トスカ、演技は上手いと思います。トスカはト書きで結構演技指定されてますしね。オケの音びっくりしたように、ビクッとしてスカルピアの死体から離れます。良かった。

 しかしながら、オケの最後の音がズレたの惜しすぎる~!! 凄いリタルダンドしてるし、難しいんだろうけど、そこは合わせてくれないと酔えない。1幕1場、2幕と、最後の最後でコケちゃって、寂しいですね。

 

 最後のレヴェランスはスカルピアのみ。血糊がついていません。では、トスカの手だけに血糊を付けるスタイルなんだな。確かに、あのお衣装汚したら大変そうだ。

 

第3幕

 休憩を挟んで第3幕。25分も要りません。まあ3幕のセットは迫り出しもあるし、転換が大変なのかもしれません。

 

 隣の席の男子高校生が、1幕では鞄を抱えて爆睡していたのですが、2・3幕ではしっかり魅入っていて、「だろ!? 『トスカ』、いいだろ!?!?」と揺さぶりたい変質者になりそうでした。1幕も良いから観ろ。

 

 どうでもいいですが、月の画質悪すぎません? ガッビガビじゃないですか。カーセン演出の月の方が画質良いよ(?)。あれも映像だけど。

 

 「19世紀の朝」といえば、牧童なんでしょうかね。我らが『オネーギン』でもそうですし。それとも、オペラだからかな。

 

 3幕からオケの弱音が急に綺麗になった気がします。牧童の歌の後、ここインスト長いんですよね。それだけに、オケが悲惨だと悲しい箇所なのですが、今日は良かったと思います。『トスカ』はろくに序曲がないし、作中で一番長いインスト(弦楽)パートなのかも。

 演出としては、舞台上では兵が交代。上手く隙間を使って演出してて素敵です。演出と美術は褒める点しかありません。無限に讃えていきたい。

 

 今回は低音が深いですし、鐘の音もかなりダイレクトで、この物々しいサウンドの中、監獄の迫りが上がってくるのが最高でした。美術が最高なんだって(n回目)。

ここはカヴァラドッシのアリアの旋律ですが、ここのインストの方が良かったもんな。もう、今日、インストと演出だけでいいんじゃない?(失礼)。

 

 しかし、チェロ1stの愛の主題は、もっとレガートな方が好みかな。1幕で出した譜例と同じ箇所ですが、ちょっと飛び飛びすぎる。

ここのチェロパート、ほんとうにエロいですよね。エロいしか言えない。でも理想はこれですよ、やっぱり。この動画は5億回観た。

↑ ああ、ローマって本当にすてk…………、ペテルブルクだ、これぇ!? となるまでがワンセット。

 

 みんな大好き『星は光りぬ』。

直前までずっとオケが pp だったせいもあってか、「ちゃんと声が飛ぶな……」というのが第一印象。

 ちゃんと演出的にも星が光っていて笑います。わたし天文学はからっきしなのですが、ちゃんと6月の空模様になっていましたかね? あれは。

 しかし、「え、そこで走る?」ポイントが多いです。

サビ(サビ?)の、Oh! dolci baci, o languide carezze, は、言うなれば、「バーチーオー」と1音ずつ切るのではなく、「バーチョーー」と繋げて歌うタイプ。そのせいで、多少字余りっぽくなっていました。

でも、楽譜を見ると、音数的にはそちらの方が正しいのか。

↑ こんなかんじ。

でも慣習的には、やっぱり切る方が主流じゃないですか? この字余り感で、オケとのズレが感じられたのもちょっと勿体なかったです。

 テノールにしては低音が出るのは良きことです。が、酔うにはやはり足りないですね……。

 最後のコンバスは例に漏れず溜めっ溜め。わたしは好きだぞ!

拍手は一切なしで次へ。『星は光りぬ』で拍手なしは流石にちょっとレアじゃないですか? ビックリした。

 

 トスカは高音頑張りました。最後までこのパワフル具合で進んでくれると尚よかった。

舟の話になると、曲が舟歌っぽくなるのが好きです。音楽が歌詞よりも雄弁だ……。そうそう、これがオペラだよね、という気持ちになります。ここのトスカのモノローグは、色々なライトモティーフを組み合わせ、モノローグながらにドラマティックで、飽きさせません。

 

 今更ですが、カヴァラドッシとトスカの声の相性はよくないですよね。逆に、どういうのが合うんだと問われたら難しいまでありますが。まあ、ア・カペラでもカヴァラドッシは低音出るので、聴けはするんですけど。

 

 カヴァラドッシの死の主題、こちらも大好き旋律の一つです。弦楽の重苦しいスカルピアの死の主題とは対照的に、こちらは軍隊が関わることを明示するように、二拍子で管が活躍します。どっちも超好きだ~~!!

 しかし、ヴァイオリンは、下降音型でポルタメントを効かせすぎなんじゃないかしら。

 この音型は何度も何度も繰り返されるので、あんまりやりすぎると、ちょっとくどいです。ここのメロディラインは、ヴァイオリンだけではなく、フルート、オーボエクラリネットも入ってくれますから、そんなに自己主張しなくていいと思う。

 

 カヴァラドッシ銃殺の準備が着々と進められますが、ここの兵の動きもいいですよね~(近代オタク並感)。演出はほんと文句ないよ。

今日は上手側に座っていたので、我々も撃たれるかと思いました。

 

 やったーー!!! 金管!!!! ここでコケられたらカヴァラドッシじゃなくて我々が死にますから!!

↑ ここは最初から全パートが ff でカッ飛ばしますが、更に後からペットが爆音でブチ上げるという、二段構えが最大の魅力。最大音量の上に更に爆弾を落とす、この二段目が来ないと泣いてしまう。

 東フィルの爆音金管隊、好きです。シチュエーションや共演相手によっては破壊神になりますが、カヴァラドッシの死なんて、もう、盛れるだけ盛ってよしとされていますからね。誰も歌ってないし、遠慮は不要。ここで盛り上がらなかったら『トスカ』観る意義なし。鼓膜壊す勢いで来て。

 最後の最後で漸く、「イタオペを、『トスカ』を観ている……」という気分になりました。

 

 カヴァラドッシの死でテンション上がりましたが、問題は最後ですよ。

トスカは舞台後方に行くと、露骨すぎるくらい露骨に声が飛ばなくなります。新国の舞台ってそんなに奥行あるんだ……ってビックリしてしまいました。

最後がそれじゃ弱いよ~……。でもオケが頑張ってくれたからギリ許せ……いや……。

 もうカヴァラドッシが死んだらそれで終わって良かったんじゃ? その方が観後感よかったって、絶対。

 

 最後のカーテンコールでは、オケピでどなたか立たされていましたけど、どなたでした? 位置的にファゴット……?? よく見えなかったです。

 

 

 こんなところでしょうか。

演奏面に関しては、これがシーズンラストでよいのか、という、消化不良感が残りました。主役級はみな物足りないし、歌で盛り上がったところは皆無に等しい……。

『トスカ』は全オペラの中でも最メジャークラスの演目で、上演機会も多いですから、比較対象が多く、評価が厳しくなりがちです。それに応えられる出来かと言われると、ちょっと厳しいのではないでしょうか。数年前の公演が素晴らしかっただけに、尚更……。

 オケは、パワープレイゴリ押し感が目立ちましたが、3幕では弱音も綺麗になりましたし、何よりカヴァラドッシの死の金管でアガれたので、わたしは満足です。オケに関しては、ここで酔えれば全部帳消しでもよい。

 そして何より、演出・美術は文句なしの出来映えです。仮にどんなに演奏が宜しくなくても、新国が『トスカ』やるって言ったらそれだけで一回は席買っちゃうレベル。いや、演奏の質上げて欲しいけど。ずっとこの演出使ってくださいね。今回も眼福でした。

 

 以上!!

 

最後に

 通読ありがとうございました。なんと、1万字越え。『トスカ』はプッチーニでも一番好きな作品なので、つい熱が篭もっちゃいますね。道理でなかなか書き終わらないと思った。

 

 ところで、バレエの話なりますが、見ました? これ。

 贔屓(ラントラートフ氏)、来日。マジか。もうその日チケット取ってあるし※『オネーギン』目当て

 一応、わたしが確認する限りでは、彼は今まで所謂「頭Z」発言はしていません。今回に限らず、ボリ特有の内部のゴタゴタ権力闘争の際にも言葉選びが巧みで、どこにも角が立たない表現を使うので、ファンとしては割と安心して見ていられる人なのですが。それで一応セーフ認定、なのかな……?

 しかし、今回ではありませんが、ザハ様も来るそうじゃないですか、ザハ様は「Z」筆頭格だから、流石にちょっとまずんじゃないの?

 わたしはバレエに関してはボリショイのメソッドを愛してますし、ラントラートフ氏を贔屓にしているので、一人の客、単なるバレエファンとしては、ボリショイのボイコット解除は嬉しいです。しかし、この社会に生きる一人の人間、また政治ウォッチャーとしては、流石に必要な「禊」が済んでいないのでは? という気もします。

 わたしは単なる「ロシア人芸術家キャンセル」には強く反対の立場ですが、ボリショイがロシア政府とベッタリな関係であるのは周知の事実。「ロシアの」ではなく「ボリショイの」という冠が付くとき、選択は慎重であるべきであると感じます。実際、ボリショイのダンサーで「頭Z」発言をしている人はそれなりにいますので、取り敢えずその辺りは避けたら……? という気もします。

 

 いやしかしまあ~……贔屓観られるのは嬉しい……ですけどね。マーシャはマーシャで良いダンサーだと思うのですが、レパートリーにズレがあるので、彼女と組むと、彼の十八番演目にならないのが悲しいですが。もうソロでヴォランド踊ってくれない?

ていうかいい加減オネーギン観たいんですけど……、もうパリ・オペラ座の二人のは日本でも何回もやってるから良いじゃんか、ロシア組に回してくれよ……、と思いつつも、マーシャがターニャを踊らないので全く期待できないのであった。悲しみ。

 また『ライモンダ』とか言われたら天を仰ぎますよ。ジャンなら別に贔屓で観なくても全然いいんだわ。あなたの強みはドラマティックなんだ、それは自覚してるでしょう、演技をしてください、演技を。

 

 次回の記事は未定です! 書きたい記事は色々あるのですが、何から書けるかな!! 時間をください!!!

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!