世界観警察

架空の世界を護るために

東京大学歌劇団『エフゲニー・オネーギン』2025/01/26 - レビュー

 おはようございます、茅野です。

2025年、今年は『オネーギン』イヤーであります(なんでか知らんけど)。今年に入って既に3回目の生『オネーギン』です。早すぎる。まだ1月なんだけど。

 

 というわけで本日は東京大学歌劇団さんのオペラ『エフゲニー・オネーギン』にお邪魔しました。

↑ 学生団体まで『オネーギン』である。どうした、2025年?

 東京大学歌劇団さんの『オネーギン』にお邪魔するのは2回目です。前回も一応レビューらしき怪文を書いていますが、当時大学上りたてとかでテンションや文章が大変気持ち悪いことになっているので、読まなくて良いです。ほんとに、恥ずかしいから!

 ちなみにわたしが初めてできたロシアオペラクラスタの友人が前回の我らが麗しのタチヤーナ、ゆいさんです。大好きです(告白)。

 

 というわけで今回も備忘がてらこちらの雑感を記して参ります。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

 

キャスト

エヴゲーニー・オネーギン:岡本航(1.2幕)、藤本知宏(3幕)
タチヤーナ・ラーリナ:門上華子
ヴラジーミル・レンスキー:児山祥
オリガ・ラーリナ:西岡君恵
グレーミン公爵:田中拓風
プラスコーヴィヤ・ラーリナ:林茉美子
フィリピエヴナ:鞘脇みなみ
トリケ:佐々木竜也
ザレーツキー:安部健士朗
トリフォン・ペトローヴィチ:上柿空大
指揮:安部俊太郎
演奏:東京大学歌劇管弦楽団
合唱:東京大学歌劇団合唱団
演出:田中遼

 

雑感

 会場は所沢。遠いし! 行ったことないし! と思いつつ。片道約2時間掛かりました。まあ『オネーギン』にはそれだけの価値がある。

でもホール綺麗ですね。複数のホールが連なっているタイプで、同じ日の同じ時間帯に相互さんは大ホールにいた模様。そんなことある?

 

 パンフレットは、「タチヤーナ」「タチアーナ」や「オルガ」「オリガ」が混在しており、校正頑張りましょうというところ。「乳乳母」になってるし。そして全角キリル文字は禁止!!

 3幕が「数年放浪の旅」となっているのはいいですね。年齢論争回避。

 

 東大歌劇団さんでは『オネーギン』は5回目の上演とのこと。第60回公演とのことなので12回に1回、また創立32年目ということなので6年に1回やっていることになります。結構なペースですよね。

『オネーギン』は早口なロシア語や、チャイコフスキーに不可欠な表現力を求められ、難易度が高いとは思いますが、主要登場人物が皆若いことや、初演が学生団体であったことも相俟って、構成員が若い歌劇団に好まれる傾向があるのかもしれませんね。

 ところで、ラーリナ夫人役の林さんが初めて観た『オネーギン』ってどれだろう。気になる。

 

 プレトーク聞くつもりだったんですが、何故か30分からだと勘違いしていて殆ど聞き逃したのは内緒だ!

 

 開演前、何故かチェロがロココを練習していました。演出の都合で作中で挿入されたりするのかな(以前『こうもり』でレンスキー歌ってたし)とか深読みしましたが、別にそんなことはなかった。なんだったんだ。

 

 2分くらい押しつつ、それでは本編です。

 

第1幕1場

 序曲前から幕が開くタイプ。中央はザレツキーでしょうね。3回手拍子から。また、フィリピエヴナの孫が登場し、レンスキーの手帳をオネーギンに届けます。

 2人のオネーギンが出逢います。2人いると演出やりやすそうですよね。ROHのカスパー・ホルテン旧演出みたいあれは正直良いと思わなかったけど

 

 やっぱり序曲のテンポってこんなもんですよね? プロよりアマチュアの方に納得感あるのどうなん……?

 ホルン君、つい1週間前も書きましたが、そこでコケてはいかんのです……。重唱の冒頭もですが、ハープは安定していた印象。

 

 白樺4本のシンプルなセット。初めて『オネーギン』を観た人には「学生団体だから簡素なのかな?」と思われるかもしれませんが、『オネーギン』の美術、だいたいこんなもんです。シンプルで必要充分です。

 

 字幕は幕の内側の上部にある液晶に出るタイプ。舞台上部に液晶があるのは国外では一般的ですが、幕の内側ってちょっと珍しい気も。

この1幕1場の途中で1回消えてしまうハプニングがありました。歌詞覚えておけ……ってコト!?

 

 日本語圏、特に若い歌手あるある・ロシアオペラには声が軽すぎる問題はいつも通り発生しています。ロシアオペラが深く重い声を求めすぎともいう。10代~20代の設定だって言ってるのに!

 

 フィリピエヴナがリンゴを剥いています。カーセン演出やステパニュク演出などの多くの著名な演出で採用されているので、影響を受けているかもしれませんね。オペラだと第1幕は秋ですからね。

 

 重唱はフィリピエヴナの一人勝ちです。残酷なくらい声量に差があります。でも、途中からちりめんヴィブラートが気になってはきました。ヴィブラートに関しては、逆にターニャは幅が広すぎかも。いずれにせよ、ロシアオペラはもっとストレートな歌い方で大丈夫です。

 フィリピエヴナとずっと掛け合いになるラーリナ夫人はちょっと可哀想でした。農民への挨拶は声出てたので、これは比較対象が悪い(褒めてる)か。

 オケピが高い位置にあるのか、指揮は客席からもよく見えて、歌手にも逐一指示を出していてわかりやすそうでいいなと思いました。

 

 ターニャは声が軽い……っ! 主演を張るだけあって安定はしていますが、ロシアオペラのヒロインをやるお声ではないな……? せめてイオランタかな……。お衣装は可愛いです。

 オリガが10代前半にしか見えなくて心底ビックリしました。失礼に聞こえたら大変申し訳ないのですが、マジで小学生連れてきたのかと思った。お衣装・メイクと演技に対する100%の褒め言葉と受け取ってくださいお願いします。

それでコントラルトっていうのがまた、ね! これがギャップ萌えというやつか……? 最低音までそのまま張れたら尚良かった! 今回の主要キャスト組だとわたしはオリガが好きかも。

 

 字幕の話。княжня Полина は「お姫様」になっていました。始めて見た気がしますが、字数が限られた中での意訳としては割といいかもしれない。少女趣味だったこともちゃんと伝わるし。

 

 先唱は大分良いです。というか合唱は、1幕ではテノールの層が厚めな印象を受けました。

 これは全員に言えるところですが、ロシア語はまあまあ怪しいです。рученьки が「るーちぇんき」だとこんな締まらないものなんだな……とちょっと思った。ロシア語の母音は「深い」とよく言われますが、一番顕著なのが у で、こいつは日本語で言うなら「う」よりも「ぉう」くらいの気持ちでいるといいかもしれません。

 

 合唱は夫人とフィリピエヴナが登場する前から挨拶していてちょっとシュール。まあ歌詞と動きを完全に一致させるのは難しいよね~と思いつつ。

 

 人数が少ないからというのもあると思いますが、Вайну が今まで聴いた中で一番滑舌が良い……。この歌めちゃくちゃ早口なので、揃っているのは珍しいですね。ただ、やっぱりその分更に日本語の「あいうえお」になりがちなので、ロシア語的な深みがあると良いかもしれません。

 歌っている間は動きがほぼないのが勿体ないな~と思っていたら、最後踊ってました。たしかにこの尺を踊るのは振付的にも体力的にも厳しいのかもしれない。

 声量は結構あり、オケに負けませんね。

 

 合唱後、中幕をほぼ閉め、オリガのアリオーゾに。

行末の душе はもっと大切に言ってあげてもよいかも。このアリアは同じ音が連続するのが特徴で、それが逆に意外と難しかったりします。連続したときに埋もれないように意識すると尚よいかもしれません。

 最後の低音はめちゃくちゃ低いので、最低音は厳しかったか。頑張っていましたが。

 そしてわたしは拍手先導係です。我に続け。オリガとオネーギンのアリアの後は拍手をするのは義務教育で教えるべき。

 

 男性組の登場。レンスキーはかなりのレッジェーロです。レンスキーには軽いけど、こういうレンスキー知ってるな~、誰だっけ、と思って聴いていました。CD化されている中だと、ドラゴ・ストラクさんみたいなタイプ?このCDのポポヴィチさん、声はめっちゃオネーギンに合うけどナルシスト全開な歌い方が結構キモいので買わなくても良いよ

 アリオーゾ。ロシア語を頑張っているのはわかります。伝わっています。люблю は難しいよなー。なんでロシア語は love の発音がこんなに難しいんだ。愛す気ないんか。

 特定の音程を超えるともうそれ以上上にいかないですね。全幕を通してそうなので、逐一どこがどうとか書きませんけど。レンスキーそこまで音高くないと思いますが……。

 

 四重唱は意外と声量のバランスが良い感じです。一番後ろで聴いていましたが、とても良かった。

 今更ですが、オネーギンって四重唱の時もターニャに話しかける時も、入りが Скажи(те) ~ なんですね。なんか今更そのことを意識しました。四重唱の時の方がよかったです。

 

 オネーギンとターニャのの会話は妙にオケのリズムがくっきりしていて、それはなんかちょっとシュールに感じました。めっちゃノリノリ?

 1,2 幕オネーギンは主要キャストで一番ロシア語だった印象です。

 

第1幕2場

 字幕にトラブルが発生したこともあってか、暗転長めでした。

 

 2場序曲。低音ストリングスがんばれ~。ブツ切り感はないけど、旋律は結構切るタイプ。ストリングスの聴かせどころですが、逆に綺麗に揃わないと気持ち悪いんで、サクサク進んだのは正解かもしれない。

 この1幕2場序曲は、パンフレットでいうところの最も「脂ぎった」部分かと思うんですが、ちなみにわたしは逆に脂ギトギト極限マシマシがすきです。際限なく脂を盛って良いのはチャイコフスキーとラフマニノフの特権だからね。音楽で胃もたれしたい。

 

 フィリピエヴナは Что Таня が明瞭だと嬉しいですね。ターニャは спится で т が不在に。そして влюблена も難しいんですよね~。

 ターニャがフィリピエヴナの話をガチで聞いてなくて笑いました。文字通りのガン無視。エアギターならぬエア窓も登場。

 フィリピエヴナは十字を右から切りました。そうです!!

 

 さて、「手紙」です。前奏はもっとクレッシェンド+アッチェレランド掛けて盛り上がっても大丈夫かも。

 ここ(譜例赤四角)の降下が速かった。八分ではなく付点のリズムでした。まあこうやって歌う人結構いるんですけどね。理由は不明。


↑ 理由を知っていたら誰か教えてください。

 

 手紙の動機のホルンも頑張れ。オーボエは音は綺麗なんですけど、一回主旋律の途中で切れたのが勿体なかったな。

 字幕は手紙の内容を示す『』とか、心の内を示す()などががあってもいいように思いました。

 

 発音で気になる点幾つか。душе の е などが э になることがあります。また、сердца(格変化含)が苦手なのか、「しぇるちぇー」になっちゃいますね。あとは ся 動詞が ша になっちゃうところとか。

 

 Он все узнает! の後のピチカートはしっかり溜め。являлся 地帯の減速と弱音はとてもよかったと思います。

Нет, никому на свете / Не отдала бы сердца я! はブレス無しで一息に。

 Вот он 上げる派! 珍しい。わたしも久々に見た気がします。まあ確かに彼女は低音より高音の方が得意そうなので良いのではないでしょうか。

 

 書いた紙を投げ捨てます。いいのか。好きな人に届けるんと違うんか。

後方にオネーギンが登場。めっちゃ縋りついているし、クランコ版の「鏡」っぽさがあります。こういう演出だと起こりがちですが、しかし意外とアダルトな雰囲気にならないのが良いですね。『オネーギン』は全年齢なのが売りだからね。

 

 шепнул? の後はポーズ長め。この後がサビみたいなもんですからね(?)。

演唱というか、歌に表情が付くと尚良いと思います。「手紙」は曲想が途中でころころ変わりますし、長いので特にそう言えますね。盛り上がるところで盛り上がりたいです。

 

 укором が 「うこーろむ」になっていてちょっと思ったんですが、これってウダレーニエは укором じゃないですか。だからここの発音は о なのが本来正解なんですよね(平仮名にするなら「うこーらむ」)。でもロシア語ネイティヴの歌手も結構ここアーカニエっぽく а っぽい音で歌うじゃないですか、あれなんなんですかね? 求む有識者。二回目の о はアーカニエしよう。

 

 ターニャのいいところ。х がいます。英語などの Ah じゃなくてロシア語の Ах になっている。これとてもポイント高いです。他みんな見習って欲しい。

 牧童とホルンはファイト。

 

 А я-то? のセクションの静寂感とてもよかったです。気持ちいい。

 

 丁度いいところに歩いているオネーギン、演出上仕方ないですがあまりにも「丁度良いところに!」すぎてちょっと笑いました。彼に手紙を渡すお孫ちゃんも描写されます。

 チップくらい渡してやろうぜ、と思ったら持参のリンゴを食べていました。用意が良い。そしてそれはなんだ? おもちゃのラッパ……?

 

第1幕3場

 場の転換でお電話鳴ってましたね。上演中じゃないのでギリセーフ(?)。気を取り直して第3場。

 

 娘達は1拍目に重きを置いたステップで登場。一人良いアルトがいますね。ソプラノは合唱にしては張り切り過ぎちゃっている印象。もうちょっと調和を意識してもいいかも。

 

 Мне ваша искренность мила! / Она в волненье привела は繋げました。ここは一回文が切れるから必ずしも繋げなくてもいい気がするけど、多分この最後に息入れないとその次の давно で切れるだろうから、ここでもいいのか。なるほど。勉強になります。

 

 オネーギンのアリア。

最初の Когда に代表されるように、オネーギンのアリアはアクセントが語頭にあり、且つフレーズの中で音程が一番高いことが多いです。音楽も歌詞も頭高アクセントと言いますか。場合によってはちょっとつんのめって聞こえることもあるので、最後までフレーズをレガートに繋げることを殊更強く意識するとムラがなくなるかもしれません。

 オネーギンはエンジンが掛かってくると輝くのですが、登場する度にエンジンが毎度リセットされ、再点火するのに少しラグがある印象です。セーブしているのかな? Я вас люблю любовью брата~辺りからエンジン掛かってとても良くなりました。

 オネーギンとしては、声はもっと重くてもいいですが、全く問題ないと思います。мечты は上げる派でした。めっちゃ伸ばした。キマッてました。

 

 手紙を取り返そうとするターニャ。あげないオネーギン。やっぱりこの手紙を「オネーギンが後生大事に取っておいている」というのが大事ですからね。割と返しちゃったり破いちゃったりする演出ありますけども。ダメだよ!

 躱し方で彼女を子ども扱いしているようにも見えて、それもよかったと思います。

 

第2幕1場

 休憩を挟んで第2幕。

序曲冒頭はストリングスの切れ味鋭めです。ワルツではあまり加速せず丁寧に進めます。

 演出としては、上手前にオネーギンを配置するのが好きらしい。

 

 ここでの合唱はバランス的にもうちょっと高音が強いほうがいいかもしれません。

噂話好きの田舎のオバチャンたちが可愛すぎる問題(問題?)。ラーリナ夫人のドレスはカルメンカラーで、派手ですが可愛いです。派手なのも逆に田舎っぽさ?があるのかも。

 トリフォン・ペトローヴィチに群がる合唱の黄色い声が上手すぎてビックリしました。黄色い声ってこうやって出すんだ!

踊りはまたも二拍子です。これ、テンポ速いけどワルツなんで、6/8じゃなくて3/4だからな!

 振付は最後マズルカ風になりました。

 

 名の日の祝いでも本を持っているターニャちゃん。もう取り憑かれているな。

オネーギンへの悪口の字幕は「赤ワインしか飲まないらしい」になっていました。ここニュアンス難しいですよね~。字数もありますし стакан 要素は削除。

 

 オネーギンが怒っているのがよくわかります。オネーギンは怒っている演技が上手いです。でもオリガへの Прошу вас はもっと優しい方がいいです。口説こう。

 しかし、字幕! 「ウラジミール」はダメだろ。ヴラジーミルね。「ウラジミール」と言われたらこの動画を貼る習わしになっているので貼ります。


↑ 「ウラジミール」と言われる度にこの動画が脳裏を流れる呪いを掛けます。「このイントネーションだと間違っている」と思えばもう絶対に間違えないはず。

 オネーギンとレンスキーは、ちゃんとレンスキーが負けそうなのがいいですね(褒めてる)。

 

 レンスキーとオリガが揉めている時、後ろで腕を組んでドヤッているオネーギンが好きです。演技やってて楽しそう。

 オリガの напрасно の言い方が可愛かったです。でもその後の он очень мил の最後は л なので巻かないです。 р になっていました。彼はとっても世界……? 又は平和……? いずれにしても格変化は造格になると思う。

 

 トリケ、薔薇を咥えてきました。どうしても演者は若くなりますし、滑稽さの方向性がそっちに向くのは良いと思う。

Monsieur や toujour も「う」になりますね。やはり日本人 у とか u とか苦手なのかもしれない。フランス語訛りっぽくしようとしているのはわかるんだけどトリケの方がロシア語上手くね? みたいな瞬間もあって面白かったです。

 Brillez の入りは焦らずもっと遅くても大丈夫。二回ともフランス語でした。

 

 トリフォン・ペトローヴィチにトリケのクプレが回収されます。1幕3場のオネーギンとターニャの対比ですかね?

 コティヨンでトリフォン・ペトローヴィチのボディビルアピールタイムに。舞台上に気を取られますが、コティヨン自体の演奏は安定しています。

 

 レンスキーとオネーギンの口論。ここでめっちゃ減速します。音楽的には悪くないと思うんですが、レンスキーが息続かせるの大変そうだったので、歌手を思えばもうちょっと速くてもいいのかもしれない。

 なんかこの辺りはファゴットがよかったなと思いました。

 

 オネーギンの прав はもうちょっと明瞭でもいいですね。レンスキーの И сатисфакции я требую! は歌わずセリフ風に。

 

 В вашем доме。

レンスキーは м をしっかり「えむ」って言いますよね。ちょっと у が入っているように聞こえるかも? 前置格というか、与格? 「口をしっかり閉じる」くらいの気持ちでもいいかも。Но сегодня~ で音程ちょっと揺れました。

 字幕は「恥ずべき誘惑だ!」となっていましたが、соблазнитель なので「誘惑者」かと。まあ一字抜けちゃったんだと思いますが。

 

 重唱はオリガが一番響く珍しい現象。でも「スーパー聖徳太子タイム」はカットでした。

 オリガはレンスキーに3回も投げ飛ばされて転んでいてとても可哀想でした。ドレスにパンプスだし、お怪我がないか普通に心配です。そんなDV彼氏振ってしまえ!振るまでもなく翌日死ぬけど)。ここでの二人の演技は、演出や歌手によって様々ですね。

 

 今回思ったのは、オリガが幼いと、レンスキーの滑稽さが際立ち、オネーギンへの感情移入が進む、ということです。風が吹けば桶屋が儲かるシステム。

オネーギンは二人の恋愛を、幼稚園児の「あたしおおきくなったらヴラジーミルくんとけっこんするの~!」のテンションだと思っているのだろうな、ということがわかりやすくなります。オネーギンがイジワルな性悪男ではなく、「近所の子ども達のおままごとに付き合ってあげてる面倒見のいいお兄さん」に見えます。

 

第2幕2場

 暗転長めです。手元見えるのは有り難いけど

序曲。ペットは弱音を頑張っていました。チェロはやっぱりそれくらい旋律繋げた方がいいですよね。

 

 幕が開くとオリガが中央にいて、スポットライトが当たります。その周りをレンスキーが彼女を凝視しながら一周歩く形です。今回の演出、序曲での描写が上手いですよね。

 

 レンスキーのアリア。

Куда はやはり у がもっと深いといいですね。дни? はあんまり伸ばさず短め。

 そんなに高くない五線譜真ん中辺りだろう、という音も音程が上がりきらないことが増えてきました。がんばれ。

最後の моей весны は一息で。

 後ろにもう一人のレンスキー? 登場。最初トリケかと思ったけど。新国の呪い

 

 パンフレットや字幕では「ギロ」って書いてありますが、ギロは違くないですか? 本来は Guillot なので、フランス語読みするなら「ギヨー」だし、ロシア語表記だと Гильо で、 ь が入っているから「ギリオ」になるはずです。ь が入ると、その前後の子音と母音が分離されます。忘れちゃダメだぞ!

 

 演出の都合なんでしょうけど、声の飛び方を考慮するとザレーツキーはもっと前で歌わせてあげていいかも。まあ射線上にいると問題なんで、少し下がっているのはわかるんですけどね。

 

 二重唱。

Враги! の入りは緊張感あってとてもよかったと思います。

 オネーギンは二重唱に入ってからエンジン掛かってきた感じです。相変わらず怒る演技がお得意そうな様子。バリトンには重要なスキルかもしれません。

 完全に重なる Не засмеяться ль нам~ はもっとじっくり聴かせてくれていいですね。サクサク進みすぎた印象を受けました。死に急ぎレンスキー。

 

 ザレーツキーちゃんと手拍子の音出てました。これ意外と大変だよね? っていつも思います。

これは多くの演出でそうですが、彼の手拍子に合わせて「位置について、構え、撃て」ってしないことが多いですよね。なんのための手拍子やねん、とか思いますけども。

 

 決闘では、ストリングスがトレモロで旋律を繋いでいくところでわざとリズム崩しているのが凄く素敵だと思いました! その解釈いいな、好きです。

 レンスキーは撃つ気ない派の演技でした。いつも思うのですが、ザレーツキーは死亡確認したほうがいいよ。何の根拠もなく Убит! って言っちゃう系ザレーツキー。

 

 最後にターニャが来ます。オリガは来ないんか。

 

第3幕1場

 休憩を挟んで第3幕です。

演奏前に幕が開くタイプ。レンスキーのお墓(!)があり、ターニャ? とオリガがお墓参りにくるところからスタート。

 そのままポロネーズが始まるので、ポロネーズをペテルブルクの舞踏会にしないのか!? と思ったら、いつの間にか舞台が変化する面白い仕様でした。

 オリガが男性に手を取られ離脱し、これは明らかに「結婚」を意味しています。最後までターニャは行き遅れ、夫人がうろうろとして彼女を心配していることを表します。最後にグレーミンに手を取られ、彼と結婚したことを示します。面白い! たぶん原作7章未読勢にも伝わっていると思う。原作ファンにはやりたいことよくわかりました。

 

 チェロが旋律を取るところでオネーギンが登場。この男は大体低音と共に出てきます。レンスキーの墓にコートを掛けてやり、オリガよりよっぽど引きずっていることを表します。亡霊レンスキーが実際に登場するのも独白の歌詞準拠でしょう。

 

 主題が再現され、従来通りのペテルブルクの舞踏会に。これで物語の経過を示しつつ、ダンスの振付のコストカットをしているのシンプルに賢いなあと思いました。とてもアリ。

 また、ドレスが喪服→舞踏会の黒と揃っているのもお洒落ポイント。ポロネーズの伝統的な演出では、ドレスの色を白か黒に統一することが多いですからね。しかし時代考証的に考えると、黒って非常に珍しいですよね。何故黒ドレスの演出が流行ったのかよくわかりません。シックでカッコイイ印象があるからかな。それとも、「黒の舞踏会」モティーフなのかな? 時代がちょっとズレてるけどな……。

↑ 違うオペラになぞらえて遊んでますが。

 

 オネーギンは1.2幕と3幕でキャストが違います。何故。

3幕オネーギンは、三島先生が仰るところのロシア語ほわほわ部員です。この表現大好きすぎる。「ふわふわ」とか「ぽわぽわ」じゃなくて「ほわほわ」っていう擬音があまりにも的確すぎる。

 子音不在というか……なんか ф っぽい音になることが多いのが興味深かったです。例えば、Как が Каф になると言うか。イヤリングの一種?

わたしは歌詞を覚えているので、歌詞が抜けちゃっているわけではなく、ちゃんと歌おうとしていることはわかるんですけど、それは脳内で補正を掛けているからであって、歌詞を知らない人が聞き取れるか? というと……、という気がしました。

 音域的には合っている感じしますけどね。独白の最後はちょっと入りが速く、あれ指揮者驚いたんじゃないかな。

 

 エコセーズでは再び亡霊レンスキーと、昔のターニャがいます。後者はクランコ版っぽいですね。この間のシュトゥットガルト観に行ったかな?

昔のオネーギンもいます。この辺り、演出やりやすそうですよね(2回目)。

 

 ターニャはラズベリー色のドレス。いいですね。でも字幕の「公妃様」はちょっと違くないか? という気も。まあ княгня なので間違いではないですが、「公妃」だと公国の主の妻みたいですよね。普通に「公爵夫人」でいい気がします。

 新国では演出に合わせて歌詞を変え、合唱の " Вот та, что села у стола. " が " Вот та, которая пошла. " になっていた問題について過去のレビュー記事で書いていますが、今回は「座って」いないのに歌詞はリブレット通りでした。

リブレットを書き換えるのは嫌いなので、全くそのままでよいのですが、だったら歌詞に合わせて座らせておいたほうがいいのかな、という気がしますね。

 

 衣装は一緒ですが、一応スペイン大使はいるらしい。

 「手紙」の時も書きましたが、字幕に心の内を示すときはは()があってもいいですね。

 

 グレーミンのアリア。声量あります。

в сиянье ангела лучистом の低音と、Тоскливо жизнь の高音は辛そうでしたが、王道的なバスですね。この曲はどうしても一本調子になりがちなので、意識的に緩急や演技を付けると尚よいかも。

ちょっと走りがちになることもありましたが、安定しています。

 

 ターニャはしっかり演技をしてくれます。

ターニャは3幕からちょっと語尾がイタリア語訛りになります。まあ普段はイタリア語をメインに歌われているんだろうけど……。ソフィー・エルカー・イェンセンさんも3幕になるとデンマーク語訛りっぽくなってしまっていたので、ターニャは3幕でロシア語集中力が力尽きがちなのかもしれない。

 

 オネーギンのアリオーゾ。

надежде が「なじぇーじぇー」になっちゃったり、мечтой が「めちぇーい」になっちゃうのが気になりましたが、張るところは張りました。

 

 最後はエコセーズなしの初演版。やっぱりこっちだよね~! わかる。

オネーギンが床を机にして手紙を書きます。ちゃんとオネーギンが手紙を書くシーンも入れてくれるのは嬉しいですね。一方で、動きが結構激しいので、音楽に集中できず舞台に気を取られがちになるという側面はあるかも。

 

第3幕2場

 序曲はピチカート鋭め。

オネーギンが入ってくる前の盛り上がりはとても良かったです。

 

 二重唱。

ターニャは何故かちょっとイタリア語風になっていますが、オネーギンの方が「イタリアの風」は感じるかも。気温下げてこ!

 それでもターニャは3幕のほうが合うタイプかな~と思いますね。

 Онегин はもっとアーカニエ強めで「ニェーギン」でもいいかも。スペルとカタカナ表記に引っ張られるのはわかる。

 

 オネーギンは Ах! О, Боже! 、ターニャは Ах! Счастье было так возможно, や  Я вас люблю などの見せ場が決まりました。

オネーギンは я так наказан がちょっと音低かったのと、Тебе другой дороги нет! などの高音でコケちゃいました。早口は頑張っていましたけどね。

 オーボエやオネーギンが出遅れても棒は辻褄合わせてくれます。

  最後の Прощай навек はちょっと音程高かったかも?

 

 この二重唱のことはバトルだと思っているので、いつも「オネーギンとターニャ、どちらが勝ち(どちらの演唱により説得力がある)か?」というのを気にしているのですが、この二択ではターニャだと思うんですけど、最後はティンパニが全部持っていきました。勝者、ティンパニ!

 

 演出が不思議で、立ち去ろうとするターニャが一度戻って、オネーギンを抱き締めたところでグレーミンが帰宅します。それは……それはどうなんだ?

 彼女に抱き締められて、それをグレーミンという他者(しかも彼女の夫)に認識されたというのは、ある種オネーギンの部分的勝利な気がするんですよね。それってほんとに Позор, тоска かなあ、と思いました。歌詞に合わせるならオネーギンの全面敗北でいい気がするんだよな。この場合で言うなら、ターニャに思いっきり踵を返されるところをグレーミンに見られるとか。

 

 カーテンコールでは、最後に順番を間違えるオリガちゃんが可愛かったです。

 

 こんなところでしょうか!

学生団体でこのクオリティなら充分だと思いますし、全幕観られて大変満足しました。ありがとうございます。アマチュアのレビュー書き慣れていないもので、無礼だったり辛すぎたり感じたら申し訳ないです。オタクの戯れ言なんで気にしないでください。わたしは『オネーギン』やって貰えるだけで嬉しいんだということは強調しておく。

 また『オネーギン』上演してくださいね! 宜しくお願いします。必ずやお伺いします。

以上!

 

最後に

 通読ありがとうございました。これでもかなり削ったのですが、1万2000字強。上演中にB5サイズのメモ15枚取りましたから、まあそういうことにもなります。書き起こすだけで大分時間掛かったわ……。

 いつも通り「細かすぎて伝わらない選手権」と化しましたが、何か得るところがあれば嬉しいですね。

 

 次回の記事ですが、またレビューです。上演期間終わっちゃうと思って、もう『トスカ』観ちゃったんですよ! 溜めております。書かねば。暫しお待ちくださいませ。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです。