世界観警察

架空の世界を護るために

新生イディッシュ語音楽グループ「The Mamales」の話

 おはようございます、茅野です。

結局わたしは書くのが好きなんだなと実感しているここ数日です。毎日1万字チャレンジ。

 

 さて、今回は、珍しく音楽の中でもポップスの記事です。普段はオペラの記事ばかり書いているのですが……。

ちょっと素敵な音楽グループを発掘してしまったので、是非ともご紹介したいと思いまして……!

 

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

発見の経緯

 最近、ユダヤ関連の芸術をリサーチすることが増えています。

切っ掛けは、『Paradise Lost』というポーランド製のゲームを遊んだこと。わたくしは普段ゲームの考察書きをしているのですが、この第二次世界大戦が舞台の難解なゲームを考える上で、音楽に関してもリサーチを掛けたことが始まりです。

↑ 初めて調べて、とっても勉強になりました! 良いゲームです。

 この中で、イディッシュ語の歌(作中ではインスト版ですが)が出て来るのですが、最近はそのリサーチをしておりまして、イディッシュ語の歌を色々調べておりました。

 

 他にも、National Theater Live さんの演劇『リーマン・トリロジー』を見て、ハマったこともその理由の一つ。

リーマン・ショックで悪名高い投資銀行リーマン・ブラザーズの創業一家は、ユダヤの家系。原作となる戯曲では、ヘブライ語が沢山でてきます。今、いちいち調べながら読んでいます。

↑ 「名作」「傑作」の代名詞。素晴らしい。

 

 個人的には、フランス語圏を専攻にしておりましたし、アラブの政治を研究していたので、ドイツやユダヤ(というよりイスラエル)についてはあまり好意的に語れてこなかった為に、それに引っ張られて無意識にも敬遠していた側面があるのだと思います。

それは、学生として望ましい姿勢ではないのですが、やはり読んできた文献が与える強い影響力というのは感じていて、それを否定することはできないと思います。従って、一度きちんと向き合って、勉強しなくては……と考えていた矢先でした。

 そんな中、イディッシュ語で歌う魅力的なグループを発見した……というのは、個人的にはとても嬉しい出逢いでした。

 

The Mamales

 取り敢えず、このコンセプトビデオ(MV)をご覧になって下さい!

 め、めちゃめちゃよくないですか!? 何よりも楽しそうなのが最高すぎます。元気になる。

 歌が上手いのは勿論のこと、MV の趣味が良すぎる。ポップでキュートでセクシー。動きが音に合っているし、洒落ています。

 

 彼女たちは、「The Mamales」というグループで、結成は丁度一年前(2021年夏)なんだとか。

 コンセプトは以下の通り。

A singing trio for the grandparents 
#MakeYiddishSexyAgain 

ドナルド・トランプなのか小泉進次郎なのか……

 

 三人とも美女ですし、歌も上手くて、動画慣れもしていて、「只者ではない……」と思っていたら、実際タダモノではありませんでした。

元々、三人はミュージカル俳優さんなんだとか。プロだ……。道理で……!

左:ラケル・ノビレさん (31)。

中央:ジョディ・スナイダーさん (29)。

右:マヤ・ジェイコブソンさん (26)。

 

 三人はニューヨークのイディッシュ系の音楽イベントで知り合い、このグループを結成したそうな。出逢いに感謝!

 

 三人のうち、ラケル・ノビレさんはユダヤ人ではなく、プエルトリコ及びイタリア系ですが、イディッシュ語とその文化に惚れ込んで、参加を決めたのだとか。

また、彼女はオペラ歌手でもあることから、イディッシュ語のディクションもしっかり勉強されたそうで。実際、歌の講師として生徒にレッスンしている動画を投稿したりもしています。強い。

↑ こちらはオペラではないですが、ソロ歌唱の例として。オペラも聴いてみたい。

 

 ジョディ・スナイダーさんは、演劇・ミュージカルではコメディ系の役を得意としているようです。確かに動画でも、表情といい完璧です。

↑ ソロ歌唱ではこんな感じ。

 

 マヤ・ジェイコブソンさんは、三人の中では一番の若手ですが、恐らくはリーダー的な存在と見られます。肝が据わっていて、人の目を引き付けるパフォーマンスは、同年代として末恐ろしさを感じますね。

↑ この舞台慣れよ。

 

 三人とも良い……。

 

Abi Gezunt 

 三人が歌っているのは、『Abi Gezunt(元気でさえあれば)』という歌で、元々は古いイディッシュ語の歌です。こちらを現代風にカヴァーしている形ですね。

 

 動画には英語字幕も出ていますが、歌詞は以下の通り。ネット上に幾つか転がっている英訳を見比べて参考にしながら邦訳してみました。イディッシュ語のアルファベット転写も置いておくので、発音の参考にどうぞ。

A bisl zun, A bisl regn,
A ruyik ort Dem kop tsu leygn,         
Abi gezunt, Ken men gliklekh zayn.
A shukh, a zok, A kleyd on lates,
In keshene, A dray-fir zlotes,
Abi gezunt, Ken men gliklekh zayn.         
ちょっとの晴れ、ちょっとの雨
静かに頭を休められる場所
元気でさえあれば、幸せになれるよ
靴に靴下、継ぎのない服
ポケットの中に3ドルか4ドル
元気でさえあれば、幸せになれるよ

Di luft iz fray Far yedn glaykh.    
Di zun zi shaynt Far yedn eynem, Orem oder raykh.
A bisl freyd, A bisl lakhn,     
Amol mit fraynd A shnepsl makhn,
Abi gezunt, Ken men gliklekh zayn.
空気は誰にだって平等だし
お日様の光も誰にでも降り注ぐ
貧しい人も、豊かな人も
ちょっと遊んで、ちょっと笑って
友だちと酌み交わして
元気でさえあれば、幸せになれるよ

Eyner zukht ashires    
Eyner zukht gevures,
Aynnemen di gantse velt.
Eyner meynt dos gantse glik
Hengt nor op in gelt.
Zoln ale zukhn,
Zoln ale krikhn,
Nor ikh trakht bay mir,
Ikh darf dos oyf kapores vayl     
Dos glik shteyt bay mayn tir.
ある人は金を求め
ある人は富を求め
ある人は―――全世界を
他の人は、完璧な楽しみは
お金に依拠してると思うみたい
彼らには求めさせればいい
平伏させておけばいい
でも、私自身の考えでは
そんなもの必要ない だって
幸福は、私のドアの前に立ってるから

 良い歌だ……。

 

 原曲は映画『Mamele(小さなお母さん)』(1938)の劇中歌。現代版の『シンデレラ』のような作品だそうです。

 イディッシュの名優として知られるモリー・ピコン(Molly Picon)氏の歌唱によって大ヒット。

↑ 確かにシンデレラっぽい。

 彼女たちのグループ名、「The Mamales」というのも、この映画『Mamele』のオマージュのようです。

 

 それを、Barry Sisters という二人組がカヴァーしたことでリバイバルヒット。二回目の波が来たとのことです。

 「The Mamales」の三人は、もう第二の波も終わったことだし、またこの『Abi Gezunt』を誰かがリバイバルヒットさせるべきだ! と感じ、名乗りを上げたのだとか。いいぞ~~。

 

 ちなみに、この『Abi Gezunt』は、前述の記事でも簡単にご紹介した、「Mischpoke」というグループもカヴァーしています。

こちらも楽しそうで大好き。

↑ このサムネイルが好きすぎる。美しいヴォーカルのマグダレーナさんの瞳孔がちょっと怖いには怖いんですが……。

 「Mischpoke」さんも気に入っていて、CD を手に入れたり。今度は彼女たちについても纏めたいですね。

↑ 良いアルバムです。

 

 「The Mamales」は結成から日が浅く、発表している楽曲も今は『Abi Gezunt』のみ。正に今後が楽しみなグループです! はやく CD を出してくれ。

まだ知名度も高くなく、当然といえば当然ですが、主にユダヤ人コミュニティでしか知られていない存在とも言えます。

もしかしたらわたくし、日本人のファン第一号かもしれません……。今後皆に愛されるグループとなると、こちらも嬉しいですね!

 

最後に

 通読有り難う御座いました。4000字ほど。

 

 調べていて知ったのですが、「イディッシュ語はおじいちゃんおばあちゃんの言語で、古めかしくてダサいと思っていた」というような意見が大半なのですね。

それゆえに、彼女たちは「そんなことはない、イディッシュ語は現代的でセクシーだ!」ということを周知させたかったのだとか。素晴らしい心意義だ。応援したい。

しかし実は、わたくし自身はイディッシュ語やその文化とのご縁がなさ過ぎて、「古めかしいもの」として受容されていたことすら存じ上げませんでした。今後勉強して参りたいと思います!

 

 普段ポップスはほほぼ全く聞かないので、新しい界隈に足を踏み入れた感覚があって楽しいです。民族音楽には関心があるので、こういった民謡と申しますか、一つの文化に強く根付いた歌を歌うグループは色々追いかけたいですね。

オススメの推しグループなどあれば是非とも教えて下さい!

 

 それでは、今回はここでお開きにしたいと思います。また別の記事でお目に掛かれれば幸いです!