世界観警察

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ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステ オペラ・アリア・コンサート - レビュー

 こんばんは、茅野です。

六月はもう間近という事実にも戦慄が走りますが、梅雨入りとの報に目眩が致しますね。早くない??

 

 先日は、ディアナ・ダムラウ&ニコラ・テステ  オペラ・アリア・コンサートにお邪魔していました。5月23日ソワレの回で御座います。

↑ テーマは『Kings and Queens』とのこと。王冠持ったお写真、わざわざ撮ったんでしょうか。写り、もうちょい盛れる気がするけどな(?)。

 

 普段、このようなコンサートはそこまで行かないのですが、まあ曲目をご覧頂ければ馳せ参じた理由もご理解頂けようというものでして……。

↑ なんかいる!!?

 普段から「東京で『オネーギン』を上演しているところに茅野有り」と公言してしまっているのでね、逃げられなかった……。

 

 幕間には、尊敬する三島先生に会うことができて感激です。先生のレビューを読めばこの記事を読む必要は全くないので、こちらから飛んでくださいまし。

↑ 辛口さとユーモラスさのバランス最高すぎませんか?

 

 それでも一応、ちょっと時間が経ってしまいましたが、備忘がてらに雑感を記しておこうかなと思います。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

 

出演者

ディアナ・ダムラウ

ニコラ・テステ

指揮:パーヴェル・バレフ

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

 

雑感

 オペラ識者な友人があまりダムラウ氏を評価しておらず、「行くの? わざわざ?」と訊かれるところからのスタートでした。

チケット代が高騰していたので、わたし自身少し迷ったのですが、「東京で『オネーギン』を演っていたら行かなければいけないことになっているので……」、と返答しました。

「オタクって大変だね。」との答えを得ましたが、然り、しかし然ればこそオタクなり。

 

 広報を見る感じ、席の売れ行き宜しくないのかなー、と思っていたら、やはり空席目立ちましたね……。わざわざ来日してくれたのに申し訳なさを感じつつ、席高ぇからな……とも思いつつ

プログラムは、こういうコンサートにありがち(?)な、有名どころの超絶技巧パレードというわけでもなく、結構マイナーどころも拾っている印象です。いや、『オネーギン』はマイナーではないのですが、断じて(強調)。

しかし、少し調べればわかることですが、基本的にお二人の十八番な曲であるようです。いや、全然構いませんけれども。得意なことで魅せてくれ。

 

 今回の個人的な主眼は、勿論『オネーギン』で御座います。ダムラウ氏じゃないんかい、という話ですが。

グレーミンのアリアは、何と申しますか、完全に一曲として独立しているので、発表会とかコンサート向きですよね。演技もそこまで要らないし。

 

 まずはパンフレットに関して、三島先生に指摘されて気付きましたが、『Everyone knows love on earth』はちょっと意訳しすぎなのでは!? というか最早誤訳の領域なのでは?

Любви все возрасты покорны ……ですよね? Everyone ≒ все , love ≒ любви はいいとしても、 knows と on earth はどこから現れたんだ。

……と思って調べてみたところ、どうやら、ソ連のバス歌手マクシム・ミハイロフ氏の CD でこのように訳されたことが初出のようですね。

↑ CD の発売は1997年ですが、録音は恐らく1940-50年代と推測されます。

 では、普段はどのように英訳されているのか、という話なのですが、例えば、かの有名なヴラディーミル・ナボコフ訳では、« All ages are to love submissive » になっています。字幕だと、« All ages are subject to love » とか、« To love all ages are obedient » とか、« All ages are susceptible to love » とかだったりします。こちらの方が誠実な訳だと思いますけどね。

日本語だと、今回のパンフレットにもある『恋に年齢は問わぬもの』とか、『恋に齢は関係なく』みたいな表記が多いかと思いますが、英語だと定訳みたいなものはないんですかね。

ちなみに、英語歌唱版だと « The gift of love is rightly treasured » です。

↑ 英語版の歌詞に関してはこちらを参照下さい。

 

 歌唱に関して。前述のように、グレーミンのアリアに然程演劇的要素は要らないので(あくまで比較の問題)、概ね直立不動タイプのテステ氏には良かったのではないでしょうか。まあ、それでものっぺりしすぎているとどうかな、と思いますけれども……。もう少し表情付けはあった方がよいかもしれません。

 非常に深くて良い声をお持ちです。バスの中でもここまで深いと、低音重視なロシアオペラの中に混ざっても埋もれないでしょうね。オペラのグレーミンの「老年の貫禄ある将軍」というイメージにも合うのではないでしょうか。

 最初のトマの時、「おおっ、流石フランス人、フランス語がきれいだ!」と思いましたが、ロシア語は「まあ母語ではないのはわかるな」というくらい。全然綺麗でした。

 オネーギンへの呼び掛けについては、三島先生も指摘されていましたが、確かにもうちょっと色付けが欲しかったですね。というか、めちゃめちゃ Онъегин だったな……ここで一回切れてましたよね絶対……。

どうでもいいですが、« On egin » はバスク語で「召し上がれ」という意味です(曰く、リエゾンするのか、発音も「オネギン」らしい)。そのせいで、リサーチしていると、頻繁に飯テロに遭います。召し上がりたい。

 

 今回、ホルンがかなり不調。グレーミンのアリアは冒頭からホルンとの掛け合いになるので、前半から「これグレーミン大丈夫か?」と不安に思っていました。案の定、あんまり大丈夫ではなかった。

 ホルンは金管楽器の中でも特別難しいと伺うので、苦労は色々あるんだろうなあと思いつつ、でももう少し踏ん張って欲しかったですね、はい。

 サントリーホールは恐ろしく音が響くので、共鳴すれば最高ですが、ミスとか、嫌な雑音もまあそれはそれは響くんですよね。恐ろしいホールです。

 

 しっかし、ソプラノとバスの夫婦って珍しいですよね多分。いえ、わたしが無知なだけで実は沢山いらっしゃるのかもしれませんが……。

基本的に、出演者のプライベートに全く関心がないので、お二人が夫婦であるということも今回で初めて知りました。

以前、ニコール・カー氏(ターニャ)とエティエンヌ・デュピュイ氏(オネーギン)が『オネーギン』で夫婦共演していましたし、折角だしダムラウ様もターニャ歌って共演したらいいのに! と思いつつ。グレーミンさんとタチヤーナ、結婚するし。タチヤーナ・ディミトリエヴナ・グレーミナさんだし。

↑ 夫婦共演時のレビュー。別に大したことは書いてません。

 まあ、ダムラウ氏の声質的に、ターニャは絶望的に合わなそうですけれども。でもまあ、謎の化学変化が起こるかも知れないし(?)、ターニャ歌いはなんぼいてもいいのでね……(?)。

 

 タイトル誤訳問題といえば、『ドン・カルロ』の『ひとり寂しく眠ろう』も、日本語怪しいですよね。「眠ろう」っていうか、これ逆に不眠症ソングじゃないですか。

オペラの登場人物って夜起きてる率高いですよね。『オネーギン』にしたって、第1幕、第2幕共に第2場は深夜~早朝ですし。なんか夜の方がロマンティックな感じするんですかね。

 『ドン・カルロ』は個人的にも好きなオペラなので、取り上げて貰えて嬉しかったですね。特に、低音に自信ありなバスならば、フィリッポ王は合うのではないでしょうか。

 『ハムレット』の方の、最後の les rois! の所の低音も(よりによって歌詞 rois なんですね)安定していて流石。もう少し声量欲しいですが。

 『ひとり寂しく眠ろう』は、前半の美味しいところを割とオケが持って行っちゃうタイプの曲ですので、もう少し自分達が主役であることを強調してもよかったかもしれません。

 

 さて、そろそろ本来の主役のことを書かねば……。

 生粋のコロラトゥーラで、軽やかな歌唱をいとも容易く颯爽と歌われるダムラウ氏。普段ロシアオペラ、特に『オネーギン』ばかり聴いていると、コロラトゥーラを聴く機会って殆どないので、それだけで少し新鮮でしたね。それでいいのかという感じもしますが。

 

 今回のプログラムで一番珍しいものは、『マリア・デシスラヴァ』より『偉大なる神よ、私の願いを聞いてください』でしょう。

 前日に、プログラムされている曲を予習用に垂れ流していたのですが、「ん、待てよ、 Боже мой とか言ってない? 『オネーギン』以外にロシア語歌唱の歌あったっけ!?」と思ったら、こちらでした。

 ダムラウ氏ってブルガリアにルーツがある方でしたっけ? と思ったら、そうでもない模様。単純に多言語を歌いたかったそうです。それはよきことです。是非ともロシアオペラも宜しくお願い致します。ダムラウ氏みたいなコロラトゥーラに合うロシアオペラの役ってなんでしょうね。何が一番合うと思います?

 

 なんとなくわかりそうでわからないブルガリア語歌唱。祈りの歌で、シンプルだからこそ地力が試されます。

 後半の『清らかな女神』も祈り系の歌(?)なので、聴き比べが楽しみだな~と思っていたら、『清らかな女神』の方は大分方向性違う感じで来ましたね!?

うーん……それこそ、この曲は『偉大なる神よ、私の願いを聞いてください』みたいな歌い方で良かったと思うのですが。

ピッチが低く聞こえる、地声に近い歌い方で、個人的にはあまり好きになれなかったなあ……と思っていたら、凄い拍手喝采で驚きです。『清らかな女神』歌ったら取り敢えずブラーヴァすればいいとおもってるだろ逆に、誰も知らなかったのか(?)、『偉大なる神よ、私の願いを聞いてください』の方は拍手のタイミングを掴みかねていた様子。

 なんかたまにあるんですよね……、「この人の声質なら絶対にこの曲(役)は似合うだろう!」と思うと、謎に普段とは異なる歌い方をされて、「あれっ……こんなはずでは……」となる現象。今回それでしたね。ちょっと悲しい。

 

 無学にして、ブルガリアのオペラは初めて聴いたので、良い入門になったと思います。今度フルで観てみたいですね。東欧・北欧オペラ開拓したい。お勧めを教えて下さい。

 

 唯一の二人の掛け合い、『私のタルボ!』は、ずっっと飴の袋(?)の雑音と、お隣の席の方が咳き込みまくっていたので、全然集中力保てず。すみません。サントリーホール、響きが良すぎるので、客席の雑音もバカみたいに響きます。想像の50倍くらい響いてます。気をつけましょう。

 それにしても、ソプラノとバスの重唱って珍しいですよね。他何があるんだろう。5つ挙げよ、走って!

 

 後半はプログラム短めだなあと思ったら、たぁっっぷりアンコールを歌って下さいました。長い!! そこまでやるならプログラムに書いておけば良いのに! いや、アンコールというかサプライズですねこれは。

 以前、某アンナ・ネトレプコ氏がアンコールの件について発言し、「反露派」な方々に曲解されて炎上しておりましたが(この件は単に誤読、そうでなければ言い掛かりなので、まず日本語とロシア語の勉強をされたらいいと思う)、今回でなんというか、「まあ彼女がそういう発言をするのもわからなくはないな」と思ったりしました。

これを後味が良いと思うか、悪いと思うかは人それぞれでしょうね。

 

 夫婦というだけあって終始二人が仲睦まじく愛らしく、こちらも自然と笑顔になるような素敵な公演でした。

最近妙に物騒になりつつありますし、政治もなんだか訳わからないことばかりやっていて眉を顰めるばかりですが、お二人には日本を楽しんで帰って貰いたいですね。

 

最後に

 通読ありがとうございました。5500字程。

 

 なんだかバタバタしていてレビュー記事が溜まってしまって焦っているのですが、脱稿できてよかったです。

わたくしがグズグズしている間に、三島先生が二日目のレビューを投稿して下さっていました。

↑ 二日目の方が良かったようで……。

 こちらの方が高評価だったのが、一日目にしか行っていない民としては寂しいところではありますが! 致し方なし!!

 

 次もオペラのレビューを書かねばと思っております。新国立劇場の『サロメ』です。

↑ 書きました。こちらからどうぞ。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです。