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パリ・オペラ座バレエ『ル・グラン・ガラ2023』Bプログラム - レビュー

 こんばんは、茅野です。

いきなりですが、こちらは Twitterスクリーンショットです。 

 そんなことある?

皆様、言及ありがとうございます。一生『オネーギン』の話をしてください、宜しくお願いします。

 

 昨日はマチネから連続、梯子して、パリ・オペラ座バレエ団ル・グラン・ガラ2023Bプログラムにお邪魔しました。

 

 同日マチネ、Aプログラムのレビューはこちらから。↓

↑ 1時間半でレビュー執筆タイムアタックを行い、6500字ほど。速さだけが売りの物書きです。

 

 まさかの連続『オネーギン』で御座います。こんなことになろうとは。『オネーギン』オタク大歓喜である。ありがとうございます。

 

 今回も、『オネーギン』を中心に雑感を記して参ります。それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

出演者

ビアンカ・スクダモア
トマ・ドキール
レオノール・ボラック
マチュー・ガニオ
アマンディーヌ・アルビッソン
フリーデマン・フォーゲル
リュドミラ・パリエロ
オードリック・ベザール
ドロテ・ジルベール
ユーゴ・マルシャン
クララ・ムーセーニュ
ニコラ・ディ・ヴィコ

 

雑感

『オネーギン』

 やはり「手紙」の方でしたね!

前回の記事にも書いたように、ガニオ氏 × アルビッソン氏ペアは、ちょっと「鏡」は難ありに見えたので(沢山の人がこの役にチャレンジして下さるのは嬉しいのですが、定められた振りが全うできないのに持ってくるんか……という気持ちは多少あった)、「手紙」かなあとは思っていましたが、実際に音楽鳴り始めるまでドキドキでした。前曲から幕が下りた直後から手汗が凄いことに。

 「鏡」と「手紙」は、クランコ版『オネーギン』の二大見せ場ですが、バレエの技巧的な(≒ガラで求められるような)見せ場が多いのは圧倒的に「鏡」なので、元のプログラム通り「手紙」のみだと、少し消化不良だったかもしれませんね。Aプログラムの演目変更に感謝。

 

 以前も演目の変更により、一つのガラ公演で「鏡」と「手紙」が両方行われたことがあります。

↑ 当時の記事。

 この際、カーテンコールで伝説の「タチヤーナハーレム」が発生。

今回も、オネーギンとターニャのうち、片方が同キャスト / 片方が別キャストで「鏡」と「手紙」をやったので、前回の逆版、つまり両手にオネーギンを見てみたかったのですが、無理でしたね……。少し寂しい。

 プログラムが別れていますし、何より両方『オネーギン』は前半での上演なので、カーテンコール時はお衣装が別です。

しかし、ターニャは兎も角、オネーギン(第1幕)とオネーギン(第3幕)では、かなり勝負が難しそうな気もします。皆様はどちらが好きでしょうか。一応訊いてみます。

 

 どうでもいいんですけど、「手紙」の前の演目が『マノン』だったじゃないですか。「寝室」の方は、Aプロでオネーギンをやっていたフォーゲル氏がデ・グリュー役で。

ここでは、上手側の机でデ・グリューが書き物をしているんですが、これってジェネリック「オネーギンの手紙」では……!? と、一人で妙にテンション上がってました。ターニャの夢である「鏡」のオネーギンが手紙を書く、ロマンがありますね……。

 「オネーギンの手紙」は、原作にある、彼がターニャに向けて書くお手紙なのですが、何故か尺のデーモンオペラでもバレエでも描写されないのですよね。わたくしは『オネーギン』という演目が何よりも好きですが、この点が不満だったので、謎に満足致しました。

 バレエファンはオペラファンと比べると、原作の類いを読む方が少ないように見受けられますが、「オネーギンの手紙」知らないのは単に勿体ないですからね、読んだ方がいいですよ。僕は全てを予見していますПредвижу все、以下略。

↑ 一番入手が容易な池田御大訳を貼っておきます。

 

 さて本編です。第3幕第2場、グレーミンとの PDD の曲の途中から入ります。なかなか変わった曲の切り方していたので、最初どこだか理解するのに時間かかりました。

 

 ガニオ氏のオネーギン役は、全幕で生で過去に3回観ています。恵まれている……!

ご想像の通り(?)、人柄の良さが全く隠し切れておらず、優しさがダダ漏れになっているオネーギンさんです。確かに、オネーギンさんは「紳士」ではありますが……。

 彼のオネーギンは、クランコ版の恋文破りオネーギンというより、原作 / オペラ版の « Я вас люблю любовью брата, Любовью брата, Иль, может быть, еще нежней! (僕はあなたを兄のような愛で愛しています、それか、もしかしたら、もっと優しい愛かも知れない。)» って言ってそうな感じのオネーギンさんなんですよね。あ、自分で言ってしっくりきました。ターニャからの怪文書恋文に本気の本気で困ってそう。返答考えるのに頭抱えて2日くらい徹夜してそう(偏見)。

 実際、「手紙」の中でも、「ああ、大好きなターニャが困っている、どうしよう」みたいな狼狽振りが見えます。Бледнеть Онегин начинает: ... Онегин сохнет — и едва ль Уж не чахоткою страдает. (オネーギンは青ざめ始めた。(中略)オネーギンは窶れ、殆ど肺病病みのようだった。VIII: XXXI: 9/11-2)って感じですよね。

彼女の所にも、殆どパニック状態で来て、既に半ば後悔するも、最早引き返せないし、やけくそになってきているような解釈です。

 最初は「余りに紳士的すぎる……」と、正直違和感が拭えなかったのですが、特に今回は3幕だけということもあって、これはこれで……という気持ちに。

 

 一方のターニャ、アルビッソン氏は、3幕の方が似合うタイプ。もうターニャとか呼んでられないですよ、グレーミナ公爵夫人閣下ですよ。そらオネーギンさんだって « Ты прежнею Татьяной стала!(昔のタチヤーナに戻ったんだ!) » とか言う。

というか、ジルベール氏もそうなんですけど、オペラ座のダンサーは3幕の方が良いタイプが多い気がします。これは社交界の華。

葛藤よりも拒絶感が強くて、よくオネーギンさんは心が折れないな……という感じがします。

 「手紙」の一番の見せ場、音楽が『RJ』の二重唱に戻り、寝そべり→大跳躍をするところの直前は、キスするペアとしないペアが居ますが、二人は今回もしない派。その辺りも、このような印象を強めているかもしれません。

ちなみにフォーゲル氏 × アマトリアン氏ペアは、日によって違って、映像だとしそうでしないんですが、来日公演だとしてましたね。

 

 クランコの振付は秀逸で、殆ど全てのパに物語的な意味が付与されています。動きも滑らかに、シームレスに作られているのですが、この二人の場合は少し予備動作が見えてしまうのが勿体ないと思っています。

「今からリフトです、息合わせます、いくよー、せーのっ」みたいな動きが、勿論ほんの少しですが、見えてしまうのが勿体ない。

 古典だと、音楽と合わせる為にも、観客たる我々が心の準備をする為にも、このような予備動作は気にならない、あっても構わないと思うのですが、ドラマティックだとそうもいきません。物語の没入感を奪います。この辺りが自然だと、物語バレエは更に映えると思います。

 

 件の寝そべり→大ジャンプの際、二人とも腕をクロスさせて、右手同士、左手同士で手を繋いでいるんですけど、ジャンプの際に左腕を上げターニャの頭上を経由して腕のクロスを解消→反りながらドゥバンの際に再びクロス→二回目のジュテで同じように解消、という流れになっています。ちょっと文章で意味が伝わっているか不明ですが……。

この時、オネーギンの方はジュテで飛んでいるターニャのアン・オーに合わせて左手を挙げないといけないので、ターニャの身長によってはかなり大変そうだな……と、見ていて思いました。今回で、改めてここでの腕の動きを再認識しました。

 

 ちょっと面白い(?)のは、ガニオ氏は最後走り去る時に手が後ろです。腕を組んでいるわけではなくて、こう、アン・バーを背中の後ろでやっている感じ。他では見ないですね。

 

 最後はゲンコツターニャ。ここは齋○友佳理大先生もゲンコツをイチオシしていたので、ゲンコツが正解です(?)。間違ってもパーにしないこと! 相手はチョキ!(何が?)

 

 こんなところでしょうか。

幕間に、バレエ有識者の知人と会ったのですが、「オネーギンが出てきた時に拍手した奴、出直して来い」とお怒りで笑いました。わたくしも、ダンサーの登場時に拍手をする文化が大層嫌いなのですが、最早半ば諦めています。

まあ、大スターですからね、気持ちはわからなくはないのですが、完璧に没入感を殺しますからね。「『オネーギン』ではダメだろ」と。仰る通りです。

 

 次にバレエ版の『オネーギン』を観る予定が立っていないので、寂しいですがまた暫くお預けでしょうか。オペラ座の来日全幕は『白鳥』と『マノン』のようですし。これまた保守的な……。

「実は公演やってるよ!」みたいな情報があれば、即座にチケット購入ページを投げつけて下さい。宜しくお願いします。

 

その他の演目

 相変わらず「その他」という纏め方が酷いその他のコーナーです。定期的に、「わたしはオペラやバレエが好きなのではなく、『オネーギン』が好きなだけなんだな……」と感じることがあります。範囲が狭すぎる。

 それでは極簡単に。

 

 言われなくてもチャイコフスキーだと一聴瞭然(?)でお馴染み、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』。安定感の鬼ですね。

 

 『マノン』は、『オネーギン』の「鏡」と「手紙」のように、「出会い」と「寝室」で二つ。「出会い」の方は殆どデ・グリューの Va. のようなものなので、ジルベール氏ファンはそれでもいいのかと思いつつ。

マルシャン氏は、ドラマティックをやりたいのはわかるのですが、大柄故に他の人よりも更に気をつけないと動作が重く見えたり、逆に雑で粗野に見えたりするので、もう少し意識してエレガンスさが欲しいところ。以前の来日の『オネーギン』の時よりは良かったと思います。

 オペラ座の来日公演で言うのも気が引けるんですが、正直フォーゲル御大は頭ひとつ抜けてますね、序盤から感じました。別格。前回の記事で、「Va. や PDD は良くて当然で、基準値が高いので、並では満足できない」と書いたのですが、思いっきり基準点上回ってきました。強い。

 まさかのAプロとベッドが別物。マノンが寄りかかるから天蓋付きにしたんでしょうか。しかし、ターニャのベッドもこちらの方が良かったのでは……!? 未婚の少女がそんなキングサイズベッドで寝る?

 

 『In the Somewhat elevated』。急に音楽が現代的になってびっくりするやつです。

ポーズがピタッ、ピタッと止まる演目で、静止画のようで美しいです。

 

 ソ連御用プロパガンダバレエ、『パリの炎』(言い方)。

ムーセーニュ氏は本当に体幹がしっかりしていて、フェッテが大得意だということはAプロの『ドン・キ』含め思いました。今日合計何回転した?

 

 以前も拝見しました『コンチェルト』。モダン系の中では最も好きかも知れません。序盤のバーレッスンみたいになってるところめちゃくちゃ好きです。基礎が試されます。

 

 『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』。歌入りです。歌が入っていると、歌の方に意識が行ってしまって集中しきれませんでした(※オペラも好き)。カウンターテナー、どなたなんでしょうか。

(追記) フォロイーさんが教えてくれましたが、ヤクブ・ヨゼフ・オルリンスキさんだそうです! なんと、まさかの知っている人だった!

↑ 大好きな『ユーリディシー』で「音楽」役をやっていました。オルリンスキ氏は多才なイケメンです。

動きがシンクロしている振りが多く、美しかったです。

 

 『悪夢』。ガッツリ現代物です。

途中、あれマッチ擦って床にばらまいていましたか? バレエダンサーたるもの、マッチも擦れなくてはいけないのか。マッチ一回で擦るのって地味に難しくないですか?(そこ)。

 

 『椿姫』、紫(青)の PDD でした。複数の目玉 PDD がある演目から抜粋する時は、プログラムにそこまで書いて下さい。どうしてそれができないのか謎です。

以前、「オペラ座の『オネーギン』はパリの匂いがする」と言ったら、「ボリショイの『椿姫』はロシアの匂いがする」と言われたことがあり、お互い様で笑いました。今回は本場パリの『椿』です。

 バレエの椿姫は、体型的に概ね結核で死にそうな感じがするからいいですよね(?)※オペラ初演時の話

正直アルビッソン氏は椿の方が合うと思います。白鳥>マルグリット>ターニャです。ベザール氏は、フランス派(?)アルマンにしては珍しく、エレガンスさよりも激しさが前面に出た形。全幕観たいですね。

 

 みんな大好き『Mayerling』。ヴェッツェラ嬢とのベッドルーム PDD です。だからどの PDD か明記しろと以下略。

 ルドルフ皇太子がちゃんとおっぱいを見ていて安心しました!! ……どうして30のおじさんが10代の女の子のおっぱいを見ることに安心感を覚えなければいけないのでしょうか(冷静)。フォーゲル御大が我々に遺した傷跡がデカすぎる。呪いだ。責任取ってあれ一生やって下さい(※序盤でルドルフ皇太子がヴェッツェラ嬢の胸元をはだけさせる時、フォーゲル氏は自分で脱がせといてガン無視するというサイコパス演技で我々を震撼させました。変化球なのにも関わらず大正解すぎる演技。なんだそれは……)

 これまた身長差があるペアなので、寝っ転がって膝の上に乗るシーンで、膝の位置が合わずジルベール氏が落っこちそうで怖かったですね。Aプロ観て知りましたが、プティ版の『カルメン』にも同じ振りがあるので、ここでも同じことが起こるでしょうね。

 最後に後味悪い作品を持って来ましたが、あの貪るような体勢捻れキスの最中に幕が閉じるのめちゃくちゃ好きなので、これでよかったということにしておきましょう。

 

 カーテンコールはAプロと同じ謎曲。詳細が知りたい。何者なんだ。

 

 こんなところでしょうか。相変わらず演目毎の差が酷くてすみません。他の演目もお勉強しようと思いつつ、一生『オネーギン』から離れられません。助けて下さい。

 皆様の感想も拝読したいです。宜しくお願いします。

 

最後に

 通読ありがとうございました。6000字強。

 

 いやー、終わってしまいましたね。前述のように、今後バレエの『オネーギン』を観る予定が立てられていないのが寂しいところです。来日も勿論期待しますが、東バ先生はいい加減何とかならんものでしょうか。待っておりますので……宜しくお願いします。

 

 しかし、実は『オネーギン』という枠で言えば、もう少し観れそうでして! 来週は、オペラの方の「手紙(※オペラで「手紙」といえば第1幕のことを指します。ややこしすぎるので、なんとかして欲しい!)」を聴けることになっておりまして、席を取っています。

非常に楽しみです!

 

 来年のオペラ座来日の演目も発表されましたが、まあ、お財布と日程とキャスト表と相談ですかね……。演目も保守的ですし、「絶対に行くぞ~~!!」という気合いは今のところありません(スミマセン)。

次のバレエ鑑賞はいつになるか未定です! お勧めの公演がありましたら教えて下さい。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです。