世界観警察

架空の世界を護るために

『黒澤麻美 ソプラノリサイタル Vol.9』 - レビュー

 おはようございます、茅野です。

『オネーギン』の作中で春なのって第3幕第2場(第8章後半)くらいだと思うのですが、何故か春に『オネーギン』の供給って増えますよね。何故なんでしょうね。

 連続で『オネーギン』のレビュー記事が書けるとは仕合わせなことです。日頃から『オネーギン』を享受できる人は仕合わせである。

↑ 前回の記事。いやしかし、ラノベ界に進出とはな……。

 

 さて、前回は異色のレビュー回でしたが、今回は普通に(?)、いつも通りオペラです。

黒澤麻美先生の『ソプラノリサイタル Vol.9』にお邪魔しました!

↑ 公式ページ的なものがなかったので、恐れ多くも先生のブログを直張り。

 

 黒澤麻美先生の公演は、以前には「ロシア声楽曲研究会 10周年記念コンサート」にお伺いしたことがあります。

↑ 演目は当然『オネーギン』である。

 この時も背景にプロジェクターがあって、普段は取り上げられないオリガの歌詞まで字幕が入っていて興味深かったことを覚えています。

その時は(今もですが)、オペラに対してもロシアに対しても知識が浅すぎた為か、レビュー記事残していないんですねわたし……勿体ない……。

 ほんとうに好きになったものに対しては、オタクの格言「半年ROMれ」を結構厳格に守っているのですけれども、時には放出した方がよいのかもしれません(※『オネーギン』に関しては3年くらい潜伏していました)

 

 今回は、忘れないうちに、こちらの雑感を記して参りたいと思います。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

キャスト

タチヤーナ、ジュリエット:黒澤麻美
オネーギン:寺田治功
レンスキー、ロミオ:下村将太
ピアノ:篠宮久徳

 

雑感

日本歌曲

 前掲のプログラムにも出ていますが、今回は日本歌曲+チャイコフスキーの歌曲の二部構成です。

花を題材とした曲が多く、春らしいプログラムとなっております。この日の東京はここ数日で最も暖かい日であったので、特にピッタリな気が致しました。

 

 日本生まれ日本育ちのくせに、日本語の歌は全然知らないと来ているので、正直楽しめるか不安だったのですが、曲も綺麗だし、耳馴染みがよく聞き取りやすい母語ということや、後半のロシアプログラムとの対比などもあって、前半も楽しかったです。

 日本語のオペラ的な発声については全然わからないのですが、「は」行が特徴的で、ロシア語でいう Х というか、アラビア語でいう خ というか……という音。喉の奥底から出すような。
中でも「ほ」が顕著ですが、最初の曲の歌詞に「ほんとうにきれい」が続くので、かなり目立ちます。

 

 日本語は子音だけの音が殆ど無いので、母音とのセットになりますけれども、きちんと子音と母音が分離しないようにするのって難しそうだな、と感じたりしました。勿論先生はその点完璧なんですけれども。

 

 伴奏も丁寧で、流石組み馴れていることもあって相性バッチリでした。

 

チャイコフスキー歌曲

 続いてチャイコフスキーの歌曲から2曲、『私は野の草ではなかったか( Я ли в поле да не травушка была )」、『真昼でも夜の静けさの中でも( День ли царит, тишина ли ночная )』です。

 二語目に ли が来るシリーズ(?)(そんなこと言ったら « Слыхали ль вы ~ » とかもそうなんですけど)。

それにしても、プーシキンは主に ль を使ってますけど、スーリコフ、アプーフチンは殆ど ли を使っているということは、旧正書法の廃止によって変更されたわけではなく、19世紀中頃に代わった、ということでしょうか。興味深いですね。

「黄金の時代」と「銀の時代」の境の時代の詩ですね。この時代は散文の方が強い印象なんですけど、詩の方も知識を深めたいところ。

 

 「おお、ロシア語になった……」と感じる前に、ピアノの前奏からかなり雰囲気が変わります。

ここまでは、あくまで「歌がメイン!」という趣でしたが、チャイコフスキーになると、伴奏との比率が50:50になるような。伴奏に押し負けている訳では無いものの、もう少し控えめでも良かったかもしれませんね。

 「チャイコフスキーはアマチュア向けの楽譜を書いた最初期の職業作曲家」と言われることも多いですが、「アマチュアこんなん弾けるかいな」とか思うことありますよね(自分のピアノのスキルが低すぎる)

 

 特に二曲目の方は結構な早口言葉ですが、全然崩れません。流石。

強いて言えば、中低音で子音が続くと気持ち声量が下がるような気がしないでもないくらいで、高音は力強く綺麗。これが褒め言葉になるのかわからないですけれど、目瞑って聴いたら日本人が歌っているとは思わないですね。

 

二重唱『ロミオとジュリエット

 問題(?)はこちらなのですわ。今日は、オペラに関しては『オネーギン』一筋なわたくしとしては信じられないことに、『ロミオとジュリエット』の方を何よりも楽しみにしておりました!

色々と分析をしたお陰で、歌詞も丸暗記しているし、伴奏も一部弾きます。

↑ 解説モドキも書きました。

 

 何故この曲がそんなにも好きかといって、そう! バレエ・クランコ版『オネーギン』の最大の魅せ場である、「鏡のPDD」のメイン旋律がこの曲だから! です!

「結局『オネーギン』じゃねえか!」というツッコミの声が聞こえてきそうですが! そうですとも!! 当然じゃないですか!!!

↑ オネーギンがタチヤーナに耳打ちする振りのところはこの曲ですよ!

↑ 編曲譜も書きました。記譜とDTMの実質的処女作なので、今見ると手直ししたい点が幾つもあって大変恥ずかしいんですが、当時なりに頑張ったものです。

 先生はクランコ版のことをご存じなのでしょうか。図ってか図らずしてかは存じ上げませんが、結果的にめちゃくちゃ『オネーギン』プログラムになっております。

プログラムのチラシを見たとき、全幕以外では、正直一番興奮しました。ヤバい。

 

 前記の記事の中で、

この曲を生で耳にするまで死なないことにしたので(?)、わたくしが不死身になる前に上演して欲しいところです。やってください! お願いします!!

とか書いてたんですけど、まさかたったの2年で実現するとはな……。そんなことある?

 最後の挨拶で、黒澤先生ご自身が「『ロミオとジュリエット』の二重唱は上演機会が少なく〜」と仰っていて、「ですよね? それな? あれ??」となりまして。我がオタ活は先生方の努力の元に成り立っている……とひしと感じました。

 

 前奏の間に解説までプロジェクターで出して下さって大変に親切です。

しかし、一点気になったのが、字幕に関して。ナイチンゲール或いはヒバリが鳴いている木が「桜の木」になっていましたが、歌詞は

он каждый день на дереве гранатном у нас в саду свои заводит песни. 

だし、シェイクスピアの原文でも

Nightly she sings on yon pomegranate tree.

なので、桜ではなくザクロでは? と思ったりしました。

ナイチンゲールも、「鶯」表記で(生物学的には別の鳥?)、「桜に鶯とは……和風だ……!」と思ったり。

そういえば、ナイチンゲールも春の鳥ですか、原作だとこの場面って春なのかな。

 これ前の記事にも書きましたが、ナイチンゲールがロシア語だと男性名詞なのに、英語だと女性代名詞使われてるの面白いですよね。

また、入り口に大きなお花を出していた「声楽サロン・サラヴィエイ」も、きっと соловей のことですよね。「歌う鳥といえば……!」というところではありますが、先生の好きな鳥だったりするのでしょうか。

 

 さて、歌に関してです。ジュリエット一強でしたね……案の定。

唯一持っている録音ではロミオの方が力強いので、新鮮でした。

↑ かなり珍しい曲も入っていて、良い CD です。ちなみに一曲目は『オネーギン』だぞ!

 

 ジュリエットって、設定上はめちゃくちゃ若い設定だと思うんですけれど(13歳でしたよね)、チャイコフスキーの二重唱だと、ソプラノにしては音域が低めだし、声量求められるし、正直13歳感は全然ないですよね、曲からして。

ロシアオペラ自体が、全体的に低く重めの声が要求されるものですが、ここでもか、というところです。そもそもチャイコフスキーのオペラでコロラトゥーラって何かありましたっけ。

 

 ジュリエットは安定感があり、「これが聴きたかった~~!」という感じでしたが……、ロミオ君はどうしちゃったんでしょうか。

 声量はあるのですが、所謂「絶叫系」で、何よりも喉声だし、表情がなく一本調子。いや逆に、喉声でここまでの声量出せるのは才能かもしれない。

弱音も、まるでボリュームの摘まみを捻ったかのように、絶叫系のまま小さくなる。な、なんだそれは。ある意味技術かもしれない。

 この二重唱、ロミオが一番美味しいところ持っていくじゃないですか( «О, ночь блаженства!» のところ)、なんか、何と申しますか、勿体ないなあ……と思ってしまいました。

最初から、ちょっとなあ……と思っていましたが、最後の « Прости, Джульетта! » の途中で喉を潰してしまって掠れ声に。「だ、大丈夫か? このあとレンスキー歌えるか??」と不安になりました。

 

 また、乳母もきちんと歌うパターンでした! 希少なので、とても嬉しかったです。

ただ、舞台袖からだし、結構早口なので、正直全然歌詞聞き取れなかったんですが……。

 

 ジュリエットとロミオに余りにも明確すぎる力量の差が出てしまい、「デュエット」としてはちょっと物足りなくて、残念です……。うーむ、もう少し上手いロミオを聴きたいぞ(ロミオ役の下村さんが Twitter で告知して下さらなかったらこのリサイタル自体の情報を掴み損ねていた可能性があるので、申し訳ないんですが)

 黒澤先生以外で、日本でこの曲取り上げて下さる方いるのか? という感じですし、先生のジュリエットはまた拝聴したいのですが、ロミオはもう少しなんとかして頂きたいものです。この曲はロミオの «О, ночь блаженства!» のところで観客全員昇天させるくらいの勢いでブチ上げないとダメなんですよ(持論)。

 

『オネーギン』

 さてさて、休憩を挟みまして、今度はオペラの方の『オネーギン』で御座いますよ(『ロミオとジュリエット』の二重唱はバレエ版の『オネーギン』という認識。この作品から離れられない)

 

 案の定、と申しますか、ピアノで序曲、ワルツ、ポロネーズを弾いて下さいました。抜粋ですけれども。フルで弾いて下さってもいいのよ、そんなに長くないですし。まあ、ナレーションと尺を合わせているのでしょうけれど。

 序曲はオーボエの入り辺りから飛び、ワルツは合唱前辺りから、ポロネーズは所謂「1」のところでしたかね。「そこを数小節削るんだ?」というような、結構面白い繋ぎ方をしていた部分があって、興味深かったです。

 ピアノはこれまでとても丁寧だったのに、『オネーギン』になると崩れ気味で残念。舞台上まで暗くして弾き始める部分もありましたし、歌曲とオペラは似ているようで大分違うものですが、その辺りを考慮しても、少し寂しかったですね……。

 

 抜粋であることもあり、設定や、飛ばす部分についてのナレーション付きでした。

第1幕は「1820年」だと言明されていましたね。最も有力な説なので、言い切ってしまってもよいのかも。

また、第2幕から第3幕の隙間は「数年」としていました。それでいいと思います、ほんとに。はい。

↑ 地獄の論戦が始まる……!!

 いやしかし、ナレーターの方の滑舌が良すぎる。この方も声楽の方なんだろうか、と思ったら、先生のブログに然りであるとありましたね。やはり。

 

「手紙の場」

 リサイタルでありながら、結構演技もしっかりやってくれる演奏会形式タイプ。嬉しいですね~。

それもあって、「やはり歌曲とオペラって全然違うんだなあ」と思いましたし、演技をしながら歌うって、今や観慣れてますけど、改めて考えると凄まじい高等技術ですよね。何故それがスタンダードになっているんだ。不思議。

 

 舞台セットは羽根ペンの乗った小さな書机。よい。それで十分。素敵です。『オネーギン』のセットは簡素で良いのだ。チャイコフスキー自身がそう言ってましたし。ポクロフスキーもそう言ってましたし。

 

 生のリサイタル公演で音楽に集中できたということや、少なくとも以前よりは自分のロシア語リスニング力が増したということも大いにあると思いますが、しっかりロシア語聞こえました。嬉しい。今までで一番しっかり聞き取れたかもまであるな……。

 「ここ、こうして欲しい~!」という個人的な好みがめちゃくちゃ反映されていた……解釈一致と申しますか。発音面に関して言えば、例えば、一番盛り上がる終盤の « Увы, заслуженным укором! » のところ、коで伸ばすんですが、そこだけじゃなくて、次の р を伸ばして、もうウザったいくらい舌巻き続けるのが好きなんですけど(細かすぎて伝わらない選手権)、凄く良かったですね……個人的にはもう少し長くてもいいんですけど……。先程日本語は子音と母音が分離しないようにするのが云々とか言ったんですけど、ここの р と о の境目を聴くのが好きなんですよ、聴けばわかります。でもマニアックすぎるので理解して頂けなくてもいいですほんとに。オタク特有の早口になってしまった……。

黒澤先生はロシア歌曲をご専門とされているだけあって、言うまでもなくロシア語はもうバッチリですよね。

 

 演技もしっかり入れてくれます。やはり手紙を書くところはしっかり書いて欲しいし、一回目の手紙はくしゃくしゃポイ。スタンダード、だがそれが良い。

 

 音楽面も解釈一致で、« То воля неба: я твоя! » の下線の三音のところとかでちょっと減速したりとか。それ(語彙力の欠如)

 行末の部分はあんまり伸ばさないのですが、一箇所 « Незримый, ты уж был мне мил, » (でしたよね? 違ったらご免なさい)のところだけ長かったな、と思いました。

 二回目の « вот он! » は下げる派でした。

 

 それこそ、 « Увы, заслуженным укором! » の辺りが弱音になるのもめちゃ好きなんですよね。ヴォーカルスコアを見てみると、二回目の « Я жду тебя! » のところで ff になるんですよ、だからここずっと強音のはずなんですけど、どうせ最後の « И смело ей себя вверяю! » で上がるので、ここは対比的に囁くように……っていうのが気持ちいいじゃないですか。 

 先生は弱音が綺麗で、(単にもう少し声量欲しいな? という場面もありましたが)、この辺りも良かったですね。

ただ、ここ本来のオーケストラ伴奏でほんとうに弱音にすると、完全にオーケストラに負けるじゃないですか。弦楽隊も大アルペジオですし、何よりトランペットが ff で入ってきますし。だからいつも「弱音に聞こえるのにオーケストラには負けない」という理想的な歌唱をしている方はほんとに何が起きているんだろう、って思うんですけども、誰かほんとに解明して下さい。

従って、今回は、ピアノ伴奏だったということも大きかったのだろうな、と感じます。弱音にしても聴きたいところがしっかり聴ける。

 ピアノ伴奏全幕とか、絶対需要あると思うので(少なくともわたしにはあるので)、出ませんかね。出て欲しい。

 

 いや、生で『オネーギン』聴くの凄い久しぶりで……、バレエは丁度1年前くらいに観てるんですが(ガラだけど)、オペラは1年半ぶりですかね。ちょっと……というか完全に飢えていたので、中盤で普通に感極まりましたよね……、やっぱり『オネーギン』が一番好きだなと痛感した……。

 途中で(良い意味で)酔ったので、何かもう少し色々書ける気がしたんですけど、身に染みこませている間に終わってしまいました……、自分の鑑賞態度をもう少し見直すべきかもしれない。

 いずれにせよ大満足です、有り難う御座います!!

 

オネーギンのアリア

 続きまして我らがタイトルロールの登場です。前半では一度も出番がなかったので、オネーギンのアリアで本日初お披露目。

 

 ターニャ一強かとおもっていたら、オネーギンもよかったんですよ、これが……。ちょっとびっくり。

こういうリサイタル系のゲスト枠って期待してもよいのやら、と思っていたのですが、これは大正解ですね。

 ひたすら声が良いです。まず第一に声が良いです。そりゃあ歌手やらなくちゃダメですよ、という感じの。持って生まれているな、という感じの……。

 それに加えて、え、普通にオネーギン嵌まり役じゃないですか? 声質丁度良い気がする。もうちょっとだけ重くても良いかもしれないけど、いや全然充分だと思いますわたしは。

 

 「いや、オネーギン歌わないとだめでしょ、今まで何してたんですか?(?)(わたしが無知なだけ)」とかよくわからないことを思っていたら、昨年(!)、リサイタルで最後の二重唱歌っておられたんですね……!?

↑ 公演ポスター。泣いた。

 わたしが東京でやる『オネーギン』を逃すことなんてあるんだ……(※普通にあります。情報下さい。宜しくお願いします。)とか落胆していたんですけど、調べると公演日前に告知をしていた情報が殆ど全く出てこなかった……。

広報してくれ~~!! 画像で済ますのではなく、文字で入力してくれ。検索に引っ掛からない。わたしのような変なオタクが釣れる可能性があるので是非とも広報をして欲しい……。どうぞ宜しくお願い致します。

『オネーギン』に関してはもうなんか直にメールしてくれていいです。チケット購入ページのリンクを貼って送ってくれ。

 

 そこでもう少しリサーチをしたら、公式サイトの歌唱サンプルがなんと『スペードの女王』のエレツキー公爵。マジか。

↑ 「どこで録音してんの!?」という音響なんですが。生の方が良かったです断然。

 また、『イオランタ』のロベルトもレパートリーなんですね。

↑ ロベルトのアリアいいですよね~。моей, очей, ночей で脚韻踏んでるの、曲調からしても「いぇーい」って言ってる感じして可愛いしテンション上がる(?)(非常に頭の悪い感想)。

 えっ……もしかして、ロシアオペラお好き……とかですか……。ロシアオペラが得意なバリトン、希少なのでは……? Twitter フォローしてきました。

 

 公演に話戻しますけど(脱線しすぎ)、非常によかったです。声が良い、発声も良い、声量もあるし、声も合っているし……。調べていて納得しましたけど、ロシアオペラも歌い慣れていらっしゃるのかしっかりロシア語聞こえたし……。スタートダッシュに難がある感じもなかったし……。文句無いな……。良かったので突っ込む点がないな……、レビュー書き的にはちょっと困るな(?)。

最後は上げる派で、弱音・高音も綺麗でした。良い。ちょっとびっくりだ。

 

 ただ、一点だけ指摘するとしたら、めっちゃくちゃ棒立ちです。いや、演奏会形式だし全然良いんですけど、それにしても驚くほど棒立ちだった。

右腕に至っては、なんか麻痺硬直の発作でも起こされたのかと思ったくらい動かなくて怖かったまである(丁度この間右腕に障害があって動かない俳優さん主演の演劇を観たばかりだったので余計にそんなことを考えた)

いや、逆にせわしなく動かされるのもウザったいんですが、程度というものがありましてですね……。

 

 えー、これは良いオネーギンさんだな……、ロミオパート、なんとかバリトンにならんか?(?)とか思ってしまいました。誰か編曲して欲しい。ジュリエットは曲からして13歳感無い、という話をしたばかりなので、ロミオも声変わりが来たことにしよう。

 

 ずっと出突っ張りですし、休憩入れて欲しいのですが、その一方でタチヤーナは最初出てきて返答(アリア)聴かずに帰っちゃうんか~い、とは思いました。観客はオネーギンさんを独占してもいいらしい。


 プログラムの話なんですけど、« Вы мне писали » が「貴女は私に書きました」になっておりまして、いや、大正解なんですけど、一点の曇りもなく綺麗な訳なのですが、余りにも直訳過ぎてちょっと笑いました。中学1年生感ある。いいな、中坊オネーギン概念(?)。まだムッシュー・ラベと一緒?(?)。

 

レンスキーのアリア

 レンスキーのアリアです。えー、あんまり酷いことを書かないうちに切り上げたいのですが……。

『オネーギン』抜粋でレンスキーのアリアが一番酷いってあんまり無くないですか? 寧ろ大体主役食って帰りませんか? 割と珍しいパターンだったかもしれません。

 

 ロミオの最後で喉枯らしているように聞こえましたけど、もう復活してました。どんな喉をしているんだ。

 ただ、その復活を果たしたところで、結局絶叫系喉声なんですが……。

 

 なんか、レンスキーというより、「ラダメスかあなたは」って感じでしたね。あんまり死ぬ気ないでしょ? あわよくば殺して帰りたい感じでしょ? でも、言うなれば虚勢を張っているような感じで、勇ましい感じではないので、殺意を見せたところで決闘に負けそう(偏見)

 白鳥の歌っぽさというか、寂寥感とか切なさのようなものが微塵もなかったですね。うーむ……。


 発音も所々気になって、例えば、тебя がめっちゃ "чэбя" なんですよね……。まあ、難しいですけれども、実際。正直 т を「た行」で音写すべきなのか「ちゃ行」とか「た・てぃ・とぅ・て・と」で音写すべきなのかいつも迷いますし(皆様はどちら派ですか?)、 е も日本語にはない音なので……。でも Евгений の Е なんだし頑張ってくれよぅ!

黒澤先生の тебя の е は割と「イ」っぽい音強めなんですよね。それが正解なんだろうか。音声学を勉強するしかないのかこれは。

 

 あとはそうですね……、19世紀のピストルは銃口を下にして持っちゃダメですよ、ってことですかね。

銃の小道具まであって嬉しい限りなのですが、持ち方をわかっておられない。19世紀前半の銃なんて、銃口を下にするだけで簡単に弾落ちますよ。そんなことしたらザレツキーに怒られますよ。わたしの心の中のザレツキーが「ちょっと待ったぁ!」って叫んでいた。

 

 まあ、これくらいにしておきましょうか。はい。

 

 それでですね、突っ込みたいのは字幕ですよね。

« Поглотит медленная Лета » が「夏の流れ」になってるんですよ! 割とこれを見に来たまである(?)。

いや、何と言って、以前お伺いしたロシア声楽曲研究会の時もそうなっていたものですから、「今回直っているかな?」と思ったけど直っていなかった。最初にこれを見たときは危うく吹き出しそうになった。

 今時オペラの字幕で誤訳って、ねえ……、珍しくないですか? わたしのような超初学者が練習で書いているならともかく……。誰も気付かなかったんですかねこれ?

 確かに лето は夏だし、単数生格と複数主格・対格だと лета になります……けども(ロシア語ややこしすぎ!)。でも最初大文字だし……。

仮に「夏」だとしたら、медленное лето になりませんか?( 試しに « медленное лето » で調べたら、ウズベキスタン出身の方の詩が出てきました。それはそれであるんかい。面白)

 次上演するときには(やりますよね? 絶対やってくださいね)、直っているといいなあ、と思いつつ。まあ、『オネーギン』の誤訳なんて今更見る機会殆どないので、これはこれでなんか楽しいんですけれども。よくはないけど。

 

 最後はオネーギンさんとちゃんと決闘してました。芝居がちょっと恥ずかしかったりもする共感性羞恥持ち元演劇部員ですが、でもしっかり演技入れてくれるのは嬉しいです。

わたしは「オネーギンさんに黒以外の服も着せろ委員会」会長なので(?)、コートがベージュで嬉しかったです、はい。突っ込むべき場所はそこではない気もしますが。

 

最後の二重唱

 黒澤先生のターニャが素晴らしいのはもう行く前からわかっていたことなんですよ。安心感がある。実際、「手紙の場」もよかったですし。

 しかし、全然マークしていなかったオネーギンさんが大健闘で、ちゃんと「バトル」になってたのが嬉しい誤算でした。

ここはタチヤーナとオネーギンの歌手としての力量がある程度釣り合っていないと、全然勝負にならない感じがするので(タチヤーナが強すぎるとオネーギンの求愛が余りにも空しく聞こえるし、オネーギンが強すぎるとタチヤーナの拒否に一切の説得力を見い出せない)、ここは力が拮抗していることが大切なのです。わたしはこの場を、ストーリーからしても、歌唱からしても、一騎打ちだと捉えています。

 

 前奏の切り方がちょっと変わってて面白かったですね。流石に一回で聞いて覚えられなかった……、もう一回チャンスを下さい。

フルートとクラリネットの主題の二回目(24小節~)くらいからカットが入って、弦の三連のところはかなりガッツリ削っていたとは思いますが、残し方がちょっとお洒落だったんだよな~~……と思いつつ。

 オネーギンが出て来るところも結構カット。ここらへんからだったかな?

↑ 合ってます? もう一小節先?

 『オネーギン』の編曲はなんぼあってもよいのでね……、抜粋上演で使い易いピアノ伴奏版なんていったら、需要もめちゃくちゃありますから……(あると言ったらある)。

 

 公爵夫人に変身したタチヤーナは、赤と黒のドレスにお召し替え。一瞬カルメンか? と思いましたけど。「手紙」の時の落ち着いた青いドレスも素敵でした。ターニャっぽかった。

 

 アリアではウルトラ棒立ちだったオネーギン氏、今回は二人の場なので、流石に棒立ち感は薄れました(もう少し動いてもよいとは思いますけど)。

それにしても、横を向いても全く声の大きさが変わらないの凄いな……。王子ホールも響きが良いな……。

 

 ターニャは冷静な声音がよくお似合いになる。オネーギンを冷静に責めるところ聴き応えばっちりでしたね。

Онегин, と呼び掛けるときと、Евгений, と呼び掛けるときのちょっとした差異も素敵。

ただ、演技の都合上一瞬後ろを向いて、ガクンと声が飛ばなくなったのが勿体なかった。一瞬でしたけど。オペラにはそんなこともある。

 

 オネーギンの方も、この二重唱の早口言葉で、歌も言葉も全く崩れない。凄い。

「特に « Все, все, что выразить бы мог! » は流石に無理があるだろ」、といつも思うんですけれど、寺田さんは何と言うか、さらっとお歌いになるので、いつも感じる文字詰め込みすぎ感を感じなかったですね。そんなことあるんだ……。

いやでも、ここ嘆願するように Все, все, で一回一回念を押すように区切るのも個人的には好きなんですけれど。でも、これはこれで良いですね……。チャイコフスキーの近くにもこれくらい早口に強いバリトンがいて、「これでいける!」とか思っちゃったんでしょうか。いけてはない。オネーギンの切羽詰まった必死さが伝わって、わたしはすきですけど。

 

 声量的にも、声の相性的にも、かなりバランスがよかったので気持ちよかったですね。当然結末は知ってますけど、ちゃんと戦いになっているので、ハラハラドキドキ感があります。最後までどちらかが押し負ける感じもなかったです。 « Прощай навек! » まで絶好調であった。

 

 最後、ターニャが立ち去る時にスカートの裾を掴もうとして失敗し、もうアニメみたいにそれは盛大に大ゴケするオネーギンさん。お手本のようなすっ転び方で、「お怪我ないですか……?」と不安になるくらい綺麗におコケになられました。わたくしのお隣の席のお姉様(知らない人です)は「そんな笑う?」ってくらい大爆笑。

これは確かに Позор(恥辱)で御座いますわ、はい。ここまでこの語に説得力を持たせたのは初めてではあるまいか。

 でも « Позор, тоска... » の歌い出しがちょっと速すぎるかな? と感じました。おコケ遊ばされて、そこから起き上がり始める瞬間から歌い始めています。

もうここは舞台場に一人ですし、伴奏もありませんし、最後の最後で魅せ場ですし、体勢立て直す間くらいお客は全然待てるんで、もう一息入れてからでもいいのですよ。こちらとしても、「来るか……!」というような、ちょっとした心構えのようなものができますし。ちょっと性急な感じがしました。

 でも最後の一語、一音まで気を抜かずに力強く歌い上げて頂いたのでわたしは満足です!!

 

 いや~……めちゃくちゃ満足してしまいました。全幕やって欲しい。やりましょう。

アンコールを2曲もやって下さって非常にサービス精神旺盛で有り難かったのですが、わたしは『オネーギン』で大満足したので、別腹に追い討ちを掛けられているようなくらいでした。

 先日、ネトレプコの来日リサイタルでアンコールの曲目に関して炎上しておりましたけども(まあ、あれは燃やした側の人々の言い掛かりがすぎると思いましたが)、確かにアンコールの曲目ってどうやって決めているんだろう、と思ったり。日本・ロシアプログラムで英語の歌が来るとは思っておらなんだ。(最後はお誕生日ということもあってラフマニノフでしたけど)。

 

 『ロミオとジュリエット』の二重唱も、『オネーギン』も、また聴きたいので宜しくお願い致します!! 近いうちにまた是非とも!!

 

最後に

 通読ありがとうございました。1万3000字……。

いや、一昨日『オネーギン』について1万7000字書いたばかりなので、今回は6000字くらいに収めようとおもったんです、本当です。「手紙」のこと書いている辺りからテンションおかしくなってきました。恒例行事。『オネーギン』のレビューは5桁に届く。

 

 わたくし、初めて『オネーギン』を観たのが2月なので、先々月で『オネーギン』を知ってから満7年、8年目に突入してしまいました。マジか。

流石にこんなに拗らせることになるとは想定していませんでした。恐ろしい作品ですよ、ほんとに……。

 

 次の生『オネーギン』は、バレエになりそうですかね。またガラですけれども。全幕やってくれ~……。

 全幕ものだと、新国立劇場の来シーズンにありますので、それが一番近いということになるんでしょうか。皆様、例の扇風機のクレーム入れましたか? 投書に効果があるらしいので、わたくしのブログの読者様は一回はご指摘入れないとダメですよ、ノルマですからね!(強制)。

 「実は『オネーギン』やるよ!」という情報をお持ちでしたら、是非ともお気軽にお知らせ下さい。必ずや参戦致します。

 

 それでは、長くなってしまいましたので、今回はここでお開きと致します。最後までお付き合いを有り難う御座いました。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!