世界観警察

架空の世界を護るために

シュトゥットガルト・バレエ・ガラ 2022/3/20

 おはようございます、茅野です。

シュトゥットガルト・バレエ・ガラ、二日目です! もう半分以上終わってしまったとは……、余りにも早すぎます。信じたくない。

 

 『オネーギン』ある所に我有り。というわけで、今回も、シュトゥットガルト・バレエ・ガラ、2日目の感想となります。相変わらず『オネーギン』を中心に書きます。ご容赦ください。

↑ 一日目のレビュー記事はこちらから。

 

 それでは早速ですが、お付き合いの程宜しくお願い致します!

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↑ まだ公式のお写真が上がっていないので、今回第二幕は上演していないものの、過去の公演から。

 

 

『オネーギン』

 本来はバデネス×フォーゲルペアの予定でしたが、本日になって昨日と同じアレマン×パイシャペアに変更。場内アナウンスでは、「昨日の公演を受け~」とのことでしたが、どういう意味なんでしょうね。フォーゲル氏が温存しているという見方がやはり一般的なようですが……。

 予想外の出来事でしたが、昨日のペアを再び堪能できるということで、それもまた良し。ただ、昨年の World Ballet Day でバデネス×フォーゲルペアの素晴らしい躍りを拝見し、それを生で観ることを楽しみにしていたので、明日はこのペアを観たい……と切望してしまいます。

 

 同演目・同ペアということで、概ね昨日と同様ですが、指摘し損ねた点や差異などを記してゆきます。

 PDD 始まってすぐ、耳打ちするオネーギンからターニャが逃れるときに、スカートの裾を持っているのが印象的でした。他ではあまり観ないですね。勿論スカートの裾を広げているのは美しいですし、オネーギンの軌道を確保する上でも良いなと思いました。

『椿姫』でのバデネス氏の髪もそうなのですが、今回は裾や髪といった、美しいながらも躍りの邪魔になりやすいものへの扱いが丁寧だなと感じます。


 下手前で後ろからオネーギンがターニャの右首筋、左首筋と順にキスする時の手についてなのですが、あまり動きがないのが特徴的です。色々見比べてみると、シュトゥットガルト以外のダンサーだと、手を繋いだままターニャの腰に腕を巻き付けるようにする動きが多いのですが、シュトゥットガルトのダンサーはあまりここで手を動かさない方が多いようです。フォーゲル氏もここではあまり動きを付けていません。

ここで腕まで巻き付ける方が、官能的で動きもダイナミックで、個人的には好きなのですが、あまり手を動かさない方が次のアロンジェへの繋げ方が自然であり、これもこれでいいな……と客席で一人で唸っていましたどう見ても不審者

 また、その直前のターニャが爪先で滑るところも滑らかでよいですね~。ここ、ワックスやヤニのせいか、失敗するとズゴゴゴ……ってなりますからね。観ているこっちもヒヤヒヤします。


 昨日、録音で踊っているせいか、尺の問題でオネーギンのジュテの所が切羽詰まってしまっていた、と書いたのですが、本日は昨日よりも良かったです! こういう連続した公演、オペラもバレエもそうですが、進歩が見えたり、変化があったりすると感動しますよね。


 また、昨日からの変化として、上手前でオネーギンがターニャの腹部に顔埋める振りのところは、最初の方をかなりゆっくり余裕を持っていらして、凄く良いな~~と思ったのですが、録音なので、案の定最後の方で尺が足りず音楽と合わなくなってきたので、やっぱり生音でやりましょうよ! と言いたくなりましたね。


 『オネーギン』はドラマティック・バレエなので、やはり演劇性も楽しみたいところ。パイシャ氏のオネーギンは、『鏡』のみで評価を下すことは難しいものの、やっぱり薄味な気が致します。端正な踊りですが、もう少し表情が欲しいですね。尊大な雰囲気は良いのですが、逆にここは『鏡』なので、ターニャへの愛を感じさせるものがあると更に良いのではないかと感じます。尤も、全幕を通しての解釈によっては、この「薄味」が効いてくる可能性もあるので、やはり全幕で観たいです。


 今回のわたくしの席は2階の下手側でした。昨日よりも舞台に近かったので、昨日より表情もよく見えました。して、最後のターニャ、大変よいですね~。恋する夢見る乙女……かわいいです……。

 

 このお二人、本日の第二部では『ロミオとジュリエット(RJ)』の PDD を踊っておられました。わたくしはクランコ版の RJ は観たことがなくて、来月の東京バレエ団の公演を待っていたので、先に一部フライング公開状態。

クランコ版の『RJ』は、フォーゲル氏が「ジュリエットは良いよなぁ。バルコニーの上で待っているだけで。」というような旨を発言していたのが強烈で、ロミオ役はどれだけ大変なんだ……と震えていたのですが、意外にも終始あっさり終わってしまい、「あれ?」と……。曰く、一番大変なシーンはカットされていたとか。残念! 来月に期待します。

 

 『オネーギン』と『RJ』といえば、『鏡のPDD』で用いられている楽曲のメインが、チャイコフスキーの『ロミオとジュリエットの二重唱』であることはご存じでしたか?

↑ 過去に解説を書いているのでよかったら。

 つまり、『オネーギン』、特に『鏡のPDD』と、『RJ』は頗る相性がよいのです! 従って、良いプログラムだなあと思って観ていました。

今回、同じペアが『RJ』を後に踊ったので、カーテンコールには『オネーギン』のオの字もなく……。しかし、わたくしはこの事実を知っているので、「わかっているよ、これは実質『オネーギン』なので……!」という強気の姿勢で拍手しておりましたとも。

 

 今回はこんなところで切り上げたいと思います!

 

『Mayerling』

 続いて『Mayerling』のお話を。

 

 本日は下手側にいたので、軍服後ろ姿しか見えませんでした……残念。最初、分厚い本をぱらぱら捲っているんですね……、何の本だろう。ルドルフ皇太子殿下の愛読書ってなんなんでしょうね? え……『若きウェルテルの悩み』……とか?(ド直球)。

ちなみに、『オネーギン』でタチヤーナが読んでいる本は『クラリッサ』『新エロイーズ』などの候補がありますよ。


 冒頭、縋りついてくる皇太子の腕の中から脚を引き抜くヴェッツェラ嬢。わたくしの理解では、ここは『夜の行列』から『ファウスト交響曲』に曲が切り替わるストリングスのタイミングだと思っていたのですが、バデネス氏はもう少し早くに引き抜いていますね。

 また、初見ではオオッとなること間違いなしの、ヴェッツェラ嬢の肩紐を剥くシーン。ここはダンサーによって、胸元をしげしげ眺めていたり(下品でめちゃくちゃ面白いです)、後ろに反らせたりと結構様々なのですが、フォーゲル氏はかなり淡泊な反応です。何故脱がせたし。


 こちらもインパクト大な発砲シーンですが、後ろで発砲されて何が起きたかわからないはずの皇太子は、発砲が終わると何事もなかったかのように切り替えていたのが印象的でした。驚くとか、そのようなリアクションは全くなく、「自分には当たらなかった、それだけが問題だろう?」とばかりの切り替えの速さ。フォーゲル氏の解釈では、もうルドルフ皇太子は感情が死に絶えているのかもしれません。


 躍りに関しては文句無しですね。何回でも言いますが、バデネス氏はヴェッツェラ嬢が大変嵌まり役です。最高です。正直、フォーゲル氏の皇太子よりもバデネス氏のヴェッツェラ嬢の方に目が奪われますね。いや、うーん甲乙付け難い……、まあ別に付けなくてもいいですよね、そういう競技じゃないですし。

 皇太子に抱かれて反って回る振りですとか、ダイナミックな振りが本当に映えます。

 

 寝そべった皇太子の膝の上に乗る、観ているだけで腹筋が痛くなりそうな振りの際、勢い余って、ヴェッツェラ嬢が後ろの右手を突いてしまっていましたが、危なさを感じたのはその一瞬だけでしょうか。


 また、これは完全に個人の好みでしかないのですが、片手を前方に掲げるリフトが大好きなので、もっとその手を前に出していて欲しいなと……。威厳があってめちゃくちゃカッコいいじゃないですか。そのポージングをもう少しだけ堪能したい。せめて支えている皇太子が3歩歩く分くらいは保っていて欲しい。完全に好みのお話でした。

 

その他の演目

 その他について。

 『Are you as big as me?』は、最初三人組が各々特徴的な走り方をするのを観て、『Take on me』の有名な動画が始まったのかと思いました()。

↑ どんなに元気がないときでも観れば笑える動画シリーズ。大好きです。

 

 演目ではありませんが、カーテンコールについて。ダンサーが後方へ下がりきっていない状態で幕が下がってきてしまい、取り残されるという軽いアクシデントがありました。

わたくしは『オネーギン』を中心にロシアオペラの愛好家ですが、昨年ボリショイ劇場で『サトコ』上演中に、俳優が亡くなった事故があったことも記憶に新しいので、純粋に恐ろしい思いをしました。

↑ こんな形で『サトコ』が有名になろうとは……。怖すぎます。ご冥福をお祈りします。

 ダンサーは機敏に動きますし、舞台上と裏では意思疎通が図りづらいことも重々承知しておりますが、再発防止に努めて頂きたいです。

 

 また、客席に芸術監督タマシュ・ディートリヒ氏を見つけてしまい……。つい、

Разочарованный лорнет,

幻滅のロルネットを縁なき観客へかざして、

(『オネーギン』第1章 19スタンザ)

を……。スミマセンでした!! 何なら突撃して「またすぐ日本来て『オネーギン』やってくださいね!?」とオタク特有の早口で言いたいところでありました。単に席が離れていて無理でした。危うく不審者になるところだったので、上階席であったことに救われましたね。

 

最後に

 通読ありがとうございました。今回は短く、4000字ほどです。

 さて、最終日、寂しくもあり、楽しみでもあり……。シュトゥットガルトの来日公演が終わってしまうと、今後先に『オネーギン』の上演予定がないので、ほんとうに寂しくなります。最後にまた堪能しておきたいと思います!

 それでは、今回はお開きと致します。明日も劇場へ伺うので、次のレビュー記事でもお目に掛かれれば幸いです。