世界観警察

架空の世界を護るために

映画『危険な関係』(1959) - レビュー

 こんばんは、茅野です。

先日、盛大にスマホを破壊しまして、修理に出していました。新品同様で戻ってきましたが、修理費が高い。もうバカをやらないようにしたいと思います。いや、正にこれは事故、そう、事故でしてね……(言い訳)。

それにしても、最近のスマホは機種変やセットアップが楽ですね……。Google が急死したら、我々の快適な生活もおじゃんです。あまりに依存しすぎている……( Google を介してこの記事を書きながら)。

 

 さて、今回は「ジェラール・フィリップ映画祭」より最終回、『危険な関係』で御座います。

 これまでの同映画祭でのレビュー記事はこちらからどうぞ。(タイトルにリンクを貼っております。『肉体の悪魔』、『モンパルナスの灯火』、『パルムの僧院』、『赤と黒』)。

 結構通いましたのでね、普通に終わってしまうのが寂しいです。え~、もっと観たい。

入れ替わりで別の映画祭も始まるようですが……。何事にも終わりはあるものですが、それでも永遠に憧れるのが人間の性というものです。

 

 簡単にはなりますが、今回も簡単に雑感をば。

それではお付き合いの程、宜しくお願い致します!

↑ ア゛ァ~! このアダルトな雰囲気! すき!! 精神が女児になってしまう!!

 

 

キャスト

ヴァルモン:ジェラール・フィリップ

ジュリエット:ジャンヌ・モロー

トゥルベル夫人:アネット・ヴァディム

セシル:ジャンヌ・ヴァレリー

ダンスニー:ジャン=ルイ・トランティニャン

監督:ロジェ・ヴァディム

 

雑感

 出「黒が良く似合う」。それこの間も聞いたばかりですね……。

↑ 『赤と黒』でも登場する台詞。

長身痩躯×黒は正義。全国の教科書に載せよう。

 

 そう、今作、ジェラール・フィリップ氏が、「黒」ことスーツをお召しになっていらっしゃるんですよ!

↑ やっぱり金銭的にとても余裕があるキャラクターの方がお似合いになる気がします。質のいいお洋服をひたすら着せ替えよう。

初めて観ましたよそんなの(※これまで19世紀〜20世紀初頭が舞台の作品だけを観てきた弊害)。違和感が凄い!! そうか、彼は20世紀の人間なのか……そうか……そうだったのか……。

そりゃまあ当然、スーツはお似合いになります。

 

 原作『危険な関係』の舞台は18世紀。スーツをお召しになっていることからもわかるように、20世紀に翻案されています。

とはいえ、大筋は原作通りです。

最大の変更点は、ヴァルモン子爵とメルトイユ侯爵夫人(映画ではジュリエット)が夫婦の設定になっているということ。

 最初、二人が夫婦設定になってしまったら、原作のあの自由さが損なわれるのではと危惧していたのですが……、これはこれで……良いですねえ……!

原作で、メルトイユ夫人からの「亭主ヅラするな」という旨の書簡がありますけれども、ほんとに亭主ヅラしてて笑いました。あの華奢な高校生(『肉体の悪魔』主演時)が偉そうな亭主になっちまってまあまあ……。成長を感じて少々感動。

 

 今回、鑑賞にあたって原作を履修してきたのですけれども、え、ヴァルモン子爵×メルトイユ夫人、推せません……? 普通に……普通に好きなのだが……、確かに倫理観はゼロだけど、キャラクターとしての魅力と倫理はあんまり関係が無いのだ(※現実では慎みましょう)。そんなにハマれると思わなくて我ながら驚きました……。

↑ 「18世紀の長ったらしい書簡体小説」と侮るなかれ。寧ろ現代でこそウケが宜しいのではなかろうか。

 わたくし、レールモントフ著『現代の英雄』の熱烈なファンでして、作中のペチョーリン×ヴェーラのカップリングが大変好きなのですが、勿論それとは少し異なるものの、似たものを感じます……。

↑ 文学上の「推しCP」。世界で一番好きな散文小説です。

 こう、お付き合いの期間が長くて、酸いも甘いも十二分に経験していて、最早恋慕やら愛情よりも「信頼」が真っ先に来る関係性、めちゃくちゃツボなのですよね……。

そういった信頼関係、性別問わず好きで、恋愛要素皆無で職務上の共依存関係にあるようなビジネスパートナーとかもとても好きですね……。そういう「素敵な関係」が出て来る作品をご存じでしたら、是非とも布教くださいませ……。

 

 事実、二人の合言葉は Confidence 。

二人がベッドの両サイドから寝そべって内緒話するのが素敵すぎて映画館で溶けました……。プリキュアを応援しながら観る女児って……こんな気持ちなのかな……(?)。

↑ ここ、ここ、ここ、ここ(鶏)。永久保存版だからここだけリピート再生したい。

いい男といい女が不敵な笑みを浮かべて深夜の内緒話、もうつまり全くそれでいいじゃないですか、ねえ? 他に何か要ります??

 

 旦那様も大層素敵ですが、奥様がこれまた最高なんですよ~。もうなんでツールヴェル夫人やらセシルやらに浮気するのか全然わかんないですもんわたくし。どう考えても奥様一択でしょ。

↑ 美しく賢く社交界の華なキャリアウーマン。最高では?
結婚したい。絶対無理。

 

 しかしですね、メルトイユ夫人改め、奥様ジュリエット・ヴァルモンが、「夫の超優秀な助手」みたいになっているのが不満です。彼女の狩りのシーンはどこに?

夫ヴァルモンの「恋愛遊戯」に焦点を当て過ぎていて(それは原作でもそうと言えばそうなのだけど)、「対等な関係」に見えないのです。プレヴァンとのエピソードなどを省いたのが最大の要因だとは思うのですが……。

折角「ジュリエットは女版ドン・ジュアンだ」という前置きもあるのに、それを描写しきれていないような気がするのです。尺の問題なんでしょうか。

もっとジュリエットの魔性の女全開モードを堪能したかったです。「クッ! こんなん絶対抗えん!!」と悶絶したかった。尺1時間くらい延ばして良いからそこも撮って欲しい。

 

 それに、これは原作もですが、メルトイユ夫人=ジュリエットに対しての方が、圧倒的に罰が重くないですか?

ヴァルモンは、言ってしまえば「死に逃げ」ている感じがするではないですか。死人を余り悪くは言えないですし。原作でも映画でも、苦しまずにさっさと逝ってしまいます。

しかし、メルトイユ夫人の方は、全てのものを失って、それでも惨めに生きていかざるを得ない。その対比もよいのですが、「夫人、子爵と比べて可哀想すぎでは?」という思いが拭えません。やはり男尊女卑が抜け切れていないのでしょうか。

 

 「色気ある悪い大人の男」なヴァルモン役は恐らく円熟期の男性俳優が是非とも挑みたい役柄。経験を重ねられたジェラール・フィリップ氏もとても素敵なのですが、ヴァルモン役には少し善性が滲み出てしまっているような気も。少なくとも、「THE・ワル」って感じのヴァルモンではないですね。

言うなれば、彼はオネーギンではなくレンスキー役の方が似合うタイプじゃないですか、伝わって欲しい。俗っぽい女タラシより悲劇の詩人じゃないですか。

 しかし、ツールヴェル夫人を堕とすには、そういう「滲み出てしまう善性」のようなものが決め手となるのかもしれませんね。「ほんとは悪い人じゃないのかも……」という雰囲気が、女性の攻略上の武器になるのでしょう。ある意味で説得力はあるかもしれないですね。

 

 そんなツールヴェル夫人(トゥルベル夫人)はなんとデンマーク人設定に。演じている俳優さんがデンマーク出身の方ゆえのようですが……。

↑ ツールヴェル夫人を攻略するヴァルモン。画になりすぎ。

 何と言って、わたくし丁度最近デンマーク語を学び始めたんですよ! そんなことある?(※経緯)。

確かに一ヶ所、「うお~! デンマーク語訛りのフランス語だ~!」というポイントが明確にありましたね……。言われるまでもなくそれが把握できたことに、自分で感動してしまいました……。デンマーク語訛りのフランス語ってこんな感じなんだ……。

 

 ツールヴェル夫人も魅力的なのでしょうが、すみません、わたくしはヴァルモン子爵×メルトイユ夫人のカップリングが好きすぎて、彼女の良さがよくわかりません(過激派)。あの二人の仲を裂いてしまうとは、よっぽどツールヴェル夫人の方が「危険」だと思う。

 

 騎士ではなくなったダンスニーは翻案されてエコール・ポリテクニーク志望の学生に。幾らエコール・ポリテクニークとはいえ、貧乏学生か……、と思いましたが、そこが割と上手い塩梅を突いているような気も致します。絶妙。

 セシルがダンスニーの部屋に行くシーンでは、テープで流している曲がチャイコフスキーの『1812』なのが気になりすぎて、全く集中できませんでした。台詞が全然頭入ってこなくて。何言ってました??(それいいのかレビュー記事?)

 

 セシルは大分原作からイメージが逸れる印象です。原作では、初心で世間知らず、清純で恥ずかしがり、というような印象を受けるセシルですが、今作では少々反抗期気味の、年頃の大胆な若い娘になっています。

 原作でのエミリーとのエピソードの一部が、セシルとのものに変更されており、原作を読んでいる時「裸体を机代わりにする、ってどういうことだろう……」と思っていたら、映画を観て「そういうことか……」と。

↑ 流石にえっちすぎでしょ。

尻の形が良すぎる。

 

 ヴァルモンが途上国支援の職務の予定を確認する中で、東京が出て来るのに時代を感じます。そうか……1950年代だものなあ……、日本は途上国であったか……。

「四月に東京……」のあと直ぐに、 ≪ La saison des cerisiers!(桜の季節だ!)≫ と続くのが良いですね。フランスでも日本の春は有名か。

 いやしかし、外交官にそんな閑職があるか!? とは思いましたね。外交官は酷く激務なのでは。わたくしは国際政治の研究会に属していたので、外務省に就職した先輩が数人いて、お話を伺ったりもするのですが、「眠らない街霞ヶ関」の恐ろしいブラックぶりに恐れ慄いております……。

或いは、最小の労働時間で済ませられる、仕事に於いても天才なのか。ますます好きだな……。

 

 翻案は上手いですし、18世紀よりも20世紀の方が「大人な色気」を表現しやすいと思うので、それはもう素敵なヴァルモン夫妻に仕上がっていますが、やはりストーリー自体は18世紀の話だよな、と思いましたね。主に社会を包む倫理観が……。

20世紀では、「人の噂も七十五日」で済むような醜聞で終わってしまいそうな気がするのです。

しかし、公式サイトによりますと、こちらの映画もあまりの不埒さに物議を醸し、公開終了に追いやられる程であったとか。20世紀も意外と倫理に厳しかった。

 

 尚、ジェラール・フィリップ氏は、この映画の公開中、36歳の若さで亡くなったそうです。「は……?」て感じなんですが。えだって、この記事にも貼ったお写真の方が数ヶ月後に死んでるとか思わなくないですか? 何、美人薄命概念の擬人化?

 普段あまり映画自体観ないので、この映画祭で存在を知ったくらいのにわかですし、特別ファンというわけでもないのですが、なんだかんだで結構映画祭に通って、どの作品も楽しく鑑賞してレビューを書かせて貰いましたし、愛着のようなものを感じていたので、シンプルにめちゃくちゃ寂しいのですが。普通にイヤだな……。

 わたくしは近代ロマン主義芸術を愛好するオタクなので、「若く美しいまま死! 椿姫!」みたいな人生も、物語としては大好きですが、現実だと重いですね。イケオジ化したジェラール・フィリップ氏どこで観られるんですか。なんとかしてください。

 

 「ジェラール・フィリップ映画祭」もこれにて終了ですが、とても楽しめました。またこういう企画やって頂きたいですね。

殆ど事前情報ゼロな状態で通っていたのですが、結果的に、彼の出世作となった『肉体の悪魔』に始まり、最晩年(といっても若すぎますが)の『危険な関係』に終わるという、途中は前後しますが概ね彼の成長を共に追いかける形となりました。そのことが更にメタ的な感動に繋がっているような気も致します。

 個人的な好みとしては、最初の『肉体の悪魔』、そしてこの『危険な関係』が良かったな、と思いますね。スタンダールも原作大好きなんですが、「ジェラール・フィリップ氏を堪能しよう!」という趣旨からはやはり逸れる気がするので。

初々しい高校生から大人の悪い男への成長を追いましたが、どちらも良いですね。両方観て下さい。見較べて下さい。一人で二度美味しい。

 今回の映画祭で取り上げられなかった作品でも面白そうなのが幾つかあるので、Amazon Prime とかで観ちゃおうかな、なんて考えております。どんだけ寂しがっているのか。そちらを今後の楽しみとします!

 

最後に

 通読ありがとうございました! 5500字程。

 

 大変に名残惜しいですが、映画祭も終了です。いやー、とても楽しかったですね。定期的に大スクリーンで美男美女を観測するの、余りにも健康に良い。本当に寂しいです。

何より、近代文学の映像化作品を観るのが好きなんですよね。どんどん新作も撮って欲しいです。

 

 次の映画祭は、オタール・イオセリアーニ氏をフィーチャーするとのこと。うーむ、これまた知識が全然ないのですが……(本来映画は全く詳しくないので……)。

機会があればお邪魔したいところです!

 

 それでは、今映画祭に関しましてはこちらでお開きとなります。お付き合いを有り難う御座いました。また別の映画祭でお目に掛かれれば幸いです!