こんばんは、茅野です。
東京は嵐で御座いますが皆様ご無事でしょうか。我が家では強風で鉢植えが倒れたりしております。避難避難……。
今回は映画のレビューを。
先日は映画『エッフェル塔』の最終回にお邪魔しました。
↑ いつも通り駆け込み。
一応フランス専攻でしたので、観ておかねば……と思いつつ、上演期間の告知をすっかり見逃しておりまして。ギリギリ間に合って良かったです。
普段あまり映画を観ないものですから、情報が入ってこなくて。皆様はどこで情報収集しておられますか? 是非とも教えて下さい。
今回はこちらの主観的な雑感を簡単に記して参ります。
それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。
キャスト
アドリエンヌ・ブールジュ:エマ・マッキー
アントワーヌ・ド・レスタック:ピエール・ドラデュンシャン
クレール・エッフェル:アルマンド・ブーランジェ
監督:マルタン・ブルブロン
雑感
久々のシネスイッチ銀座。いつの間にかオンライン予約できるようになっていて驚きました。ハコが広くていいですよね。
肝心の内容に関してですが、正直に言えば、わたしはあまり評価することができません。
最初に「史実に基づいて自由に創作した」という注意書きが出ますが、余りにも自由すぎます。殆どがフィクションで、「史実に基づいた部分、どこ? 」状態。一応前書きを置いたことだけでも評価すべきなのか……?
少なくともフランス史のファンにはお勧めすることはできませんね。
では、オリジナルのストーリーが面白いか、と言われれば、これまた微妙……。
何の捻りもない身分差の恋・不倫的なメロドラマで、新規性に欠けます。
何故わざわざギュスターヴ・エッフェルの名前を借りてまでこれをやりたかったのかが全くわからない。謎の殆ど事実無根のストーリーを創作されて、エッフェル氏が墓の中でお怒りでないと良いですが……。
「ではせめて19世紀の描写を楽しもう」と思っても、時代考証が酷く適当で、全然考証やってないでしょ! と突っ込みたい。
まず第一に、服装ですよね。お帽子を被らずに出掛けるとはどうしたことか。当時の価値観では失礼に当たります。悪名高きマナー講師みたいで恐縮ですけれども、一応こちらも「世界観警察」でして……。
また、首飾りですね、ヒロインのアドリエンヌは殆どのシーンで首元には何も付けず、デコルテ剥き出しです。特別の事情がない限り、首元に何もつけない婦人はいなかったのではあるまいか。"肌色" が多く、艶かしい印象が強いです。
ドレスの型に関しても、全然1860-90年代の流行からは逸れます。それはアドリエンヌも発言していますが、当時女性がズボンを穿くのは法に触れますし……。
タイトルロールの服装に関しても然りで、幾ら話の流れや、昼食だったとはいえ、会食の場に正装に類するもので来ないのは有り得ないです。
うーむ、考証をやる気がないのなら、何故19世紀を舞台とする映画を撮ろうと思ったのか……。
次に、恋愛観や婚姻に関してなんですが、こちらもなかなか。
アドリエンヌは、元々苗字に冠詞が付いていないことから、元はブルジョワジーの設定なのでしょうか。その彼女が、「ド・」レスタック夫人となる。なるほど、貴賤結婚の禁止原則は?
確かに、第二帝政下フランスに於いては、ブルジョワ令嬢と(主に没落)貴族青年が結婚することは余り珍しくは無いかもしれません。描写を見る限り、ブールジュ家は非常に裕福そうですし、特に夫のアントワーヌ氏の方が彼女に惚れ込んでいる様子なので、その点は無理矢理解決したのかもしれません。
しかし、少なくとも作中では単なる技師であり、余り財産があるようにも見受けられないエッフェルと、結婚話までいくとなると、どういう立場なのだろう……とは考えてしまいますよね。
更に言えば、少なくとも、婚前交渉をしているのは如何なものか。まあ、それで勘当されるのでしょうが……。
……と、このように、かなりツッコミどころが多いです。もっと詳しい方がご覧になれば、更に色々と見付かることでしょう。
これが別の地域の監督によるものならば、まだ情状酌量(?)の余地がありますが、現代のフランス製というのが逆に驚きですね……。事実、本国フランスでは余り評価が高くない様子。よく日本に入ってきたな……、まあ日本人パリ好きだもんな……(?)。
『エッフェル』というシンプルな題からは、彼の伝記映画か、或いは一番の代表作であるエッフェル塔にフォーカスしたものであろうと想像できます。しかし、今作はそのどちらでもありません。
創作されたメロドラマを主軸としており、前者を期待する人々はガッカリしてしまうでしょう(その一人)。うーむ、寂しいですね……。
何よりもエッフェルの魔法の杖である「鉄」、労働者のストライキや、川沿い故に当時画期的であった水圧に纏わる技術、リベットを用いる手法など、建築に関しての描写は少しありますし、その部分は楽しめたのですが、是非ともそれを主軸に据えて欲しかったなあ……と思いました。
地下道のシーンでは、わたしも思わず耳を塞いでしまいましたが、音響は確かに凄い。
エッフェル塔に纏わる資料と言って一番に思い浮かぶのは、勿論ロラン・バルトの『エッフェル塔』。
↑ 天辺からビーム出てるみたいでカッコイイですよね(※イルミネーションです)。怪獣映画感ある(?)。
大学の講読課題で、原文を精読させられたので思い出深いです。正にバルト的な小難しさもあるので、まず厳密な意味を解すのが結構厄介だった記憶。資料も引きつつ、「リベットってなんだよ(※鋲のこと)」とか言いながら翻訳書いてたのが懐かしいです。
こちらの書籍は、ほんとうに「塔そのもの」についての本で、設計者のエッフェル氏のプライベートについては殆ど全く記載がないので、その部分の知識を補いたかったのですが、そういうわけにもいかなかったですね……。
同書の中に、「エッフェルは労働者がこの上なく楽な姿勢で働けるようにまで計算していた」という旨の記述があるのですが、映画の中ではそうは見えないところも残念な点です。そういった偉業を映して欲しかったのですが。
また、映画では死者を出さないことが強調されていますが、同書曰く、労働者が一人亡くなっているようですね(まあ尤も、それは建設中の事故と言うよりも、見栄を張ったが故の、擁護し難い死因であったようですが……)。
俳優さんに関しては、似てるとか嵌まり役とかそういう尺度では全く測れない為、何とも言い難いものの、一般的な創作映画として考えれば、良いのではないでしょうか。
↑ フィクション感エグいことを度外視すれば、絵面は綺麗である。
↑ 第1展望台を建てるエッフェル氏と労働者の皆さん。こういうシーンだけで良かったんだけどな、個人的には。
↑ 社交ダンスシーン。若い頃の描写や出逢ったときの黒いドレスよりは良いと思いますが……(考証的に)。
↑ エッフェルさんの愛娘クレール。今作の癒やし枠。彼女が不幸な目に遭わないで本当に良かった。めちゃかわいい。
というわけで、まあ、可愛いクレールちゃんを堪能したらよいと思います。はい。
中盤から明確にはなってきますが、序盤は時系列に混乱するかもしれません。かなり入り乱れています。
字幕では反映されていませんが、主演二人の会話が二人きりのときは親称だな……と思ったら、直ぐに回想編に入り、夢オチのようにエッフェル塔の設計シーンに戻り……と、入り乱れています。
見分け方はエッフェルさんの髭ですね。濃いときが現在、薄いときが過去です。
それにしても、女の子の髪の毛の長さとかもそうですけれど、短い=幼い、長い=成長後、というのは安直すぎまいか。成長してから髪や髭を切る人もおろうに。わかりやすいんでしょうか。
結構ガッツリ性描写があります。「おお、そこまで映すんだ……」と思っていたら、R15 であった。成る程……。
実在の人物をモデルに、しかもその部分のストーリーは創作で、そういった描写をするのってどうなんだろう……と個人的には思ってしまうのですが。特にご遺族ご子孫は気分を害されたりしないものか。
『ウマ娘』レギュレーションは偉大なり……(※『ウマ娘』では、作中のキャラクターは実際の競走馬をモデルとしているため、彼女たちを対象にしたエロ・グロ描写は厳格に禁止されている)。個人的には、実在の人物をモデルにするのなら、このルールは絶対に必要だと思っています。
音楽も主張が弱めで、あまり耳に残りません。メインテーマ的なピアノの旋律はあるのですが……。作品を邪魔しない、と言えば聞こえが良いですが。
個人的には、どのように楽しんだら良いのかが少し難しい映画であったように感じます。
現実にあった出来事とはかなり大きくズレているし、その創作部分も「その内容であればもっと本格的なラヴ・ストーリーで楽しむからいいよ」というような中途半端さ。
何故この時期にこの題材で撮りたかったのか、ということは、正直わたくしには理解しかねました。
少し辛口になってしまいましたが、何かのご参考になれば幸いです。エッフェル氏の伝記映画などが出たら、改めて観たいですね。
最後に
通読ありがとうございました。4000字です。
フランス映画といえば、バルザックの『幻滅』がそろそろ来てしまいますね……。今回の映画を観ながら、映画に対しても「幻滅」してしまったらどうしよう……と不安になってしまいました。
バルザックはフランスの国民的大作家ですし、ましてや中でも代表作の『幻滅』です。素敵な作品になっていることを願いつつ。
久しぶりに原作を読みたかったのですが、バルザックなので当然長い。手元にもないですし、間に合いそうになく……、きちんとレビューが書けるだろうか。不安ばっかり!
というわけで、次回のレビュー記事は恐らく映画か演劇のライブビューイングになると思います。気長にお待ち下さいませ。
それでは、今回はこちらでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです。