世界観警察

架空の世界を護るために

映画『赤と黒』(1954) - レビュー

 こんばんは、茅野です。

ほんとうにレビューを書くのが苦手で、寧ろ気が重いくらいなのですが、弊ブログの「レビュー」カテゴリが三桁に到達しそうです。わたくしが一番驚いております。マジか。

一向に執筆が上手くなる気配がないことだけが懸念です。

 

 というわけで今回は映画レビュー記事です。

 我らが映画祭もいよいよ大詰め。「ジェラール・フィリップ映画祭」、個人的には四本目となります、スタンダール原作『赤と黒』で御座います。

 これまでの鑑賞記録は各タイトルにリンクを付けておきます(『肉体の悪魔』、『モンパルナスの灯火』、『パルムの僧院』)。

 

 スタンダールですからね、外れませんよ。仏文の中でも好きな作家の一人です。映像化ということで、楽しみにしておりました。

 

 それでは、お付き合いの程よろしくお願い致します!

↑ 出から裁判シーン。ここの演説、良いですよねえ。

 

 

キャスト

ジュリヤン・ソレル:ジェラール・フィリップ

ルイーズ・レーナル夫人:ダニエル・ダリュー

マチルド・ラ・モール:アントネッラ・ルアルディ

ピラール神父:アントワーヌ・バルペトレ

ラ・モール侯爵: ジャン・メルキュール

レーナル氏: ジャン・マルティネッリ

監督: クロード・オータン=ララ

 

雑感

 『赤と黒』の主人公ジュリヤン・ソレルといえば、「出世欲が強く、野心に満ちた平民」キャラクターの代表格。聡明で、美男子ですが、最初に目に付くのは、やはりそのギラギラ燃える目付きなのではないかと思わせます。

 ジェラール・フィリップ氏は、やはり線が細く、端正な容姿をされていますから、これまでも儚げな役柄が多いように思われます。このような役どころは少々レアなのではないでしょうか。

尤も、ジュリヤンは白い額に白い手をしており、貴族の落胤であることが何度も作中で仄めかされているので、「見ればわかるでしょ、貴族だよ。」という説得力は抜群かもしれません(?)。間違っても材木屋の息子には見えないですね。どうなっているんだ田舎の材木屋。

 

 実際、「野心家」というより「策士」というような印象のあるジュリヤンでした。

しかしそれは、今作には独白が多いことも要因の一つでしょう。心の声が漏れております。文学が原作だからこその表現ですね。

章毎に本のページをめくるような描写があるのも大変素敵。

 

 今作は、これまでこの映画祭で観てきたもののなかで唯一のカラー映画です! そりゃあ、題が『赤と黒』ですから、「白と黒」にするわけには参りませんものね。

しっかりと題が反映されていて、僧服は黒、軍服は赤でした。

原作でも映画でも、ピラール神父がジュリヤンに「僧服の黒がよく似合う。」と言う台詞がありますが、正しくです。

↑ 勿論黒燕尾もいいぞ!

 一方で、「赤」はあんまりお似合いにならないですね。というか、線が細いので、力強い軍人さんには見受けられない。

↑ 「赤」。落馬してはいかんぞ。

皆様は「赤」と「黒」、どちらがお好みですか。

 

 今回の上映では、前後編(原作では二巻)に別れている映画を連続上映。従って、大変長いです。途中からお尻や肩が気になってくる領域。

従って、途中離脱したり、お手洗いに向かったり、飲み物などを買いに行かれたのだろう方もお見受けしました。

原作、長いですからね……、面白いのですが。少々根気が要ることは否めません。

↑ 表紙デザインに規則性のある岩波や光文社とは異なり、新潮では表紙からしっかり「赤と黒」。

未読の方は是非とも。スタンダールはいいぞ。

 

 尤も、それでも削っているエピソードも色々あります。

ボーヴォワジ従男爵の名前がクロワズノワ公爵に変わっており、彼と決闘することになっています。一方の原作のクロワズノワ公爵は完全にリストラ。

政治的な話や、ジェロニモの話も全カット。

 一番悲しかったのは、親友フーケのリストラですね。素朴で友だち思いで、最後には処刑された親友の死体を買い取るような男なのに……。寂しい。精神的に。

 

 『肉体の悪魔』と同様、映画の方では物語の最後のチラ見せから始まります。つまり裁判シーンからです。その方がドラマティックなのはよくわかります。しかし、いずれにせよ悲劇ばかりだな……。

 

 「映画祭」では、個人的に、年上の人妻と関係する高校生役の『肉体の悪魔』、極貧の芸術家役を演じた『モンパルナスの灯火』が続いた為、「ジェラール・フィリップ氏、自分ではお金を払わないヒモ役がお似合いなのか……? これがイケメン税か……」とか思っていたのですが、スタンダール作品では監獄に閉じ込められる囚人役が続きます。監獄が似合う男(?)。

↑ 『パルムの僧院』のレビュー記事。

 尤も、ジュリヤン・ソレルは「囚われのお姫様」みたいな役柄では全然ありませんけれどもね!

 

 ヒロインは前半のレーナル夫人、後半のマチルドと二人。

↑ レーナル夫人。どちらかというと正規ヒロイン枠。また人妻と浮気をしている……。

↑ 侯爵令嬢マチルド。

 普段、パリやペテルブルクなどの、大都会の「恋愛遊戯」を描いた小説の方に馴染みがあるゆえか、わたくしは個人的にはマチルドの方が感情移入し易いし、好きなキャラクターです。

しかし、平民出身で、自身の階級について酷いコンプレックスを抱いていて、且つ、母亡く父や兄に虐められて育ったジュリヤンにとっては、二児の母ゆえの母性を持つ、献身的なレーナル夫人の方がお似合いですし、愛の対象となるのでしょう。

 映画版のレーナル夫人は、原作よりも更にどことなく病的な印象があってメンヘラ、個人的にはちょっと怖かった……。映画版では、ジュリヤンの生首にキスしてそうなのはマチルドよりもレーナル夫人だと思いました。

 映画版だと、監獄でジュリヤンが何を考えているのかが語られないので、「あ、でもやっぱり本命はレーナル夫人なんだ」という驚きがあるかもしれません。


 しかし、マチルドといえば、髪の毛切り事件ですよ。髪の毛の話は辞めろとあれほど!!

しかも、実は原作では彼女は金髪の設定なのですが、映画版だとご丁寧に茶髪ではないですか。むむむ……。

↑ 「弊ブログと髪の毛」といえばこの記事。

恋人の髪の毛を持ち歩く風習、なんなんですかね……? いや、良いとは思うんですけれど、も……。髪や爪を呪術的なものに使う文化が存在した日本の生まれ育ちとしては、多少奇異に思えますよね。世界的に見たら我々の方が不思議なのかもしれないですが……。

 

 かなり原作に忠実な仕上がりで、原作の題銘を毎度出すだけのことはあります。教材とかになりそうなレベル。

長いですが、カラーになりましたし、現代でも通用するとても観やすい仕上がりになっていると思います。

原作ファンの方も、原作はこれからという方にも、お勧めできます。但し、お手洗いやお飲み物などの準備は入念に。

 

最後に

 通読ありがとうございました。3000字ほど。

 

 寂しいですが、「ジェラール・フィリップ映画祭」は近々上映終了です。

わたくしも、最後に大トリ『危険な関係』を観て、終わりにしたいと思っております。ここまで来たら全部観たいまであるの領域ですが、文学攻めに終始してしまいました。

 実は、ラクロは未読だったので、今急いで読み進めております。流石現代でも名を遺す名作、ふつうにめちゃ面白いですねこれ……。何故評価されているのかが大変よくわかります。計算されているし、単純にストーリーも面白いし、全く恐ろしいな……。

↑ 「古めかしい、長い……」と敬遠している方も、これを機に是非。正直、こんなに面白いとは思わなかった。

 映画版も拝見するのが楽しみです! 朝一の上映なので、寝坊しないかだけが不安。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かれれば幸いです!