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映画『モンパルナスの灯』(1958) - レビュー

 こんばんは、茅野です。

昨日、4回目のコロナワクチンを受けました。どうせ副反応で外にも出られないし、本日は文字書きをするぞ! と思っていたのですが、意外にも朝から日中に掛けて39度まで熱が上がってしまい、生産性に欠ける一日となってしまいました。悲しい。

 

 さて、今回はレビュー記事です。個人的には二本目の「ジェラール・フィリップ映画祭」。数日前に『モンパルナスの灯』を鑑賞して参りました。

↑ まだまだ観たいもの沢山!

 

 簡単にはなりますが、雑感を記します。

それでは、お付き合いの程よろしくお願い致します!

↑ 高校生じゃない……大人だ……、という当たり前な感想を最初に抱く。

 

 

キャスト

アメデオ・モディリアーニジェラール・フィリップ

ジャンヌ・エビュテルヌ:アヌーク・エーメ

ベアトリス・ヘイスティングス:リリー・パルマ

レオポルド・ズボロフスキ:ジェラール・セティ

モレル:リノ・ヴァンチュラ

監督:ジャック・ベッケル

 

雑感

 最初に感じたのは、「これがこの間の『肉体の悪魔』の高校生と同一人物!?」という衝撃です。

↑ この間のレビューです。

雰囲気が違いすぎる。基本的には、勿論「二枚目俳優さん」の枠ですけれども、演技の幅、広。

 

 『肉体の悪魔』も、主題からして、原作は結構頽廃的な作品だと思うのですけれども、映画化に際しては王道なラヴストーリーに仕上がっていました。

しかし今作『モンパルナスの灯』は、「生前には評価されず苦しんだ、パリの極貧の芸術家」ということで、酒、女、煙草、不摂生と、もう絵に描いたような頽廃。最期は路上で行き倒れ、身元不明患者扱いのまま死ぬという凄惨さ。その後のエピローグも酷い。

肉体の悪魔』の方も、ヒロインの死で終わるはずなんですけれどもね、この差は何なのでしょうね。なんというか、正に misérable といったところで、途中から『肉体の悪魔』が恋しくなりましたとも。

 

 彼の死の前年の作品ということでしたから、晩年の作品にあたります。死ぬの早……。36歳没て……。

肉体の悪魔』からは11年後になりますね。

 

 『肉体の悪魔』の時は、意外と声が高めだな、と思いましたが、今作ではめっちゃ低くなっていました。声音の使い分け、素晴らしいです。声の演技、大事ですよね。

 特に、酔った時や具合が悪い時の声音が特徴的で、そこからふっと正気に返ったときの差が顕著であり、「ギャップ萌え」の魔術師か……と感心してしまいました。

 

 「知的で早熟なお坊ちゃん高校生」からは打って変わって、極貧の芸術家です。衣類も質素だし、病やアルコールのせいか、常に額に汗を滲ませていて、非常に刹那主義的で、病的な印象を受けます。DV 気質だし、性格的な欠陥も多いものの、放っておけない憎めない、という役どころで、何故かそういう人間の方がモテる世の中の罠。

それでも勿論、顔の良さは健在。強い。寧ろ、所謂「風邪引き男に目病み女」的な、はかないエロティシズムを感じます。

 

 今作は、1ヒーロー1ヒロインではなく、少しハーレム感ある仕上がりです。しかもそれぞれが良いキャラをしていて、美しすぎる。

↑ えげつない美女。

 メインヒロイン、良家のお嬢様ながら駆け落ち状態の内縁の妻、ジャンヌ・エビュテルヌ。多数のモディリアーニ作品のモデルになっているとのことです。こんなにも(また史実でも)美女なのに、狂信的なまでに頽廃的な彼を愛し、明らかに破滅に向かっているのがわかっていても支えようとします。

 ちなみに史実では、モディリアーニの死の直後、階段から飛び降りて後追い自殺をしているとか。ひぇ……恐ろしい。しかし映画の描写でも、これはやりかねんな、と感じました。正に共依存的なカップル。

 

 元カノ枠、ジャーナリストのベアトリス・ヘイスティングス。(こんなに顔が良いのに)アル中兼ヤニカス兼 DV 男なモディに付き合います。友だちに一人いたら心強いこと間違い無しの、姉御タイプな女性です。こちらもこちらで、身の回りのことも覚束ない彼と相性抜群。

 『肉体の悪魔』では高校生役でしたし、今回も極貧の役回りなので、いつも女性側がお金を出すという。ヒモ役が十八番なのか、ジェラール・フィリップ氏(?)。イケメン税。

 

 結末がこれまた酷くて、腹黒の画商モレルが、ハイエナの如く、行き倒れたモディを殆ど見殺しにし、妻ジャンヌにその死を伝えぬまま、彼の作品を無料同然で譲り受けるという胸糞エンド。

↑ 死ぬ前の、焦点の合わない眼の演技が凄まじいので観て下さい。

↑ 画商モレル。見て下さいこの表情。ウザ(※褒めています)。

 しかし、嫌われ役をあそこまで憎々しく演じられるのもまた悪役としての才能。観ていてシンプルに胸糞悪くてむかつきます。凄い。

 

 

 モデルとなった画家アメデオ・モディリアーニに関しては、申し訳ないくらいに「ミリしら」でした。帰りの電車で Wikipedia を流し読みして補完する程度という酷さ。

どれくらい史実に基づいているのか、検証するのも楽しそうですけれどもね。

 

 正直なところ、個人的には絵画にはあまり関心を持てず、特に現代的な作品には寧ろ苦手意識があるくらいで……。

一方で、わたくしの父がモディリアーニが好きで、レプリカですが、書斎に絵を飾っている程。

↑ 我が家の書斎の壁。

 『少女の肖像』という絵らしいです。早口言葉か?

↑ 自宅にある癖に、今回初めて詳細を調べました。いえ、幼少の頃からずっとあったので、逆に今まで疑問などを持たなくて……。

こちらの絵も、南仏ニースに滞在中に描かれたもののようです。

 

 作中では、モディリアーニには重い持病があるものの、何の病気であるのかは言及されていませんでした。時代や描写的に、結核かなあ、とは思いつつ観ておりましたが、調べたところ、やはり幼少から結核を患い、最終的には転移して結核髄膜炎で若くして世を去ることになったそうな……。

……結核髄膜炎でニースで療養!? なんだその聞き覚えしかない設定は……。

前日、ちょっとした事件に遭遇していたので、その気分転換も兼ねて映画鑑賞をするつもりでしたから、なんというか、そこで集中力が少し切れ……。もう逃げられない……(※極簡単に言うと、筆者の「推し」と同じなのです)

 

 結核というのは、20世紀中頃までは死の病でありながら、「モテる」病でもありました(病に本気で苦しむ人々には失礼な話ですが)。「愛と死」が持て囃されたロマン主義時代の人々にとって、白皙で、儚くて、若く美しいまま死に至る結核は、ある意味で「憧れの」病でもありました。業深き人類の性癖。

 そりゃあ、ジェラール・フィリップ氏が演じているのだからモテない方がおかしかろうというところですが、史実の時点でモディリアーニは大変モテたとか。あの天才的な画家なのだからそれも当然かとは思いつつも、しかしあのアル中っぷりを見てしまうと……、……。

 展開としては正に『ラ・ボエーム』。オペラで有名ですが、この間ミュルジェールの原作の邦訳も出ました。是非とも。

↑ 『モンパルナスの灯』が好きな方なら、絶対刺さると思います。

 最近『ラ・ボエーム』観ていないな。観たくなりますね。

 

 

 映画『モンパルナスの灯』は、ストーリーが結構胸糞悪いので、少し人を選ぶかもしれません。今作も、とんでもない美男美女が登場しますが、ただ美しい容姿に酔いたいだけなら、『肉体の悪魔』の方がずっと良いかも。

 「史実を元にしたフィクション」という注意書きが最初に出ますが、極簡単に調べたところだと、大きすぎる逸脱も無さそうな印象を受けます。後でリサーチしておきます。

 オペラ『ラ・ボエーム』が好きな方には全力で推したい作品です。また、有名なモディリアーニ作品も多数登場するので、勿論美術好きさんにも推薦したいと思います。

 

最後に

 通読ありがとうございました。3000字程です。

 

 時代設定としては『肉体の悪魔』とさほど変わらないはずなのに、こんなにも異なる印象を受けるとは。そして、容姿だけではなく、やはり演技力が伴ってこその俳優さんですね。流石です。

 

 他にも文学が元となった作品を何作か観たいと思っているので、復習が間に合って欲しい。頑張ります! 引き続き映画祭を楽しめたら、と思います。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。次の記事でお目に掛かれれば幸いです。