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映画『ソウル・オブ・ワイン』 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

レビュー執筆マラソンは終わったはずなのに、11 月の観劇分で継続しております。そんなこんなで 11 月も半ば。なんということだ。

 

 というわけで、先日出向いたのは劇場ではなく映画館。映画ソウル・オブ・ワイン』を鑑賞して参りました。

 原題は『L' Âme du Vin』であるのに、何故英題にしたし。フランス語ではわかりづらいにしても、何故英語にしたし(二回目)。日本語でもよいのでは。

 

 今回は、こちらの映画の雑感を記して参ります。それでは、お付き合いの程よろしくお願い致します。

 

 

出演者

ベルナール・ノブレ、クリストフ・ルーミエ、ドミニク・ラフォン、オリヴィエ・プシエ、フレデリック・ラファルジュ、カロリーヌ・フュルストス、オリヴィエ・バーンスタイン、ステファン・シャサン、ジャック・ピュイゼ、オベール・ド・ヴィレーヌ、石塚秀哉、手島竜司 ほか

監督・脚本:マリー・アンジュ・ゴルバネフスキー

 

雑感

 よく言えば、非常に静謐な映画、悪く言えば、めちゃくちゃ眠くなります

音楽や解説も殆ど無く、美しい葡萄畑、淡々と行われる農作業を映している時間が半分程度で、残りの半分は、専門用語の飛び交う生産者やソムリエ、つまりは専門家たちのフランス語での語り。相当葡萄栽培や葡萄酒作りに関心がある上で、睡眠をしっかり取ってから行かないと、寝ると思います。

 それでも、葡萄畑の風景はとても美しいし、ずらりと樽の並んだ酒蔵も圧巻。実際に葡萄酒や樽を作る様子も見えて、勉強にはなります。しかし眠くはなると思います。

 

 とはいえ、折角観に来たのだし、爆睡していても致し方ないので、少し専門用語を聞き取ってみる。

terroirテロワール)」は、特徴的な使われ方をしていますが、フランス語の普通名詞なのでよいとして(注: 主にワイン用葡萄の耕作適地を指す)、気になったのは「ビオディナミ農法」なるもの。無学にして、初めて耳にしました。

日本語だと、飲料で馴染み深いキリンの公式サイトに解説が。

↑ 年齢確認があるので、20歳以下の方は読めません。スミマセン。

 要点を引用させて頂くと、曰く、

ビオディナミ(Biodynamie)とは、オーガニックの一種。
土壌のエネルギーと自然界に存在する要素の力を引き上げ、ブドウの生命力を高める、さらに踏み込んだオーガニック農法です。
1924年オーストリアの思想家ルドルフ・シュナイダーが提唱した「自然な環境で土壌と植物を保全し、価値を与える取り組み」から設立した農法です。

とのこと。

見易いサイトで解説して下さって有り難いのですが、しかしこれでは「オーガニックのなんかすごいやつ」ということしかわからないので、もう少し踏み込んで具体的なことを探してみることに。

 調べてみると、「LE VIN, LA VIGNE ET LA BIODYNAMIE - ワイン、葡萄、ビオディナミ 」なる論考を見つけました。長いので(120ページ)、わたくしも未だ斜め読みしかできていないのですが、結構スピリチュアルっぽいことが書いてあり、やはりオーガニックの類いは、「そういう世界」と縁が深いのかな、などと考えたり……。

 

 わたくしは東京の生まれ育ちであることもあって、農法などについては全くご縁がなく、大変新鮮に感じました。

個人的に趣味で研究している19世紀の人物ロシア帝国の皇太子殿下)が、当時のラトビアの農法を学んだことを示す史料などを拝読したことがあり、農法の歴史などお勉強したら面白いかも! なんて思いつつ。

 Особенным расположением удостаивал Цесаревич находившихся в Либаве курляндских дворян. Он посетил многие из окрестных благоустроенных дворянских имений, знакомясь с усовершенствованными приемами сельского хозяйства, которое велось в них на рациональных началах, мало еще известных и совершенно не принятых в других местностях Империи.

 皇太子は、リーバウのクールラントの貴族たちに特に好意を向けていた。彼は周辺の貴族の領地を訪れ、帝国の他の地域では全く知られていなかった改良型の農法理論の原理について学んだ。

衝立の裏から - 限界同担列伝7

専制国家の皇帝って最新の農法まで知っていなきゃいけないんですかね……(そんなこともないと思う……)。大変だ……。

 同殿下が、ロシアの葡萄栽培で有名なツィムリャンスクに出向いた記録などもあり、ツィムリャンスクではどのような農法で葡萄を育てているのだろうと思いを馳せました。

↑ ツィムリャンスク村にて。思わずバッカスの饗宴を思い浮かべるワインの味とは。

 こちらは1863年の記録ですから、1924年に提唱されたというビオディナミ農法ではないことは明らかです。ビオディナミ農法では、肥料すら使わないということでしたから、当時は堆厩肥などを撒いていたのかな。

 

 作中では、ソムリエたちがワインの品評を行いますが、その語彙力の豊かなこと!

淀みなく朗々と語り出すのは、文章を生み出す人間としては理想的。やはり上手い喩えなどを用いるには、専門分野以外のこともよく知っていないとだよなあ、と改めて感じたり。これが教養か……。

しかし、これは別の分野でも常に感じるのですが、語彙力があれば尤もらしく見えるけれど、語彙の豊かさだけでゴリ押ししてはおるまいか、ということです。理解力と表現力の橋渡しとは。真の智とは。そんな哲学的なことを考えながら観ていました。

 終盤には日本人二人が品評をするのですが、逆に語彙力が全く無くて、「凄いっす」「何も言えない」の連発で、妙にリアルだなと感じる一方、何故この場面を収録したし、とツッコミたくなりました。

フランス人ソムリエの二人の語彙力が余りにも豊かすぎたので、なんとなくはずかしくなる同日本人の図。

 

 前述のように、BGM も殆どないのですが、収穫の場面で印象的に流れるのが、ジャズの名曲『Minor Swing』。

↑ こちらの録音ではないかと思うのですがどうでしょう。クレジットロールも注視しましたが、どの録音かまでは流石に追えなかった……。

 思えば、イディッシュ語歌唱の音楽グループ、Mischpoke の『Abi Gezunt』のカヴァーでは、『Minor Swing』をとても巧妙に混ぜていますね。『Abi Gezunt』の方は、別記事で簡単にご紹介していたので、ハッとしました。

↑ ミュージックビデオは皆さんとても楽しそうで素敵だし、アルバム全体も良いですよ! お勧め CD。

 こんなところで出逢うとは。何がどう繋がるかわかりませんね……。

 

 映画『ソウル・オブ・ワイン』は、非常に静かな映画で、眠気を誘うので、前日に睡眠をしっかりと摂ってから観たい映画です。

画は美麗ですが、解説も少ないので、ある程度事前知識がある人向けかもしれません。

万人受けはしないと思いますが、美しいブルゴーニュの風景や、フランス語での品評など、好きな人は好きだろうと思えるドキュメンタリー作品です。

 

最後に

 通読ありがとうございました! 3500字強です。

 

 食と芸術といえば、新宿 SOMPO 美術館にて、ボタニカル・アートの展覧会が始まりましたね!

初夏頃に広告を見かけて、行こうとは思っていたのですが、いつの間にか開催時期になっていました。時の流れの速いことよ。

↑ こちらです! 楽しみ。

 個人的には、プラントハントといえば、米国の伝説のプラントハンター、デヴィッド・フェアチャイルド。伝記が余りにも面白くて、のめり込んで読みました。

↑ 勉強になるし、単純にめちゃくちゃ面白い名著です! 本気でお勧め。

こちらの表紙が正にボタニカル・アートですよね。

フランス語圏を専攻とし、研究会ではアラビア語圏を研究対象とし、趣味としてロシア語圏を掘っているので、イギリスの食文化には馴染みがないため、色々予習復習をしつつ参りたいところです。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します! また別の記事でお目に掛かれれば幸いです。