おはようございます、茅野です。
先日は井内美香さんの講座にお邪魔させて頂いたり、相も変わらず元気に『オネーギン』オタク活動しております。個人的なことなので詳しくは書けませんが、他にも『オネーギン』のご縁でちょっと良いことがあったりなかったり……。
松本『オネーギン』以来、当ブログの知名度が上がっているようです。実は、松本期間中はアクセスが普段の5倍くらいありました。アナリティクスに「異常」と言わせてしまいました。わたしもびっくりです。ありがとうございます。
巷で「『オネーギン』の七面倒くせえブログを書いているオタク」として知名度が上がったようで……恥ずかしいことこの上ない……けども、今日も元気にクソオタク記事を書いちゃいます! いぇーい。
というわけで、今回の論題は「エヴゲーニー・オネーギンさんになるための5つの小物」と題しまして、オネーギンさんの所持品や嗜好品をみてゆき、あわよくば手に入れちゃおう! みたいなかんじです。
現在どうしても手に入らないものは代替案も提示してみましたので、オネーギンさんに憧れて成り切っちゃいたい方には購入をお勧めします。
商品名がガッツリ出ているものもありますが、残念ながら回し者ではありません。
当たり前ですが、今回は中でも特にマニアックな記事になったかなとおもいます、我ながら。それではお付き合いのほど宜しくお願い致します!
ル・パージュのピストル
青年貴族たるもの、決闘のひとつやふたつ、こなせなくてはなりません。運命を握るその銃は、高性能で美しくありたいもの。
オネーギンとレンスキーが決闘時にどのような銃を使ったのか? というのは結構気になるのではないかとおもいます。有り難いことに、時代考証に走る必要も無く原作第六章に「ル・パージュ(Le Page)製の運命のピストル」なる記述があります。
ル・パージュは1717年創業のフランス・パリの銃器店です。あのフランス大革命にも寄与したとか。当時ロシアに入ってきていた銃器はフランス製とイギリス製が主だったのですが、オネーギンの銃はフランス製のようです。
気になるのはモデルですが、その表記はありません。参考に、こちらは有力ではないでしょうか。著者プーシキンが所持していたピストルです。
↑ モスクワのプーシキン博物館所蔵のもの。撮影: 著者。
但し、オネーギンに於いては、プーシキン自身が「著者と登場人物の違い」を強調していますから、必ずしもプーシキンの所持品=オネーギンの所持品とはなりません。
そこで、例えばこんなモデルはどうでしょう。
↑ Le Pageの彫り印入り。
ル・パージュ製、フリントロック式です。材質はクルミ、全長34.5cm。18世紀後半~19世紀前半のモデルなのでオネーギンさんの手元にあってもおかしくはないのではないでしょうか。
ちなみにこの銃、コレクターズアイテムとして購入出来ます。レプリカも出回っています。本物志向で上演するなら購入必須!? わたしも手元に置いておきたい!(?)。
コレクターズアイテムの方は当方が確認したところお値段約$3000でした。高い。
アイ、クリコ、モエのシャンパン、ボルドーワイン
皆さんの大好きなお酒です。オネーギン作中で名前が出て来るのはシャンパンが三種。
まずはアイ(Aÿ)から。こちらは第一章、第四章、『オネーギンの旅』など、至る所で出て来る名前です。
「コメット・ワイン」というものをご存じでしょうか? 彗星が現れた年は葡萄が豊作になり、ワインが美味しくなる……というものなのですが、1811年に彗星が現れたことがはじまりのようです。この「アイ」というシャンパンは、その1811年の年のもの。
第一章では「彗星印のシャンパン」とのみ表記がありますが、これはアイを指します。
流石に1811年のものを飲むことは難しいので、もし実践するなら、最近の「コメット・ワイン」を探してみては如何でしょうか。
例えば……こんなものとか?
↑ 彗星の現れた1989年のもの。
次にクリコ(Veuve Clicquot)をみてみましょう。お酒好きの方ならご存じでしょう。
こちらもフランス製で、製造会社は1772年創業。当時はロシア帝室御用達でした。社交界でもよく飲まれていたのでしょう。『オネーギン』原作作中では、後述のモエと共に、オネーギン邸を訪れたレンスキーに振る舞われています。
現在でも容易に入手可能。今晩はこれで決まり!
最後にモエ(Moët)です。こちらもオネーギン邸常備のシャンパンのようです。
1743年創業のフランスの会社のものです。彼は18世紀創業のフランス産がお好きなようで……。
こちらも入手が容易。今日はワイナリーへ行きましょう。
以上、シャンパン編でした!
ワインに関しては、「ボルドー産」がお好みだったことしかわかりません。とはいえ、こちらはプーシキンの好みなのでどこまでオネーギンに当てはまるかどうかはわかりませんが……。
しかし、オペラのほうでは、第二幕第一場の婦人たちが
彼は危険人物で、赤い酒だけをコップで飲むんですってよ!
(園部四郎訳)
と発言しています。最初わたしも意味が取りづらく、どう解釈したものか大変迷ったのですが、こういうことらしいのです。つまり、「外国産のお酒」しか口にしないということで、地酒はバカにして口にしないということなのだとか。
ロシアのお酒=ウォッカと安直な思考には要注意! オネーギンはおろか、当日のロシア貴族はフランス・ボルドー産やジョージア・ワインなどを嗜むのが主流。オネーギンを目指す(?)なら、目線を西へ西へ、仏蘭西へと向けてみましょう。
ビーバーの毛皮の襟のコート
次にファッションを見てみましょう。
『オネーギン』第一章では、彼の容貌について長々と記述があるわけですが、分かってくるのはロンドン風の流行のファッションに身を包んでいたということ。では「当時の流行」ってなんぞや、ということは学者間で大いに盛り上がっている論題でもあります。
ただ、確定しているのは上衣に「ビーバーの毛皮の襟のコート」を羽織っていたということ。そうです。わたしが苦戦した問題です!()。
↑ 第三問参照。
これが悔しかったので、以後近代の文献を確認するときにはコートの描写に注目していると、確かにロシアの冬、身分の高い人々はビーバーの毛皮のコートを身につけていたようです。例えば、皇帝アレクサンドル2世もこのコートを着ていたことがわかっています。
↑ この有名な肖像画の襟も、もしかしたらビーバー……?
ビーバーの毛皮ですが、幸いなことに(?)現在でも規制なく、入手が可能です。お値段の方もリーズナブルとは申せませんが、全く手が届かないレベルではないので、各自アパレルショップへお問い合わせください。
ブレゲの時計
ファッション編が続きます。ファッションで差を付けるとしたら、やっぱり時計と靴ですよね! ということで時計を見てみましょう。
原作第一章によると、彼が身につけている時計はブレゲ(Breguet)製のもの。1775年フランスにて創業の、現在にも続く高級ブランドですね。
但し、当時は腕時計こそ発明されていたものの(1806年)、主流はまだ懐中時計の時代。まず懐中時計とみて間違いないでしょう。
又、「鐘の音がする」という表記がありますから、リピーターがあったことになります。オペレッタ「こうもり」などでお馴染みの、あの音です。
だとすると……これなんか近いのではないでしょうか?
1810年モデルで、黄金の装飾が美しい一品。リピーター付き。
ちなみにお値段は100万円が最低ラインです。高い! 知ってた! 流石貴族! でも第一章から持っていたということは、借金で買ったのでしょうね……(小声)。
琥珀のパイプ
銃、酒、服、時計、と来たら、あとは……煙草で締めましょう! う~~ん、THE嗜好品という感じの並びになってしまいました。まあ、青年貴族だからしょうがないですね。
煙草と言うと、真っ先に思い浮かべるのは紙巻き煙草だとおもいますが、当時はまだ生まれていません。紙巻き煙草が登場するのはクリミア戦争時(1853-1856)だと言われていて、ロシア発祥という説が有力なのだとか。但し、諸説あるそうです。
そうなると、当時の煙草は葉巻煙草とパイプです。オネーギンさんは後者がお好みだったよう。材質は琥珀であることが第一章からわかります。
ところで、琥珀はロシアの名産です。ロシア旅行へ行くと、必ずお土産物として薦められるのではないかとおもいます。「琥珀の間」も有名ですね。
しかし、具体的にロシアのどこかというと、南西、バルト海の方です。そのこともあってか、オネーギンの持つパイプはロシア製ではなく、ツァーリグラード(イスタンブール)産のようです。
では、現在手に入れようと考えると……こんなものとか?
残念ながら(?)イギリス製なのですが、琥珀の美しい一品です。もう少し曲線が滑らかな方が当時流行のものに近いかもしれませんが……。
お値段約€600。7万円くらいですか。お財布の紐と相談してみてください。
最後に
またすんごいマニアックな記事を書いてしまいました。お付き合い有り難うございました。
取り敢えず目に付いた5つを纏めてみただけなので、今後シリーズ化するかもしれません(?)。
書き手からすると、精読と時代考証が一気に行えるので意外と便利で楽しいということに気がつきました。しかも、現代にまで残るものがあると感慨もひとしお。オタクに優しい世界……。
それでは当ブログにしては短め(4000字)ですが、締めさせて頂こうと思います。それでは!