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パレルモ・マッシモ劇場『ラ・ボエーム』2023/06/17 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

先日、初めて「ぶらあぼ」さんの編集部に行ってきました。凄く綺麗でした(小学生並の感想)。普段読んでいるぶらあぼは、ここで作られているのか……! という感動を覚えつつ。

昨日もコンサートに行ってきましたし、オペラ三昧ですね。ということは、記事が溜まるので書かねばならぬということで……。

 

 そんなわけで一昨日は、パレルモ・マッシモ劇場来日公演『ラ・ボエーム』にお邪魔しました。

↑ 豪華キャストなのはわかりますが、説明文を盛りすぎていて白けるレベルでここまでくると一周回って面白い。

 

 パレルモ・マッシモ劇場の来日公演は、元々2020年に予定されていましたが、コロナ禍により何度も中止の浮き目に遭い、この度はなんと三度目の正直です。

元々『ノルマ』の予定だったのですが、最終的には『ラ・ボエーム』に。そのせいで、結局未だに一度も生で『ノルマ』を観た事が無い事態が発生中です。もうちょっと頻繁に上演してもよい演目では?

 

 今回はこちらの雑感を備忘録代わりに記していきたいと思います。

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

 

キャスト

ミミ:アンジェラ・ゲオルギュー
ロドルフォ:ヴイットーリオ・グリゴーロ
ムゼッタ:ジェッシカ・ヌッチオ
マルチェッロ:フランチェスコ・ヴルタッジョ
コッリーネ:ジョヴァンニ・アウジェッリ
ショナール:イタロ・プロフェリシェ
指揮:フランチェスコ・イヴァン・チャンパ
合唱:パレルモ・マッシモ合唱団
演奏:パレルモ・マッシモ管弦楽団
演出:フランチェスコジー

 

雑感

 今回は久々に父上と一緒です。わたくしが『エヴゲーニー・オネーギン』オタクなのに対し、彼は『ラ・ボエーム(もっと言うと第1幕、更に言うと『冷たい手を』の限界オタク)ファンなので、「今シーズンは『ラ・ボエーム』が3回もある(小澤塾、今回、新国)」とウッキウキでした。人気演目、羨ましい。

 

 オペラファンなら誰もが知る大スターの登場に、久々に「うおー、本物だ~」みたいな気持ちになりました。テレビ番組の公開収録に立ち会う芸能ファンって、こんな気持ちなんでしょうか(?)。舞台芸術はナマモノですからね、こちらも演者も、生きている間に浴びないといけませんよね。

 

 今回はグリゴーロ氏一強状態でしたね。もう全部持っていきましたね。スター歌手の貫禄バリバリです。人気は伊達ではなかった。他の共演者とのケミストリーは特になく、一人でゴリ押すスタイル。

ただ、これは彼の良さでもあるとは思うものの、やっぱり弱音が特徴的すぎますね。好き嫌い分かれそう。ミキシングされた録音では凄く良いですが、劇場だと普通に聞こえない、或いは物凄く集中力を必要とする問題。ある意味、現代的な歌唱とも言えるのか。そして前回の来日時の問題はあれ大丈夫なのか

 

 プログラムなどでは「パヴァロッティの後継」と猛プッシュされていましたが、そう言いたくなる気持ちもわかるな、という底抜けに明るいテノールです。ほんとうにイタリアオペラを歌うために生まれてきたな! という声。普段ロシアオペラばかり聴いているので、新鮮に感じます。

 

 演技も結構細かくて、たとえば、第1幕でミミが屋根裏部屋に入ってくる前に、詩人らしく、アイディアが湧いてくるのを待って鉛筆で机をコンコン叩いているのですが、ミミのノックの音を聞いて、「えっ今俺叩かなかったよな? 机叩いた音じゃないよな?」と確認して、それがノックの音だと確信してからドアを開けに行くという。良い。

 

 ただ、ビックリするのは、地声の高さですよね。

↑ 結構前ですが、ROH でのこの二人が主演時の『ラ・ボエーム』インタビュー映像。

 やはりあの明るいテノールボイスの為には地声もこれくらい高くないといけないのか。従って、 « Che vuol dire quell'andare e venire, quel guardarmi così... » で「!?」となります。いいところなのに!

そして、この時の così... の方がその後の Mimì!! よりも強調されていて驚きました。Cosììììì!?!?!⤴︎︎︎ だった……。そっちかい!

 

 カーテンコールでは、もう絵に描いたような「イタリアのパリピ」を見せ付けてくれました。ファンサが厚い!! これはファンとしても推し甲斐があるでしょうね。

ラ・ボエーム』は、ヒロインの死をフィナーレとし、『トスカ』のような思い切りの良さもなく、静かに終わるので、微妙に後味が悪い作品。それを、カーテンコールで完全に緩和してくれました。喜劇でも観たかのような観後感(?)でした。当然スタンディングオベーション

 

 グリゴーロ氏を始めとして、歌手はごく自由に歌い、オケがそれを追いかけるような公演でした。主導権は完全に歌手にあるタイプ。指揮台が高い位置にあるのか、指揮者さんが高身長なのか、振りがよく見えたのも興味深かったですね。

『ボエーム』ファンの父上曰く、「影のようにびったりと歌手の後に続き、離さない指揮。演奏はたまに気になる点があるけど、指揮はオペラ指揮者としては高水準だと思う。初めて聞いた指揮者だけど、随分イタリアの歌劇場で鍛えられたんだろうな~」とのことです。

我らがオペラオー君の台詞にも「単調にならずルバートを意識すること。心にプッチーニを宿したまえ!」というものがありますがプッチーニオペラは本当に人によって違うなと思いますよね。

 

 他の歌手勢は、皆グリゴーロ氏に押されています。コッリーネ、ショナールはもうちょい頑張れ。ムゼッタももっと華が欲しいですね。パリの女王感はなかったです。

しかし、ムゼッタのワルツの途中で拍手するのはどうなんですか? わたしは特別フラ拍フラブラ警察でもありませんが、流石にちょっとそれはどうかと思う。

 

 今回は、アンジェラ・ゲオルギュー氏、ヴィットーリオ・グリゴーロ氏の二大スター! と広報では推されていましたが、ゲオルギュー氏は不調気味か、全然声が飛ばず……。若い頃の映像ばかり観ていたせいか、随分お年をお召されになったなあと、長き歌手人生に賞賛と感謝を感じつつも、少し寂しくなったり。相変わらずチャーミングではありましたが。

 

 マルチェッロは健闘。冒頭のロドルフォと二人で掛け合うところの安定感が凄いです。しかしまあ、屋根裏部屋の貧乏画家には見えない

『こうもり』のアイゼンシュタインとファルケ博士が肩を組んで踊るところ(第1幕)も大好きなのですが、それと同じ枠として、『ラ・ボエーム』の第4幕のドンチャン騒ぎもめちゃくちゃ好きです。今回は四人で枕投げしてました。ミミの死はオペラ的な観応え抜群なので、観たいのですが、それはそれとして仲良しバカ四人組の日常はもっと観たいんだよな……。

 

 『ラ・ボエーム』は2幕くらいしか出番がないのに、引っ越し公演なので合唱もパレルモ・マッシモ合唱団です。豪華。お衣装がよく似合う。子ども達も流石です。寧ろ子ども達の方が貫禄あるまである舞台芸術界。

パルピニョールさんは時代錯誤感がよかったですね。ムッシュー・トリケって役があるんですけどね、ご興味ありませんか?

 

 演出に関してですが、舞台セットはかなり簡素です。バレエの書き割り並。中幕が布であることがわかってしまうぐらいの靡き具合で、そこはもうちょっとピンと張って欲しかった。

しかし、豪華なセットにすると多分チケット代が更にとんでもないことになってしまいますし、変な読み替え演出よりもスペースボエームはてなんのことやら……、簡素ながらオーソドックスで、丁度よかったとは思います。前述のように、細かい演技も非常に良かったです。

 

 ポスターが色々貼ってありますが、一番わかりやすいのは第三幕の居酒屋の壁、 « Dubonnet Vin tonique au quinquina » でしょうか。

↑ 元ネタはこの辺りか。

 こちらは1846年に開発された商品なので、初演時の1890年代としてはいいのかもしれませんが、設定上の1830年代とすると、時代考証上は難ありですね。第2幕のカンカンのポスターに関しても、同様のことが言えるでしょう。舞台が60年くらいズレた、プチ・読み替え。

ちょっと細かすぎる気もしますが、『ラ・ボエーム』はヴェリズモ寄りですし、歌詞にルイ・フィリップとか出てきますので、気を遣ってあげてもよいかもしれない、と近代史オタクは思います。

 

 簡単にはなりましたが、このようなところでしょうか。

見事なグリゴーロ氏ファンクラブ公演を堪能する公演でした。当代随一のイタリアンテノールを浴びる素晴らしい機会でしたね。

改めて、『ラ・ボエーム』は良い演目だなと思いましたし、カーテンコールを含め、幸せな気分で劇場を後にできる公演であったと思います!

 

最後に

 通読ありがとうございました。4000字ほど。

 

 この日の翌日(つまり昨日)は、読響さんで『スペードの女王』序曲を聴いてきました。

↑ このプログラムで『スペード』を目当てにしている人々、我々だけではなかろうか。

 元々17日の席を取っていたのですが、『ボエーム』に行けることになってダブルブッキング状態に。ロシアオペラオタク仲間の同志様に、土日の席を交換して頂くという手法で助けて頂きました。ほんとうにありがとうございます!!

いや、もう、そのまま『スペード』全曲やって欲しかったですよね。Гори, гори ясно, чтобы не погасло, раз, два, три!!

 それにしても、芸劇は客席の足元が広くて素晴らしい……。文化会館の LR 席や、新国4階席は見習って欲しいですね本当に。

 

 父上や友人は新国『ボエーム』にも赴くようですが、わたくしはまだ席取ってないんですよね。行った方がよいのか。配信があるということで、別に良いかな~今回もう素晴らしい公演を観ちゃったしな……と思いつつ、でももう少しで U25 が切れてしまうという恐ろしい事態も待っているしな……と悩みつつ。背中を押したり引いたりしてください。ご意見お待ちしております(?)。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!