世界観警察

架空の世界を護るために

ホウエン地方の責任論を考える(他二篇) - ポケスペ4章・13章・15章考察雑記

 おはようございます、茅野です。

もう八月が終わるというのは本当ですか。何か有益なことをしたかしら……と考えながらブログを見てみたら、今月は既に 20 記事書いているそうな。文字書きばかりしていたわけですね。

 当ブログ「世界観警察」は、著者であるわたくしの日常について語ることは稀で、レビュー、考察、解説、翻訳などを主として、一記事に数千~数万字書くため、これはなかなかの戦績。いつもお付き合いをありがとうございます。

 

 ところで、ポケスペ 62 巻(=通巻版 13 章連載開始)発売おめでとうございます!

↑ 12章の加筆が予想外の連続でした。しかし、相変わらず誤植が酷くてそこはなんとかして欲しい。校正息して。

 

 わたくしは筋金入りのホウエン勢ですので、お祝いに何か書こうと思い立ち、今回はポケスペ関係の考察雑記を。

↑ これまでのポケモンポケスペ関連の記事はこちらに。

 

 今回のメインの議題は 2 点、そして雑記が 1 件です。

議題の一点目は、15章(剣盾編)の主要キャラクターであるマナブ君に関してです。

そこに繋げる形で、二点目として、ポケスペ世界のホウエン地方に於ける福祉について踏み込んでゆきたいと思います。

その他、冒頭に、雑記として、わたくしが『シールド』で初見プレイをしたごく簡単な体験記を挿入します。

 

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

 

 

(雑記)『盾』で遊んだ話

 最初に少々雑記をば。読み飛ばして頂いて構いません。

 

 近年、コロナ禍になるまでは、わたくしは暫くゲームを引退しており、ポケモンにも触れておらず、ポケスペを購読するのみでした。

コロナ禍になって、ぽつぽつと再開し、考察書きなどにも復帰している状況です。

 従って、『サン・ムーン』(『US・UM』含む)、『ソード・シールド』は未プレイだったのですが、少し前に『シールド(以下:盾)』を初見プレイ

 

 わたくし、ゲームの方では、耐久力に優れたポケモンで闘うのが好みでして。相手を倒した者が勝つのではない、最後まで生き残った者が勝者なのだ。

しかし、回避率上昇や「受けループ」のような陰湿すぎる戦法は好まず、あくまで「姑息すぎない耐久パ」の構築に心血を注いでおりました。

そこで試行錯誤した結果、最終的に辿り着いたのが、毒統一です。

↑ 正にこれ。

特に推しポケはいないのですが、バトルで使っていて一番楽しいのは、長いことマタドガスだと思っております。

 

 というわけで我が旅パをご覧に入れたいとおもいます。御三家? ロゼリアでしたよすまない、サルノリ……

↑ 殿堂入り後暫くしての PT。日本語版の NN は妖怪などをモティーフに統一しています。陀羅阿迦、花魄、網切、アリエ、夜刀、麝香。地面無効枠の不在が痛い。ああ、野衾(クロバット)……。

 基本的にマタドガスの役割は毒統一の天敵である鋼タイプの処理なので、ガラルフォルムはカワイイのですが、毒「統一」では運用しづらいため、今回はリストラ。ごめんね。

 

 「毒統一」であること以外には、「戦闘中の元気の欠片・塊、復活草の使用禁止」しか縛りを設けていないのですが、レベル負けしていたこともあり、ダンデのオノノクス地震で3タテされた時は命運尽きたかと思いました。毒統一でお相手したくないチャンピオンランキング上位入賞。手持ち全匹に地震を搭載している鬼畜チャンピオンが存在するらしい

 その直前のマクロコスモス社では、みんな鋼タイプ使ってくるし……、ほんとうに全力でわたし(毒使い主人公)を阻止したいんだな、という感じたくない意志を感じましたよ!

 

 して、『ソード・シールド』は主人公がカワイイ!

↑ 毒女の正装は緑×紫。

↑ ジャケットの背面に描かれているダストダスも良い。

 今回わたくしは最終 PT に入れておりませんが(上記の 6 匹が揃うまでは入れていました)、オリーヴさんの相棒がダストダスでとても嬉しかったり。ジャケットに描かれているので、幻の 7 匹目ということで許して下さい。

 

 ストーリーは少々大味である気が致しましたが、毒ポケモンが充実していて、プレイは楽しかったですね。毒タイプのポケモンが3種しか登場しない地方が存在するらしい

 ホウエン出身のトレーナーと致しましては、インフラや社会制度が充実したガラル地方に、多大なるカルチャーショックを受けました……。キナギに帰る……。

 

マナブ君の出身地方を考える

 さて、本題その 1 に移って参りたいと思います。

『盾』を遊んで一番驚いたことは……。

↑ 出て来るんかい!!!

 マナブ君が序盤にほんとうに登場する、ということですね……。ちなみに、初めてのモブトレーナー・スクールボーイ戦です。流石日下御大、仕込み方がとんでもない……。

 

 スペ15章の主要登場人物マナブ君は、これまでのスペの中でもかなり異色の存在です。

【登場人物紹介】

他地方より越してきた初心者トレーナー。旅のメンバーに加わり、創人の背中を見つつポケモンについて学んでいく。

各巻の登場人物紹介にはこのようにあります。

ポケスペでは、これまでもモブキャラが主要人物に昇格する、ということは幾度かありましたが、それにしてもマナブ君は破格の扱いです。

 

 紹介や作中にもあるように、マナブ君は他地方出身のトレーナー。彼がどの地方出身なのかを考えてみましょう。

彼の素性を知る上で、ヒントとなるのは以下の 4 点。

 

ヒント① ジム戦の形態

「ぼくのいた地方ではトレーナーだったら、だれでもいつでもジムに挑戦できたんですけど……。

                              (1巻 / 35p. )

 マナブ君の出身地方では、ジムが存在し、誰でもいつでも挑むことができる、という発言があります。

このことから、アローラ地方を除外することができます。

 

ヒント② 移動手段はポケモンの技

創人「そもそもの9番道路は水路が入り組んでいるから水上移動する手段があれば進めるんだ。」

マナブ「"なみのり" じゃ行けないんですか?

シルドミリア「"なみのり" でどうやって行くの? マナブ!?」

創人「マナブくんのいた地方はポケモンの技が移動手段だったんだね。」

マナブ「ええ。」

                              (4巻 / 46-7p. )

 恒例の秘伝技が廃止傾向にある近年のシリーズ。

しかし、ここから除外できるのもアローラ地方だけでしょう。

 

ヒント③ 旧態のジグザグマを知っている

「え? ジグザグマジグザグマなの? ガラル地方にはほかの地方のポケモンと姿やタイプが違うのがいるって聞いてたけど、本当にちがうや!」

                              (1巻 / 7p. )

 こちらが最大のヒント。通常の方法(大量発生、ポケウォーカーなどに頼らない方法)でジグザグマが野生で登場するのは、ホウエン地方カロス地方のみ

従って、所謂「六世代」出身の可能性が高いです。

 

ヒント④ ゴロンダを知っている

「えええ!? ガラルのゴロンダってあんなおっきいのお!?」

                              (1巻 / 9p. )

 ゴロンダが野生で登場するのは、ガラル地方の他にはアローラ地方のみ

しかしながら、前述のように、マナブ君の出身地方はアローラ地方ではない可能性が非常に高いです。

ここで万策尽き……たわけではなく、その進化前のヤンチャムカロス地方に野生で登場するため、可能性として一番高いのはカロス地方でしょう。メタなことを言うと、モデルもイギリスとフランスで、最も近いですしね。

 

 しかし、前述のように、ゴロンダそのものが登場するわけではないという意味で根拠としては多少弱く、可能性の高さで並べるなら、カロス>ホウエンカントージョウトシンオウ=イッシュ>アローラ、という順になるでしょうか。

勿論、通常の方法に依らずにジグザグマゴロンダと遭遇している可能性もあるので、一概には言えません。

また、近年のスペはゲームの発表に連載が追いついていないことから、大穴で新作のパルデア地方! ……なんてこともありそうですね。

 

 次に、マナブ君の出身地方とは関係がなさそうでも、他地方に関する言及があるものを 3 点確認します。

その他① 悪い組織の幹部

創人「そんな人がジムリーダーやってていいの?」

マナブ「ジムリーダーや四天王が悪い組織の幹部だった地方もあるそうですからねえ。」

                              (4巻 / 90p. )

 「自分の地方」ということではなく、マナブ君が他地方について言及する場です。

ここは、カントー地方ジョウト地方カロス地方のいずれかを指すでしょう。

 

その他② 悪い組織

キバナ「なんのために?」

ネズ「キバナくんは知ってるよね? 弱者救済をしていた権力者が一転、弱者根絶をもくろんだ地方の話。」

キバナ「あ……、ああ。」

                              (4巻 / 100p. )

 最悪なことにちょっと思い当たる節が多すぎるのですが……、一番近いのは、やはりカロス地方でしょうか。

カロスのフラダリ、及びフレア団は、ゴチゴチの優生思想の元、暗躍しているからです。それをフランスがモデルの地方でやるとは、日下御大、あまりにロックすぎる

 

 ここまで、全ての項に共通するのがカロス地方である、ということは非常に興味深いです。

最後に、カロス地方以外の言及を確認します。

 

その他③ カブさんの話

ネズ「「伝説」か……。「ガラル地方は伝説に対して住民も学者も興味がない」ってカブさんが言ってましたよ。伝説のポケモンとのかかわりが大きかったホウエン出身らしいな、と思いました。」

                              (4巻 / 92p. )

ソニア「特に、若いころマスコミのバッシングに苦労したっていうカブさんが熱心に来てくださってね、故郷のホウエン地方にいたころの話をたくさんされたんだけど、中でも、伝説のポケモンの話がすごい話で……、もう夢中になって聞いちゃった。」

                              (4巻 / 130-1p. )

 同郷の士、カブさん! 嬉しいですね。

特にソニアの話す場面の背景などを見ても、「伝説のポケモンの話」は主に 4 章を指していると思われます。まさか……その場にいたとか?

 ガラルに越す前でも、一時帰郷設定でも構わないので、実は4章にモブトレーナーとして参加していたカブさんのスピンオフはどこにありますか? 災害に巻き込まれたり、救助を手伝ったりとか。炎使いだし、マグマ団に加入してしまった知り合いがいたりして? なんて胸熱な。二次創作でも読みたいです宜しくお願いします。

 

スペ世界の自己責任論を考える

 ところで、マナブ君は、初心者トレーナーとして、物語に必要な疑問を投げ掛けるというのが大きな役割であり、自分の主張をする機会は稀なのですが、幾つか明確に主張しているシーンがあります。その一つが以下の対話です。

創人「…………。」

マナブ「創人さん? どうしたんです?」

創人「あ、うん……。ビートくんのこと考えてた。」

マナブ「委員長推薦ってことをかさに着て暴言吐きまくってたし、逆恨みで創人さんを闇討ちしたりしてるんですよ。問題行動が多くて、遺跡こわさなくても失格になっておかしくないですよ。自己責任ですよ。」

創人「そうかな。じゃあ、そんなトレーナーに自分のポケモンを貸して密命を与えてやりたい放題させていた人には責任はないのかな?」

シルドミリア「そうだね。偉い人に特別扱いされたら有頂天になるよね。」

                              (3巻 / 36-7p. )

 これまでのビート君の行動に対して憤りを覚える読者の代弁になっているのでしょうが、そのようなメタな視点を抜きにして、「マナブ君」というキャラクターとして考える場合、年端もゆかない少年が、自己責任論にドップリ浸かっている、と考えると、かなり恐ろしい対話に思えます。

対する創人、シルドミリアの二者が全くそれに靡いていないところに、更なる闇の深さを感じます。

 

 政治学社会学の世界では常識ですが、自己責任論というのは、政治上のイデオロギーであり、政治の失敗を覆い隠すための欺瞞です。

福祉や公助がしっかり行われている社会では、自己責任論は出現し得ませんし、したとしても然程の影響力を持たないからです。

 自己責任論は、施政組織が福祉や公助を怠った事実を覆い隠し、その原因を市民に押しつけ、その問題を社会の目から遠ざける、という、恐ろしい論法なのです。

 

 自己責任論研究に関しては、日本では、吉崎祥司先生、朝倉輝一先生、瀧川裕英先生などがいらっしゃいます。

また、当ブログでは何度もご紹介しているのですが、個人的には小坂井敏晶先生の論考が好きで、彼の影響を多大に受けています。纏めて、最後に参考文献として掲載しますね。

 従って、マナブ君の出身地方は、政治が腐敗しているのではないか? というのが、わたくしの推理です。

 

 さて、幼い少年にも自己責任論を叩き込まないといけない程、政治が機能していない地方ってど~こだ。…………凄く嫌な予感がするぞ!!

↑ 過去記事。「空想法学読本」です。ポケモン協会とホウエン地方を告訴しよう。

 

 ポケモンポケスペ世界では、多少の例外はあれど各地方に「悪の組織」が存在するなど、どの地方も似たり寄ったりなのですが、リメイク章含め、災害の規模が桁違いであり、唯一ネームドキャラの死者を出し(描写されないだけでモブの被害も甚大であることは間違いなく)、且つ施政組織と目されるポケモン協会の無能っぷりが描かれるホウエン地方は、桁違いのワーストワンです。

 

 前節で論じた通り、マナブ君の出身地方として最も有力なのはカロス地方です。「政治の腐敗」についても、優生思想を説く企業との癒着が見られるわけなので、この点はカロス地方と仮定しても問題なく機能するでしょう。

 

 散々なことを述べましたが、個人的には始めてのポケモンシリーズが『エメラルド』だったこと、スペの中でも断トツで4章( RS 編)が好きなホウエン勢であるがゆえ、ホウエン地方は最も思い入れがあり、愛好している地方でもあります。

 

 カロス地方の検討はカロス地方を愛好する方々にお任せすることとし、ここからは少し論点を変え、わたくしは我が故郷・ホウエン社会福祉について思考を巡らせたいと思います。13 章の通巻版も出始めたことですしね!

 

13章と家庭責任論

 歴代のポケモンシリーズでは、主人公の家族構成、特に父親は描写されないことが主でした。

ポケスペに於いても、例えば、12章の主人公エックスの両親は他地方にいるという明記があり、15章の主人公創人の父も他界していることがオニオン戦の肝として描写されます。

 

 一方、男女共に主人公の父親が明確になっているのはホウエン地方の主人公、ルビー・サファイアのみです(センリ、オダマキ博士)。

ホウエンに於いては、その設定はゲーム時点からあるもので、日下先生もその点を興味深く捉えたのでしょう、センリとの関係、つまり、家族、或いは親子関係は作中でも大きな焦点となっています。

 

 「自己責任」というと、字面からして、「一人」の問題、と捉えられがちですが、その実態は「家庭責任」「家族連帯責任」と言い換えることができるでしょう。

「国や地域が救済する手段を持たない(或いはやる気が無い)ので、各自、ご家庭でなんとかしてくださいね」、という行政に見放された状態です。

例えば、「貧しいのは自分(家族)のせい」とか、「虐待されているのは自分(家族)のせい」、「重い病や高齢の家族の面倒を見なければいけない」、のような。

本当は、それらは全て、個人や家族ではなく、社会に救済する "責任" があるのですが、自己責任論が浸透した社会では、議論の俎上に上がることすらありません。

 

 ポケスペに於いては、5 歳前後のルビーの過失事故の "責任" を、不当に、また非合法的な形で父センリが取らされている、という点に於いて、正にこの自己責任論、家庭責任論が最悪な形で現れ出ていると言えます。

 センリやルビーは、作中で「一人で抱え込むクセ」と表現していますが、ほんとうは個人の「クセ」なんかでは片付けられないような、片付けてはいけないような、闇の深い問題なのは間違いありません。

 インフラも整備されていないし、法治もできていないし、本当にダメなんじゃないだろうかこの地方……(物語の舞台としてはそれでも好きだ……しかし絶対に住みたくはない……)

 

 ルビー一家のケースが最もわかりやすいですが、この一家だけではありません。ルビー一家にあらぬ「罪と罰」を被せた団体も然りでしょう。

 13章で登場する「流星の民」は、血縁関係があるか、そうでなくとも同郷のごく狭いコミュニティであることは、「民」という名からも、作中の描写からも見て取れます。

 シガナが果たせなかったことをヒガナが代わり、そしてそのヒガナの失態の尻拭いを「民」が行う。

「伝承者」の条件や役割を考えても、世界を救う "責任" がこの民の間だけで完結してしまっており、ルビー一家と同様の構図に陥っていると言えます。

 

 「流星の民」が問題を抱えるなら、13章に於いて対となる企業デボン・コーポレーションも然りでしょう。

以前、デボン社については考察を加えたことがあるのですが、同記事で論じたように、デボン・コーポレーションは同族経営形態の大企業です。

↑ 「かいえん1号」とデボン社の元ネタや形態についての考察記事。

 従って、経営の方針や不振など、社に纏わる "責任" が問われるのも「家族」ということになり、実際、4章に於いても、13章に於いても、狙われたり、"責任" を取らされるのは社長であるツワブキムクゲ、そして社での役割については明言されていない社長「令息」のダイゴです。

 

 このように、特に13章では、全ての陣営が、「家庭責任」と密接に関わる問題を抱えていることがわかります。ともなれば、それはもう地方全体が抱える問題と言ってよいでしょう。

 

 15章には、以下のような台詞が登場します。

ネズ「おれ、ローズ委員長が苦手だけど、あの人の「やるべきことはすぐやらないと」って実行力にマジで敬服してるんだよね。

まだ、一委員だったころから困ってるトレーナーに手を差し伸べてきたでしょ?

ビート選手のような恵まれない子どもにチャンスを与えるのはもちろん、育児中のトレーナーのため全スタジアムに託児施設を作らせたこともあった。誹謗中傷に傷つきおびえるトレーナーを守り、そういう行為への罰則を法制化させたことも。」

                              (4巻 / 70-1p. )

 ガラル地方の福祉は非常に手厚く、そりゃあ創人・シルドミリアの二人も、自己責任論とは無縁の思考をしているわけだ、と納得させられます。

 

 前述のように、自己責任論、家庭責任論が蔓延ることによって得をするのは施政者や施政組織。自己責任論・家庭責任論は、ガラル地方でローズ委員長が行ったような、本来施政側が担うべき福祉を行えていない事実を隠すための、最適な蓑となるからです。

 つまり、ホウエン地方の場合、一番得をしているのはホウエンポケモン協会です。

特に理事は、作中の根幹となる秘められた情報を多数知りながら、ルビー一家やツワブキ一家に "責任" を押しつけているのに、彼の肩書きは「ホウエン災害対策本部の最高統括責任者」です。どこら辺が責任者なんだ……。

 

 4章では、所謂「セレビィショック」によって、罪が有耶無耶にされます。ホウエンポケモン協会は何の非難も受けず、寧ろ賞賛されて幕を閉じるのです。

それが、一番の「4章の結末でスッキリしない胸糞ポイント」だと個人的には思っています。そして、その構図は13章にも引き継がれ、解決の兆しをまるで見せないのです。

隕石砕いたから終わり、ではないよ! ホウエン地方の闇はまだ終わっていないよ! まだ巨悪はあるよ!!

 

 以前記事にも書きましたが、4章では、自然大災害ジェンダー役割の問題障がい者雇用過労死問題など、現代日本で問題となっている数多くのことが論点となっています。

↑ 「4章のここが良い」を、1万2000字で。

それに加えて、続章から遡って、自己責任論・家庭責任論まで検討することができるとは……。本当に子供向け漫画か?

 ストーリーも面白いですし、キャラクターも魅力的ですが、やはりこの先見性こそが、4章、或いはホウエン編の最大の魅力だな、と個人的には感じる次第なのです。好きだ。

 

最後に

 通読ありがとうございました。相も変わらずに書き殴って、9000字ほどです。

 

 「62巻のお祝いに」と思って書いたのに、全くお祝いらしからぬ内容になってしまい、大変失礼致しました。スペホウエン地方の闇が深すぎるのが悪いのだ( "責任" 転嫁)。

 

 正直なことを申せば、個人的に『オメガルビーアルファサファイア』の出来に関しては思うところが多々あり、「エピソード・Δ(デルタ)」の内容についても不満があるのですが、それを13章としてここまで昇華した日下御大には、改めて尊敬の念を抱きますね。

ボーマンダがこんな形で回収されること、ある?

 

 自己責任・家庭責任論に関しては、「耳が痛い」と感じる方も多いのではないかと思います。正に、現代日本が抱える問題です。

それが2003年に書かれているというのが、相変わらず4章及び日下御大の恐ろしいところなのですが、研究によれば、日本で「自己責任論」が持て囃されるのは1990年代からなのだそうです。

もしかしたら、当時は警鐘を鳴らすのに適した時期だったのかもしれません。

 

 13章の通巻版での連載、非常に楽しみですね。12章のように、後日譚などの加筆があったら大層、大層嬉しいのですが。今後、日下先生によるホウエン地方の供給は暫く得られそうにありませんし……。

そういう意味で、12章の後日譚でファイツが登場したことは、希望が持てますよね。

 

 さて、それでは、長くなりましたので今回はこの辺りでお開きにしたいと思います。また別記事でお目に掛かれましたら幸いです!

 

参考文献

「自己責任」論の陥穽 -責任概念の再構築のために - 朝倉 輝一

日本社会における「自己責任」 - Laura Blecken