世界観警察

架空の世界を護るために

「カブのプディング」 - 近代レシピ考証

 こんばんは、茅野です。

本を買おうと読書メーターの「欲しい本リスト」を開いたら、1万円超えの本ばかりが入っていて震えています。調べたら大学や近所の図書館にもないし……。恐ろしい。

 読書友だちも欲しいのですが、如何せん興味が非常に偏っているために交流が増えませんで、お付き合い頂けると幸いなのですが。

取り敢えず、読メは素晴らしいアプリなので導入をお勧めしておきます。

 

 さて、今回は前回の続きと申しますか、オマケ的な記事になりますので、未読の方は是非とも前回の記事からどうぞ。

ロシア料理とカブの関係について概説しております。

↑ 優しいお味の洋風鍋的なもの。見た目もカワイイ。美味でした。

 

 前回が言ってみれば王道的な、カブのメインディッシュであったのに対し、今回は変わり種に挑戦します。

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

経緯

 色々と余計な記事を書いたりしている間に、はてなブログのお題も様変わり。なんとタイミングよく、今週のお題は「あまい」とのこと! 

 

 今回は、カブのデザートになります。

前回ご紹介した書籍の中に、「カブは甘味にも使用できる」 との記載があり、「現代日本では、カブを甘味に使用するケースは殆ど無いけどな……!?」と興味が湧きまして。果たして現代の極東人の舌にとって、美味なのかどうか!?

 

 また、前回の「カブの挽き肉詰め」では、刳り抜いたカブの中身を使用しませんでしたから、この中身を使ってもう一品近代料理を作れないものか、とも考えていました。

伝統的な冬のお野菜、余すところなく味わい尽くして参りましょう。

 

 甘味は甘味でも、今回はプディングです。

現代日本で親しまれている、ひんやりと冷たくて弾力がある「プリン」というより、しっとり食感寄りの焼き菓子に相当します。

ロシア語でも Пудинг (そのまま「プディング」と発音します)というので、間違いなく英語からの借用でしょう。

我らが『エヴゲーニー・オネーギン』の中でプーシキンも嘆いているように、ロシア語には、特に食や服などに関しては外国からの借用語がかなり多いです。

 尤も、最近は頭が痛くなるようなニュースも出てきていますが……。

↑ 厳密に「外来語を禁止」しようとしたら、殆ど「言語」を話せなくなるぞ?

19世紀近代ロシアのオタクとしても、現代のロシア連邦には是非とも愛せる存在であって欲しいのですが、やれやれ……。

 

レシピ

 取り敢えず気を取り直しまして、レシピを見て参ります。

レシピはいつものモロホヴェーツ先生です。代わり映えしなくて恐縮ですが、他に類を見ない当時の一大ベストセラーなので、信頼が高くてですね。

こちらも1861年の初版から載っているものです。

 それではどうぞ。

Пудинг из репы 

カブのプディング
 5 реп довольно большой величины сварить в молоке до мягкости, растереть до гладкости, положить ½ французской булки, натертой и размоченной в ½ стакана сливок или молока, всыпать мускатного ореха, сахара кусков 4–5, вбить 5 желтков, положить 1½ ложки масла, 5 взбитых белков, размешать хорошенько, сложить в форму, варить минут 20.

 充分に大きいカブ5個を牛乳で柔らかくなるまで煮、滑らかになるまで濾し、すり下ろして生クリームか牛乳半カップに浸したフランスパン半分、ナツメグ、角砂糖4-5個、泡立てた卵黄5個、バター大匙1.5、よく泡立てた卵白を加え、型に流し、20分焼く。
Выдать: 5 штук репы, 1 бутылку сливок или молока.
1⅓ ложки масла, ½ французской булки, мускатного ореха.
¼ стакана сахара, т. е. ⅛ фунта, 5 яиц.
½ ложки масла намазать форму, 2 сухаря.
Подавая, облить соусом из сливок.

用意するもの:カブ5個、生クリーム或いは牛乳1ブティールカ。バター大匙1.3、フランスパン半分、ナツメグ。砂糖1/4カップ即ち1/8フント、卵5個。

給仕の前に、クリームのソースを注ぎ掛ける。

   "Подарок Молодым Хозяйкам"(1861 г.), Елена Молоховец - 343p.(拙訳)

 今回は、ソースに関しては指定があるので、そちらも併せて見て参りましょう。

Соус из молока или сливок с ванилью

牛乳かクリームとバニラのソース
 1½ стакана сливок или цельного молока вскипятить с сахаром, прибавить, кто хочет, ½ вершка ванили наструганной и завязанной в тряпочке, или корицы, потом вбить 5 желтков, размешать хорошенько, поставить на плиту, мешать, пока не погустеет, но не кипятить; процедить, облить пудинг или цветную капусту.

 生クリームか全乳1.5カップを砂糖と共に沸騰させ、お好みでバニラ又はシナモン0.5ヴェルショークを削って布で縛り、卵黄5個とよく混ぜ合わせる。火に掛け、煮詰まらないように、そして沸騰させないように気をつけながら混ぜる。濾過し、プディングかカリフラワーに注ぎ掛ける。

Выдать: 1½ стакана сливок, молока или сметаны.
3–4 куска сахара.
4–5  желтков.
½ вершка ванили или корицы.

用意するもの:クリーム、牛乳或いはスメタナ1.5カップ。角砂糖3-4個。卵黄4-5個。バニラ或いはシナモン0.5ヴェルショーク。

   "Подарок Молодым Хозяйкам"(1861 г.), Елена Молоховец -150p.(拙訳)

 カリフラワー……!? え、誤訳してないですよね?цветная капуста ってカリフラワーのことですよね?(?)。

カリフラワーに、バニラ或いはシナモン味の甘いソースを掛けて食べるんでしょうか。カリフラワーもデザート扱い? まあ確かに、カリフラワーは甘みも強くて癖も少ないし、他のお野菜よりはデザートに向いているような……気もするような……。

それはそれで気になるところです。

 

現代風・再現レシピ

 それでは参りましょう~!

1. 用意するもの

【パウンドケーキ型2個分】

・カブ中〜大1個

・牛乳 適量

・卵1個

・小麦粉大匙2くらい

・砂糖3g

・バター2g +α

ナツメグ少量

【ソース】

・牛乳50ml

・卵黄1個

・砂糖3g

・バニラ或いはシナモン少量 

 

2. カブの準備

 前述の通り、今回は前回の記事で余った、カブ2個からくり抜いた中身を使っています。

そうでない場合は、カブの皮を剥いて小さめに切り、カブが浸る程度に牛乳を入れ、完全に同化するまで煮ます。

↑ 前回刳り抜いた中身。恐らく、カブ中1個分くらいはあるかと思います。

↑ 煮詰めたもの。既に良い香りが……

 

 こちらこのままピューレとかスープにしても美味しいと思います。実際、モロホヴェーツや、И. М. ラデツキーのレシピブックにもそういった類いのものがありますね。

 

3. 生地の用意と焼成

 煮ている間に、よく泡立てた卵黄と砂糖、ツノが立つまで泡立てた卵白、常温に戻したバター、小麦粉、ナツメグを合わせておきます。

そこに、ミルクで煮たカブを濾して入れ、混ぜます。

バターを塗った型に流し込み、180℃に余熱したオーブンで20分焼きます。

 

 「浸したフランスパン」がどのように作用するかわからなかったので、普通に小麦粉を使用しています。多少ボソボソしていてもよいということなのかな?

 

 カブ煮の水分量が多いので、生地がかなり水っぽく、「大丈夫か?! 膨らむのか!?」と不安になりつつ、今回はレシピに従い、取り敢えず焼いてみることに(脳筋)。

当然ですが、やはり調整した方がよいので、生地がもったりするように、適宜ミルクや小麦粉、卵の量を調節して下さい。

 

4. ソースの準備

 焼いている間に、ソースの準備をします。

牛乳50ml、砂糖3g、卵黄1個を小鍋に入れ、弱火でとろみが付くまで煮ます。

お好みで、バニラかシナモンを加えます。

 

 要領は「ネッセリローデ・アイスプディング」の時のソースと同じです。プディングにはこういうソースを掛けるものと決まっているんでしょうか。

 

 レシピにある通り、煮詰めすぎないように、そして沸騰させないように注意して下さい。

 

5. 完成

 焼けたらオーブンから取り出します。

↑ きつね色で綺麗!

 しかし、型から外し暫く経つと、上部が案の定少し萎みまして……。

↑ 待ち給え、どう見てもこれは……、

ビジュアルが完全に厚焼き玉子なんですがそれは……。

 

 謎だ……謎の料理ができた……。

と、ともあれ、Приятного аппетита!

 

食レポ

 確実に初めて食べる代物なのに、なんかこの味知ってるぞ! と感じ、……暫く考えてから閃きました。これはキッシュの上の部分です。え、キッシュの卵の部分ってカブのミルク煮入れて作るんですか?(?)。

 最早ソースを掛けずに塩を掛けた方が美味しいまであります。それこそソテーしたジャガイモとかベーコンとか欲しいです。完全にキッシュでは。ついでに下のタルト部分も欲しい!

 

 甘さ控えめなのがその要因の一つかもしれません。ソースを掛けると途端に甘味感が増します。

「ネッセリローデ・アイスプディング」といい、甘さをソースで調整するのはフランス流なんでしょうか。

 

 前述のように、カブ煮の水分が多めなのでしっとりしている一方で、卵白を立てているので、食感はふわっふわです。不思議だ……。

 

 不味くはない……し、寧ろ美味しい方なのですが、「デザートか」と問われると疑問符です(特にソースを掛けない場合)。

見た目は厚焼き卵、味はキッシュ、実態はプディング! 不思議な一品した。

カブが余っていたら、挑戦してみると面白い……かも?

 

最後に

 通読ありがとうございました。5000字ほど。

 

 前回からチラッと感じてはいたのですが、「蕪」をカタカナで「カブ」と書くと、ポケモントレーナー的には別のものを想起したりするわけですが……(※ポケモンのキャラクターの名前は植物の名前で統一されている)。

↑ 大挙してミシロに帰ろう実行委員会。

 ポケモンは、ゲームそのものよりも日下秀憲先生の漫画版(所謂『ポケスペ』)の方がずっと好きで、実は結構考察を書いて遊んでいたりします。

↑ スペの記事はリサーチ真面目にやっている方だと自認しています。ご関心あれば。

 九州編(ホウエン地方 / 4章・6章・13章)が好きなので、カブさんが出身者設定なのはちょっと嬉しかったりしました。愛すべき九州男児、試される大地ホウエンへようこそ(※スペのホウエン編は、他の地方と比べて段違いで話が重たいことで有名。何故なのかは我々ファンも知りません)

 

 調べたら、九州もカブの産地として高名らしく。九州でもロシアでも採れるカブの分布域の広さと生命力が凄い。産地を気にしながらお買い物するのもよいですね。

 

 次回に関してですが、またロシア製カロリー爆弾の製作を企画しています。

参考にしようとロシアの料理番組を見たら、料理人の方が「言うまでもなくこれはとても太るが、今ダイエットのことなんか考えたら台無しだ。太れ!!!!」と叫んでいて爆笑してしまいました。待ってろよ脂肪と糖分。

 

 それでは、今回はお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かれましたら幸いです!