世界観警察

架空の世界を護るために

新国立劇場『エウゲニ・オネーギン』2024/01/27 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

世間のニュースは暗く、深く心を痛めておりますが、一方で個人的には『オネーギン』のおかげで素敵なご縁が生まれまくりな今日この頃。流石わたしの最愛の作品だ、わたしを幸福にするのが何よりも上手いね。感謝を捧げたいと思います、ありがとうございます。

 

 さて、勿論先日も、新国立劇場のオペラ『エウゲニ・オネーギン』にお邪魔しました。今回は2回目の公演、1月27日マチネの回で御座います。

↑ 「エウゲニ」表記が嫌なので、弊ブログでは「エヴゲーニー」で参ります。

 

 初日も伺っています。プレミエの雑感はこちらから。

 初日が演奏面でかなり良かったので、2日目は大分ストレスが軽減されました。正直、初日行く前は「あの演出4回も観るのしんどいよ~……」と思っていた。いや、今でも思っている。

でも、演奏がそれを越えてくれたので、ある程度相殺されています、大感謝。でも演出が変わるならそれに越したことはないです。ステパニュクかカーセン希望。保守とでもなんとでも言いたまえ。

 

 今回も備忘がてら、こちらの雑感を記して参ります。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

↑ 衣服考証班、後は任せました。で、後ろの肖像画は誰なんだ……。

 

 

キャスト

エヴゲーニー・オネーギン:ユーリ・ユルチュク
タチヤーナ・ラーリナ:エカテリーナ・シウリーナ
ヴラジーミル・レンスキー:ヴィクトル・アンティペンコ
オリガ・ラーリナ:アンナ・ゴリャチョーワ
プラスコーヴィヤ・ラーリナ:郷家暁子
フィリピエヴナ:橋爪ゆか
グレーミン:アレクサンドル・ツィムバリュク
トリケ:升島唯博
ザレツキー:ヴィタリ・ユシュマノフ
大尉:成田眞
指揮:ヴァレンティン・ウリューピン
合唱:新国立劇場合唱団
演奏:東京交響楽団
演出:ドミトリー・ベルトマン

 

雑感

 上演前、ヴァイオリンがコティヨンをガチ練していました。実際、ヴァイオリンにとって『オネーギン』で一番やりづらいところ、緊張するところってどこなんでしょうね。教えてください。

 

 今回は1階中央上手の端です。今回、全部1階席なんですよね。2階以上でも聴いてみたかった。指揮の pp 、上階だとどう聴こえるんだろう? Слыхали ль вы?

 まあ演出はもう内容がわかっているのでいいんですが、上手端だと殿下の祖父(ニコライ1世)が死角になることがわかりました。3幕1場の数少ない癒やし(……?)なので、ちょっと寂しい。

 

 今日が録画日とのこと。いつか配信されるんですかね。全体的に2019よりは良いと思うけども。

まあでも、「一番最初の『オネーギン』」としては絶対勧めないけど……、この演出をスタンダードだと勘違いされたら困る。でも演奏はかなりいいので、「全くお勧めできない」とは決して言えない……ジレンマだ……、どうする??

 この日は初日よりもフラ拍・フラブラマンが大量発生していたので、その意味で録画日なのはどうかなあ……というところ。そういうの、土日祝の方が多いんですかね? どう思いますか?

 わたしの後ろの席のおばさま方も、ポロネーズの間とかずっっっとお喋りしていて、「へえ、おれの側で『オネーギン』を妨害するとか、いい度胸してんじゃねえの……命知らずだな……」と思いました。ほんとうにそう言おうかと思ったまである。

 

第1幕

第1場

 今日は逆に、初日レビューで触れなかったところを重点的に触れる回にします。

2回目の鑑賞ってとても難しくて、1回目観て良くなかったところは「思ったよりは悪くないな」、良かったと感じたところは「こんなもんだったっけ」、と相対化してしまいがちなところなんですよね。人間の心理って難しい。

それがわかっているので、改めての感想は3回目以降に回したいと思います。

 

 ラーリナ夫人はスラヴ系キャストに交じってとても健闘していると思います。……と思ったら、ご本人も言及しているのを発見しました。

努力は実っていると思う。

めちゃくちゃ、めちゃくちゃ強いて言えば、 "Так нам чиниться нечего! " の о はウダレーニエが来る о なので、もう少し о っぽい音( а ではなく)でもいいかな、と思いました。ここオケが途切れて目立ちますし。それくらいかな……。

 

 これ長らく疑問なんですけど、 " На вольном воздухе остаться? " の音程、ся で下がるもんだと思っていたら、楽譜見ると実はフラットなんですよね。

↑ 最後の ся を下げてファ#(Fis)で歌う人がとても多いという話。今回もそう。

でも、録音や上演など色々聴き比べても、楽譜通りの人もいないではないですが、やはりここは下げる人の方が多い印象。これはどういうことなんだろう……、ご存じの方がいらっしゃったら教えてください。

 

 これは細かすぎて伝わらない選手権なのですが(いつものこと)、合唱は ноженьки や рученьки をめちゃくちゃハッキリ発音するよな、と思いました。それがいいとか悪いとかではなく、「おお、随分強いな」と。

 わたしは音声学は強くないので、軟音記号の「正しい」発音はどうとかは論じられませんが、ロシア語ガチ勢は и と ь の違いなどに非常に厳しいので、有識者のご意見を伺いたいところ。

まあ、『オネーギン』の場合は特に、ヒロインが Татьяна ちゃんなので、軟音記号の発音どうする問題からは逃げられないんですけどね。新国は大丈夫そうですが、まかり間違っても「タチャーナ」とは書くなよ! 軟音記号の役割は、前後の子音と母音の分離だぞ!!その代わり「エウゲニ」という度し難い表記がある

 

  オネーギンさんが来た時に、ヴァレーニエの匂いを嗅いでいるターニャが可愛いです。あれはラズベリーですか、スグリですか、設定上季節外れだけどイチゴだったり?(今現実の日本では旬ですが)。

 

 今回で気付いたのですが、この美術だと中央に階段があるのが特徴の一つですが、カーペットに押さえ棒(カーペットホルダーっていうんですかね?)が無いんですね!

レンスキーが蹴っ躓いて、一瞬カーペットがぐちゃっとなったので、転ばないかヒヤッとしました。すぐに直ったし、大事には至らなくてよかった。

舞台転換上邪魔なのかな? そうでないなら、安全のためにあってもよいと思う。

 

 レンスキーのアリオーゾ。ロシア語の新二人称「えいー」は健在でした。直そう。

1幕時点だとまだそこまでイタオペ感気にならないんだけどなあ~……。

 

第2場

 最愛の1幕2場序曲ですが、うーむ、やはり弦の統制が甘いと言わざるを得ません。棒について行けていない感じがある。牧童の笛ももっと頑張って欲しい。

指揮のやりたいことがある程度明確であるだけに、これは勿体ない。解釈は好き。

 

 ターニャちゃん。今日は不調気味か、ニャーニャとの会話の中で、何回か声が掠れ気味になりました。主に上手側にいるときで、" Про ваши старые года " の辺りとかだったかな~、自信ない。でも大体この辺り。

 

 ターニャは、初日は少し迫力に欠けるなあと思ったものの、今回はお声が綺麗だな~と思って聴いていました前回よりも席が前方だったので特にそう聴こえる説はある

 わたしはずっと、ターニャはずっっしりと重めで、芯のある声質の歌手が演じるのが好みだったのですが(それこそ松本のアンナ・ネチャーエヴァさんはとてもとても理想的だった)、KGL で『オネーギン』を観てから、「理想のタチヤーナ」「理想のオネーギン」に関して、少し迷走しています。

幾らロシアオペラとはいえ、彼らは年若い乙女と青年なわけだから、もう少し軽くてもいいのかも……? とか思い始めまして。今絶賛迷走中で聴いているので、レビュー自体も迷走気味。申し訳ない。皆様の「理想のタチヤーナ」は誰ですか? Не ты ль 以下略

うーん、これくらい軽くても(全体的なソプラノの中で軽いというわけではないですが、「タチヤーナとしては」の意)、いいの、かも…………。

 

 今日は、 " Но так и быть! " の前でお皿を落とさなかったし、叫ぶというか、息を吞まなかったですね。

書きそびれましたが、初日はお皿を落とす前に息を吞んでいて、「逆よ、逆!!」ってなってました。

あのお皿を割るの、要る……? 単純に危ないし、何であれ、変に雑音入れるのには反対の立場なので、必要性を感じないのですが……。

というか、あの蝋燭との動きはなんなんでしょうね。占い……なんでしょうけど。3場の花占いの方がわかりやすい。

 

 はい、扇風機です。初日・今回と、幕間に複数のフォロイーさんに意見を求めたら、上階席だとあまり音は聞こえないらしいです。1階席限定雑音らしい、おめでとうございます。よくありません! ということはわたしは4回とも扇風機ってわけだな!!

 " Вообрази: я здесь одна! " のところは、観客をターニャばりに恍惚にしてくれなくては困ります。酔いたいのです、幕間のアルコールではなく、ここで!! 歌が全部掻っ攫ってくれればそれが一番よいのですが、演出面などでも協力してくれてよいと思います。今回は、演奏も爆音系ではなく、音量はかなり歌手に配慮がありますし。大野先生、聞いてますか

 やっぱり扇風機に気を取られるのもあって、迫力不足ではあるんだよなあ……。ていうか、そもそもの話なんですけど、ここ、舞台中央で歌って欲しくないですか? オペラの中でも、特に音楽的に一番盛り上がるところの一つなわけですし……。

 うーん、あとは、多少照明を明るくしてもよいと思う。 Ночь минула も近いわけですし、この辺りから太陽光が差しても変じゃない。

 そう、『オネーギン』の最大の見せ場である二つ、タチヤーナの「手紙の場」とレンスキーのアリアは、両方時間帯が深夜~早朝なんですよね。二人とも所謂「深夜テンション」であって、だからこそ異様な興奮をしていたりするわけですが、それが音楽にも乗っているのがエモーショナルでまた美しいのです。

しかしその分、照明が暗くなりがち、という問題があります。まさか万一にも『オネーギン』で寝落ちるなんてことはないでしょうが(ないよね?)、やっぱりもうちょっと明るくてもいいよな、と思うことはあります。

 もし自宅で『オネーギン』を聴くことがあれば、お勧めの時間帯は深夜~早朝です。寝不足だと尚良いです。変に高揚して酔えます。健康にはよろしくないかも。

 

第3場

 合唱は全体的に第1幕が一番美しく聞こえるのって、やっぱり舞台上に出ないからなのかもしれない。

舞台上で歌った方が絶対声は飛ぶはずなのですが、あのお衣装に演技で集中力削られるのがダメなのかも……。わたしは新国合唱団のことは大好きなので安心(?)してください、よくないのは演出だから……。

 

 " Шаги! " の直前のホルンが綺麗にひっくり返っていました。

エヴゲーニー君、転んだんか? 可愛いところあるな?(そういうことではない)。アドリブでコケてくれたらもっとよかった。望みすぎか。

 ここ、 " Шаги! " って言う割に、音楽的には足音っぽい音がないですよね。リムスキー=コルサコフとかだったら、何かしら入れそうなものだけど。

弦はどちらかというと、ターニャの心臓が跳ねる音、って感じするし。ホルンも緊迫感を煽りますが、足音ではないしな。

 

 オネーギンのアリア。相変わらず、全然悪くは無いのですけど、何かちょっと物足りないな、というところです。

一度、皆さんオネーギンのアリアを鼻歌とかでいいので1回フルで歌ってみて欲しいんですよ。女性だったら、1オクターブ上げて頂いて。……、どうですか? どこも辛くなく割と普通に余裕で歌えちゃいません?

そう、技術的に全く難しくないんですよ、この歌。だから、基礎が問われる。で、基礎を丁寧にやっている人は、綺麗に歌ってくれる。以上です!!!!

あ、最後の мечты は下げる派です。上げても全然綺麗だと思うけどな。後半2回は上げるとかない?(十中八九ない)。

 

第2幕

第1場

 オケに関してですが、今日は2幕の方が良いように聴こえました。やっぱりテンポ速いと誤魔化せるってことなんでしょうか。着いて行ききれずに、一部弦が崩れてた側面はありますけども。

ウリューピンさんの指揮、観客的にはめちゃくちゃ推せるのですが、オケとか歌手にとっては、原則的には pp でゆったりなので(ダンスシーンはアップテンポですが)、技術的な誤魔化しが効かないし、後者は息も続かないし、割と地獄なのかも。でも実際指揮はめちゃくちゃいいので、みんな彼に頑張ってついていってください。宜しくお願いします。

 

 初日は問題ありませんでしたが、今日は男声合唱のところ(" В наших поместьях не часто встречаем ~")が大きく崩れました。やっぱりここ速すぎるのかなあ、音楽的にはこれくらいのスピードはとても合っていると思うけど……。

でも実際、わたしもこの速度でロシア語喋れって言われたら無理だな……。大変だとは思いますが、指揮に合えば音楽的には大成功なので、2回目になりますが、頑張ってついて行ってください。

 まあ確かに、ここの指揮はインストルメンタルの方が合うかも、というところはある。全幕というより、「ロシアのロマン主義ダンスミュージック」みたいな選集 CD に入ってたらめちゃくちゃ嬉しいやつ。


 下品で悪趣味な要素が多く、演出の目の当てられない度が高い第2幕。どうにか眼福ポイントを探して、オペラグラスで覗き回していたのですが、(まあ今回は単純にオネーギンさんを追っているのが正解説はある)、トリケの歌の時にピローグを頬張っているオリガがとても可愛いということに気がつきました。あのお衣装で可愛いと思えるの凄すぎる。中の人は美女です。

目のやり場に困ったリピーターへのお勧め情報でした。

 

 幕間にフォロイーさんと話していたんですけど、トリケの登場そのものを削って、代わりに Вайну を挿入すると、顧客満足度が3-5割増しになると思います(同意を得られました)。ハルリコフさんは一人暮らしということにしよう。

 トリケ君は作中で唯一、出演者から " Браво(ブラーヴォ)" と " и очень, очень мило спет! (そして、とっても、とっても素敵な歌唱!)" を貰える役なんですよ。

歌に関しても、превосходен という語が使われていて、これはロシア語の「閣下(превосходительство)」と同じ語幹、というような語ですよ。それに相応しいものが欲しいよね……。

 まあ、歌自体ももっと頑張りが欲しいところですが、主に酷いのは演出なので、あんまり言い過ぎるのも可哀想かもしれない。普通の演出だったら流石にここまでは言わない。

でも、このままだと、トリケと Вайну を入れ替えるだけで満足度が大幅増加するのはマジだと思う。それだったら周囲にももっと熱烈に布教して集客手伝った。

 

 オネーギンさんの演技について。

書きそびれましたが、初日は椅子に座る時に、燕尾部分を払いのけるものの、勢いよくやりすぎて、結局お尻で踏んづけちゃっているのが、ちょっとドジでキュートでした。

今日は裾はつっかえず座れていました。成長成長、よかったね(誰目線?)。とても高身長なので、普通の椅子が子供用の椅子に見える。色々日常生活にも支障が出てきそうな領域だ。

 

 初日、「ああ、このオネーギンさんは結構イヤなやつで、ちょっとイジワルな性格という解釈なんだな」と感じました。ターニャの手紙をニヤニヤしながら見ていたり、結構悪意が強そうな解釈である印象を受けました。

 しかし、今日観てみると大分印象が変わって、「実はあんまりメンタルが強くないんだけど、虚勢を張っている解釈なのかな」と思いました。

 このオネーギンさんは、精神的に動揺を覚えると、ちょっと鼻を触る癖があります。それは多分、歌手さんの癖なのではなく、演技なんだと思う。1幕3場でアリアを歌う前、2幕1場でレンスキーが怒り始めたときなどに顕著です。

そして、更に動揺が大きくなると、首元というか、襟を弄り始めます。少なくとも2回やっているのは目視した。

 それに加えて、今日は、レンスキーが怒り出した時、椅子にもたれて、胸に手を当てて肩で息をする、過呼吸を起こしかけているような演技が入っているのが印象的でした。初日は無かったと思う。

 そこで、今回はオネーギンさんに哀れみを感じたというか、「本当はそんなにメンタル強くないのに、スマートなダンディを演じている孤児」というイメージになりました。うーん、どちらも良いな……。皆様は初日と2日目、どっちのオネーギンさんが好き!?

もしかして、ヴラドみたいに連日の公演でちょっとずつ演技を変えるタイプ……?? 全通勢に優しすぎる。3日目はどんなタイプのオネーギンさんで来るのか、期待が高まります!

 

第2場

 序曲の細かすぎて伝わらないポイント。

ここのコントラバスが良すぎる問題。

↑ ここでめちゃくちゃ酔えてる。助かる。同じ音型がレンスキーのアリア中にもあるけど、そこもいい。

 オケに関しては、指揮がいいだけに、どうしても粗が目立ってしまうのですが、今回、オケで一番頑張っているのはコンバス隊で異論はないと思う。序曲も、2幕2場序曲も凄く良い。このまま最後まで宜しくお願いします。

 

 ヴラジーミル・ラダメソヴィチレンスキー君のアリア。相変わらずラダメスが脳裏を掠めていきます。とてもイタオペです。

歌はめちゃくちゃ上手いので、とてもとても評価に困ります。次は『アイーダ』で来日してね……。

 

 それで、気になるのがもう一点あって、演技の話なのですが……。このレンスキー、演技が下手だというわけでは全くないんですよ。寧ろよくやっていると思うんです。

しかし、彼、演技が挟まると、明らかに歌が疎かになるんですよ! こういうタイプは初めて観たかも。

 レンスキーのアリアの最後、マッチで詩を書いた紙を燃やす演出があるのですが、明らかにマッチに気を取られていて、そこの間だけ歌がペラッペラなんです。しかも、最悪なことに、その時の歌っていうのが、最後の方の " Куда, куда, куда вы удалились, Златые дни, златые дни моей весны? " なんですよ!! 有り得なくないですか? 一番大事なところじゃないですか!

確かに、マッチは手元を見ていないと擦れない。下手に見ずにやったら火傷してしまうかもしれないし、第一危ない。それはよくわかります。……だからそんな演出入れる方が悪いんだって!! 演技に集中しちゃって歌が疎かになる、そんな愚かしいことがありますか!?

 ただ、マッチのところだけなら、「そりゃ演出が悪いよね、同情するよ」で済んだんですけど、彼は演技という演技が悉くダメっぽい。1幕1場で、アリオーゾ中にポケットから指輪を取り出すところがありますが(その演出自体もどうかとは思うが)、ポケットに手を突っ込むだけでもう歌に集中できていなかった。

 演技が下手なわけでは全然ないです。しかし、何か動きを挟むと、そっちに気を取られてしまって歌が疎かになる。それではダメです。改めて、「手紙」のターニャって凄いんだなと思った……。その状態でオペラをやっていくのは、ちょっと今後大変かもしれないぞ……。マジで声の良さだけでゴリ押ししておられる……。

 

 今日は、2幕2場の演出がちょっっっとだけ改善されました。まず、決闘シーンで、二人の間をトリケがちょこまかと動かなくなった。2日目だけ観に来た人には全然信じて貰えないのですが、あれでマシになったんですよ!!

早々にザレツキーに捕まり、投げ飛ばされていました。そう、それでいいじゃんね。もう、オネーギンさんに変なのがくっついてきた時点でさっさと画面外に投げ飛ばして欲しいんだけど……(演者さんが怪我しない程度に)。でもヴィタリ先生のとてもお優しそうなザレツキーじゃダメかも……、先生、悪役やっても人柄の良さが全然隠せてないタイプだから……寧ろよく投げ飛ばしたと思う……。

 

第3幕

第1場

 ポロネーズ。相変わらずオケが追いつき切れていない感じはありますが、軽快で、1拍目に強いアクセントがある「ポーランド風」なリズム感もバッチリです。

今日はニコライ1世が死角だったので、指揮の手元ばっかり見ていました。ウリューピンさんがオネーギン役のユルチュクさんを越えるほどの高身長で助かった(カーテンコールで並んだとき、ウリューピンさんの方が大きかった)。見える。

 

 『オネーギン』に関しては、流石に歌詞が大まかには頭に入っていますし(でなきゃこんな細かすぎて伝わらない記事は書けていない)、字幕は2019の時にもう見たしな……と思って、全然見ていなかったのですが、"Кто там в малиновом берете" が「赤いドレス」になっていたのは流石に気になりました。いや、大幅な意訳ポイントは他にも沢山あるんだけども。その辺りは次回の記事辺りにでも。

 あのドレスも、まあまあ悪趣味だと思うけどな……。ここの男声合唱かオネーギンの字幕が「上品で~」になっていて、いや、うーん!? となりました。あんな色合いとゴテゴテの宝飾品は寧ろ下品ではあるまいか。というか、малиновый ってもっと深い紅じゃない?

まあ、「品の良さ」を演出するのってとても難しいですけどね……。オリガを「あんな風」に描いちゃう時点で、女性の描写はもう無理なんじゃないかと思うわ……。

 やっぱり、理想はオペラ映画版ですよね……。

↑ 全てのキャラクターの解釈が一致する、納得の映像化。

 

 グレーミンは今日も絶好調でした。満足度が高い。счастье! の響きの豊かさおかしい。

相変わらず、「ターニャじゃなくてエヴゲーニー君と結婚したんか?」というくらい、歌詞とかみ合っていなかったり、距離感おかしいところはあるけど。まあそれって当時の帝政ロシアの法律では不可能なんですけど。今のロシアでもダメだけど。日本もだけど!!

 

 あと、字幕といえば、オネーギンが「外国から帰ってきました」となっているのも気になりました。何故なら、それが意訳であるだけではなく、オネーギンが旅した先というのは、正に、現在のウクライナであるからです。

↑ 詳しくは過去の記事をどうぞ。

 これ、意図的にやっているのだとしても、そうでなかったのだとしても、色々と物議を醸す案件だと思う。

わたしは無論ウクライナ侵攻には反対の立場ですし、現在の地図で考えるなら、オネーギンが「外国(ウクライナ)」に行ってきた、というのは、正しいです。

しかし、歴史的事実として、『オネーギン』の舞台となる1820年代前半では、この地域は「ロシア帝国領内」でした。だから、時代考証的な観点でいえば、オネーギンが「外国に行ってきた」という記述は、誤りなのです。

 え~……っ、どうします、これ!? 何が正解なんでしょうね。字幕ではこんな注釈出せませんし。…………いや、ていうか、普通に、「遠方への旅から帰ってきました(Из дальних странствий я возвратился.)」と直訳すればよくない?

 

第2場

 ラストです。観ていると有り得ないくらい短いのですが、レビュー書いてると長いんですよね。話が長いのがいけない? それはそう。

 

 今回は、初日とオネーギンさんの印象が大分変わったので、二重唱でも大分哀れに見えました。初日だと策士っぽく見えたのに!

 

 序盤のタチヤーナのお説教タームは初日より今日の方が声量があったように感じて、良かったと思います。

 中盤、" Я вас люблю! " のところのホルンは流石にコケてはいけない、流石に。そこは責任重大。初日もだけど。

 

 どうでもいいんですけど、オネーギンのここを休符にしたチャイコフスキー御大ヤバくないですか? というのを改めて感じた。

↑ ここ。

 はっきり言って、オネーギンの方はここ大分尻切れトンボ感があるんですけど、確かにターニャは高音でソロになる分凄く目立つんですよ。なんだろう、ここで一瞬言葉に詰まるようなイメージなのかなあ。チャイコフスキー御大、ぜんっぜんオネーギンに見せ場くれないけど、二重唱の細かい心の機微みたいなの描くのめちゃくちゃ天才なんだよな……。

 

 相変わらず、オケの最後の三連がめちゃくちゃ良い。わたしはとても好み。

但し! フラ拍を許すな。折角の余韻が台無しじゃないですか。指揮の意図! 汲んで!!

 

 公演に関しては、こんなところで! 書き切れなかった分はまた次回!

 

バックステージツアー

 幕間には、今日はフォロイーさん2人に会えました。『オネーギン』の公演があると皆様わたしに構ってくれてとても幸せです。

初めましての方とも、ロシアオペラオタクの同志とも意気投合できてとても良かった!

いらっしゃる方はお気軽にお声がけくださいませー。

 

 さて、今回は「U25優先デー」ということで、バックステージツアーに申し込んでみました。実はわたしって U25 なんですよ。インターネットやってると、大体中年男性だと勘違いされますが。いやでももう流石に切れますけど! 精神年齢幼児だから許して欲しい。

今日は申込者がとても少なかったらしく、無事当選。行って参りました!!

 

 前半は客席から舞台のお片付けを観覧。『オネーギン』のセットを片付けて、『ドン・パスクワーレ』のセットを出す、という作業で、内心「(いや~、わたしは『オネーギン』のセットが観たいんだけどな~)」とか思っていたのは内緒である(書いてる)。

『ドン・パス』ファンには悪いけど、わたしは一生演目『オネーギン』でいいです、の気持ちなので……。

 

 後に、舞台に上がって、3幕1場の舞台を観察し、営業の方と舞台監督さんに質問攻めタイム。ご想像の通り、文字通り質問攻めをしました。申し訳ない。絶対「(うわっ面倒くさいオタク来たっっ)」と思われたと思う。このブログとしても素性丸バレである。

 まあ素性に関しては本当に今更なんだよな……、合唱の方とかにこのブログ読まれているし……。新国じゃないですが、松本の時は「レビュー記事、合唱の間で回し読みしてます」って言われて白目剥いたし……、単なるオタクの戯れ言なので、勘弁してくださいませ。

 

 以下、質疑応答の簡単な纏め。

Q. 扇風機、直らないの?

A. 直りません。どうしても雑音は出る。

→「雑音が出る演出なんか辞めようぜ」、とつい言ってしまった。

 

Q. どうして時代考証がめちゃくちゃなの?

A. 設定が1827年ということになっているから。

→確かに、1幕1場に出てくるヴァレーニエの瓶には「1825」「1826」などの年号が書いてありますが、そんな超微妙な「読み替え」演出になっていたとはな!!

ちなみに、本来の『オネーギン』は、諸説ありますが、大体1幕が1820年、3幕が25年くらいです。もう一度言いますが、諸説あります。

 まあ、それにしたって、マリヤ・アレクサンドロヴナの肖像画があるのは明らかにおかしいし、時代考証は間違っているけどね……。

 

Q. 字幕、2019年の時からちょっと変えた?

A. 多少変えることもある。

→だそうです。字幕の細かい変更点に関しては次回書きます。

 

Q. 「エウゲニ」ってタイトル、キモくない?

A. 実は内部でも揉めた。営業的には「エフゲニー」などの一般的な題、製作的には「イェヴゲーニイ」などの精確な題にしたかった。やはり2000年に一度「エウゲニ」としちゃったこともあるし、上層部の意向なので、逆らえなかった。

→上層部!!!!!! 仕事して!!!!!!!!!

 

Q. 出演者の間でも、演出で一番物議を醸した点って、トリケでしょ?

A. はい。

→はい。

まあトリケが2幕2場に出ることになった経緯に関しては、2019年の時に聞いたので(勿論納得はできなかったが)、理由はわかっているんですが。でも要らない。

 

 また、別の方の質問で、「どうして3幕1場の合唱の衣装は全員お揃いなのか」というものがあり、「あれは写実的に、というより、オネーギンの心境を表しているから」という回答がありました。

勿論そういう側面もあると思うのですが、面倒くさいオタクから補足すると、『オネーギン』3幕1場で合唱のお衣装を揃えるのは、伝統的な演出なんです。寧ろ、お衣装揃える方が主流なんじゃないかな。ポクロフスキーもそうだし、テミルカーノフもそうだし、カーセンもそうだし……。

と、ここで書いたところで、質問者さんがこんな長い記事を読んでくれているとも思えないんですが。読んでくれていたら嬉しい。

 

 また、同じように、「3幕1場の肖像画は誰か」という質問があり、つい差し出がましくも「下手側がアレクサンドル1世、上手側がニコライ1世ですよ」と口を挟んでしまったのですが(まあその辺りは流石に、得意分野……だし……)、その後その質問者さんと仲良くなることに成功しました。そんなことある?? Вот так сюрприз! 

「ナンパ師みたいで恐縮なんですが、『オネーギン』好きな人とは絶対仲良くなりたくて……、あの、連絡先とかって、頂けたり……??」とおずおず尋ねたら、快諾して頂けました。いやー、見てくれが U25 で得した~。

 というわけで、『オネーギン』ファンの同志との新たな縁が生まれました。これはもうね、記念日としていいね。しかも、原作もバレエ版も履修済みとの由。明らかに快挙だね。お祝いしよう。 長時間お付き合い頂いて、ありがとうございました!!

 

 『オネーギン』限界オタクも、『オネーギン』にこれから入門したい初心者も、茅野は歓迎致しますので、どうぞ宜しくお願いします。まずは劇場で握手しよう。

 

最後に

 通読ありがとうございました。今日も元気に1万2000字!

3日目はちゃんと書くことあるだろうか! 意外かもしれませんが、実はわたしは毎度「今日こそはレビューを書けないかもしれない」と不安におもっているのですよ!

 

 そんな3日目の公演がまたも10時間後に迫っておりますので(公演10時間前にレビューを書き上げるのを辞めた方が良い、もっと早くに書くべし)、いい加減お終いとしたいと思います。

 従って、勿論、次回の記事は3日目のレビューになります。どうぞ続けてお付き合いください。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します! また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです!