世界観警察

架空の世界を護るために

シュトゥットガルト・バレエ・ガラ 2022/3/19

 おはようございます、茅野です。

いや~、やって参り参りましたね、シュトゥットガルト・バレエ・ガラ!

本来は『眠りの森の美女』『Mayerling』全幕上演の予定のところが、コロナの影響で『オネーギン』へと変更になり、更にガラへと変更になるという紆余曲折がありました。

↑ 公式のお知らせ。

『オネーギン』を人生を賭けて推している身としては、一抹の寂しさがありますが、そもそも来日自体が中止されるのではないかと危ぶんでいたので、もう来て下さるだけで有り難いの心です。しかも、3日間毎日『鏡のPDD』を上演して下さるとあらば! そりゃあ勿論通いますとも。

 

 というわけで、今回は、シュトゥットガルト・バレエ・ガラ1日目のレビューになります。前述の通り、わたくしは『オネーギン』という作品の愛好家ゆえ、いつも通り『オネーギン』を中心に書いてゆきます

 

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

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↑ まだ公式のお写真が上がっていないので、今回第一場は上演していないものの、過去の公演から。

 

 

『オネーギン』

 本日は唯一のバデネス×フォーゲルペアではない日で、見比べる意味でも楽しみにしておりました。タチヤーナ役にロシオ・アレマン氏、オネーギン役にマルティ・フェルナンデス・パイシャ氏です。

アレマン氏を拝見するのは初めてです。中南米出身のダンサーの活躍が増えてきていますが、大変喜ばしいですね。

パイシャ氏は、以前の来日公演にてレンスキー役を踊っていたので、そちらは観ました。記事にも書いていますが、結構変化球解釈なレンスキーで、個人的には好みでしたね。

↑ レビュー記事。古い記事なので今よりも更に文章が下手です。この日はターニャばっかり観ていますが、パイシャ氏のレンスキーもとても良かったのです。

オペラには無い概念、レンスキー役からオネーギン役への昇格。どちらの役柄も観られる機会は希少なので、楽しみにしておりました! 尤も、『鏡のPDD』だけでは、演技をあまり観られないので、どのような解釈で演じているのかを窺い知るのは難しいのですが……(※『鏡』のオネーギンはタチヤーナの想像上の人物という設定)。

 

 ガラなのでセットは簡素ですが、今日の演目の中では豪奢な方でした。鏡の反対側の「影武者ターニャ」がいない描写は初めてで、とても新鮮でしたね……! 今回初めて『鏡』を観た、という方に、これは鏡であると通じたのだろうかとか考えつつ。いや、是非ここから『オネーギン』沼に墜ちて頂きたい。

 

 前述のように、『鏡』のみだと演技についてはあまりよくわかりません。クランコ財団では、「『オネーギン』では、一度も全幕を踊らずに、PDDなど抜粋のみを踊ることは許されない。最初はかならず全幕を踊ること」という規約があり、上演が抜粋のみであったとしても、ダンサーは過去に全幕を踊った経験が必ずあります。

この規約は、上演回数を増やすという意味に於いては足枷となる場合も多いのですが、今回に関してはこの規約の重要性を認識しましたね。「役柄に対してどのような解釈をしているのかがわからない」というのは、確かに財団側から観たら不安な要素なのだろうな、と思いましたし、これはわたくしが日本に居住しているのが悪いのですが(?)、一観客としてもその解釈を知りたいと思ってしまいます。『鏡』だけでも観られて充分満足なのですが、それでもやっぱり、全幕を観たいな……痛感させられてしまいましたね。

 

 さて、そんな演技から始めます。ターニャの寝落ち描写ですが、左腕がガクッと机から落ちる、本格派。ここにどれくらいリアリティ持たせるかって結構分かれますよね。

前述の通り、鏡の「影武者ターニャ」は無し。ある意味、この方がファンタジックだなあとか考えながら観ていました。

 

 オネーギンの登場。本日はわたくし1階の最後列付近だったことと、ガラで通常の美術に比べて背景や照明が暗いことも相俟って、黒いオネーギンは結構背景に溶けちゃっているな……と思いましたが、夢の世界の住人という設定を思えば、それもまた良いでしょう。お衣装はダンサーによって細部が異なったりしますが、基本形の黒フリルシャツ+七色に輝く宝石のタイピン+黒ベストでした。袖のバルーンは無し。

 

 これは個人の好みですが、ずっと主張しているオネーギンがターニャに両手を伸ばすときの角度と申しますか、腕の開き方について。わたくしはターニャの肩幅程度の狭い開き方が滅法好きなのですが、パイシャ氏はその幅で、横に開くのではなく上から降ろしていました。たいへん良い。ちなみに、フォーゲル氏は、少なくとも過去の公演や映像では、逆に下から支えるように両手を開いているので、見較べてみてくださいね。

 

 向かい合った後、ターニャが背面に反るのをオネーギンが支えるのが二回続く振り。ここはオネーギンはターニャのの背を右手だけで支えるダンサーも多いですが、大事を取ってか両腕で抱え込んでいました。ここ片手なのほんとうに大変だと思う……といつも思うので、しっかりホールドの安心感は凄まじいです。

 

 ここで音楽について。正直なところ、バレエ版『オネーギン』公演で「演奏が素晴らしかった……!」と驚嘆した記憶がないのですが、それでもやっぱり生音には替えられません。それは、ダンサーにとっても同じでしょう。

今回は録音を用いていて、使われていた音源は、聴く感じ、最もポピュラーなこちらでしょうね。

↑ 勿論所持しています。ふつうに4桁くらい聴いている気がする。

 こちらの録音、20小節目から凄い加速をするんですね。本気のアレグロです。

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↑ 過去に自分で作成したピアノ譜参照。よかったら全曲観て下さい! (YouTubeリンク)。

そのせいで、この部分の振り(オネーギンがジュテで先に飛ぶ→ターニャが飛び込んでくる×4)は、かなり切羽詰まってしまっており、焦りが目に見えるようでした。これはテクニカル面なので致し方ないですね……、少し可哀想になってしまいました。

 特にこの部分を観ていて思いましたが、舞台全体を広く使えていたのも印象的でした。文化会館のステージはあまり広くないのですが、今回はガラということでベッドがない分、スペースに余裕があったようです。ダイナミックで大変よいです。

 

 それから、特徴的だなと感じたのは、タチヤーナのアラベスクに関して。『鏡』では、タチヤーナがサポートを得つつ連続して回る間に、上げている方の脚を移動させて前→横→後方アラベスクに切り替わる振りが非常に多いのですが、ここを滑らかに移動させるダンサーが多いのに対して、アレマン氏のターニャは結構はっきり「今は前」「後ろ」と、切り離して分けているのが印象的でした。

ここの振り、ぼーっと見ていると「えっ今何が起きた!?」と混乱する振付の妙があるのですが、こうすることで、ダンサー自身の技巧的な面が際立って見えますね。

 

 『鏡』では、上手前で演技が複数回挟まります。オネーギンがターニャの手にキスをしたり、腹部に顔を埋めたりですね。前述のように、音楽が録音で、尺の問題か、ここに関しては結構あっさり進んだ印象を受けました。このペアで是非生音・全幕を観たいですね~。

 ここの上手前のターニャが後方に大きく反るのが二回続く振りですが、回転は一回のみ。ペアによっては二回回すんですけど、本家シュトゥットガルトのダンサーは一回率が高い気がしますね。もしかして、元の振付では一回だったのでしょうか。

 このような反る振りではアレマン氏の柔軟な背中を堪能できますが、『鏡』で複数ある上半身を起こすリフトでは、もう少し反りが欲しかったですね。いや体幹ほんとうに大変なんだろうなと思うのですが……。

 

 本日の最初のプログラム、『春の水』ラストでも登場した、魅せ場である高難易度リフト(オネーギンがめいっぱい伸ばした片手の上にターニャが座る非常に高度なリフト)も危なげなく、安定していました。

些細なことですが(今更)、ターニャの髪のリボンが心なしか大きく見え、幼く、クララのようだなと思っていたのですが、特段身長が開いているという風には見受けられないことに驚きました。良いペアですね。

 

 最後、当然のようにフィリピエヴナ(ニャーニャ)が登場しないのですが、しっかり手紙を三つ折りにする演技で尺を稼いでいました。全く違和感がありません。上手い。

 

 最後のポージングで上げる手は右手派でした。ニャーニャが手紙を受け取ってくれないので、左手でそれを持ち、胸元にそっと持ってきていたのも印象的でした。

 

 また、カーテンコールでは、オネーギンがなんとヴェッツェラ嬢と共に登場。な、なんという地獄めいた組み合わせだ……。昨年の世界バレエフェスティバルでは、伝説の「タチヤーナハーレム」を観測しましたが、これはこれでどうなんだ……。

↑ フェスティバルのレビュー記事。

 思えば、明日はオネーギンを踊るフォーゲル氏が、その数十分後に『ボレロ』を踊るわけですよね。その劇的な変貌にわたくしの脳は追いつけるのでしょうか!? 少々不安です!!

 

 相変わらず無駄に細かく書き散らしてしまいました。個人的には大変満足致しました!!! 是非とも全幕で観たい。

 

『Mayerling』

 『Mayerling(うたかたの恋)』については、過去に楽曲解説なども書いたこともあって、思い入れのある好きな作品です。Blu-rayでもライブビューイングでも何度も観たのですが、生で観るのは始めてで、こちらも楽しみにしていました。こちらについても一言だけ。

 

 幕が開いた瞬間に思ったこと。フリーデマン・フォーゲル氏に軍服を着せようとか言い始めたの誰ですか??? 犯罪でしょ。か、かっこよすぎる。お願いだからそのジャケットをあと数秒でもいいので羽織っていて欲しい。そうなんですよね~~第二幕は軍服なんですよ。良すぎる。

 

 それにしても、エリサ・バデネス氏、めっっっちゃくちゃマリー・ヴェッツェラ役似合いますね……。『オネーギン』オタクとしてはあんまり言いたくないんですが、正直なところターニャの何十倍も嵌まり役です。これは大帝国の皇太子だって堕ちますよ。

バデネス氏のダイナミックで機敏な動きと、ヴェッツェラ嬢の意志の強さがベストマッチです。これはラストのPDDもどえらいことになっているのでしょう。観た過ぎる。

『Mayerling』は主役級の役柄が大変多いのですが、バデネス氏はもうヴェッツェラ嬢一択でしょうね、というハマリ具合でした。最高です。わたしこれあと二回観られるのか……とおもうとニヤニヤしてしまいますね。フフ。

 

 わたしこのPDDの最後でタイミングよく締まる幕が大好きすぎるのですが(絶対に伝わると信じています)、生で観られて感激です! そう! そこ!!! 大変気持ちが良い……。官能的な幕切れなので、「ここから先は見せられないよ~(R-18)」な感じで、演出としても上手いですよね……ほんとうにすき。

 

 しかし、この録音、売ってくださいませんかね。ほんとうに『Mayerling』の音楽が大好きなのですが、CDすら出ていないとは何事か。確実に需要はありますし、オタクは重課金の構えなので、はやいところ販売して頂きたいものです。

 

ボレロ

 公式の推す今回の魅せ場です(個人的には『オネーギン』がメインですが……)。

ボレロ』は、その緊張感に充ち満ちた生演奏にこそ価値があり、「録音の『ボレロ』なんて何が面白いんじゃ」くらいのスレた気持ちだったのですが……()。フォーゲル氏が最高すぎたので全て吹っ飛びました!! ほんとうにありがとうございました。でも、これで生演奏だったら更によかったのだろうと思うと寂しさも感じますが、上演中はその気持ちすら抱かせない完成度でした。

 

 え、ただのタンデュがあんなに綺麗なことある? その一言に尽きます。完。

フォーゲル氏は、古典~ドラマティックの、正統派なイメージが強かったので、モダンもここまで端正に踊るのか、と少々衝撃的でした。

 フォーゲル氏の筋肉がダンサーの中でも特別凄いことは有名ですが(?)、余すことなく出してくださいましたね。先程は「頼むから軍服を脱がないで欲しい」と叫んでいましたが、その舌の根も乾かぬうちに「脱いでも良いな……」とか言っています。これは困りましたね……。

 

 第二部で「19世紀的美」を堪能したあと、第三部で「20世紀的美」を見せ付けられましたね。わたくし個人は19世紀という世界を特に愛好しているのですが、それでも惹き付けられる後者の世界。素晴らしいです。大変満足しました。わたしこれあと二回観られるんですか? (二回目)。

 

プログラムについて

 わたくしは今回U25を利用していたので、周りの席も若年層が多く、前の席も後ろの席も小学生くらいのお子さんでした。しっかし、今日のプログラムはかなりヘヴィな大人向けだったと思うので、勝手に心配してしまいましたね。

 大人向けだっただけでなく、『ソロ』『やすらぎの地』『ボレロ』と、マスキュランな作品が続いたのも印象的でした。そのせいか、客席も心なしか普段よりも女性が多かったような気がしないでもないような。

 

 世界初演作もありましたし、現代物はあまり詳しくないのですが、粒揃いで良かったです。『やすらぎの地』の後半は、なんだかホーコン・コーンスタ氏っぽい音楽だなと思ったり。

Im Treibhaus -Digi-

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↑ 多分一聴頂けるとご理解頂けると思います。

 

 『Put that away and talk to me』は、音楽こそテクノ系ですが、躍り自体はかなりクラシカルで、とても観やすく纏まっていました。というかあれ踊るのめちゃくちゃ楽しそうですね。観ているこちらも楽しい。

 

 相変わらず『オネーギン』以外の感想が雑で恐縮ですが、一旦ここで締めたいと思います。

 

最後に

 通読ありがとうございました。6000字ほどです。

先日面白い資料を見つけてしまい、夜中に読み耽ってしまったせいで寝不足で、わたくしにしては投稿が遅くなってしまいました。まあ、次の公演に間に合えばよいでしょう! 今日のマチネも楽しみです!! 今回の公演にいらした方は、もう是非わたくしに『オネーギン』の感想を送りつけて下さい。宜しくお願い致します。

 それでは、今回はここで終えようと思います。明日・明後日分も記事を書く予定なので、そちらでまたお目に掛かれれば幸いです!

↑ 二日目のレビューも書きました。こちらからどうぞ。