世界観警察

架空の世界を護るために

第16回世界バレエフェスティバル 2021/8/13

 こんにちは、茅野です。

行って参りました、第16回世界バレエフェスティバル、初日!! コロナ禍やらオリンピックやらでドタバタの東京ですが、無事に開演できて何よりです。

 

 実に1年半ぶりの生『オネーギン』です!!  前回は昨年3月のパリ・オペラ座公演でした。通いましたね~。千秋楽以外全て行きました(ファースト、セカンドキャスト共2回ずつ観ました)。マチネとソワレに両方突撃して、ソワレまでの1時間半の間に、喫茶店で記事を7000字書くというレビュー記事執筆リアル・タイム・アタックをやったものです。アドレナリンと愛で乗り切った春。懐かしい。

 勿論お目当ては同演目ですので、『オネーギン』の感想を書いてゆきます。細かすぎるレビュー執筆に定評のあるわたくしですが、このような他の演目への関心の薄さ故に、一生評論家にはなれぬのだろうなと悟っている今日この頃。精進致します。

 それではお付き合いの程、宜しくお願い致します。

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オンラインメッセージ

 『オネーギン』を観たら公演後24時間以内に記事を投稿する、というのがほぼ鉄則となっている弊ブログですが、今回は少々遅れました。と、申しますのも、昨晩はこちらを執筆していたからで……。

 感染予防の観点から、今回は出待ちは勿論、贈り物も禁止。というわけで、NBSさんが用意して下さったものの一つが、オンラインメッセージです。まだ送っていないという方は是非ともご活用くださいませ。

 

 昨晩は『オネーギン』を踊って下さった三人(フリーデマン・フォーゲル氏、エリサ・バデネス氏、ドロテ・ジルベール氏)に直接感想を書きました。一応ジルベール氏にはフランス語で、シュトゥットガルトのお二人には英語で……(無学ゆえドイツ語はからきし)。そんな何千何万字()みたいな常軌を逸した長文は流石に書いていないのですが、英作文・仏作文をしたらそれなりに疲弊したことが、今回の記事が少々遅れた理由です。

 

 観劇に行く前日夜(8/12)には、「普段だったらメッセージって劇場に持っていくものだから、観劇前に書くものだよな?」と思い当たり、ヴラディスラフ・ラントラートフ氏にメッセージを書きました。と、申しますのも、わたくしが『オネーギン』に狂っていることは周知の事実かと思いますが、初めて観た『オネーギン』が彼のもの(2013年のボリショイ劇場初演の映像)だったんですね。初見の衝撃からはや6年半ですか、それ以来沢山色々な『オネーギン』を観て参りましたが、今思うと、彼のオネーギンだったからこそハマったという所は大きいだろうと思うわけです。勿論好みも含めてですが、バレエの技術も、役の解釈も、演技も、表現力もラントラートフ氏のオネーギンが一番であると今でも確信していて、その為「好きなダンサーは誰ですか」と問われたら彼の名前を挙げることにしています。

↑ こんなん見せられたらそりゃあ一晩書けて恋文くらい書く。ちなみにわたしはこの映像(全幕)、軽く300は観ました。名演です。

 というわけで、やったんですよ、ロシア語作文!! いよいよちょっとだけロシア語が書けるようになって参りました『オネーギン』オタク。もう、正に「怪文書」としか言いようのない、我ながら大変気持ち悪い代物で、今回『オネーギン』踊らないのにあなたの『オネーギン』が大好きだとか宣うし、ロシア語で人を賞賛するのって初めてで、混乱し、ターニャの恋文もドン引きみたいな文章ができあがりました。当然のように同恋文も引用しましたが、流石に守護天使の話はしていないので安心して下さい(?)。人気ダンサーとして数多ファンレターを貰っているでしょうが、ここまでキモいファンレターを貰うことは流石に稀でしょう。日本ヤベえところだなと思われるかも知れません。すみません。でもここでやらなきゃ漢じゃないので……(?)。わたくしをここまで『オネーギン』に狂わせた全ての元凶の一部なので、責任取って東京で100回くらい踊って欲しい……毎日S席で観る……。

 

 ところで、このメッセージって、何語で書くことを想定されているんでしょうね。ビデオメッセージの説明では「言語は問いませんが、英語がお話いただける方は極力英語でのお話をお願いいたします」とあるので、英語なのかな。NBSの方が翻訳をするんだとしたら大変だ……。

 

演目の変更

 今回、入国規制などの兼ね合いで、出演者・演目がかなり変更されました。個人的ににはディアナ・ヴィシニョーワ氏とサラ・ラム氏の来日断念は残念だったのですが(ラントラートフ氏がわたしにとって「至高のオネーギン」なら、ヴィシニョーワ氏は「至高のターニャ」なのです)、U25席4500円でザハロワ姫の『瀕死の白鳥』が観られるという、異例の事態に……。

 

 中でも(個人的に)衝撃だったのは、まさかの、『オネーギン』が増える、ということです。隔離により間に合わなくなったユーゴ・マルシャン氏に代わり、ドロテ・ジルベール氏のお相手として、フリーデマン・フォーゲル氏と『オネーギン』を踊るという……。同文化会館で『オネーギン』に出演した二人ということで決定されたのだと思いますが、個人的には又とない僥倖です。友人らには、「茅野ちゃん、NBSに貸しでも作ってたの?」と訊かれましたが、そんなことはないはずです……確かに終演後のアンケート用紙の「今後やって欲しい演目」には必ず同題を書いていましたが……(?)。

 

 というわけで、衝撃的な画がありました。「タチヤーナハーレム」(?)です。

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↑ 公式掲載の集合写真より拡大。一組ずつレヴェランスするコーダでの違和感はえげつなかった。今後一生観られないであろう図です! 必見。

 なんか、二次創作でよくこういうイラストありますよねみたいな図になりましたね……。こういう現実では起こりえない展開に仮になったとして、オネーギンさんが好きなのは在りし日のターニャなのか? それとも公爵夫人となり成長したターニャなのか?? 解釈が割れそうです。

 

鏡のPDD

 余談ばっかり書いて参りましたが、感想を書いて参ります。

まずは第一部のフリーデマン・フォーゲル氏×ドロテ・ジルベール氏による『オネーギン』第一幕第二場、鏡のPDDの方から。

 前述のように、いくら同劇場で同役を踊っていたからと言って、急遽鏡のPDDを選ぶというのは凄まじい決断をしたなと思います。と申しますのも、鏡のPDDは終盤の手紙のPDDよりも技術的には難しいと答えるダンサーが多いことからも、技術的に大変難易度が高いことがわかります。そもそも、『オネーギン』自体、主演二人にとっては難易度の高い作品ですし、それを数日で仕上げようというのだから恐れ入ります。

 そのこともあってか、やはり手探り状態であったことは否めず、最初から挙動の不確かであったところは散見されました。特にリフトなど二人の接触が多いところは危うく、それを引き摺ってか、離れる場でも各々の持ち味を生かし切れていないように感じました。

 特に、昨年の公演では、このPDD内でのジルベール氏の男性の手を借りない素晴らしいアラベスクのキープなどが際立っていたのに対し、今回はそのようなものも見受けられませんでした。

↑ 当時の鑑賞ログ。

 又、中~終盤の上手前では、フォーゲル氏が勢い余って地面に手を突いてしまう一幕もあり、ヒヤッとしました。どうか怪我などなさらぬよう……! 従って、『オネーギン』を "応援" しながら観る、というファン歴6年半にして初めての経験を積むことができました。これはこれで楽しく……。

  一方で、難易度が高いからといって振りを省略することなどは全くなく、どんな難所も切り抜けていく、そのプロフェッショナル根性のようなものに大変感銘を受けましたね。二人の技術は前回の公演で証明されていますから、単に時間・調整不足だけが悔やまれるところです。千秋楽の頃には抜群のパートナーシップを見せてくれるでしょう。観に行かれた方は是非ともわたくしに感想を教えて頂きたく……。

 

 これはオンラインメッセージで直接本人にもお伝えしたことなのですが、二人の『オネーギン』は役柄の解釈的にも相性がいいのではないかと感じました。フォーゲル氏のオネーギンは、悪戯好きな少年らしさ、若々しさのある解釈で、全ての過ちは若気の至り、とでも言うような、憎めない愛らしさを包含したオネーギンです。一方、ジルベール氏のタチヤーナは、一幕の時点で内気というよりも冷静、芯の強さや内なる高貴さを感じさせる解釈で、設定された年齢(17歳→21歳)よりも大人びて見えます。それって結構ベストカップルなのでは……? なんて思ったりもしました。いや、是非この二人で全幕やって欲しいですね。見応え凄そう。

 

手紙のPDD

 次いで第三部のフォーゲル氏×エリサ・バデネス氏の第三幕 手紙のPDDについて。

思い返せば、前回の来日ではバデネス氏はパリ・オペラ座マチュー・ガニオ氏と組んでいたので、この組み合わせは初めてなのですよね。非常によかったとおもいます。

 前回は、前日にディアナ・ヴィシニョーワなる "怪物" が同役を演じていたことから、どうしても見劣りしてしまうところが否めなかったバデネス氏。特に、この公演では鏡のPDDの方が完成度が高く、手紙のPDDの方は盛り上がりに欠ける印象がありました。

 しかしながら、今回のバデネス氏は大変よかったですね。これも本人にお伝えしましたが、特に演技面での成長が著しく、原作ファンが望む王道・理想形を演じてくれました。ダンサーの成長という面もあるでしょうが、全幕ではなく一部取り出して観る、という変化も大きかったかもしれません。

↑ 当時の感想。全然大したこと書いてなくて我ながら呆れました()。

 オネーギン役のフォーゲル氏は、第一部での疲れも見せずやりきって下さいました。やはりこちらでは長年練習を積んできた成果が蓄積されており、安定感あるパフォーマンスで、完成度が高いです。

 今回同行してくれた友人によれば、フォーゲル氏の第三幕のオネーギンはジェントルなところがよいのだそうで……。確かに、『オネーギン』第三幕って、突如人妻の部屋に押し入る独身男、という構図になるので、演技の方向性を間違えるとかなりキケンな香りがしてしまうのですよね。しかし、『オネーギン』はプラトニック・ラヴを貫く謂わば「全年齢」作品であって、同題役は少々強引な、それでもジェントルに……と、無理難題とも言うべき演技を求められます。フォーゲル氏は、積み重ねてきた経験からか、そのバランスが非常にいいですね。

↑ 全幕版の感想。我ながら語彙力がなさ過ぎます。

 

 しっかし、日本のオケは『オネーギン』苦手なのか!? 昨年の惨事()は別オケでしたが……、第二部の『海賊』であんなにも盛り上がる演奏ができるのに、どうして、どうしてこう『オネーギン』は……。中低音部がなんだか弱々しく、金管にももう少し頑張って欲しかった……。

 

その他の演目

 あの偉大なるダンサーたちの、あの偉大なる演目を全て「その他」でひっくるめてしまう無礼をお許し下さいませ。

 初日ということもあってか、全体的に皆さんセーブしている印象を受けました。充分に素晴らしかったのですが、まだ本気ではないだろうという気がしましたね。その中で、一番全力で踊っていたのはヴラジーミル・シクリャローフ氏だったのではないかなと思います。エネルギッシュでした。あ、彼は『オネーギン』も刺々しい印象が強い解釈で、中々素晴らしいのです。是非生で観たいですね。ペアのオリガ・スミルノワ氏もそれに釣られてか、段々熱が入っていく様子が大変よかったですね。相変わらず同氏の背中の柔らかいことよ。件の2013年の『オネーギン』でタチヤーナを演じていたのが彼女で、演技というよりもズバ抜けた技術に度肝を抜かれたものです。

 最も盛り上がったのはキム・キミン氏の『海賊』で間違いないでしょう。拍手をかっさらいましたね。個人的にペアのエカテリーナ・クリサノワ氏が好きなのですが、キム氏に全部持って行かれてしまったような感じになってしまいました。同氏はメドーラよりももっとハツラツとした元気娘な役がハマるので、本領を発揮しきれていない感じがします。

 同じく演目による本領発揮不足といえば、それこそラントラートフ氏の『ライモンダ』はそれが顕著であると思いますね。彼はどんな役も自分のものにできる抜群の演技力の持ち主ですが、だからこそ、個性がほぼ全く無い名前だけの存在ジャン・ド・ブリエンヌを充てるのは非常に勿体ない! 卒なく完璧無比な王子様役に徹すことも勿論できますが、その完璧さゆえに面白みに欠けます。やはり、本人も愛好しているという物語バレエでこそ本領発揮できるとおもいますね。より精確に言えば『オネーギン』を踊って欲しいです(迫真)。一方、ペアのマリア・アレクサンドロワ氏は慣れたライモンダ役がハマります。日本の観客にとっては、新国立劇場で上演されたばかりということもあり、見比べるのには丁度良かったのではないでしょうか。ヴァリエーションでは手を打ち鳴らさないタイプでしたね。

 演技といえば、逆に演技をする要素が全く無い『ジュエルズ』。非常に演技力を求められる『オネーギン』では独自の解釈と演技で踊ったマチュー・ガニオ氏は、こういった身体の美しさを前面に出した演目でこそ映えると確信しましたね。ペアのアマンディーヌ・アルビッソン氏も然りで、この二人は『オネーギン』では体格差があまりないことからか、リフト等ではかなりヒヤヒヤすることもあったのですが、『ジュエルズ』では全くそういったことがなく、自分たちの強みを知り尽くした、優れた演目の選択であったなと感じました。

 そういえば、『マノン』でデ・グリュー(ワディム・ムンタギロフ氏)が使っていた机、きっと『オネーギン』のターニャときっと共用ですよね? 文学的に見ても、デ・グリューとターニャが机をシェアって面白いなあと思いました。ムンタギロフ氏は新国立劇場でもデ・グリューを踊っていましたし、抜群の安定感です。金子扶生氏のマノンも妖艶で愛らしく、妖精のようでありながら血の通った演技で、大変よかったです。

 そしてスヴェトラーナ・ザハロワ氏の『瀕死の白鳥』。同氏の代名詞と言っても差し支えない定番・十八番です。いやもう、人間ではなかったですね。鳥ですね。流石は万人に人生で一度は観たいと言わせるまである……。偶然にも観ることができて嬉しいです。ちなみにザハロワ氏はターニャを踊らないのですが、そこには闇深い(?)紆余曲折があったそうな。

 

 他にも色々、色々思うことよかったこと等あるのですが、一旦終了します。

 

パンフレットについて

 あまり重大なこと(演目の学術的な解説だとか、インタビューだとか)は書いていないだろうということはわかっていたのに、買ってしまいましたパンフレット! チケット代が4500円(U25席)でパンフレット代が3000円ってどうなん? と一瞬頭を過ぎりましたが、それはさておき。

 個人的に気になったのは3点(全部『オネーギン』関係)で、まず、演目解説一覧のところに『オネーギン』の写真を選んでくださってありがとう、という点が一点。次点で、音楽について「有名な同名のオペラの音楽は一切使わず、」という記載があり、「そうか、オペラは有名という扱いでいいんだな?」といつも『オネーギン』の知名度の低さに泣いているオタクは思うのでした。最後に、ダンサーの解説欄に沢山『オネーギン』を踊った実績を書いて下さっていることが嬉しく、特に件のボリショイ初演(2013)のファーストキャストについての記述には3000円の価値を見出しました。ありがとうございます。以上です!

 

最後に

 通読お疲れ様でございました。6500字強です。ほぼ『オネーギン』のことしか書いていないのに! しかも『オネーギン』を今回踊っていないダンサーについても『オネーギン』のことばかり書くという自己主張の強いオタクで申し訳ないです。

 千秋楽付近で観たらまた大分印象が変わるだろうと感じたので、観に行かれた方は是非感想を送って下さいませ……。この記事のコメント欄でも、TwitterのDMでも、メールでも構いませんので……。宜しくお願い致します。

 それでは長くなりましたのでお開きとさせて頂きます。ありがとうございました。