世界観警察

架空の世界を護るために

道無き道を征く - 『The Pathless』レビュー

 こんばんは、茅野です。

すっかり冷え込んで参りましたね。お身体にはお気を付け下さい。

 

 さて、『The Pathless』、クリア致しましたよ!

 事前情報ほぼゼロの状態の初見プレイで約7時間でした。収集要素などを含めずしてこの時間なので、結構ボリューミィです。それにしても、土日の二日間で終わらせてしまった……相変わらずのシングルタスク脳な筆者であります。

 この『The Pathless』、実はゲームをプレイするよりも前に一記事書いてしまうという、大それた真似をしたゲームでもありました。ウィントリー先生の音楽が何よりも素晴らしくてですね……! 先に OST を購入した挙げ句、解説記事まで書いてしまうという。

↑ こちらです。真面目に解説を書いたので、よかったらどうぞ。

 ゲームそのものを遊ばずしてそのゲームを語るなど、記事書きの風上にも置けん。というわけで、この記事の中でも、

それでは、満を持してわたくしも『The Pathless』、遊んでみたいと思います。

と書いていたのですが、時が満ちたというわけですね。

 

 というわけで今回は、『The Pathless』のレビュー記事になります。クリアしたてのフレッシュな感想をお届けします。例によって、考察記事をこの後幾つか書きたいところですが、今回はネタバレ控えめ、雑感などを主体としてお送り致します。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

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概要

 『The Pathless』は、PS4、PS5、windowsiOSmac で遊べる三人称視点のアクションゲームです。わたくしは PS4 にてプレイ。

 開発元はアメリカのデヴェロッパー、我らが Giant Squid 様! ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、わたくし、処女作でもある前作『ABZÛ』の大ファン。考察・解説を2シリーズ(メインの考察シリーズ、作中に登場した海洋生物の分布図を確認する「ZEN MASTER」シリーズ)完結させている他、コメンタリー等の資料の翻訳なども書いています。『ABZU』に関しては、我ながら満足のいくものが書けたと自負しております。本当に好きなゲームです。

↑ 『ABZU』記事一覧。『ABZU』はいいぞ……。

 そんな Giant Squid 様の新作! ということで気になってはいたのですが、PVなどを観る限りでは、なんだか普通のアクションゲームっぽいぞ……? とあまり興味を惹かれず。結果として一年近く放置してしまったのでした。

 

 操作は至ってシンプル。歩く、走る、視点移動、弓を引く、ジャンプ / 鷲に捕まって滑空する、鷲を撫でる、アクションのみです。アクションゲームですが、ウェポンが弓矢しかないので、余計な武器選択やステ振りに惑わされること無くバンバン射って射りまくれます。勿論矢に制限回数は無し。超爽快です。

 

 フィールドでパズルを解く必要がありますが、難易度は高くありません。わたくし自身さほどパズルは得意ではありませんが、何も見ずに各エリアにあるトロフィが獲得できる難易度の高いものも解けたので、パズルが苦手な人でもサクサク進められると思います。ヒントもわかりやすいですし、滅多に詰まることはないのではないでしょうか。尤も、全部解かなくてもクリアできるので、難しいものは難しいです。

 戦闘も、慣れるまでは苦戦することもあるかと思いますが、アクションゲームをやり慣れている人ならば容易にクリア可能でしょう。盾がないので、回避タイミング覚えゲーです。吹っ飛ばされたり、作中で収集することになるクリスタルを少々失うなどのペナルティはありますが、死の危険はないのも特徴です。

 

総評

 何が「普通のアクションゲームっぽい」ですか! 素直にやっておけって話ですよ!! 確かに、「今世紀最大の神ゲー!」みたいなゲームではないと思います。しかし、やっておいて損はないと確信します。取り敢えず迷う段階まで来ているなら買った方がよいです。わたしは大変満足しました。

 

 ゲームそのものは上田文人御大の大傑作『ワンダと巨像』にかなり近いです。自然豊かな美しい広大なフィールドをパートナーの動物(『ワンダ』では馬のアグロ、『The Pathless』では鷲)と共に駆け抜け、各所で少しパズルを解きつつ、ボスと戦う。戦闘はボス戦以外に存在しないところも『ワンダ』ライクですし、ウェポンが少ないことや、各地の様子から世界の様子を少しだけ推察できるところ、スピリチュアルな力で目的地を確認するところ(『ワンダ』ではいにしえの剣を掲げる、『The Pathless』では仮面を被る)も類似の点かと思います。『ワンダ』が好きなら絶対にやった方が良いですね。

 

 戦闘に関しては、「弓版『Devil May Cry」と評価している方を多く見ますが、確かに仰る通りだなと感じます。ハイスピードスタイリッシュアクションです。でも『DMC』のように、もっさりムーヴをしても評価が低くなるとかはないので、安心してゆっくりお楽しみ下さい。

 

1. コンセプト

 マット・ナヴァ氏(『ABZU』『The Pathless』のディレクター)のゲームの何が良いって、コンセプトです。「環境保護」「多様性の尊重」など、訴えたい事柄が非常に明確に見えてくる。それが氏のゲームの素晴らしいところ。作品を通してテーマが一貫しており、土台がしっかりしているので、非常に安定感があるのです。また、ゲームを遊び終えた後に、「己もこのゲームで学んだことを実践しなくては!」と前向きな気持ちになれるところも素晴らしい。ただ「遊んで楽しい」で終わりではないのです。

 

 また、ナヴァ氏のゲームの特徴は、アジア趣味ですね。考察記事で述べたように、『ABZU』ではメソポタミア、即ち現在のイラク周辺を重点的に取り上げていましたが、今回は中央アジア~極東がベースになっていると推定されます。今後の考察記事で、検証作業をしてゆきたいと考えております。

ナヴァ氏はアメリカ人ですが、所謂「サムライ」だとか「ニンジャ」を混同したような欧米人の考える「なんちゃってアジア」ではなく、深い理解とリスペクトに基づいて制作されていることがよくわかるのが大変素敵です。一日本人としても嬉しい限り!

 

2. 操作性 / ローカライズ

 操作性、非常によいです。ぬるぬる動きます。

ゲージを消費してハイスピードで走ることができるのですが、もうただ走っているだけで楽しいとか、そんなゲームなかなかない!

↑ 弓で「お守り」を撃ち抜いてゲージを回復しつつ加速。川は相棒の鷲に捕まり滑空して越えてゆきます。もちろん、泳ぐこともできます。

 

 カメラの速度や標準/反転入れ替えなど、各種の設定をかなり細かく弄れるのも嬉しいポイント! 自分のやりやすいようにカスタマイズすることができます。

 

 序盤でがパートナーになりますが、何ってこの子がめちゃくちゃ可愛いんだ。

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つぶらな瞳~~!! 茅野のこうげきが一段階下がった。

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↑ 主人公に撫でられると頬を寄せたりして喜ぶんですよ~! 尊い

 日本のプレイヤーからは「THE・洋ゲーってかんじ」と敬遠されがちな主人公のデザインですが、口元が隠れているにもかかわらず雄弁に語る眉と瞳、そして睫毛の長さの際立つ横顔と、非常に美人さんです。わたしは好き。

 

 ナヴァ氏のゲームでは初となる言語が用いられた作品でしたが、ローカライズはかなり丁寧です。わたくしは結構洋ゲーもやるので、「✕ボタンで決定」というのにも馴染みがあるのですが、ローカライズで「○ボタンで決定」に変更されており、寧ろ誤操作が多かったくらい。

まだ原語で遊んでいないので誤訳の確認などはできていませんが、翻訳も不自然ではなく、寧ろ人称などバラエティ豊かに訳出されていて好感が持てました。インディーズゲームの翻訳って誠に残念ながら酷いものが多くて、あまり信頼していないのですが、今回は大丈夫そうです。各地域共通のものを販売しているようで、言語設定で英語/日本語のみならず、フランス語やスペイン語はおろか、アラビア語やロシア語など幅広い言語から選択できます。外国語圏の考察勢とも楽しく議論できそうですね!

 一方で、一カ所だけローカライズミスがあります。

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↑ 「……行きなさい、そしてサウロに己が何者であったのか思い出させるのです……」かな。

 

3. 音楽

 この記事の冒頭でもお伝えしましたように、このゲーム、何って音楽が素晴らしい。当初はゲームも買わずに OST を買ってヘビロテしまくっていたほどには素晴らしい。音楽に関して点数を付けるなら、満点は固いでしょう。

↑ 回し者ではないのですが、マジで買った方がいいです。

 

 作曲は、『ABZU』、ナヴァ氏が thatgamecompany 在籍時代にデザインを手掛けた『JOURNEY(風ノ旅ビト)』でもお馴染み、若手ながら受賞歴もある優れたゲーム音楽コンポーザー、オースティン・ウィントリー先生! 信頼と安心しかありません。全世界のゲーム音楽コンポーザーの中でも、1, 2を争うと言っても全く過言ではないのではないでしょうか。

ウィントリー先生の素晴らしいところは、ご自身の YouTube に解説動画をアップロードされているところも挙げられます。『ABZU』ではコメンタリーを翻訳しましたが、今回も考察時に参考にしたいと思います。いや、それにしても無料公開ではなくて、課金させて欲しい、それほどに素晴らしい。

 

 冒頭でもご紹介した記事で使用された楽器を解説しておりますので、詳しくはそちらをご覧頂きたいのですが、世界各国の所謂「民族楽器」を用いたエスニックな音楽です。全体的にアジアらしい雰囲気が漂いますが、楽器は東西南北広い地域のものが使われています。

個人的には、最初のボスになるケルノス様と対峙した際の音楽が心底好きです。ウードが主題を奏でるパートは全面的に好き。特に第二主題のウードとリュートがウィントリー先生お得意の三連符でリズミカルに主題を奏で、ゲーム上ではケルノス様とチェイスするところは至高の一言に尽きます。最初に OST を購入してしまったので、この音楽をゲーム内で聴きたすぎてこのゲーム買ったまである

 

4. 戦闘 / グラフィック

 前項で「ケルノス戦の音楽をゲーム内で聴きたくてこのゲーム買ったまである」と述べましたが、ケルノス戦楽しすぎんか音楽がこんなにも素晴らしいのに、戦闘まで楽しいってこのゲームちょっと大丈夫なんでしょうか。ありがとう、本当に遊んでよかった。

 

 第一形態が本気で楽しい。もうずっと第一形態でいい。延々に神様(ボス)の尻を追い回していたい。メッチャかっこいい音楽が響く中、矢をバンバン撃ってスタイリッシュに加速しつつ、猛ダッシュで逃走するボスの放つ火炎放射を除けながら追いかけるんですよ! 楽しい以外の何物でも無い。最初ケルノス戦の第一形態に出会したとき、声に出して「何コレめっちゃたのしい!!」って叫びましたもの、ええ。この爽快感、己の手にコントローラのバイブレーションを感じずには味わえないので、是非ご自分でプレイされてください!

 

 一方で、第三形態(サウロ、ニムエ戦)などは少々面倒と申しますか、判定がわかりづらく「今の当たってないでしょ!」「え、今絶対当たったとおもったのに……」が多発し、イラつくこともしばしば。難易度が高いというわけではありませんが、慣れるまで時間がかかり、もう少し親切な(難易度を下げて欲しいという意味ではなく)設計にもできたんじゃないかなと思わなくもないです。ここで幾度かやり直させられると、第一形態の爽快感が消え失せるのが勿体ない。慣れればスタイリッシュにクリアできるかもしれません。

 

 グラフィックに関しては、ここまでも幾つかスクリーンショットを貼っておりますので雰囲気は把握されていることと思いますが、全体的に輪郭が濃く、少しデフォルメされたいつものナヴァ氏調。そのちょっとしたカートゥーンっぽさが、アジアらしいデザインによく合います。『ABZU』に引き続き、生物描写の愛らしさは健在です。尚、いつもの主人公の猫耳要素はありません。

 

 ちなみに、タイトル画面は『ABZU』と異なり、この画像で固定。

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↑ 蔦に覆われた鷲のレリーフ

余談ですが、『ABZU』のタイトル画面は攻略中の各エリア毎に変化する非常に美しいものなので、是非ご自分の目でお確かめください。ちなみに「ZEN MASTER」シリーズではこのタイトル画面をサムネイルにしているので、ゲームプレイはまだ検討したいという方は参考までに宜しければご覧下さい。たいへん綺麗です。

 

 各エリアのボスは、謂わば「闇落ち」して我を失った神々です。原則的には自然を司る神々でしたが、敵たる「神殺し」により洗脳され、己が守護していた街や大地を灼熱の炎で包みます。従って、元は緑や水を司っていても、どのボスも炎タイプっぽくなっています。

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↑ 八岐大蛇感のある第三のボス、水の神ニムエ戦。

 

 戦闘自体は『DMC』に近いとよく言われていることは前述の通りですが、個人的には第二形態はDARK SOULS II』の「鉄の古王」を想起しました。溶岩だらけで足の悪いフィールドや、特にニムエ戦などではボス自身が溶岩に下半身を埋めていること、回避タイミングのシビアな薙ぎ払いなど、かなり似ていると思います。

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↑ 落下死常習犯なので意外と苦手なボスだったのですが。似てません?

 

 『DARK SOULS』といえば、神々や像の胸部(腹部)にぽっかり明いた穴も、DARK SOULS III』の「輪の騎士」っぽいですよね。

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↑ 序盤にお目にかかれる巨像。『ワンダ』とは異なり、ボスを倒しても壊れません。

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↑ 「輪の騎士」。『The Pathless』に於ける身体の穴の由縁については、考察記事にて。

 

5. 『ABZÛ』との関連

(以下少々ネタバレ)

 

 

 

 

 

 

 

 わたくしが『ABZU』の大ファンであることは前述の通りですが、前作ファンに嬉しいポイントもあります。

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↑ 神殿エアブズ―――!!!!

OST の時点で、「ABZUと同じ主題の曲があるなあ」と思っていたのですが、まさか神殿エアブズが登場するとは……!

 

 序盤では、これから倒すことになるボスの像が建ち並ぶ神殿に赴くことになりますが、そこにある一つだけ破壊された像の頭部は……。

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↑ 『ABZU』に於ける親愛なる相棒、 Great White Shark(ホホジロザメ)!!

Great White Shark も、母鷲から生まれた神ということになるのでしょうか!? 『ABZU』ファンとしては興奮が醒めません。

 

 また、『ABZU』考察の第二弾で、「浮かぶ三角体の謎に迫れ!」という節を書いているのですが、『ABZU』で空中に浮かんでいた三角体は、『The Pathless』の決戦の地、浮島のことである可能性があります。

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↑ 『The Pathless』の浮島。

 

 そう考えると、『The Pathless』は『ABZU』と地続きの物語である可能性が高くなります。であるならば、前作同様シュメールやアッカド神話のエッセンスを汲んでいる可能性も高くなりますし、前作と絡めて考えることも可能です。なんて胸熱な。前作ファンを救ってくれてありがとう……。『ABZU』ファンは絶対にプレイしましょう。

 

最後に

 通読お疲れ様でございました! 7000字弱です。

流石の Giant Squid さん、期待を裏切らないというか、あまり期待していなかったのが実に申し訳ないゲームを届けて下さいました。今後とも注視してゆきたいデヴェロッパーです! はやくも次回作に期待が高まります。

 さて、今後の『The Pathless』関連では、考察記事を幾つか執筆できればよいなと思っております。検証、リサーチ等走って参りますので、暫しお待ち下さい。わたくしも弓矢で加速したい。

それではお開きとさせて頂きます。次の記事でお会いしましょう!