こんばんは、茅野です。
『ABZÛ』の考察シリーズを終え、『Sky』も一通りクリアし、次はどのゲームに着手しようかと考えていたのですが、我らが Giant Squid さんの新作がノーマークだ! というわけで、今回は『The Pathless』の記事になります。
実は、未だ『The Pathless』は未プレイ。ウォーキング・シミュレータではなく、RPGなのか……、とあまり興味を持てずにいたのですが、流石はマット・ナヴァ氏 × オースティン・ウィントリー先生の黄金ペアであった。先に音楽だけチェックした所、トゥヴァ共和国の伝統唱法などが用いられるなど、個人的な琴線にグサグサ刺さるポイントに充ち満ちていた……!! というわけで、急いで OST を購入。初のボス戦の音楽『Cernos』なんかめちゃくちゃ盛り上がりますね!
『The Pathless』の音楽が素晴らしいと気が付き、OST を購入してそのまま書き始めたのが当記事です。『The Pathless』の音楽は民族調で統一されており、耳慣れないサウンドに溢れています。
実はわたくし、中学生時代に『Ethno World 5』というクリプトン社製(VOCALOID の「初音ミク」などでお馴染みの会社です)の民族音楽に特化した作曲ソフトを弄って遊んでいた過去を持ちます。名前の通り、聞いたこともないような民族楽器の音源が山のように入っている浪漫溢れるソフトです! 最新版が欲しいなあと長年思いつつ、高額なのと、あまりの機能の充実性、専門性の高さ故に難易度が高い側面もあり、逡巡しております……誰か買って欲しい(無茶ぶり)。ともあれ、『Ethno World』シリーズは民族楽器ファンには堪らない一品であることは間違いありません! 心からオススメ。
長年の『Ethno World』のファンゆえ、我ながらよくわからないダイレクト・マーケティングをしてしまいましたが、本題に戻ります。
そういうわけで、民族音楽・民族楽器については少々知見があるので、このゲームの音楽に登場する楽器を簡単に紹介してゆこうとおもいます。お付き合いの程、宜しくお願い致します。
使用楽器一覧
スコアの上から、登場順に並べます。
Dizi(笛子)、Horn in F(ホルンF管)、Toms(トムトム)、Taiko Drums(太鼓)、Washboard(ウォッシュボード)、Puili Sticks(プイリ)、Dumbek(ドゥンベク)、Glass Marimba(グラスマリンバ)、Glassware(グラスハープ、グラスハーモニカ)、Alash Ensemble(アラシュ)、Oud(ウード)、Lute(リュート)、Tombourine(タンバリン)、Tongue Drum(タングドラム)、Bouzouki(ブズーキ)、Khim(キム)、Sarod(サロード)、Violin(ヴァイオリン)、Viola(ヴィオラ)、Violin Cello(チェロ)、Double Bass(コントラバス)、Zither(シタール)、Pennywhistle(ティンホイッスル)、Kanun(カーヌーン)、Nyckelharpa(ニッケルハルパ)、Bass Viola da Gamba(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、Metals(金属楽器)、Bariton Violin(バリトン・ヴァイオリン)、Frame Drum(フレームドラム)、Crystal Baschet(クリスタル・バシェ)。
今回は、この30種類の楽器のうち、一般的なヴァイオリン属、ホルン、タンバリンと、曖昧で何を指しているか不明瞭な金属楽器以外の23種類の楽器をご紹介致します。
弦楽器
ウード
所謂「民族楽器」と呼ばれる分野では最メジャークラスの弦楽器、ウードです。主にアラビア語圏やペルシャ(イラン)、トルコなど狭義の中東で愛用されており、フレットがなく複弦があります。スイカなんかを思わせる半球形の胴と、直角に折れ曲がったネックが特徴。使用感はクラシックギターに似ます。
リュート
先程のウードに大変よく似た楽器ですが、こちらは主にヨーロッパで用いられていたものです。ウードと祖を同じくすると考えられていますが、こちらはフレットがあるなどの差異があります。
ブズーキ
ブズーキはギリシャなどの南ヨーロッパで用いられる弦楽器。長いネックと、スチール弦特有の鋭い音色が特徴です。胴の装飾も凝ったものが多いです。
サロード
インドで愛用される弦楽器です。後述のシタールも同様ですが、チューニングアジャスター(ペグ)がネックのところまであるのが特徴です。使用感はギターに似ます。
シタール
民族楽器の代表格、比較的知名度が高い楽器ではないでしょうか。サロードと同様、インドの弦楽器ですが、こちらはフレットがついています。右手につけ爪を嵌めて、弦をはじいて音を出します。
ニッケルハルパ
ニッケルハルパはスウェーデンの弦楽器です。形状はヴァイオリン風で、音色も似ていますが、指板を押さえるのではなく、鍵盤のようなものを押して音程を調節します。演奏をよく聴くと、この鍵盤を押さえる音が少し混ざっていたり、所謂ポルタメント(チョーキング)やヴィブラートのような奏法が登場しないので、フィドルと聞き分けることができます。
本場スウェーデン製のゲーム『Unravel』の音楽でもニッケルハルパが使われていました。
↑ レビュー記事。ここでもニッケルハルパの良さを少し語っています。
ヴィオラ・ダ・ガンバ
ヴィオラ・ダ・ガンバは、ヴァイオリン属よりも古い擦弦楽器です。「ガンバ」とは「脚」を意味し、チェロのようなエンドピンがなく、脚で挟んで固定します。ヴァイオリン属との違いとして、フレットがあることや、弦がガット弦(羊の腸からできたもの)で、柔らかい音が魅力的な半面、音が小さく、大ホールなど広い場所での演奏に不向きなことが挙げられます。
バリトン・ヴァイオリン
バリトン・ヴァイオリンは、ほぼヴァイオリンと見た目は変わりませんが、調弦を1オクターヴ下げたヴァイオリンです。従って、音域はチェロに近くなりますが、くぐもったような独特の音色はチェロとは明確に異なり、しばしば民族音楽で使われます。
キム
タイやカンボジアなど東南アジアの弦打楽器です。ピンと張った弦を、二本の竹製のバチで叩いて音を出します。中国の揚琴やハンガリーのツィンバロンなどに似ていますが、最も小型です。弦でできた木琴のような弾き方をしますが、複弦で、強いて言うならばハープに似た独特の音がします。
カーヌーン
カーヌーンは、アラビア語圏を中心とした中東の弦楽器です。前述のキムに似ていますが、こちらはバチではなく指ではじいて音を出します。日本の琴と同じ感覚です。イスラーム法の世俗法も「カーヌーン」と言いますが、双方語源は音楽用語の「カノン」なんだとか。
管楽器
笛子
中国の横笛です。歴史ある竹製の笛で、民間でも親しまれているそう。鳥の鳴き声のような澄んだ音色で、非常に甲高い音が出ます。
ティンホイッスル
民族音楽の中でも人気の高い、ケルト系音楽などでも用いられるアイルランドの縦笛です。別名ペニーホイッスルは、ブリキなどで作られることから、恐らく「安い」「オモチャのような」という意味合いを込めているのだと思われます。オモチャとは侮れぬ美しい音色です。
打楽器・リズム楽器
トムトム
ドラムセットに組み込まれているお馴染みの打楽器です。今ではあらゆるジャンルの音楽でお目にかかれますが、起源はスリランカにあり、寺院で用いられていたとのこと。それがイギリスの入植者の手に渡り、ここまで波及したということらしいです。
フレームドラム
世界最古の片面の打楽器で、メソポタミア文明に起源を持つそうです。タンバリンなども含む、あらゆる片面打楽器の祖なんだそう。
太鼓
最早説明不要、我々にとっては恐らく最も馴染み深い打楽器でしょう! その歴史は古く、縄文時代には見られるそう。神代、『古事記』などでも描写があります。
ドゥンベク
エジプト起源の打楽器で、中東では広く愛されているそう。指を使って叩くので、超高速連打みたいな芸当も可能。
タングドラム
溝の入ったフライパンのような形状のドラムです。名前は直訳すると「舌のドラム」となりますが、これはスリットの入った形が舌に似ていることから来ているそうな。木製のものの起源は中米メキシコのアステカ文明に遡れるそうですが、鉄製のものが発明されたのはごく最近のことなんだそう。
ウォッシュボード
名前の通り、「洗濯板」です。小学校の総合の授業かなんかで使い方を教わる、あの洗濯板です。あのギザギザの部分を、服ではなく手芸で使うような指貫きで擦って音を出します。
起源は20世紀初頭、アメリカでジャズ音楽に組み込まれたことだそう。特に、ルイジアナなど旧仏領地域に多かったみたいですね。音や使用感はギロに近いです。
プイリ
ハワイなどで用いられる、竹製の棒状のものがプイリです。この二本を打ち合わせたり、身体に打ち付けたりして音を出します。超プリミティヴ。
グラスマリンバ
文字通り、音板がガラス製のマリンバです。ご想像の通り、透明感ある神秘的な音がします。ちなみに、マリンバ自体の起源はグアテマラなど中米マヤ文明にあるそう。
ガラスウェア
『ABZU』でも多用されており、実態が判然としない楽器の一つです。「ガラス製品」とのことなので、グラスハープやグラスハーモニカを指しているのだと思います。画像は後者です。
グラスハープは水を入れたグラスの縁を指でなぞって音を出すもので、グラスハーモニカはそれを機械化したものです。あのベンジャミン・フランクリンの発明なんだとか!
クリスタル・バシェ
この聞き慣れない楽器は20世紀になって発明された新しい楽器です。ガラスの棒を水で濡らし、擦って音を出します。その点、グラスハープに構造は近いですね。音域が広く、重低音も充実しています。グラスハープに近い音色から、DTM(デスクトップミュージック)で作った効果音のような機械的にも取れる不思議な音まで、表現の幅は広いです。
声楽
アラシュ
こちらは勿論、楽器ではありませんが……。いえ、人体も立派な楽器でありますから! アラシュは、ロシア連邦に属する一国、トゥヴァ共和国に伝わる喉を用いた特徴的な歌唱法を受け継ぐ合唱団です。この喉を用いた細かいヴィブラートの効いた歌唱は、スコア譜だとトリルで表されています。
最後に
通読お疲れ様でした! 5000字弱です。
『The Pathless』は、主人公の装束などから中央アジア付近が舞台なのかなと考えていたのですが、使用されている楽器だけを見ると、世界中に分布しており、地域の特定が不可能であることがわかります。
それにしても、ウィントリー先生の音楽はいつも通り素晴らしい。氏お決まりの複雑な三連符のリズムが、エスニックなリズム楽器によくマッチしています。同じ旋律でも、多様な弦楽器の組み合わせで音色の変化を楽しめるようになっているのも面白いです! OST、間違いなく買って損はありません。
それでは、満を持してわたくしも『The Pathless』、遊んでみたいと思います。また別記事でもお目に掛かれれば幸いです。ありがとうございました。