世界観警察

架空の世界を護るために

新国立劇場『シェイクスピア・ダブルビル』2023/5/2 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

もう4月も終わったって本当ですか? 嘘だ……時の流れが激流に……。

 

 先日は新国立劇場バレエシェイクスピア・ダブルビル』にお邪魔しました。新作『マクベス』と、古典『夏の夜の夢』の二本立てですね。5月2日ソワレの回で御座います。

↑ 家族連れでも来易い GW 商戦に、なかなか尖ったもの持ってくるな……と思いつつ。

 特に観る予定はなかったのですが、珍しく U25 でB席まで出ていたので、世界初演だし、一応行ってみるか……くらいの軽い気持ちで席を買いました。U25 が買えるうちに通っておかねばの精神。このブログも実は結構長いのでですね(2016~)、そろそろ怖いのですよ、はい。

 

 と言うわけで、今回はこちらの雑感を記して参ります。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

↑ 方向性が違いすぎる。シェイクスピア、多才なり。

 

 

キャスト

マクベス
マクベス:福岡雄大
マクベス夫人:米沢唯
ダンカン:趙戴範
マルコム:原健太
バンクォー:井澤駿
フリーアンス:小野寺雄

【夏の夜の夢】
ティターニア:柴山紗帆
オーベロン:渡邊峻郁
パック:山田悠貴
ボトム:木下嘉人
ヘレナ:寺田亜沙子
ディミトリアス:渡邊拓朗
ハーミア:渡辺与布
ライサンダー:中島駿野

指揮:マーティン・イェーツ
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:東京少年少女合唱隊

 

雑感

マクベス

 上演前にプレトークがありました。フォロワーさんに教えて貰わなかったら絶対気付かなかった……、ありがとうございます。

オペラの『ボリス・ゴドゥノフ』に続き、こういう試みが増えるのはよいですね(あちらはアフタートークでしたが……)

↑ まあ、その演出も個人的には……、というところでしたが。

今回は観客からの質問などは無し(まさかの採用されてしまった客の図)。

 大体はプログラムに書いてあることではありましたが、振付家の経歴などが話され、本人が語るだけあるなあと思いました。ハンドベル部で何があったし……。

 また、本日収録日だそうなので、プレトークも録ったのかもしれませんね。どこかで放映されるのかな。

 

 『マクベス』は、GP を観た知り合いの関係者によると、「原作の物語を忠実に再現することに躍起になりすぎている。マイムが多く、全然踊っていない。評価も賛否両論で、個人的には面白いとは思えなかった。」と伺っていたので、少し不安だったのですが、マイナス印象からスタートした方が、実際の印象はよいというもの。人間の心理の不思議ですね。

 確かにマイムは多いですが、思ったより(聞いていたより)踊っていたな、と思いました。

 マイムとダンスがシームレスで、「ここからがヴァリエーション!」というようなわかりやすい切れ目は無いので何とも言えませんが、普通にマクベス夫人は他の作品と比べても出番が多かったのではあるまいか。

 上演時間1時間、休憩無しなので、全体的にギュッと詰まっています。

 

 音楽はジェラルディン・ミュシャ氏(1917-2012)という方の組曲を編曲したもの。ミリしらで御座います……。

 プレトークにて、吉田さんが「難しい音楽」と仰っていたので、バチバチの現代モノかと身構えていたのですが、全然聴きやすかったですね。確かに、バレエ音楽とするには難解な方かもしれませんが、劇付随音楽、もっと言うと映画音楽らしい感じで、旋律も耳に馴染むものが結構ある印象。

 タケット氏が「スコットランド風の部分も多々」と仰っていましたが、確かに主要人物殆ど全員による群舞のところなどはそれらしかったですね。太鼓がよい。

ところで、メイキングで使われてた曲、カッコいいですよね。以前からホワイエでも流れていてオッと思っていたんですが。チェロのソロで、ちょっと北村友香サウンド感あります。

 

 セットは非常に簡素。ほぼコンテンポラリーやガラ・コンサート並ですね。しかし最後のオレンジ色のライトの場面はシンプルながら美しかった。

 ベッド・衝立・机・椅子くらいは登場しますが(あと小道具の旗や剣や槍など)、それ以外は完全に殺風景です。ライティングは巧み。ダンサーさんは陰まで美しいので映えますね。しっかし、やはりベッドの脇には衝立があるものなのだなあ……。

 緞帳は使わないスタイル。背景のみですが、三方向から幕が閉まるのが洒落ていました。ステパニュク演出の『スペードの女王』みたいだ……、あれ大好きなので嬉しかったですね。

 

 魔女のお衣装などのカラーリングが白で驚きました。もっとおどろおどろしい感じで来るかと思いきや。

この間観たばかりの『ローエングリン』の演出を引き摺っておりますね。赤がイメージカラーの夫婦は悪役と相場が決まっているらしい。

↑ レビュー記事。

 『ローエングリン』では、ローエングリン・エルザは白王・伝令は緑テルラムント伯・オルトルートは赤でしたが、こちらの『マクベス』では、マクベス夫妻が赤王・王子が紫バンクォー親子が灰マルコム一家が緑でした。王族が紫なの日本らしいですね(?)


 マクベス自身には踊りの見せ場が少なく、夫人の方がずっと多かったです。まあショスタコーヴィチとかも後者の方を主役に据えていますし……(『ムツェンスク郡』はカウントしてもよいものか?)。

夫人といる時は夫人の、バンクォーがいる時はバンクォーのサポート役に回ってしまいます。上着を脱いだ時の腕の筋肉すんごいな……とは思いましたが……。ひとり舞台になるのは終盤のみ。

ここから、「俺がタイトルロールなんだぞ!」というような、強烈な印象は受けなかったですね(タイトルロールの見せ場が少ないといえば、何かを想起しますが……)。

実際、マクベスって、行動的なようでいてかなり受動的という、結構不思議な役どころなんですよね。行動は起こすけれど、己の意志よりも人の意見や予言に忠実であるだけという。

   ところで、生首はキャスト共通でしょうか。ノイマイヤー版『椿姫』とか、キャスト毎に肖像画あるの結構好きなのですが、あんまり似てなかったので(キャストさんからしても気分のいいものじゃないでしょうし)、共通かなと……。Wキャスト双方行かれた方は是非とも教えて下さい(?)。


 振付に関しては、新作ながらにあまり新規性があるようには感じられませんでしたが、マクベス夫妻の難易度は高そうだなと感じました。『マノン』ばりにトウシューズで滑らせる場もあったり。しかし、同じベッドシーン(語弊有り)なのにこの違いである。

 

 マクベス夫人は常に赤のお衣装(たまに白いコート付き)で、上階席からでも目立ちます。

オペラグラスで覗いてみると、狂気を孕んだ意志の強い女性、というよりも、妖艶な印象が強い演技。確かに、言うなれば、魔性の女、彼女もファム・ファタールに分類できるでしょうか。

実力は折り紙付きですが、体型や可憐な雰囲気が妖精さんのようで、ティターニアでも良いな……とは感じました。パドヴレの滑らかさはピカイチ。難易度の高いリフトも軽々。妖精だ……。

 

 今回、原作を予習してから挑みましたが、原作だと夫人の死因って書かれてないですよね。

↑ 訳の問題なのか? それにしてもこの新潮のシリーズ、表紙がお洒落。

パンフレットの方にはガッツリ明記してあって、少し驚きました。

 結構死体と踊るシーンが長くて、振付と演者の妙ですね。コンヴィチュニー演出の『オネーギン』か? とか一瞬思いましたけれども(何につけてもこの作品を思い出すオタクの図)。相変わらずの死後硬直的爪先の伸びである。

 

 バンクォーまでプリンシパルで驚きました。結構途中退場する印象が強いのですが、夫妻の次の主要キャラって彼に当たるのかな。聞き慣れない名前ですが、原文だと Banquo 表記らしい。確かにそのままだ……。

 

 シェイクスピア悲劇って、取り敢えず主要登場人物全員殺しとけみたいなところがあるじゃないですか。何もかもが死で終わるので、ワンパターンだし、品がないし、個人的にはすきではないのですが……(『RJ』とかも、「いやパリスは死ぬ必要なくね?」とか思っちゃう派)

 今回は GP 評でも聞いたとおり、原作のストーリーをなぞっているので、ガンガン殺します。妻子も殺します。子どもに対する直接的な殺人の描写…… GW 上演……う~む……とか考えなくもないのですが(ディミトリー皇子といい以下略)

何と言うか、その辺りはそれこそ真の意味で「現代演出」にならないものか、とか思いますけれどもね。

 

 ラストバトルはまさかの 9vs1 !

流石に卑劣では、とか一瞬思いましたが、この人それ以前に何回も暗殺していましたわ……卑劣合戦ですわ……。

 

 こんなところでしょうか。決して悪くはないのですが、新作にして新規性を感じさせる側面は少なかったかと思います。確かに原作にはかなり忠実ですので、シェイクスピアファンにはお勧めできるかも。

民族調の音楽があったりするのは面白いですし、長机の場など非常に見応えありますし、1時間に収まるシェイクスピア悲劇のバレエ化ということで、今後の需要は見込めるのではないかと感じました。

 

『夏の夜の夢』

 後半戦です。1時間・休憩30分・1時間で丁度いいですね(1幕ごと約30分ずつで全3幕という素晴らしい演目もあるのですが、宜しくお願いします)。

 

 観劇前に、有識者の知り合いに「『夏の夜の夢』なんて、みんな見飽きてるでしょ。」と言われていたのですが、「(言えない……イギリス物に関心が無さすぎて(※フランス・ロシア地域専攻・趣味)実はちゃんと観たことがないなんて……!)」となり、実質的な初見でした、はい。

 

 音楽はメンデルスゾーン

前述のように、前回の観劇が『ローエングリン』だったので、まさかの結婚行進曲メドレーです。直前に気が付きました。

両方非常に有名ですが、皆様はどちらがよりお好きですか。

 

 何よりも、パックが絶好調でしたね。役柄・振付に負うところも勿論大きいとは思うのですが、一人頭抜けていた印象。美味しい役どころを、見事自分のものにしていました。跳躍が多く、いやこれえげつなく疲れるだろうな……と。出番も多いし、主役を食っていました。レポレッロポジション。

 

 一方のオーベロンは、少しバランスに難アリか。もう少し安定感が欲しかったですね。しっかし、お衣装が緑、背景も青緑では、割と溶けそうな感じが……雰囲気はありますけれども。取り替え子も然りですが。

 それにしても、オーベロンもマクベスも王なのにこの差ですよ。中近世スコットランドもこれくらいのおおらかさがあればいいんですけれどもね。ダンカンの方は掘り下げ薄いのでよくわからないですが(ちなみに、シェイクスピア劇では史実とは功績やキャラ付けが全然違うらしい)。

 

 お衣装といえば、人間組が近代英国風で衝撃的でした。あれ、『夏の夜の夢』って古代ギリシャの話じゃなかったですっけ……?

いやまあ確かに、コスプレ感の出てしまう古代ギリシャ風よりも、妖精達の世界とは明確に違う、人間界の住人なんだということを表すには良いのかも知れませんが。あのセットだと、異世界に迷い込んできた感が強いですものね。

 

 ティターニアは、妖精というよりも女王という設定を押し出した演技なのかな、と感じました。ふんわりした感じはあまりない。寧ろ、人間の方がお似合いになるのでは……という感じの。これ『ジゼル』のミルタの時も書いたような気がしますが……。

実際、妖精(或いは亡霊)と女王というのは、言語を伴わない演技で共存させながら表現するのは難しそうだなと思いますよね。相反するとは言わないまでも、あまり相容れない感じがします。

 それにしても、王と女王が結婚している、というの、なかなか違和感ありますよね。『夏の夜の夢』の妖精界では、男性妖精と女性妖精(?)の生活が割と分かれているような感じもするので、性別毎の統治なんでしょうか。

まあ尤も、英語というのは場合によって語の含みが多く結構大雑把なところがあるので、王妃の場合も Queen とか言ったりしますけれども。どう解釈するのが正解なんでしょうか。

 

 今回の上演では、特に前半は初演だからなのか、単に客入りが少なかったのかなんなのか、主役の入りの時の拍手がありませんでした。

個人的には音楽が鳴っている最中に拍手をする文化が嫌いなので嬉しいのですが、それはそれとして、「今日は皆様どうしたのだろう」とか、「そのことによって演者さんがショックを受けていないと良いな」とは感じたりしまして。理由は謎。

 

 パンフレット(リーフレット)に関して。バレエの方は有料パンフレットを購入しなくても、あらすじや解説の載ったリーフレットを配布してくださるのが新国バレエの素晴らしいところ。

……なのですが、一点、指揮者やオケの情報をもっとわかりやすい位置に書いて欲しいな……と思います。

バレエは音楽を蔑ろにしがち、とはよく言われますが、そのままではいけないと思っている派閥ですので……。まずはそのような劇場側からの歩み寄りなどがあってもよいのでは。

 

 今回はダブルビル、しかも古典と新作ということで、後に新作を持ってくるのかと思いきや、まさかの前半戦でした。

最初はその配置に違和感がありましたが、観て思いました。なるほどこれでよいと。

と申しますのも、『マクベス』は血なまぐさい悲劇、『夏の夜の夢』はドタバタ喜劇。圧倒的に後半に喜劇をやった方が後味が良いと。

『ボリス』ほどではありませんが血祭りを観たにも関わらず、お口直しというと失礼かもしれませんが、幸福な気持ちで劇場を後にすることができてよかったです。

 

最後に

 通読ありがとうございました。新作ということもあって6000字程。

 

 GW も中頃で御座いますが、皆様今年は如何お過ごしでしょうか。わたくしは、大好きなラ・フォル・ジュルネに少しだけお邪魔する予定です!

ベートーヴェン縛りということで、仏露を範囲とするわたくしには正直なところあまり心惹かれるプログラムはなかったのですが、この祭典が大好きなので、取り敢えず1公演は赴き、祭りに参加せねばならぬと。ワッショイ!!(?)

楽しんで参りたいと思います!

 

 次の新国は、オペラの方で、『サロメ』の席を取っております。『リゴレット』は名作なのは間違いないのですが、ストーリーが苦手で……あんまり観ないんですよね……。こう、「期待したのに裏切られる!」という展開が嫌いで……。

「愛娘を守るためにクソ男を殺したやったー!」と思ったら死んでたのは愛娘の方だったの、ちょっと糠喜びシステムが過ぎませんかね。血なまぐさいだけなら、「まあオペラってそういうもんだしな(?)」とか思いますけれど、こういうのは変に感情移入してダメなんですよねえ……。

皆様も「これだけはダメ!」という描写はありますでしょうか。是非ともお聞かせ下さい。

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです。