世界観警察

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モンテカルロ・バレエ『じゃじゃ馬馴らし』 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

先週というべきか今週というべきか、軽井沢に旅に出ておりました。冬の軽井沢、めちゃくちゃ寒かったです。既にスキー場は開いておりました。しかし紅葉が美しく、趣味の一つであるトレッキングを敢行し、楽しい日々を過ごすことができました。

旅日記も書けたら良いなと思います。

 

 土曜日の昼に新幹線で上野まで戻り、その足で向かいましたのはモンテカルロ・バレエじゃじゃ馬馴らし』。振付のジャン=クリストフ・マイヨー氏がプレトークを行うということもあり、11月12日ソワレの回です。

好きな演目の一つですので、楽しみにしておりました。生で観ることができて大変良かったです。

今回は、こちらの感想を簡単に記して参りたいと思います。

 

 それでは、お付き合いの程よろしくお願い致します。

 

 

キャスト

カタリーナ:エカテリーナ・ペティナ

ペトルーキオ:マテイユ・ウルバン

ビアンカ:ルー・ベイン

ルーセンシオ:レナート・ラドケ

女中:小池ミモザ

グレーミオ:ダニエレ・デルヴェッキオ

未亡人:アナ・ブラックウェル

ホーテンシオ:シモーネ・トリブナ

バプティスタ:クリスティアン・ツヴォルジヤンスキ

グルーミオ:アダム・リースト

 

雑感 - プレトーク

 さてプレトークです。開始時間が少し早いこともあってか、客席はまばら。

案の定フランス語(通訳付き)でしたので、リスニングテストの開始です(※筆者は一応フランス語専攻)

 

 わたくしは特に贔屓のバレエ団があるわけではないのですけれども、一番観る機会が多かったのが、セルゲイ・フィーリン芸監時代のボリショイ劇場。従って、『じゃじゃ馬』は初演の頃から情報を追っていました。

そこまで経緯に詳しいわけではないのですが、コロナ禍でモンテカルロに輸入したのですね。ウクライナ侵攻の関係で、ボリショイからは上演権を剥奪したはずなので、今や実質的にモンテカルロの看板作品の一つとなるのでしょうか。

 

 『じゃじゃ馬』の初演キャストは、ボリショイ初演の『オネーギン』ファーストキャストと殆ど同じペトルーキオ=オネーギン、ビアンカ=タチヤーナ、ルーセンシオ=レンスキー、女中=オリガ。カタリーナのクリサノワ氏も、タチヤーナはレパートリー)。そういったメタな理由から追っていたのでした。ボリショイのファーストキャストが今でも一番好きだ。頭一つ抜けていると信じて疑っていません。

このような次第ですから、マイヨー氏の口からボリショイのキャストを褒めて頂けると、『オネーギン』オタクとしても喜ばしいのです。

 

 一点気になったのが、音楽に関して。対談者の方が、「全て映画音楽から構成されている」と仰っておりましたけれど、使用されているのは映画音楽だけではありません。

過去に解説を書いておりますので、こちらからどうぞ。

↑ ロシア語が全く読めない時代に泣きながら書いた記事。参考になれば幸いです。

 

雑感 - 本公演

 さて、公演に関してなのですが……、一言で言うと、迫力不足だなと感じてしまいました。

『じゃじゃ馬』は、凄く良い作品だと思うのですが、あれはモスクワ流派とエネルギッシュなダンサーの力で成り立っていたのだなあと改めて思いました。

ボリショイのものを見慣れていると、どうしても物足りなさを覚えます。

↑ これですよ、これ。初演組、特にカタリーナのクリサノワ氏が嵌まり役すぎる。

この切れ味の良さ、容赦のなさ、凶暴さ、バイオレンスさがよいのですよ。直撃したら顎の骨が砕け散りそうなバットマンキック(?)、音速越えそうなシェネの速さ、遠慮の欠片も無い押し倒しに嘲笑がよいわけです。

ここに、少しでも優しさや丁寧さが垣間見えると、興醒めなわけです。ほんとうにカタリーナは「じゃじゃ馬」なの? 皆はほんとうに彼女が怖いの? ペトルーキオは彼女に何をしたの?……となってしまいます。

 この意味で、モンテカルロ・バレエは、まだまだ成長の余地があるな、と感じました。

 

 一方のビアンカ・ルーセンシオペアは、主役二人とは対になる正統派で、美しくゴージャスな踊りを魅せてくれたので、やはり本来はこういったクラシカルな作品を得意としているのだろうな、と感じました。

わたくしは同バレエ団を拝見するのは初めてですし、今回は『じゃじゃ馬』しか持ってきてくれていないので、何ともわかりませんが……。

 

 改めて、お衣装が素敵でしたね。テーマカラーでカップリングがわかるのもお洒落。

カタリーナの殆ど練習用レオタードのようなものも、彼女の足の美しさを際立たせていて素敵ですし、ビアンカの必要最低限なシンプルさながらも、モダンで腕の長さが際立つお衣装も綺麗です。

ただ、特に群舞は、背景が暗めでシンプルなので、たまに溶け込んで見辛くなることもあるな、と感じたり。

 

 ライブビューイングでは見えなかった部分が見えたのがまた良くて、群舞が黒子のようにセットを動かしているのがよく見えて良かったです。

グルーミオ(ペトルーキオの侍従)の動きが完璧すぎる。ある意味今回の MVP 。それにしても、グレミオとグルーミオ、名前が紛らわしすぎる。いつも間違えます。

 

 ボリショイの方では、最初に女中がトウシューズを履くところから始まりましたが、今回はキャビン・アテンダントさながらに、アナウンスに合わせて身振り手振りを。愛らしい。

照明が落ちる前から登場したので、驚きました。

 

 音楽は録音のもの。ショスタコーヴィチですし、当然生音がよいのですが、この間は酷いものを聞かされたので、この際なんでもいいや、と……。

↑ こちら参照。

 しかし、『ソフィア・ペロフスカヤ』のワルツや、『呼応計画』の合唱曲を、生音で聴きたいものです。聴く機会ないですからね!!

 

 『じゃじゃ馬』は、特に現代では議論の余地のある点を多分に含む、シェイクスピアの古典であるわけですが、こちらを見事に翻案した、一度は観て頂きたい現代の名作です。

しかし、ダンサーの技量や演技力に大きく依存する演目でもあると改めて感じました。

 わたくしは殆ど理想的とさえ言って良いような、ボリショイ初演版を観ているので、ついつい比較してしまってこのような感想になってしまうのかもしれません。初見の方の感想も伺いたい次第です。

 

最後に

 通読ありがとうございました。3000字ほど。

 

 少し辛めに雑感を書いてしまいましたが、『じゃじゃ馬』は好きな作品なので、生で観る機会に恵まれて大変嬉しく思っています。また別のキャストでも観てみたいですね。プレトークも有り難う御座いました。

 

 オマケに、普段からわたくしのブログを追って下さっている方に豆知識。

 第一幕で、カタリーナが「じゃじゃ馬」っぷりを披露する時の楽曲は、『ピロゴフ』という映画の曲ですが、こちらはニコライ・ピロゴフという帝政ロシアの外科医の伝記映画です。

ピロゴフは、骨折時のギプスなどを一般化したことなどで有名ですが、なんと「我らが殿下」の治療にもあたった医師でもあります。同時代人。

↑ 末期の殿下に、ピロゴフが粉薬を処方するも、身体が受け付けずに単に苦しむだけとなってしまった話などが載っています。

 また、ペトルーキオ以外の主要キャストが勢揃いするワルツは、映画『ソフィア・ペロフスカヤ』から。こちらは、「我らが殿下」の父、アレクサンドル2世を暗殺した革命組織のリーダーの女性の伝記映画だったりします。こちらも同時代人。ちなみに殿下の10歳年下。つまり妹のマリヤと同い年ですね。

↑ 「我らが殿下」関連記事です。19世紀ロシアの政治や上流社会にご関心があればどうぞ。

 伝記映画の題材が、もう、「ソ連!!」って感じですよね。帝政時代がよき時代であった、とは申しませんけれども、それにしても憎まれすぎているな……。

 

 余談もしてしまいましたし、今回はここでお開きと致します。また別の記事でお目に掛かれれば幸いです。