世界観警察

架空の世界を護るために

園芸超初心者がオレンジの花を育ててみた話

 こんばんは、茅野です。

今日寒すぎませんか? 暖房が要るレベル。異常気象が過ぎる……。

 

 本日4月24日は、我らが殿下ことロシア帝国皇太子ニコライ・アレクサンドロヴィチ殿下命日です。

↑ 「人間が持ち得る美徳の全てを集約した」と称される非凡さの塊、我らが殿下の簡単な紹介記事。

 というわけで、一本企画記事を。

 

 今回はブログらしく、日記的なものの総集編です。しかも、まさかの園芸日記

植物を育てるのは小学生の頃の朝顔以来、しかもそれも巨大な芋虫に蹂躙されて、提出義務のあった観察日記が実質的に芋虫の絵日記となり果てたという、悲惨すぎる過去を持つわたくし。

以来、「わたしに動植物を育成するのは無理だ。わたしの所で育たんとする生命も哀れだ。」と潔く諦め、ガーデニングの類いにも一切の関心を抱かずに生きて参りました。

 

 ところが、オタクを拗らせたことを切っ掛けに唐突に「そうだ、オレンジの花を育ててみよう」と思い立ち、「思い立ったら即行動」をモットーに脳筋派として生きるわたくしは、いきなり入門の扉を叩いたのであった……。

 

 というわけで今回は、前半部に園芸超初心者によるオレンジ栽培記録を、後半部に、殿下の死と絡めた解説を書きます。

 

 それでは、お付き合いの程、宜しくお願い致します!

 

 

園芸日記

2022年10月12日

 突然、「そうだ、オレンジの花、育てよう。」と思い立ち、事前にリサーチもせず、夕方いきなりホームセンターへ赴く。

清見オレンジの苗木があったのでそちらと、鉢、鉢皿、土、肥料、鉢底石、防虫剤、如雨露など、必要なものを一通り買い占める。入門キットを一式揃えたこともあり、想像以上に値が張って驚く(1万円弱くらい)。

 

    園芸についての知識が微塵も無く、その道の方々に怒られるんじゃないかと怯え、わたしの元に来た以上は育たないのではと訝しがりつつ、Google で適当に調べた情報を元に、恐ろしく不器用に鉢植えをする。

 

 天気などにも左右されつつ、毎日~3日おき程の頻度で水をやり、たまに防虫剤をスプレーするくらいで、特別なことは何もせず。

常緑樹ゆえ、買ったときから青々と葉が茂っていた。冬になると下の方に生えていた葉は落ちてしまったものの、数ヶ月間はあまり代わり映え無し。

 

 余りに代わり映えがないので不安に思っていた頃、桜が咲き始める。オレンジは開花時期が4月末であることはわかっていたので、焦る必要はないと思いつつも、何となくそわそわし始める。

 そんな折―――。

 

2023年3月30日

 三月末、蕾の原型が現れ始める。

 これはもしや……? と、流石に期待せざるを得ない。

 

4月13日

 約二週間後、蕾が大きく膨らみ始め、色が白くなる。成長が早いものは、黄色い柱頭が顔を覗かせ始める。

 蕾は、触れてみると硬い。

 

4月19日

 更に一週間後、遂に花開き始める!

 ご覧の通り、柱頭が随分曲がりくねっている子が多いんですが、何か対策できるんでしょうかこれ。育て親に似て捻くれてしまったのか。

 

4月22日

 数日後。満開、と言っても過言ではないかと。

 小振りの白い花が咲き乱れている。鉢で育てているにも関わらず、70近くの花が確認できる。凄まじい生命力。

 

 花は指の第一関節くらいのサイズしかない。大きな実を付ける品種であれば、もっと大きいはず。

 

 顔を近づけてみると、花の香りがする。匂いはそんなに強くないが、風が吹くと隣家の方まで良い芳香が漂う。

「オレンジの香り!」というわけでもなく、結構形容し難い香り。フローラル系なのは間違いないが……、生花ゆえか、結構グリーン感強め。

 

4月24日

 そして本日の姿がこちら。

 遅咲きの子たちは今綺麗に咲いているが、早咲きの子たちは早くも茶色に変色しかけている。

風で花弁が散り、床が白くなってきた。命短し、咲けよオレンジ。

 

 ……と、極簡単な観察日記はこのようなところでしょうか!

まさか自分に花が育てられるとは思わず、感動しております。今後も、継続して育てつつ(という程のことはしていないのですが)、観察を続けていこうと思います。夏はどのような姿を見せてくれるのか、楽しみですね。

 

 オレンジの花は愛らしいですし、良い香りがするので、育てるのお勧めです。わたしのような壊滅的に園芸センスが無い人間でも、なんとか花開きましたので、初心者でも育てられるということを身を以て証明しました。

 皆様のガーデニング話も是非ともお聞かせ下さい。

 

 さて、それでは後半戦に移って参ります。

 

ベルモン荘の庭園

 丁度一年前辺りに、オレンジに纏わる記事を一本書いていました。

↑ 興味関心に大分偏りのあるわたくしが編纂した()、世界のオレンジ文化史。

 オレンジの花は色々なもののモティーフになっています。基本的には、生命、豊穣、純潔など、プラスのイメージが強い花です。一方で、それが反転して死のイメージに結びつく場面もあり……というような、この花を巡るイメージについて書きました。

 

 以降、「実際にオレンジの花をお目に掛かりたい!」と思っていたのですが、余りに開花時期が短いなどの事情から、お花屋さんでは基本的にはお取り扱いがなく……。

こういう時はどうすればよいのか? 「じゃあ、まあ、自分で育ててしまうか……」という、いつもの脳筋振りを発揮しました。やって良かったです。

 

 「何故オレンジか?」といって、それは、上記の記事にも書いていますが、我らが殿下の枕花がオレンジの花であったからです。

眠っているようにしか見えませんが、一応死体の写真が出るので注意喚起。

 

↑ 白黒写真で見づらいですが、要はこれがオレンジの花。

 殿下はお花が好きという愛らしい一面も持っているので、園芸は入門してみたいとかねてより思っていたのですが、取り敢えずは、印象深い(?)オレンジから始めようかと思いまして。

オタクには、己の推しに恥じぬよう研鑽する義務がありますので……。殿下を追いかけ回して以降、できるようになったことがかなり多いのですが……(ロシア語翻訳連載、採譜、デンマーク語初歩、近代レシピ考証、園芸←New!)。流石、人を成長させることにも長けていらっしゃる……わたしのやる気スイッチを完全に掌握している……。

 

 では、何故プラスのイメージの強いオレンジが枕花に選ばれたのか、ということに関しては、幾つかニースのベルモン荘に纏わる史料を読み合わせるとわかります。

 レオン・サルティというニースの同時代人の回想録『在りし日のニース』の一節には、以下のようにあります。

 Lorsque l’infortuné tsarévitch Nicolas vint habiter une des cinq villas que renfermait ladite propriété, il y avait des cascades, des fontaines, des volières d’oiseaux du pays, des serres immenses, des champs de violettes de Parme, des collines d’oliviers et une pépinière de 250.000 orangers comme on n’en voit plus. Quelques-uns ont produit jusqu’à 30.000 fruits.
  Les ombrages étaient splendides et l’air embaumé d’une pureté incomparable.
C’est pourquoi la Faculté de médecine y avait envoyé le grand-duc Nicolas, héritier de la couronne de Russie, afin de raffermir sa santé chancelante.
 On voyait ce pâle et beau jeune homme se promener mélancoliquement au milieu de cette verdure, de ces fleurs et de ces fruits.

 哀れな王子ニコラがこの地にある五つの大別荘の一つに住まった時、今では見る影もないが、そこには滝や噴水、地元の鳥を集めた鳥小屋、巨大な温室、パルマスミレ畑、オリーヴの生い茂る丘、そして25万本ものオレンジの園があった。このオレンジ園では、3万個もの実を付けることもあった。

 木陰は見事で、空気は澄み切り、比類のなく純粋な芳香を漂わせていた。

このことから医師団は、ロシアの帝位継承者であるニコラ大公の不安定な体調を安定させる為に、この地に彼を送った。

この白皙の美しい若者が、緑や花畑や果樹園の間を物憂げに歩くのが見えた。

 この史料、実は結構最近発掘したんですけど、そこそこ短いのと、相変わらず殿下のことはベタ褒めで面白かったので、今度単発で該当部分を訳出したいな、と思っています。

というか、一般モブ(?)として殿下のことを観測できるの、余りにも良い……羨ましい……。

 

 それにしても、ベルモン荘はやはりとんでもない豪邸であった……。25万本って……。

↑ ベルモン荘。

 殿下の借りていたお屋敷ベルモン荘には、大量のオレンジの木が植わっていたことがわかります。

 

 ここから、だから枕花にはそのオレンジの花が使われたのだろう、ということは予測できますが、そのことをもっと殿下に近い人物が証言しています。

彼の秘書官、フョードル・アドルフォヴィチ・オームによると、以下のようにあります。

 Государю угодно было, чтобы тело Цесаревича было положено в гроб его свитою.
Оно было покрыто грудою цветов и почти исключительно белых. Между нами было очень много померанцоваго цвету, который, осыпаясь, образовал сплошную массу, проникшую даже под тело.
Мне пришлось стоять между изголовьем и ногами, а потому поднять тело снизу. Только я успел просунуть обе руки, как почувствовал сильнейший жарь.
Прикосновение растительных веществ к органическому телу вызвало брожение, которое могло бы иметь разрушительное влияние и дойти даже до горения.
Вот почему в гроб уже цветов не клали, а были положены сухия пальмовыя ветви, которыя были принесены Цесаревичу в Вербную Субботу вместо вербы.
Одна ветвь долгое время лежала на могиле его в Петропавловском соборе. Теперь ея уже нет.

 皇帝は、皇太子の側近たちに彼の遺体を棺を納めて欲しいと望まれた。

彼は大量の花に覆われていて、殆ど真っ白だった。私達の元には大量のオレンジの花があり、それを一面に撒き散らしたので、花の塊は山となって、遺体の下にまで入り込んでいた。

私は枕元と足元の中間に立ち、身体を下から持ち上げることになった。私が両腕を差し込むや否や、強烈な熱を感じた。

有機体である遺体に植物が触れると、発酵が起こり、壊滅的な状態になったり、酷い場合は発火することもある。

その為、もう棺には花は入れず、皇太子が聖枝祭で柳の代わりに用いた棕櫚の乾燥した枝を入れた。

この枝は、長い間ペトロパヴロフスクの彼の墓の上に置かれていた。今はもう無い。

 殿下の遺体を危うく燃やしかけてて全然笑えないんですが……。自動的火葬。

というか、遺体が発熱って普通にホラーだと思うんですが、どうしてこの人は死んだ後まで興味深いエピソードに事欠かないんでしょうか。これだから以下略。

 科学は不得手なので、正直メカニズムがよくわかっていないのですが、生き物の死骸と植物って一緒に置いておくと腐敗進むんですかね。この辺りも詳しく知りたいんですが、情報をお持ちでしたら是非とも教えて下さい。ブルーバックスとかでなんか出ていて欲しい(希望)。

 

 ちなみに、ニースでは危うく燃やしかけていますが、殿下の身体に対する防腐処理は完璧に近く、不朽体か? というくらい保存状態がよかったことがわかっています。一ヶ月後にも全く臭いがないレベルって、現代で考えても相当凄い。

 殿下のエピソードを追いながら、レーニン廟なんかを見ると、このような遺体に対するロシア人の向き合い方的なものは、帝政時代から既に形成されつつあったのだろうか……、などと考えてしまいますね。

 

 この記録を残している秘書官オームの記事も書きたいなあと思いつつ……。

彼の『回想録』は139ページあるのですが、常に皇太子に同行した秘書官というだけあって、その殆ど(冗談抜きに8割くらい)が殿下の話なので、とにかく長いんですよ。

ただ、魅力的な殿下のエピソードが色々載っていますし、最も近い位置で殿下に接していた人物の一人の記録なので、非常に興味深いです。そのうちやります。

 

 これらの記録などから、ベルモン荘の庭園には恐ろしい量のオレンジが植えられていたこと、生前殿下はよくそこを散策していたこと、亡くなった時に丁度花開いていたこと、そうして枕花に選ばれたこと、(それが原因で遺体が燃えかけたこと)、などがわかります。

 

 花屋で取り扱わないくらい開花時期の短いオレンジ。そのオレンジが、彼が丁度亡くなったときに咲いていた、というのは、花が好きな殿下を彩るエピソードとして、切なくも美しいと思います。

近代のニースと、異常気象を疑う程の寒暖差が激しい今年の東京では、条件にかなり差があるかもしれませんが、「オレンジの花は4月24日に咲くものなのか」という疑問を、実際に自分の手で、目で、確認することができて良かったです。

4月24日、オレンジは咲いています

 

最後に

 通読ありがとうございました! 7000字程。

 

 本日は殿下の158回忌ですが、今年は彼の生誕180周年でもあります。生年から没年までの期間が短すぎる? それは……だって……今更じゃないですか……。

お誕生日は9月ですので、そちらもどうぞお忘れなく!(?)。

 

 今年は、ロシアが誇るあの偉大な作曲家セルゲイ・ラフマニノフの生誕150周年でもあります。そのこともあって、各オーケストラは様々なラフマニノフ・プログラムを組んでおり、帝政ロシアオタクとしては、今年はコンサート通いが特に楽しい一年でもあります。

↑ 次回は東フィル様など。伺う予定です。

 それにしても、殿下とラフマニノフって、30歳も年離れているんですねえ……。生没年から明らかなように、当然面識はありません。

「同じ帝政ロシア人」と思っていると、結構な幅があって驚いたりします。プーシキンと殿下も時代被ってないですし……。……、帝政ロシア人が早逝すぎるだけ説。大いにありますね。それだ。

 

 オレンジの花を精油にしたものは「ネロリ」といい、古来より人気の高い代物です。香水などにもよく使われていますね。

以前、生活の木様に寄ったときに、ついついこのようなものを購入してしまったり……。

↑ かなりグリーン系の臭いが強いので、意外と好き嫌いが分かれるかも? 美容もそんなに詳しくないので、効果の程はよくわかりませんが……。

色々な形でオレンジの花と向き合えて、とても楽しいです。

皆様お勧めのオレンジの花関連の製品等があれば、是非とも教えて下さいませ。

 

 さて、次回の殿下関連では、連載に戻る予定です。

↑ 現在連載中のシリーズ。こちらも宜しくお願いします。

 連載の方では、今回と打って変わって、甘甘な内容ですのでご安心を(まあ……それも前半だけの話なのですが……!)

そろそろハッピーエンドで追われる連載があっても良いと思いません? なんとかならないんですかね。闇のオタクの皆様、弊ブログに集合!

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。また次の記事でお会いしましょう!