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架空の世界を護るために

藤原歌劇団『二人のフォスカリ』 - レビュー

 こんにちは、茅野です。

連日オペラで御座います。尻との戦いです。東劇や新国の椅子ならば戦えそうです。よかった。

 

 先日は藤原歌劇団のオペラ『二人のフォスカリ』にお邪魔しました。9月9日、プレミエ回です。

 Twitter で「ふたりはフォスカリ」というプリキ○アに引っ掛けたミームを見て大笑いして以降、毎回助詞は「は」なのか「の」なのか一瞬悩むようになってしまった……。

 

 イタリアの歌劇王ヴェルディの作品にして、上演機会の少ない今作。ヴェルディは作品数多いですからね。歌手に対する負担も大きいようです。

『椿姫』ばっかりやられても困りますからね、上演機会が少ない作品こそどんどん取り上げられていって欲しいですね。

 

 今回は備忘として、こちらの雑感を残しておきます。

それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

↑ 作品の結末に反し、明るく清潔感ある美しいポスター。公演ポスターって、綺麗なものとダサいものの差めちゃくちゃ激しいですよね。今回はわたしは好き。

 

 

キャスト

フランチェスコ・フォスカリ:上江隼人
ヤコポ・フォスカリ:藤田卓也
ルクレツィア・コンタリーニ:佐藤亜希子
ヤコポ・ロレダーノ:田中大揮
バルバリーゴ:及川尚志
ピザーナ:中桐かなえ
ファンテ:井出司
指揮:田中祐子
合唱:藤原歌劇団合唱部・新国立劇場合唱団・二期会合唱団
管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団
演出:伊香修吾

 

雑感

 今回はヤング・フレッシュマンチケットで4階席。平成〜令和人なので、初めて電話で席取りしました。現代人の例に漏れず、わたくしも電話苦手人間なので、ちょっと緊張しつつ……。

 

 久々にやらかしましてね、オペラグラスを忘れました! 4階席なのに! とはいえ、1列目だったので、滅茶苦茶観やすくはあったのですが。これが天井桟敷の人々ってやつですか?(?)。

 

 更に、解説をやっていたことを知らず、聞き損ねました! お終いです!

尚、わたしと違って、しっかりと情報を得て解説を聞いた優秀なフォロワーさん曰く、「歌手に求めるハードルが高くてとにかく上演回数に恵まれないけど、後のヴェルディ作品の父親描写に通じる性質も備えた無視できない一作!」というお話だったそうです。情報提供ありがとうございます。

 

 今回は妙に Bravi おじさまが大発生。普段の新国よりも多かったと思います。藤原ファンなのだろうか。熱烈なファンが多い。

一方、上演機会が少ない演目あるあるですが、客が拍手や声援のタイミングを迷っていた印象です。「ここは普通するだろ~!」ってタイミングでなかったり、逆だったり。

別に予習は必須ではありませんけど、多少寂しくは思いますね。

 

 また、フラワースタンドも多かったですね。某夫人とかも出していて驚きました。オペラを観る前に横領事件と性加害擁護発言に対する説明をされては?

更に、翌日の方は某大臣も来ていたそうな。変なカード作ってないで、その資金で芸術を支援して貰えませんかね?

なんだか複雑な気分になってしまった……。

 

 舞台セットは簡素で、小劇場風です。新国小劇場で以前上演した、研修所の『イオランタ』を思い出しました。

左右に大幅に余白があり、持て余し気味。日生とかでも使い回せたりするんですかね。

但し奥行きは物凄くあって、新国大劇場の舞台ってやはり結構広いんだな、と再確認。

石畳を敷いているのですが、大分傾斜を付けていて、手前から順に、1、2、4、5段の階段がありました。

 また、中幕を仕切りとして使っており、何度も開け閉めがあります。降下する中幕付近に、結構ギリギリまで人がいることがあり、事故が怖いです。観ていてヒヤヒヤしました。再演するなら、その辺りもっとしっかり考えた方がいい。

ボリショイでも『サトコ』で痛ましい事故があったばかりですし……。

↑ 我らがロシアオペラの上演中であったこともあって、殊更身近に感じてしまって怖いです。ご冥福をお祈りします。

予算が限られる中で、できるだけ洒落た形に纏めようという意図は感じられました。

 

 『フォスカリ』といえば、毎回出て来るのがあの羽根の生えたライオン像。今回もポスターに使われていました。

↑ こちらだと舞台上にも登場。アンナ・ピロッツィさんてぜっったいターニャ似合うと思うのわたしだけですかね。

どういう関係が? と思ったら、ライオン像の左のおじさまが父フォスカリさん本人なのですね。

十人委員会が持っていた本の表紙も、獅子像が持っている本にある « PAX VAN TIBI GELI MAR STA CE E MEVS » だったのだろうか。そこまでは見えませんでしたが……。十人委員会改め、二十八人委員会

 

 序曲は少しテンポが遅めで、リズムが崩れないのが印象的でした。

合唱は終始オケとズレ気味(合唱の出が遅れる)で、気になりましたね。翌日には改善されたりしたのだろうか。

 

 最も安定感があったのが父フォスカリで、とても安心して聴いていられるバリトンでした。セーブもなく、エネルギー切れもなく、一貫して良質な歌を届けてくれました。

低音・老年キャラが安定しているのは良いですよね。ヴェルディ作品の老王パパの原型のひとつ。尤も、『フォスカリ』の場合、クレジットの最初に名前が載るのは彼なのですが……。

 しっかし、お衣装が、弁明不可能な程に完全にサンタクロース

 

 冒頭から良いアリアを貰っている息子君。序盤はセーブしているというより、喉の方で少しノイズが乗るのが気にならなくはなかったですが、終盤に向けて段々よくなる上がり調子タイプ。第3幕では正に絶好調。

とはいえ、息子君の見せ場が多いのって前半なので、そのままもう一周1・2幕のアリア歌ってくれないかな~とは思ってしまいましたが。

バレッタ « Odio solo, ed odio atroce » の二回目の da costoro si farà のところで音上げてましたね。

 中幕の奥で拷問されているのが、ちょっと『トスカ』風。その後地下牢入りますし、大体一緒。しっかり見えない方が怖いんですよねあれ。

 

 ルクレツィアは典型的な、高音は大変綺麗に響くものの、低音が弱いタイプ。

『フォスカリ』はまだベル・カントっぽさが強い作品なので、高音で転がせるのは強く、音域が高音に集中しているアリアは綺麗なのですが、低音が増える中~終盤のシェーナや二重唱などでは迷子になりがち。

響くときの声自体は強くて、4階席でもよく聞こえました。

 今回は「小劇場風」な演出なので、お衣装は黒で統一。地味です! ヒロインっぽくはない。

合唱隊含め、皆お衣装というより私物(私服)なのかな……? と思いました。コンサートの時の方がもっと豪華なお衣装纏ってらっしゃいますよね。

 

 『フォスカリ』は、クラリネットヴィオラ、チェロがソロ(或いはデュオ)を担当するという、簡素ながら渋めのオーケストレーション

カーテンコールでは、クラリネットが立たされる場面も。オケピでは割と珍しいですよね。

地味にバルカローレの弦の内声部が好きなんですけど、共感が欲しいです。バルカローレの櫂を返す動きを表すような音型が大好きだ。

 しかし、何故演出はパリピの写真撮影にしちゃったのか。パンフレットを読むまで、読み替え演出だと気付きませんでした。

まあ、民衆が政治に関心を持たず~というような、やりたいことはわからなくもないですけど、あんまり趣味がよくは思われなかったかな……。

 

 終幕は、『リゴレット』や『イル・トロヴァトーレ』でお馴染み、ヴェルディお得意の「ぬか喜びシステム」です。しかし、上げて→下げてのペースが速い! もう一曲くらい挟んでもいいと思う。『フォスカリ』は簡潔に纏まっているのも魅力の一つですが。

 

 それにしても、オペラに出て来る黙役のちびっ子ちゃんって、大体「息子2人」なのはなんなんでしょうね。『メデア』もそうだし、『ノルマ』もそうだし……。

結末はどうあれ(?)、子どもがしっかり愛されている描写があることだけは救いでしょうか。いずれにせよ親は死んじゃいますし、そんなに救われないか。

 

 イタリア中世史はまっったくの門外漢なので、あまり背景を理解できていなかったのですが、パンフレットに助けられました。パンフレットの出来がいいですね。変なインタビューとかで字数稼ぎしたりしないで、音楽的な話と、背景の話がしっかり載っていて。

但し、誤植が多いです。パッと目に付いただけでも 2, 3 箇所あったので、多分もっとある。校正頑張って。

 

 ポーランドといい、やはり選挙王制は悪だなー(※王政ではない)、という思いを強めたり。いや別に、世襲の独裁が良いっていう話でもないんですけれども。

現代では「2世・3世政治家」は嫌われる傾向にあり、実績ではなく血縁のみで権力を握ることを退けることは正しいと思いますし、共感します。一方で、政治史を学ぶ中で、時代や地域が違えば、世襲の方が良しとされる事象や理由も存在することを学び、やはり政治って面白いけど難しいなー、と考えたりします。

 どうでもいいですが、我らが殿下ヴェネツィアについて「在りし日の栄えある都」と書いているんですけど、「在りし日」ってきっとこの時代のことなんだろうなー、と思いながら観ていました。

 

 レビューを書く時間が余り取れなかったので、駆け足になってしまいましたが、こんなところでしょうか。後で少し書き足すかも。

『二人のフォスカリ』という上演機会の少ない演目を取り上げて下さってとても嬉しかったですね。藤原歌劇団にはこれからも演目開拓に力を入れて頑張って頂きたいです。

 

最後に

 通読ありがとうございました。4000字強です。

 

 この日は、幕間や終演後に4人もお知り合いに会えました! 劇場で同志に会うことは、重要なオペラの楽しみの一つだと思っているので、とても嬉しかったです。

特に、そのうち2人は、お付き合いは長いものの面識はなかったフォロイーさんで! お会いできてめちゃくちゃ嬉しかったです~!

 顔出し OK な方は是非ともご挨拶させてくださいね。

 

 次の記事もレビューです! 観劇生活が! 終わらない!! そして執筆に掛けられる時間が短かったり、溜まったりする!

もう少しだけ観劇生活は続くので、お付き合い宜しくお願い致します。

 

 それでは、今回はお開きと致します。また次の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです。