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さようなら旧友よ - 『FAR: Lone Sails』レビュー

 こんばんは、茅野です。

先日、Twitterでこんな記事が流れて参りまして。

「綺麗な映像だなー、リリース楽しみかも~」と思っていたところ、このような記述を発見。

また、本作は2018年にPC版を発売した『FAR:Lone Sails』の姉妹作品となっている。

「……よし、取り敢えずこれをやるか!」と、即日購入即日プレイ。やりたい時がやり時! 思い立ったら即行動!

 

 というわけで、遊んで参りました、『FAR: Lone Sails』!

全く情報を入れずに初見プレイと、続けてもう一周走ってみました。TAと周回が必要なもの以外大体トロフィも集まりましたね。値段とボリュームもお手頃で、良質なインディーズゲームでした。

今回は、この『FAR: Lone Sails』についてのレビューになります。又、ネタバレを含みますので、ご承知下さい。それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します。

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↑ 曇り空のパッケージ。「A」の隙間が船になっています。お洒落。

 

 

概要

 『FAR: Lone Sails』は2018年に発売された、様々なプラットフォームでプレイ可能な2D横スクロール型アドベンチャーゲーム。なんとスマホでも遊べるそうな……。わたくしは PS4 にてプレイ。

 開発元はスイスのデヴェロッパー Okomotive さん。スイスのゲームを遊ぶのは始めてでした。インディーズは結構北欧や中欧が強いイメージなので、西欧にも頑張って欲しいですね! 姉妹作となる『FAR: Changing Tides』のリリースも決まっていますし、今後が楽しみなデヴェロッパーです。

 

 操作はシンプルで、移動・掴む・ジャンプの三種のみ。視点もズーム・アウトの二種のみ。極限まで削ぎ落とされております。そのためか、文字を伴う説明やヒントも一切ありません。

 謎解きの難易度は低めですが、詰まる所は結構時間掛かるかもしれません。ゲーム慣れしていれば特に問題ないかと思います。初見プレイのクリア時間目安は3時間くらいかなと思います。ちなみにタイムアタック系トロフィの制限時間は99分。

 

総評

 ここ数年で特に盛り上がりを見せる、「フルパッケージで2500円以下」「クリアまでの必要プレイ時間約3時間以下」の簡単で良質なインディーズゲーム。『FAR: Lone Sails』もその一員と言えます。サクッと気軽にプレイ可能で、素敵な冒険を届けてくれます。

 

 強いて類似のゲームを挙げるとしたら、やはり『LIMBO』でしょうか。操作感はかなり近いものがあると思います。しかしながら、同じく主人公の「孤独」な旅を描く横スクロールアクションと言えど、『LIMBO』のようにダークな雰囲気ではなく、写実的で客観的な視点で旅を描きます。

   2D横スクロールで「機械を操縦する」ことを基本とする、というのは珍しく、唯一無二と言えそうです。使い古されたこのスタイルのゲームに於いて、発想の勝利と言えるでしょう。

 

1. グラフィック

 背景は原則写実的でありながら、雲や船などは時に絵本のような可愛らしいタッチで描かれています。主人公が二頭身であることも一役買っているかもしれません。

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↑ この赤くて小さいのが主人公。ズームしても、顔立ちはよくわかりません。

 

 全体的に大変美しいです。雄大な自然も、メカニックな部分もよく描かれているとおもいます。

グラフィックが美しいだけに、操作が意外と忙しいことは評価を下げる要因となるかもしれません。もう少しゆっくり眺めていたい……とおもう場もしばしば。しかしながら、満天の星空や朝焼けなど、特に美しい場面では帆を上げ、ゆっくり船を走らせることができるので、是非楽しんでみて頂きたいです。

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↑ 朝焼けを走る。しかし、なぜ帆はこんなにも大きな穴が空いているのにしっかりと機能するのであろうか?……

 

 又、終盤の大型船は、日本のプレイヤーであれば多くがそうかと思いますが、『ハウルの動く城』を想起しますね。

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↑ まさかの四足歩行。

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↑ 『ハウルの動く城』。

歩く巨大な建物……いいですよね……。

 

2. 音楽

 BGM は、このゲームを評価する上で最高点を出したいですね。ゲーム買わなくても良いので OST を買いましょうの領域です。わたくしがプレイ後まず行ったことは AmazonOST を購入することでした。1000円は安すぎる。

↑ オススメ。

 作曲を担当されたのは同スイスの作曲家ジョエル・ショッホ氏。サックスが良いアクセントになっています。サックスが魅力的なゲームといえば、この間レビューを書かせて頂いた『Mosaic』も素敵でしたね。

↑ 宜しければ併せてご確認下さいませ。『FAR: Lone Sails』がお好きな方はこちらもお好きかと存じます。

 

 原則無音で進みますが、船が好調に滑り出すときなど、印象的な場で音楽が流れ出します。ラジオから聞こえることも。船を操縦しながら勇ましい音楽を聴いていると、それだけで楽しくなってしまいます。

 特別耳に残る名旋律! という訳ではなく、ゲームを邪魔せず、しかし効果的に盛り上げてくれる、まさに BGM として完璧な在り方です。

 

3. 操作性

 前述の通り、プレイヤーが行えるのは移動・掴む・ジャンプの三種のみですが、結構言うこと聞いてくれません。燃料がつっかえて前に進めなかったり、段差を登るのに苦戦したりすること多々。シビアなアクション要素は特にありませんが、 TA トロフィを取る際など、もしかしたら少し面倒かも。

 

 しかし、走ることができない分移動は速めで、かなりストレスフリー。船の操縦は意外と忙しいですが、慣れてくると結構楽しいです。如何に船を止めずに走り続けられるか、勝負どころですね!

 

 死の危険性は低く、敵に襲われて死んだりすることはありません。高所から飛び降りても主人公のコート(?)がパラシュート代わりになり、落下死もしません。但し、焼身自殺ができます()。黒焦げにならないようにお気を付け下さい。又、船が壊れてゲームオーバーになることもありますので、メンテナンスはこまめに行いましょう。

セーブはオートセーブで、近いポイントからやり直せます。ノーコンテニューで初見プレイをクリア、というのも珍しくはないかとおもいます。それほど死にません。

 

4. ストーリー

 ストーリーはほぼ存在しません。プレイステーションのページの説明によれば、以下のようにあります。

干上がった海を背に、あなたは1人で荒野に佇んでいる。

輝かしい文明は消えて無くなった廃墟での暮らしだったが、遂にあなたは心を決める。

ここで虚しく生を費やすのではなく、誰かを見つけるための旅をしようと…

 船の残骸などが散らばっていることからも、冒険の地の多くは、元は海であったことがわかります。

 主人公が「あなた」と表されているように、主人公の設定もほぼありません。但し、公式の説明によれば、「誰かを見つけるための旅」のようです。

 

 巨大船のオブジェや絵画から、巨大船や、主人公の船 Okomotive (デヴェロッパーと同じ名です!)の開発者が Jan Henriksson という男性であることがわかります。

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ちなみに、調べてみたところ、 Jan Henriksson 氏にモデルは特になく、完全にゲームオリジナルキャラクターのようでした(※同姓同名の方だと、女性の心肺機能などを研究している博士がヒットしましたが、そのくらいでした)。

 

 旅の途中で廃工場らしき場所に辿り着きますが、ここにある大きな看板。≪WE BUILD OUR FUTURE≫ の標語から、ブラック企業や環境破壊を行っているような匂いを感じ取ってしまうのは現代社会に生きる弊害でしょうか。

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こちら、よく見るとここで作っていたのはあの大型船であったことがわかります。

 

 「誰かを見つけるための旅」とありますが、このように、物語は Jan Henriksson 氏の創造物を軸に展開しており、彼と紐付けて考えると筋が通りそうです。ゲーム開始時に置かれている顔写真は明らかに Henriksson 氏ではないので、主人公との関係性は全く不明ですが……。

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↑ 親……でしょうか? 誰なのかの説明、ヒントは一切なく、想像するしかありません。

 

 寓意的に考えれば、「船」そして「山(火山)」という組み合わせは、否が応でも「方舟伝説」を想起させます。方舟伝説とは、大洪水で地球が壊滅的な被害を受ける中、方舟に乗った数少ない生き物だけが生き残り、山の上に流れ着く……といった筋を持つものです。『創世記』のノアの方舟伝説が最も有名ですが、『ギルガメシュ叙事詩』など、世界中に分布します。日本でも、記紀神話に於ける海幸山幸神話をここに分類することもあります。

 そもそも、主に陸を走るにも関わらず、何故「船(Sails)」なのか。そして火山の噴火を伴うラスト。特にスイスのゲームとあらば、聖書に準えて解釈するのが筋のような気もします。

 

 最後に主人公が掲げる炎。自分はここにいるのだという主張であると共に、半身が千切れた愛しい旧友の、弔いの炎でもありましょうか。

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舞台は「干上がった海」でしたが、我々は、とうとう最後に、生命の源である原初の海に立ち返ることができたのです。

 

 当方は普段ゲーム考察を好んで執筆しておりますが、『FAR: Lone Sails』にはほぼ考察要素がありません。ヒントがなさ過ぎて、根拠となる材料が乏しすぎるためです。逆に、ストーリーに余白が多い分、想像の余地は幾らでもあるので、あなただけの『FAR: Lone Sails』の物語を構築するのもよいでしょう。もしかしたら、次作『Changing Tides』にて、何かしら補完があるやもしれません。楽しみですね!

 

最後に

 通読ありがとうございました。4000字強です。

特に今、コロナ禍で外に出づらい分、こういった小冒険はたまりませんね。大変楽しめました。機会がありましたら、是非プレイしてみてくださると筆者冥利に尽きます。

 それでは、お開きにさせて頂きたいと思います。別記事でもお目にかかれれば幸いです。