世界観警察

架空の世界を護るために

深淵の水 - 『DARK SOULS』考察

 こんばんは、茅野です。

諦めが悪いのでまた考察一筆やります。亡者化して尚探究を辞めないその姿は、伝説の賢者ローガンに喩えられたという(フレテキ風)。ちなみに、個人的には魔術師プレイがあまり好きではないのでローガンさんが全裸になったデータはめっちゃ少ないです。やっぱりギンバサって最高だよね。

 

 さて、今回は深淵と深海について考えようとおもいます。

どうでもいいですが、この間エルドリッチの記事を書いたばかりですし、今回も『深み』関係なので、「さぞ熱心な『神喰らいの守り手』なんだろう」と思われていそうですが、わたしは長いこと『暗月の剣』です。昔はアノール・ロンドの火防女コスしてサリ裏で張ってました(妥協して軽ロリしていたので完コスではない)。宜しくお願いします。

 

これまで書いてきたダクソ関連記事はここから↓

sylphes.hatenablog.com

 

 

昨今の考察界隈

 筆者は4年前まで活動していた考察勢で、コロナ禍で時間に余裕が出来たので少しだけ復帰している者です。そこで、復帰記事にこのような甘えたことを書きました。

 ほんとうに何も覚えていない亡者なので、それこそコメントかなんかで現在の考察界隈の動きを教えて頂けると有り難いとおもっているのですが……、どうでしょう、それは望みすぎでしょうか(貪欲な金の蛇の指環を嵌めながら)。

DARK SOULS 雑記と古の考察メモ - 世界観警察

そうしたら、ほんとうに教えてくれる人間性の豊かな方がいらっしゃったんですね。わたしは歓喜した、素晴らしい、ここが世界の頂であると。又、4年前のわたしを覚えているという方も見受けられて、震えています。そんな、4年前に失踪した一考察勢とか普通覚えているか? 皆様、ありがとうございます。

 そこで、最近は「深淵を水と関連づける考察」が流行っているというか、質の高い議論が見られると伺って、わたしはピンときた。「あ、そのテーマならわたしも乗れるな」、と。

本来は記事化するつもりはなかったのですが、まあ何らかの助けになるかもしれないし、折角なので書いておくか、とおもい今に至ります。

 

水底に沈む

 4年前は通学時間(往復3時間)に延々と考察板や海外勢の考察動画を見ていたので、他の人の説や議論についてもそこそこ詳しかった自負があるのですが(イキリ)、最近は一切追っていませんでした。ですが、人間性の潤沢な愛すべきフォロワー氏に「深淵を水と関連づける考察」について教えて頂き、折角なので久々にちょっと追ってみました。

 先駆者様方の考察を元に、自分なりに解釈し、補強すると以下のようになります。

問い: 深淵とは水底のことではないか

根拠: 1. 『深みのソウル』(深み)は「それは深みに沈み溜まったソウルであり生命に惹かれ、対象を追尾するという」というテクストを持ち、それは「目標を執拗に追い続ける」『追う者』(闇)に限りなく近い。→深みと闇(深淵)の類似性

    2. 深淵歩きアルトリウスの青い房は濡れそぼっている。→深淵と水の関係の示唆

   3. 「 "深み" から這い出る "湿り人" たち」(『ソウルの大澱』)が「深みの貴石」や「人の澱」をドロップする。→深淵と水の関係の示唆

   4. 「深淵」が発生した小ロンドは水中に封印されている。→深淵と水の関係の示唆

   5. 「"深"み(Deep)」「"深"海(Deep Sea)」「"深"淵(Abyss)」という語の類似性

   6. 「深淵」の "淵" とは、「底が深く水が澱んでいる所」という意味(大辞泉より)

結論: 深淵とは水底を指す

 綺麗に纏められた気がします。根拠も相応のものを並べたし、もうこれで終わってもいいのですが……。折角なので、もう少し掘り下げて遊びましょうか。

 

原初の深淵の淡水

 さて、ここからは少し教養高めにいきましょうか。

「深淵と水」と言われた瞬間、わたしは直ぐに閃きました。「ああ、これはアブズのことだな」、と。

 筆者はゲーム考察現役時代、『ABZU』という洋ゲーの考察も書いていました。全然知らん、という方が多いと思いますが、『風ノ旅ビト』(原題『JOURNEY』)の会社のゲーム、と言えばピンと来る方もいらっしゃるかもしれません。夏にやると凄く癒やされる神ゲーです。……その一方で、考察難易度が高いことでも有名。

 これは自惚れですが、当方、『ABZU』考察に自信があります。洋ゲーであることもあって(当時は日本版が売り出されていなかった)、日本人プレイヤーは希少で、海外でもそこまで考察は盛り上がらず、考察勢ほぼゼロ……みたいな状況だったので、独りで解ける謎は大体解きました、ええ、解けたとおもいます。アッカド語の翻訳が必要だったので、地元の図書館に通って解読やりましたよ。当時セーラー服のJK。

 何故ここまで筆者のどうでもいいイキりエピソードを語ったかというと、これがまさかのダクソの深淵考察と深く関係しているのではないか、と考えられるからです。

正直、『ABZU』考察の第一回をご覧頂いた方が早いまであるのですが……、それは酷だろうとおもうので、関連するところを引いていきたいとおもいます。

↓それでも一応貼っておく。

sylphes.hatenablog.com

 「ABZU」は、「アブズ」(シュメール読み)或いは「アプスー」(アッカド読み)と発音します。これは、シュメール神話、アッカド神話に登場する男神の名であり、そして、「生命を維持する原初の深淵の淡水」を指します。まず、「深淵の淡水」の時点でドンピシャなんですよね……。「生命を維持する」とはどういうことかと申しますと、神話の世界ではそれこそ「命の根源」……言うなれば、そう、ソウルとでも言い換えましょうか。ゲームの『ABZU』では、機械の原動力になったり、死んだいきものを蘇らせるのにこのアブズが使われていました。もし、 "ソウル" と言い換えることが適切ならば、無印の火防女アナスタシアのイベントが近いかもしれません。

 

 アッカド神話では、天地創造物語『E-nu-ma E-liš (エヌマ・エリシュ)』にて、「アプスー神」という神が登場します。かの神は「淡水」を司る原初の神で、「混沌」「海水」を司る女神ティアマトと対になる存在です。詳しくは上記の『ABZU』考察記事第一回に詳しいですが(『エヌマ・エリシュ』の拙訳を置いています)、アプスー神は「知識」と「繁殖」、「繁栄」を司るエンキ神に殺害されます

 これを『DARK SOULS』世界で置き換えると、どうでしょうか? 原初の闇たる淡水。そこに、知識を持った別の者が、繁栄を目論み侵略して…………、そう、エンキ神こそがグウィンではないか。そう読み換えることができるのかもしれません。アッカド神話と絡めて考えるなら、この解釈が最も正統でしょう。

 

 そして、最も重要なことをご紹介せねばなりません。皆様、無印のDLCのタイトルは勿論覚えておられますね。「Artorias of the Abyss」です。「深淵歩きアルトリウス」は英語では何と言いますか。「Artorias the Abysswalker」ですね。つまり、日本語で言う「深淵」に充てられた英語は、「Abyss」です。

 さて、この「Abyss」という語。語源はシュメール、アッカドにあるといわれています。もうおわかりですね。そう、「Abzu(アブズ、アプスー)」こそが「Abyss(アビス)」の語源なのです。

 「生命を維持する原初の深淵の淡水」ことアブズは、 "深淵の" という形容からもわかるように、世界の底に、水底にありますDARK SOULS』世界では、これを踏襲している可能性があります。そして、『DARK SOULS』では、これを「闇」「深み」「深淵」「深海」と呼んでいる可能性があります

 「生命を維持する原初の深淵の淡水」を司るアプスー神は、「全てを生じさせた」(『エヌマ・エリシュ』より)原初の神ですアプスー神が生んだのは、神々、異形……生きとし生けるもの全てです。このとき、人間は作られませんが、後に神の血を元に作られます。DARK SOULS』世界では、全ての "いきもの" は闇から生まれています。「闇より生まれた幾匹か(ニト、イザリスの魔女、グウィン、誰も知らぬ小人)が火に惹かれ、王のソウルを見出した」(『DARK SOULS』OPムービーより)のですから。

 

 尚、アプスー神を殺害したエンキ神は、「é-abzu エアブズ」(「アブズの上」という意味)という神殿を建てます。文字通り、原初の水アブズの上に建てたものです。差し詰め、フィリアノール教会、ひいては輪の都でしょうか

 

 4年前のわたしは、『ABZU』考察と『DARK SOULS』考察には特に力を入れていたので、これら二つを絡めて考えるのは、流石にエゴだろう、こじつけだろうと考えていました。しかし、改めて考えてみれば、 "こじつけ" で終わらせるには勿体ないものかもしれません。

ところで、皆さん、『ABZU』やりませんか? 深淵を "泳げ" ますよ、あのゲーム。

 

 『DARK SOULS』シリーズに於ける神の物語は、「深海」の件のみならず、旧約聖書に拠っていると考えられる点が数点あります。異説もありますが、旧約聖書は大元をオリエント神話、即ち前述のシュメール、アッカド神話とする、という説が一般的です。言うなれば、大元の大元。押さえておいて損はないでしょう。

 

はじまりの海、おわりの海

 ところで、海や水が全ての根源、というのは何もシュメール、アッカド神話に限ったことではありません。もっと言えば、フィクションに限った話でもありません。

 そもそも、地球の歴史に於いても、水、海はごく初期に誕生したものです。はじめに、水があった。

 生物学では、全ての陸上生物の祖は水中を泳ぐ魚であると言います。胎児がいる羊水は、海水にとても近いと言います。これはとても有名な話ですね。

 フィンランド天地創造物語『カレワラ』では、処女イルマタルが水浴をしている間に海に妊娠させられ、妊婦となった彼女が天地を創造します

 北欧神話の『古エッダ』によると、この世界にはじめからあったのは、底なしの大きな "深淵" ギンヌンガガプのみだったと言います。

 挙げればキリがなくなるのでここで辞めておきましょうか。このように、全ての始まりは海や水、深淵であるとする神話は数多く存在するのです。

 

 一方で、全てのおわりは海にある、とする神話もあります。

 前述の北欧神話『古エッダ』では、世界が終わるとき(Ragnarøk ラグナロク、神々の黄昏)、全ての世界は洪水に巻き込まれ、水中に没するといいます。

 旧約聖書『創世記』では、皆様ご存じでしょうが、神の怒りによって大洪水が引き起こされ、ノアの一家と一対ずつの動物のみが方舟に乗って助かります。

 ケルト神話では、死者の魂は海を越え、「Tír na nÓg ティル・ナ・ノーグ」と言われる「常若の国」を目指します。ティル・ナ・ノーグの位置については、アイルランド系とブルターニュ系で割れたりしますが、概ね「海の向こう」や「海の底」で一致します。

 このように、少なくとも各国神話では、正に "輪" のように、海にはじまり、海におわるものが非常に多いです。であれば、文字通りDARK SOULS』世界の "灰の時代" は実は海に覆われていた……と捉えることも出来れば、「灰のあるところに火が熾り、火は消え灰に戻る」と捉えることも可能でしょう。

 

余談 アーマード・コアネタ

 完全に余談ですが、フロムゲーで「水底に沈む」といえば水没王子ことオッツダルヴァ(『ARMORED CORE for Answer』、以下『ACfA』)ですね。「貴様には水底が似合いだ(煽り)」からの「よりによって海上で! クッ、だめだ、飛べん! 浸水だと!」の流れるようなコンボ。『ACfA』は、我らが宮崎英高氏がディレクターを務めた作品でもあるので、メタ的な関係を探っても面白いのかも。吹きだまりの底にステイシスが沈んでるって、マジですか? メルツェル先生、回収お疲れ様です。

 

 余談その2。

 Abyss とフロム、と言えば勿論、『ARMORED CORE PROJECT PHANTASMA』(ACPP)の対戦ステージ「アビス」ですよね。スティンガーの「アビスへようこそ」は有名。でも、ダクソとの関わりは全くないと言っても良さそう。

 

 余談その3。

ARMORED CORE 4』(以下『AC4』)に『Thinker』という素晴らしいエンディング曲があるのですが、その歌詞の一部がこちら。

Can you talk about deep-sea with me.

The deep-sea fish loves you forever.

(共に深海の話をしよう

深海魚は永遠にきみを愛す)

え…… "深海" じゃん……、「深海の時代」って、まさか『AC4』のことだったのか……?(?)

……というのは流石にフロム脳を拗らせすぎだとしても、こじつけて遊んでみるのも楽しいかもしれません。ここには二つの理由があります。一つ目は、『AC4』は、途中からではありますが、『ACfA』同様、ディレクターが宮崎英高氏だということ。次に、リンクス(AC4, fA プレイヤーのこと)ではない皆さんはご存じないかもしれませんが、『AC4』に於いて "deep sea" という語が使われるのはこの『Thinker』の中でのみだからです。他にヒントが全くないのです。それに、『Thinker』は締めとなる重要なエンディング曲。筆者を含め、『AC4』考察勢は、この "deep sea" "the deep-sea fish" が何を指すのか、ということに長年頭を捻り続けてきました。一応、筆者の仮説としては、 "deep sea" とは『AC4』世界に於ける「汚染された地上のこと」のことだと考えているのですが、まさかの、『DARK SOULS III』の「深海の時代」は『AC4』勢に対するファンサービスだったんだよ! ……と、考えることが、もしかしたら、出来るの、かも……?

 

太陽と沈鐘

 次回予告……ではありませんが、今回この記事を書いていて新たに考えついた疑問を置いて終わりたいとおもいます。自力で解決して記事に出来るか否かは不明。

 まず、「太陽の起源」についてです。「火」のはじまりについてはわかっていますが、では、DARK SOULS』世界の「太陽」って、いつ生まれたんだ? と、そういった疑問です。「太陽の光の王グウィン」の名のように、グウィンが太陽を "創った" のか? しかし、それは余りにも根拠不足。3にて太陽がダークリングのように変態することに関しても、何かもう少し筋だった説を編み出せるのでは無いか。

 次に、「」についてです。この記事で触れてもよかったのですが、また長くなりそうだったので別の機会に。各国神話・民話に於いて、「鐘」に纏わる伝承は多数あります。『DARK SOULS』でも、「目覚めの鐘」「継ぎ火が絶える時、鐘が鳴り響く」「古竜の頂の鐘」など、鐘が重要な地位を占めています。伝承の類いには少し知識がある方だとは思いますので、ここら辺また絡めて考えられたりできないかなぁ、なんておもいました。

 

最後に

 お疲れ様でした。過去にリサーチしたものを文字に起こしただけなのでサクッと書けて、満足しました。

 どうでもいい話2選をして終わりたいとおもいます。「エクストラで調べてない割には、無駄に知識が広いな……」なんて素直に感心してくださった人間性が豊富なそこのあなた。著者は中学生の頃、民族音楽と土着信仰の研究に傾倒していて、この辺は当時一通り調べたのでした。当時から凝り性を遺憾なく発揮していたわたしは、「教祖」という恐れ多い渾名を賜り、中学・高校時代はずっとリアルでは「教祖」と呼ばれていました。今でもそう呼んで下さる方結構いますし、考察書いてた頃(それこそ中学・高校時代である)のアカウントの名前が「教祖茅野」だったので、もしかしたら知っていたという方もいらっしゃるかも。

 どうでもいい話その2。「それにしたって、7年くらい前の話でしょ? 知識もあやふやになってない?」と心配をしてくださった人間性が豊富なそこのあなた。実は、最近、実にタイムリーなことに、僭越ながら舞台芸術の研究会で「水と芸術」という題で講演するという栄誉を賜りまして、水に関する世界の伝承は徹底的に洗っていました。これもゲーム考察を書いていたお陰だったりする。『ABZU』考察がほんとうに役立っていたりする。

sylphes.hatenablog.com

↑詳しくはここにあります。

 そういうわけで、楽しく書かせて頂きました。ここまで読んで下さった皆様にも何か益がもたらせていれば幸いです。ご意見、反論などありましたらコメント欄へ。

これからも考察書くかは考えていませんが……またお目にかかれれば幸いです。それでは~。