こんばんは、茅野です。
梅雨入りしましたね。引きこもってやることと言えば……それは勿論『オネーギン』を観る、これに尽きますよ。そうですよね?
というわけで、今更ですが手元にある『オネーギン』を片っ端から観直してみようとおもいます。今回はこちら、ロイヤル・オペラ・ハウスの方のオペラ映画版です。
『オネーギン』のオペラ映画版は、1959年のレンフィルム・スタジオのものが有名ですが、こちらは別のものです。最近漸く円盤を入手できたので、改めてご紹介します!
中古が主ですが、入手難易度は高くなく、ネット上で難なく購入することができます。字幕は英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、中国語の6種類。ロシア語と日本語がないことが悲しいですが……。
尺の都合もあり、カットが多いことが悔やまれますが、演奏・映像共に素晴らしいの一言に尽きます。演技は俳優さんによるものですが、歌手は超一流どころです。
それでは、細かく見て参りましょうか。お付き合いの程、宜しくお願い致します。
キャスト
エヴゲーニー・オネーギン:ベルント・ヴァイクル(ミハイル・ドチュロマンスキー)
タチヤーナ・ラーリナ:テレサ・クビアク(マグダレーナ・ヴァーシャリョヴァー)
ヴラジーミル・レンスキー:スチュアート・バロウズ(エイミル・ホルヴァート)
オリガ・ラーリナ:ユリア・ハマリ(カミラ・マガーロヴァー)
グレーミン公爵:ニコライ・ギャウロフ(プシェミル・コチー)
ラーリナ夫人:アンナ・レイノルズ(アントニー・ヘーゲルリコヴァー)
フィリピエヴナ:イーニッド・ハートル(ヴラスタ・ファービアノヴァー)
トリケ:ミシェル・シェネシャル(フランティシェク・フィリポフスキー)
指揮:ゲオルク・ショルティ
合唱:ジョン・オールディス合唱団
演奏:ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
監督:ペトル・ヴァイクル
第一幕
第一場
いきなりの大自然。青々と茂る緑の野に、黄土色の道。印象的なはじまりです。
序曲などがガッツリとカットされ、農民たちの合唱(Болят мои скоры ноженьки
Со походушки. ~)から始まります。バイニュも繰り返される部分は大幅にカット。原曲を知っているとかなり違和感があるかと思います。
緑の野から始まるように、全体的に夏らしい雰囲気がありますが、収穫を祝う合唱なので、ラーリナ夫人に小麦の束が捧げられます。何も間違ってはいないのですが、違和感は無きにしも非ず。
↓ 『オネーギン』第一幕に於ける季節についてはこちらから。
バイニュの躍りなどは、プロのダンサーが起用されているのでしょう、キレのある動きが目立ちます。振りや服装など、大変それらしくて好感が持てます。
それにしても、ラーリン邸、豪華すぎませんか!?
↑ 冗談のように白く豪奢なお屋敷。
青空と新緑の対比から見ても、なんだか幻想的とさえ言えます。色合いが何だかルネ・マグリットっぽい。
前述のように、演技は俳優さんによるもの。スロヴァキアやチェコの俳優さんなのですが、現地ではかなり有名な方々みたいです。それにしても、オリガがベリューキンの挿絵そっくり。
俳優さんは皆美人で演技も申し分ないのですが、『オネーギン』の主要登場人物が皆10代~20代であることを考えると、もっと若い方を起用してもよかったのではないか、と思います。又、衣装・髪型なども凝っていて、時代考証的にも問題無いと思います。
オリガのアリアは、年若さ、軽やかな動きに反してしっかりと低音が鳴っていて大変よいです。オリガの歌は全体的に素晴らしいと思います。
男性陣の登場。『オネーギン』では、第一幕も中盤になるまで「女の園」なのが、よい対比になりますよね(合唱を除く)。
オネーギンが青、レンスキーが緑という配色もバレエ版を彷彿とさせていいですね。
↑ バレエ・クランコ版。オネーギンさんは、青というより黒ですが。
レンスキーの外見は原作からは外れますが、オネーギンさんは概ねイメージ通りですね。又、オネーギンの方が髪型や服装が凝っているというのもいいですね。帝都から来た洒落者なわけで!
四重唱がカットされ、いきなりレンスキーのアリオーゾになります。最初からどちらがタチヤーナなのかを理解しているオネーギンさん。
レンスキー、声は素晴らしいのですが、何だか発音がロシア語っぽくない気もします。特に е の音が気になるかも…… Я люблю тебя! の辺りなんか顕著かなとおもいます。なんというか、ちょっと [íː] っぽい……?
オネーギンさんの方は、少し歌い方に特徴があります。Скажите мне, や、Правда, ~ に顕著ですが、切れ目が少々投げ遣りというか、特徴的な息の抜き方をします。好き嫌いが分かれるかもしれませんね。ストーリー性の薄い歌曲などであれば少し耳に付くかもしれませんが、演劇性の高い歌劇では、オネーギンさんのキャラクター性に合っているような気もします。聴いているうちにクセになるかもしれません。
第二場
四重唱の後は、すぐに第一幕第二場へ移ります。
映像はそのままタチヤーナとオネーギンの散歩の場。この序曲は夜のイメージが強いので、慣れのせいもあってか、違和感は拭えません。
オネーギンが摘む淡い色の花は、ちょっと萎れかけていて、それもまたなんか良い味を出していますね。結末を暗示しているようで。
そして夜になり、寝室というより、大部屋に。わたくし、第一幕第二場でベッドが影も形もないものは初めて観たやもしれません! いや、奥に天蓋らしきものが見えるので、それがベッドか……!? ターニャの自室なのでしょうか? 大変広いです。この映像のラーリン邸、とにかく広い。舞台では表現できない部分でもありますので、オペラ映画版ならではで良いですね。
フィリピエヴナの結婚話は全てカットされるのですが、音楽の繋ぎ方のせいで、ターニャが急に覚醒したように見えます! 会話内容的には違和感ないのですが、音楽と演技的にはかなり唐突な印象を受けます。急に何かが憑依したかのよう。結構ビックリします。
↑ そしてこの表情である。
「手紙の場」! 既に夜が白んでいるようにも見えます。第一幕第二場といえば真夜中のイメージが強いので、意外ですね。
そしてターニャは最初から超絶好調! 文句の付けようのない見事な歌唱です。声質もターニャに合っている気がします。俳優さんの方も、下向きの長い睫毛に黒目がちの瞳が大変嵌まり役です。
↑ ナイトキャップかわいい。
ちなみに二回目の Вот он! は下げる派。
「手紙の場」の歌唱は非常に高水準ですが、オーケストラが静かになる Кто ты, мой ангел ли хранитель Или коварный искуситель?~ の辺りは特に圧巻です!
又、字幕はわたしはフランス語版で観ていたのですが、「手紙」の部分は字幕が括弧 ”” 付きになるのがいいですね。地味にあまり観ない気がします。演技も相俟って、どこが手紙の本文なのか大変わかりやすいです。
モスクワ川の夜明け。夜が明けたところのカメラアングルが大変に素敵です! 是非観て頂きたい。やはり『オネーギン』第一幕第二場といえば、窓! ですよね!
しっかし、牧童の笛(オーボエ)はもう少し頑張って欲しい! 二回くらい音が外れている! がんばれ!
またカットが入ります。 А я-то! Я-то?! の後、無言でフィリピエヴナが入ってきて終わります。フィリピエヴナの歌唱のシーンばかり削られている気がします。監督はフィリピエヴナが嫌いなのだろうか。しかし、罪滅ぼしか(?)、映像ではフィリピエヴナの顔のどアップが多くなっています。そして表情が一々意味深。
第三場
ターニャのこの晴れやかな表情よ!
↑ 憑きものが落ちたかのような笑顔。
娘達が摘んでいるのは木苺でもさくらんぼでもなく、なんと林檎。結局、季節はどうなっているのだろうか?!(収穫時期は秋)。しかし、『オネーギン』第一幕の演出に於いて、林檎はお馴染みの存在でもあります。よって、やはりか! という気持ちもあり。
憑きものが落ちて陰キャラを脱した() ターニャは、娘達に混ざって林檎を食べたり輪に加わって踊ったりします。
第一幕第三場では、少し卑猥なニュアンスも孕む農奴の女声合唱と、恋に破れる令嬢タチヤーナ、という対比があるので、ここに混ざるのはこの対比を無為にしてしまっており、少々勿体ない気もします。但し、それほどスッキリしたタチヤーナ像というのを見せたかった、と解釈でき、それはそれで新鮮で面白いなと感じました。そして、この農奴の娘さん方は、THE バレエのレヴェランス~という美しいお辞儀をしたりするので、特に違和感もなかったです。
又、林檎を盗む少年達が登場するのも、時代考証など的には素晴らしい演出なのですが、Не ходи подслушивать песенки заветные, не ходи подсматривать игры наши девичьи! という歌詞を無為にしていると考えられ、それも勿体ないような気がします。
合唱は、所々ズレが大きく、発音の仕方にも少し特徴があるので、好き嫌い分かれるだろうな、という気がします。
初登場時は自ら馬に跨がって登場するオネーギンさんですが(ちなみに原作では初登場時も馬車です)、二回目である今回はカブリオレ(二頭立ての幌付き馬車)に乗って登場。オネーギンさんは毎度乗ってくる馬車や馬が違ったりするので、いや、流石貴公子! と思ってしまいますね。
我らがタイトルロールの数少ない魅せ場、アリアが展開される場は、演出でお馴染みの白い長椅子!
↑ 初めて観ても既視感が凄い。
肝心の入りが少々弱いのが気になります。次の признанья,~ излиянья; の脚韻の歌い方が、なんというか、ちょっとねちっこくて艶めかしい感じです。わたしは好き。
オネーギンさんの歌唱は、何故か全体的にテンポ速めです。オネーギンのアリアのテンポが速いと、なんだか畳みかけているようでちょっと威圧感があるような気がしました。テンポが速いことも相俟って、
Я сколько ни любил бы вас,
Привыкнув, разлюблю тотчас.
Судите ж вы, какие розы
Нам заготовил Гименей,
のところが凄くリズミカルで良いなと感じました!
最後にターニャの手にキスをして帰るタイプのオネーギンさんでした。しかも一人で帰っちゃうタイプのオネーギンさんでした。良い演出だとおもいます!
第三場は音楽のカットは一切なしです。確かに、削れる部分は全然ないですね。
第二幕
第一場
間髪入れずに始まる第二幕。フィリピエヴナが失恋し呆然とするターニャを発見するところから始まります。逃げ惑うターニャの動きがバレエ版第三幕二場にそっくりです。
夜になり、屋敷の前に沢山止まる馬車。
軍楽隊の制服は特徴的な赤のウーランカですね! 何連隊だろう。軍服詳しくなりたい……(良い資料ありましたら教えて下さい……)。
レンスキーを伴い、辺りを伺うオリガ。姉を探しているのかと思えば、見つけ出した先はオネーギン。オリガの方が既にオネーギンに気にしている演出ですね。
そしてターニャは、お誕生日なのにかなり簡素なドレスです。ショールが色合い・材質共に普段着っぽいのが原因でしょうか。そしてやはり一月とは思えない軽装。
ターニャを一瞥し、口角を上げるオネーギンさん……そして彼女に小さな小箱に包まれたプレゼントを手渡します。このときの彼の心境や如何に。
合唱の噂話は、相変わらず隠す気ゼロと言わんばかりの滑舌の良さで、寧ろ笑いを誘います。このオペラ映画版では、この噂話を聞いて初めてオネーギンが気分を害した、という風に解釈できるように作られています。
いつも思うのですが、 Взбешу его порядком! Вот она! (独白)→ Прошу вас! (オリガへの誘い)が切羽詰まりすぎていて、歌うのも演じ分けも大変そうだなぁとハラハラしています。そして今回は、オリガを誘うときにめっちゃ尊大そうに胸張って片手後ろに回してるオネーギンさんが観られたので満足しました。
オリガとオネーギンが踊り始める辺りから、ワルツが典型的なベーシック・ステップから、少し東欧風の難易度の高いステップに変わります。とてもお洒落です! フォーメーションなどを観ても、振付はバレエの振付もなさっている方なんじゃないかと予測するのですが、どうでしょうか。
又、鏡を使ったレンスキーの写し方には光るセンスを感じます……。上手い。映画ならではの手法ですね。
レンスキーはもう少し歌い方に表情があるといいなぁ……とおもいますね。激情家なのに、少し単調に聞こえます。声は凄くいいんですけど……。
Нет, со мной. を言うために徐々に後方から近づいていくるオネーギンさん。最初はカメラのピントが合っていなくてぼやけているのが更に良い感じです。そして Не правда ль, слово вы мне дали? の言い方がとってもウザい!(※褒めています)。最高。
ムッシュー・トリケは相変わらず時代錯誤が凄まじいです。『オネーギン』合唱あるあるですが、この時だけめちゃくちゃフランス語~! という歌い方になりますね。いや、フランス語なので当たり前なのですが、発音の仕方が全然ロシア語と違うなという……伝わって欲しい。
トリケのクプレこそカットされそうなものですが、二番までしっかりやります。ちなみに二番はフランス語版。 このトリケさんは、少しボケているとか、ふざけているといった様子は全く無く、凄くいい人そうですね。時代錯誤は凄まじいですが。
大尉は声が篭もってると思います。舞台だと声が飛ばなそう。medames がちょっと気になりますね……(細かすぎて伝わらない選手権)。
コティヨンの振付、めちゃくちゃ好きです。音楽に合っているし、無駄に高難易度だったりしないところが大変よいです。演者がプロで皆さんとてもダンスが上手いのも、リアリティには欠けますが、美しくて大変眼福。
レンスキーとオネーギンの仲が険悪になってくると、オネーギンさん、なんとフォークを投げる~! このオペラ映画版、小道具の音などは一切しません。オペラ映画としては好み分かれそうではありますが、余計な音が聞こえないのは音楽に集中できてよいとおもいます!
煽ってるオネーギンの歌い方、個人的には好きです。
よく見ると、レンスキーはオネーギンが話しかける前から、ワイングラスと白手袋を持ってスタンバっています。決闘やる気満々と言ったところか……!
からの、白手袋でのすっごくやさしいゆるふわビンター!! いいですね……お上品で……(?)。でもビンタ自体はするところに怒りを感じる……。
オネーギンからつかつかと離れてゆき、Просто я требую, ~ と共にクッと振り返る……。距離感含めてめちゃくちゃ良いです……カメラアングル、演技とも素晴らしい……。
そして、やはりレンスキーは少しロシア語の発音が変な気がします。声はとってもよいのですが……。 В вашем доме の е も大分気になります、やっぱり е が苦手なんですかね……。
В вашем доме は、ターニャの高音が大変力強く、刺さります。
レンスキーのソロが終わったあとの、通称「スーパー聖徳太子タイム」(※わたしが勝手に呼んでいるだけ)(3部合唱+ターニャ、オネーギン、オリガ、ラーリナ夫人、レンスキーがそれぞれ別パートを歌うので全然聞き取れない箇所)は省略されることが多いのですが、わたしの聞き違いでなければ、ターニャだけ参加しているように聴こえます。ここを聴き取るのはちょっと人間には不可能なので、間違っていたらすみません。
細かすぎて伝わらない選手権を続行します。Вы бесчестный соблазнитель! - Замолчите, иль я убью вас! のところですがオネーギンさんの Замолчите, иль だけ削られています。
↑ 楽譜で見ると、ここのほんの短い部分だけ。
尺の都合でどうしてもカットが多くなってしまうオペラ映画版で、第二幕第一場で唯一抜けたのがここだけという! 謎です。仮に黙ったとしても殺意は衰えないタイプのオネーギンさん。
第二場
辺り一面の雪景色。
アリアの主題を先行して奏でるチェロはアクセントが非常に強く、暴力的と言って良いほど。そしてオーボエ~! 第一幕の時といい、頼りなさげです。頑張って欲しい。
↑ ここ。
そして細かすぎて伝わらない選手権。序曲の最後、テッテッテッテッテッテ↑ ってほぼ半音ずつ上がっていくんですけど、一音抜けてます!!
↑ ここ!!
さっきからなんなんでしょうね……この細かすぎるカット……。
そしてその謎の違和感を残すカットから、直にレンスキーのアリアへ繋がります。ザレツキー先生との対話はカット。
凄くどうでもいいのですが、Приходит ˇ час определенный! のˇ 記号の所で息継ぎするのが斬新すぎて……えっそこでブレスするんですか!? 初めて聴いたぞ……。
雪景色の白樺林をゆっくり歩いて行くレンスキー。白樺というところがロシアらしく、大変よいですね。少し単調なところを除けば、アリアは大変よいです……声も合っているとおもいます!
そしてザレツキー氏があまりにも「強そう」すぎて笑いました。彼の姿は是非ご自分でご確認あれ。強そう。これは決闘よくけしかけてそう(偏見)。
我らがタイトルロールの登場。オネーギンの歌は全体的にテンポ速いと思います。
Хоть человек он неизвестный, Но уж, конечно, малый честный. Что ж? Начинать? が本当に「やる気ありませーん、しょうがないから付き合ってあげてまーす、帰って良いですかぁ?」感満載で最高です、笑えます。
二重唱、カノン。かなりテンポが速いです。オペラ映画の良いところの一つ、独白では口を動かさないという演出も可能というところ! Нет!×4だけ口を動かします。よい。
しっかし、二人ともベストまで脱いじゃって、寒くないのでしょうか……いや寒いと思いますが……ベストは別によくない? とおもってしまいました。
レンスキーが撃たれると、画面が白んで遠方のオネーギンが霞みます。つまり、レンスキー視点……! 新しい。これも映画ならではの演出で、大変いいですね!
ベストを脱いだお陰で白シャツに血が目立ちます。でもそんな位置で即死するか? とか、血の色明るすぎない? とか突っ込んだら負け。シャツ一枚で深い雪のベッドに埋もれて死んだ演技するの大変そうとか凄くメタなことを考えてしまいました。負けです。
第三幕
第一場
帝都・ペテルブルクー!!
めっっちゃ笑ったんですけど、ポロネーズ冒頭、ファンファーレの後にジャンジャンってやつが二回入るじゃないですか、その音に合わせて、「青銅の騎士」像(ピョートル大帝像)1カメ2カメ、ボリショイ劇場のアポロン像1カメ2カメ、とババーンと映し出されるのが面白くて面白くて! 爆笑してました。カッコいいのはカッコいいけど、決闘の直後にちょっとギャグっぽくやられると温度差でもう! 面白すぎます。
ポロネーズの振りは、序盤はかなり王道な感じです。あのゆっくり前進するステップですね。しかし、チェロパートで女性だけの踊りになるのはレアです。相変わらず振りとフォーメーションのセンスが大変よいです。第三幕ではドレスの色を統一する演出も多いですが、ここではかなりカラフル。
二幕から推定4年近くの年月が経っていますが、オネーギンさんのビジュアルの変化は特にありません。独白の前に決闘シーンの回想が入るのも演出として大変いいですね……! これ、舞台上でやるのは大変ですからね……。
エコセーズはカット。ファンファーレの後、タチヤーナが登場します。
ラズベリーバレット! やはり第三幕一場のターニャといえばこれですよね~。
続くグレーミンのアリア。
↑ ロシア帝国陸軍の制服ってなんでこんなにカッコいいんですかね。
いや、ニコライ・ギャウロフが嫌いな人なんて存在するのですか……もう、これを聴くために円盤を買うとよいとおもいます。よく響く~!!
タチヤーナとオネーギンの邂逅。ここの演技は色々解釈が分かれますが、この演技大変よいですね……! 個人的には限りなく解釈一致します。冷静な立ち振る舞い……。
そしてオネーギンのアリオーゾ。相変わらずテンポが速い! そして高音部がよく響いて音割れしている領域。録音が古いこともあって、音質自体は褒められないこの版……。
最後はエコセーズ版。ここでダンスよりもターニャが帰るところを写すのは英断! 斬新且つ、意味深長です。
第二場
序曲はカットで、オネーギンが部屋に入ってくるところからはじまります。第一場から服装も同様、二人が帰路につくところから繋がっているので、第一場のすぐ後の出来事のように見えますが、本来は半年近く経っています。
公爵夫人の部屋はもう、宮殿ですね。ラーリン邸といい、この映像、全体的にめちゃくちゃ豪華です。ターニャのお色直し(第一場から変わっていない)が全て出揃ったわけですが、まさかの全ての衣装が純白でした。清純さの象徴かなにかなのでしょうか? ここまで変化がないのは珍しいと思います。
最後のデュエット。
タチヤーナは高音が伸びやかでありながら、力強さもあって大変よいです! 文句の付けようがない。特に Я вас люблю! の前の Ах! は圧巻。一方オネーギンは早口で、しかも更に加速します。ただでさえ懇願する場であり、捲し立てるような感じは非常に合っていると思います!
どうでもいいですが、ターニャに迫ってるときのオネーギンさんが左手の薬指に指輪をしてるのは、もしかしたら誤解を生みそうだなとおもいました(※ロシアでは結婚指輪は右手の薬指にするのが一般的なので、これはお洒落で嵌めている)。
第三幕第二幕は、勿論舞台だと場面転換できないからということもありますが、タチヤーナの部屋の中での話とするのが一般的とおもいますが、なんと外に出ます。外に出るのは初めて観た気がします。誰かに目撃されたらアウトだぞ……。
Онегин, я тверда останусь… のところからオケの音が爆発的に大きくなるのが気になると言えば気になります。まあ、クライマックスだし、丁度よいのかも!
Прощай навек! に被せるように歌われるオネーギンの Ты моя! ですが、これはほんっとうによく省略されるので、凄く久々に聴いた気がします。これが歌われるバージョンはかなりレアかとおもいます。嬉しい。
最後の О жалкий, жребий мой! 、めちゃくちゃいいです! 綺麗に締まりました。映像の締めくくりは、なんと双頭の鷲。ロシア帝国ですからね~。『オネーギン』が、(帝政)ロシアを代表する物語であるということを最後に知らしめてくれて最高ですね。
そしてクレジットの曲は、作中でカットされた第一幕第二場の最後と、第二場序曲(ワルツの前の部分)。ここで持ってくるのか~~。
総評
オペラ映画版ということで、圧倒的な映像美、映画ならではの演出で魅せてくれます。時代考証なども申し分なく、俳優さんの演技も素晴らしいです。一つ挙げるとすれば、俳優さんはもう少し若い方を起用してもよかったのでは、ということだけありますが、各々かなりイメージ通りですし、演技もよいので、あまり気になりません。
一方、映画の弱みとして、尺の都合でカットが多用されるという問題もあります。カットされた場所については、全て記載したつもりです。
歌手・演奏共に素晴らしいです。レビューという性質上、個人的に感じた問題点なども書かせて頂いておりますが、強調しておきたいのは、この演奏がとても高水準で素晴らしいということです。但し、録音の古さから致し方ないことながら、音質はあんまりよくありません。
入手も比較的容易ですし、入手する価値はあると確信しています!
最後に
通読ありがとうございました。いつも通り1万字を越してしまいました……。こんなはずでは……。わたくし、『オネーギン』のレビューは1万字書かないと気が済まないらしい(※実際に上演を観に行ったオペラ・バレエ公演のレビューは毎回上演から24時間以内に1万字前後書いている)。いや、本当に、こんなはずでは……。いつも長々と書いてしまうのよくないですね。お付き合い有り難う御座いました……!
百もご承知かと存じますが、わたくし、『オネーギン』大好きなので、手持ちの映像についても色々レビューを書いていければよいなとおもいます!
それでは長くなってしまいましたので、お開きとさせて頂きます。また別記事でお目にかかれれば幸いです。