世界観警察

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神と光と"わたし" - Everybody's Gone to the Rapture考察4

 こんにちは、茅野です。

今回も前回に引き続き、『Everybody's Gone to the Rapture 幸福な消失』の古の考察メモを頼りに成文化を図ります。

 

過去の記事はこちらから↓。

↑ 日英ダイアログ全文。ソースが気になったらここから確認!

↑ 考察記事群はこちらから。

 

 考察記事第四弾となる今回は、特に統一性は設けず、細々とした点を攻めていきます。プレイやリサーチをして個人的に気が付いたこと、他の考察勢と議論して導いたことを書いてゆきます。それでは宜しくお願いします。

 

 

宇宙からきた光

 物語の舞台は1984年、イギリスの田舎町、ヨートン。天文台を使っての「宇宙との交信」というところで、色々と連想できる事柄はあります。

 例えば、皆様もよくご存じのハレー彗星は1986年が観測年。とはいえ、研究者たちは1982年には観測を果たし、アマチュアの手による最初に観測を果たしたのは1985年だったことを想い出しましょう。

ともなれば、1984年というのは、プロフェッショナル(アップルトン夫妻)には観測できて、アマチュア(グレイム)には観測できない、正に境目。もしかしたら「光」のベースにはハレー彗星の存在があるのかもしれませんね。

 

 また、この年の彗星観測は光害(light pollution)のせいで観測が難しかったことでも有名です。Light pollutionとは! Liquid lightと関連づけて考えるのは容易ですね。

 ヨートンは、観測所が置かれていたり、ケイトやグレイムの発言からも天体観測に向いた土地だということがわかります。だからこそ、「光」の早期発見や交信が可能だったのでしょう。

 

太陽の動きをなぞる旅

 さて、わたしたちは光を追って旅をしてゆくわけですが、この旅が、太陽の動きをなぞっていることに気付くには相当の注意を払わねばならぬでしょう。

地図や太陽の動きと照らし合わせるに、わたしたちの旅は東から西へ向かっています

 「太陽」と「光」。そこには余りにも多くの共通点が存在します。「光」を「携挙」と置き換えると、より多くのことが見えてくるかもしれません。太陽の光が何人の上にも降り注ぐように、携挙は誰の身にも訪れる。罪人にも、不信心者にも、誰にでも。

 

進化は一方通行

 とても基本的なことをお浚いしましょう。タイトルです。

『Everybody's Gone to the Rapture』。邦題は『幸福な消失』となっていますが、誰の目にも明らかなように、意訳です。では、直訳するとどうなるか。「誰もが歓喜の中へ行った」、或いは「誰もが携挙した」。

ここで、BeenではなくGoneになっていることに注目しましょう。そう、携挙は一回切り。一度行ったら、戻ってこられない

 

 厳密には違うとはいえ、携挙の中に「死」のニュアンスが含まれていることからもこのことはわかります。英語でも、Deathという語を使わずに死を表現したいとき、goneを使ったりしますよね。

 昨日書いた考察記事第三弾では、このような文言を紹介しました。

 外界と干渉し合って、(生きた細胞の出現などの)過去の進化には例のなかったような爆発的進化を引き起こす。

 「携挙」がこの「爆発的進化」だとして、この「進化」という語からも、もう戻ることはない、という含意を含むと見ることができるかもしれませんね。

↑ 考察記事第三弾はこちらから。

 

全てのはじまりは神と共に

 この作品では、数多の学問が絡んできます。

まず、タイトルに「携挙(Rapture)」という語があることからも分かるように、宗教学。そして、宇宙との交信、天文学。ウィルス性の疑い、医学。スティーヴンによって残されたメモには化学式。数学も絡みます。余りにも考察勢泣かせ。

全てを完璧に理解するためには、それこそダグラス・ホフスタッター氏のようにならないと不可能でしょう。

 

 でもそのなかで一番重重要視するならば? と問われれば、それは宗教学でしょう。

全ての西洋学問は神と共に始まりました。この世界はランダムな動きと、≪パターン≫の二種類で成り立っています。

過去、人類はそれを≪パターン≫ではなく≪ロゴス≫と呼びました。ロゴスとは、理論。しかし、それは同時に、神をも意味します。

このロゴスを探究しようとした先にあったのが、数学であり、科学であります。それはひとつの神に至るアプローチ。

『幸福な消失』に於いて、神父(※後述)ジェレミーではなく、科学者ケイトがパターンの理解へ辿り着けたのは、少なくともこの『幸福な消失』という世界の中では、ケイトのアプローチが適していたからでしょう。

 

ジェレミーは"神父"か?

 細かいことですが。ジェレミーは本当に「神父」なのでしょうか?

英語(原文)を確認すると、確かに"Father"と呼びかけられています。しかし、ヨートンはどこにあるかというと、イギリスです。そしてジェレミーが務めている教会は地域に密接したものであります。

ということは、この教会というのは英国国教会なのではなかろうか。……とすると、英国国教会では聖職者は「神父」という形を取らず、「牧師」「司祭」となります。そして、彼らのことを同じく "Father" と呼びます。……ともすれば、ここでの"Father"の訳は「神父」だと間違いなのではないか、と考えます。

英国国教会に於いて、最も一般的な牧師や司祭への呼びかけは「先生」。つまり、「ジェレミー先生」が訳として正しいのではないかとおもいます。

 

 ダイアログを日英とも打ち出していて思ったのですが、誤訳とおもわしきところが複数箇所あります。その辺りの精度から鑑みるに、もしかしたら、翻訳を担当された方はイギリスの宗教事情まで頭が回らなかったのではないか……とおもうのですが、どうなのでしょう。わたし自身、基督教知識が豊富だったり、英語も堪能というわけではないので、指摘したわたしの方が間違っていたらお詫び申し上げます。

 

神であり光である"わたし"

 『幸福な消失』最大の謎のひとつ、主人公の存在。"わたし"は誰なのでしょうか。少し視点が低いことからも、子供なのではないか、という説はよく見ます。

しかし、視点の低さからそれを断定するにはあまりに根拠不足であるとわたしは感じます。では、主人公とは何者なのか、考えてみましょう。

 

 まず、主人公に対して他の登場人物は一切干渉出来ません。一方で主人公は、彼らの生活を一方的に見ることが出来ます。しかも、時間を越えて。

 『幸福な消失』では、会話を発生させるトリガーの種類がいくつか存在します。まず、「自動発生」。そして「電話とラジオ」。最後に、「手動発生」です。ここでは手動発生について考えます。

 

 ゲームプレイをした方ならわかるとおもいますが、『幸福な消失』の「手動発生」はボタンを押すのではなく、コントローラを傾けて発生させます。「終末」の特別大きなものは操作が意外と難しくて苦戦した方も多いのではないでしょうか。わたしもそのひとりです。これ、非常に珍しいですよね。他のゲームではみたことがありません。

 ここから、ひとつの推測が導き出せないでしょうか。つまり、主人公は高次の存在なのではないか、ということです。

 

 一気にメタ的な話に持って行きます。登場人物たちは皆、ゲームの中の存在、二次元的な存在です。一方で我々は三次元世界を生き、彼らを俯瞰しています。彼らよりも高次元の存在であることは間違いありません。

プレイヤーは、「コントローラを傾ける」という三次元的な手法を駆使してこの二次元世界に干渉します。つまり、主人公=プレイヤーという図式はゲームの世界では一般的ですが、最も直接的な形がこの『幸福な消失』で示されているのではないか、とおもうのです。

 

 さて、そして、作中に登場する「光」は同じく高次の存在でもあります。であれば、「光」こそが「主人公」なのではないか、と考えることも可能でしょう。ということは、ケイトが「光は生きている」と表現したのは、あながち間違いではなかったのかもしれません。

ティーヴンは自分が低次元の存在であるということを認めることができなかった。ケイトは、高次の存在、つまり、わたしたちプレイヤーに気が付き、理解し、受け入れた。

「光」がわたしたちプレイヤーなのだとしたら、ケイトが理解し、一体化した対象というのはわたしたちのことです。つまり、このヨートンを最後まで生き抜き、最後まで寄り添った存在たるケイトが、このヨートンの物語を受け取ったわたしたちとひとつになる。

ケイトは低次元の存在として、高次元のわたしたちプレイヤーに取り込まれるが、彼女はそのことを恐れない。何故なら彼女の存在はわたしたちの記憶に定着し、今後も生きていけるから。

低次元、ゲームの中の世界という現世を捨て、プレイヤーという高次元に"引き上げられ"、幸福に生きるという選択。それは、彼らから見たら、聖書に描かれた神の御技に等しい。故に、それを、"携挙"と呼んだ。……とは、考えられないでしょうか。

 

終わりに

 どうでしょう、今回、かなり良い線行ったんじゃないでしょうか。書いていて自分でゾクゾクしました。なんて深いゲームなんだ、『幸福な消失』。大好きです……堪らん。

 ここまで付き合って頂きありがとうございました。まだもう1記事は書く目処が立っていますが、その後は考えていません。疑問や反論、感想など随時お待ちしております。宜しくお願いします。

また次回またお付き合い頂ければ幸いです。それでは!

 

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