こんばんは、茅野です。
皆様ご存じのように(?)、当方はゲーム考察書きですが、局所集中・凝り性な性格ゆえに遊んだゲームタイトル自体は決して多くないタイプです。好みがうるさいとも言う。
わたしは学生なので、現在大絶賛学期末なのですが、学期末って攻略にあんまり頭使わないゲームやりたくなるんですよね。なりませんか、なりますね。
ということで、一周2時間くらいでサクっと終わって楽しめる、良いゲームないかな~とぼんやり探して辿り着いたのがこちら、『Mosaic』というわけです。完璧に顧客が求めていたものでした。ありがとうございます。
そういうわけで、今回はこの『Mosaic』のレビューと、簡単な解釈について書いていこうとおもいます。「総評」まではネタバレ軽微、「解釈」はガッツリネタバレです。ニーズに合わせてお楽しみ下さいませ。それでは、お付き合いの程、宜しくお願い致します。
↑良いパケ絵だ……。
概要
『Mosaic』は様々なプラットフォームでプレイ可能なアーティスティックなゲームです。わたしは PS4 で遊びました。
開発元はノルウェーの Krillbite Studio さん。ノルウェー製のゲーム、初めて遊びました。同じ北欧で言えば、スウェーデンの Coldwood Interactive さんが開発した、『Unravel』シリーズなどがありますね。こちらも良作。
北欧のデヴェロッパー、今後もどんどん活躍していって欲しいですね!
ゲーム内容としては、基本的には、所謂「『Dear Esther』ライク」と言われる、ウォーキング・シミュレータに近いと思います。三人称視点ですし、相違は多くありますが……。「走れない」という点は一緒です。アクションも謎解きもほぼ無し。わたしはこの類いのゲームが滅法好きなのですが、好き嫌いは分かれるかと思います。最近は市民権を得てきましたね。
総評
良作だとおもいます。最近は「『Dear Esther』ライク」作品も増えてきた中で、どう差別化をするのだろうとおもったのですが、シンプルなグラフィックとメッセージ性、現代だからこそ響くテーマ選択と、要所を的確に捉えています。
わたしがプレイした状況は実にこのテーマに符号しており、このタイミングでプレイできてよかったな、とも思います。と、申しますのも、こちら、「現代社会の規範性を弾劾する」がメインテーマになっておりますから、課題疲れの息抜き、というわたくしの状況は正にドンピシャだったわけです。
勉学や仕事でお疲れですか? 『Mosaic』では、強い敵に蹂躙されることも、難解な謎解きに頭痛を誘発されることもありません。息抜きに持ってこいです。さあ、今すぐ!
1. グラフィック
『Mosaic』の特徴は、そのシンプルなグラフィックと、「規範的」生活の描写と芸術の対比にあるでしょうか。
都会生活は、モノトーン調で描かれます。
↑大渋滞。
↑エスカレータ。
↑会社。
しかし、心に安らぎを覚えると……。
↑太陽ォォォオ!!(※それは違うゲームです)
↑ストリートミュージシャンとの出逢い。
シンプル、だからこそダイレクトに響くものがあります。
2. 音楽
『Mosaic 1% Edition』には、サントラも付属で付いてきます。有り難や。
ゲームの設定上、特段「名曲揃い!」というわけでもありませんが、無機質なコンピュータ・ミュージック、ノイズと、「音楽」の差は素晴らしいです。
Chapter 2 では、蝶を操作することになりますが、ここでの曲が当記事のタイトルにもなっております『A Vucchella (かわいい口元)』。イタリア歌曲です。当方は音楽劇の愛好家でもあるので、「急にオペラ始まるやんどうした!?」と思いました()。教養力が試される。
歌っておられるのは、自国の歌手を起用しておられて、ノルウェーのテノール、ホーコン・コーンスタ氏。軽やかな歌声です。
サントラ付属ではないヴァージョンをお買い求めの方はこちらから。アルバム全体もめっちゃ良いです。
こちらの『Im Treibhaus』の視聴ページに飛んで下さった方はお気づきかもしれませんが、このコーンスタ氏、とんでもない多彩であらせられ、サックスなども吹きます。そう、つまり、『Mosaic』に於ける「音楽」シーンではコーンスタ氏率いるバンドが演奏しているのです! 正に芸術の象徴!
『Mosaic』では、「音楽」は重要なトリガーとなっているので、押さえておきたいミュージシャンですね。
3. 主題
このゲームの主題は、前述のように、「規範からの脱出」。このコロナ禍にあっては、早朝出社・激務・残業・睡眠不足、という悪の社畜サイクルも減ってきている(と信じたい)のですが、『Mosaic』の主人公は、正にこの絵に描いたような社畜生活を送っています。
そこで、「芸術」「仲間」「動物」、そして特に「音楽」に出逢い、人間らしい生を、心を、個性を、魂を取り戻し、発展させる、それが目的です。
「規範」は、無機質なモノクロ、正確無比な正六角形で示されます。誰もが同じ輪郭で、顔は描写されません。正六角形は、蜂の巣にも似て、「働く」という寓意を促進させています。
↑広告も「働け」と申しております。
一方、主人公が、そして社会が取り戻すべき「心」とも称すべきものは、鮮やかな色で、不定形です。それこそが斯く在るべき姿なのです。
この主題は、現代の多忙な大人には深く刺さるのではないでしょうか。
4. Blip Blop
このゲームの特色は、社畜生活を追体験できるところ。主人公を含めた登場人物たちは皆背中を丸め、スマートフォンに夢中。そしてこの世界での大人気ゲーム、それこそが「Blip Blop」!
ただ連打するだけ。そう。ただ連打するだけのゲームです。それが大人気。
まさかそんな? いえいえ、この据え置きゲームが繰り出す、強烈なまでのソシャゲ批判! 心底スカッと致します!
金魚も申しております。ただ連打するだけのゲームの何がよいのだと。心に刻みつけるべきはこのゲーム、『Mosaic』、つまり、芸術だ!!……
ちなみにこの「Blip Blop」、ちゃんとスマホでも配信されております。
↑やってみた。
う~ん、原作通りのクソゲー! 素晴らしい! 意図的に作られたクソゲーって考えるとほんとうにセンスある……。
そしてゲーム内でスマホゲーとしてできたゲームが、実際にスマホゲーとして遊べる! なんというメタ性! なんという、なんという皮肉さ! 素晴らしきかな……!!
さあ、あなたも Blip Blop を DL して今すぐ「規範」的人生を送ろう!(※真逆)。
解釈
当方は考察書きなので、基本的に新しいゲームタイトルをクリアしたら考察記事を数本書くことが多いのですが、この『Mosaic』、流石に考察ゲーという訳でもないので、簡単に解釈を記す程度で留めたいとおもいます。プレイをすれば自明なことかとおもいますが、取り敢えず言語化を。
ここからはネタバレ大につき注意されたし。
ゲームの主題は前述の通り、「規範からの脱出」です。
各チャプター毎に主人公の幻覚のような世界に迷い込みます。Chapter 1 の窓の破壊と Chapter 2 の建造物の破壊。これは明らかに破壊衝動を表しているとみてよいでしょう。Chapter 1 の朝焼けへ吸い込まれる描写は、美との邂逅、そして逃避でしょうか。
蝶に乗り移るのは、自由への憧憬でしょう。しかし無残に散ってしまいます。
興味深いのは Chapter 2 の後盤です。主人公はベンチに座ってサックスの演奏を聴き、それが心に響き快感を得ます。そして、死体を見つけた後、主人公は小人と化し、大きな靴に踏まれてしまいます。視点を変えて死体と同じ体勢になると、その死体がむくりと起き、主人公として復活します。その際、見落としがちですが、実は死体のみならず、主人公を踏みつぶした靴も主人公のもので、ベンチに座る際の動きと連動しています。つまり、主人公が主人公を踏みつぶしているのです。「規範」に自らを押し込めようとする主人公を表しているのだとおもいます。
Chapter 3 では、主人公が仕事で行っている作業で正六角形を辿る正方形が、自分たち色のない労働者に見立てられます。プレスされた労働者たちは正方形のボックスと化し、別の労働者たちにレールに沿って運ばれていきます。二層構造のメタ性がここに生まれます。プレスされ「均一化」され、レールに沿って運ばれるという「規範」の象徴です。
又、リスに絡んだビニール袋を取り払ってあげる、ホームレスに小銭や傘を渡すことなどの「善意」も個性的な行動として解釈されていることも興味深いです。
Chapter 4 では、ビル群が動いたり、沈んでいったりしますが、これは主人公の中で「規範」が崩落してゆくと解釈するのが筋でしょうか。それにも関わらず、主人公は歩を緩めない。どこへ行くべきなのか、どこへ向かっているのかも知らずに。そのことを金魚に咎められもします。
最後、ビルの頂上では、矢印アイコンによって主人公を天へと引き上げられますが、墜落してしまいます。解放、そしてイレギュラーな行動も、まだ時期尚早ということでしょうか。
鏡の部屋で視点が移ってゆく様は、未知の自分、押し込められた自分との会遇と解釈できます。Chapter 2 では踏みつぶした自分を、今度は抱き締めてあげる。大きな成長です!
押し込められた自分といえば、金魚は主人公の「個性」「心」の結晶のような存在であると考えられます。金魚は分岐でトイレに流してしまうこともできますが、戻ってくるので実質的に分岐になっていません。主人公の「心」は、押し込められようとも、死んだわけではないのです。
Chapter 5 では、主人公は仕事を辞め、労働、会社の象徴たる「M」を破壊しにいきます。これは冒頭の描写からもわかる通り、立方体を「視点を変えて」見た形です。
道中水槽が四つありますが、その中に一匹ずつ金魚がいます。しかし、どれも腹を上に向けて動かず、おそらくは死んでしまっています。
↑ちなみに会議室では Blip Blop 開発運営作戦会議中。 Blip Blop、主人公の会社のゲームだったのか……してみると、主人公、なんたる社畜だ……。
恐らく、水槽が四つというのもポイントで、Chapter 4 までの主人公の押し込められた心を一日ずつ表しているのではないか、と推測できます。
それにしても、何故「金魚」なのでしょうか? 考えてみましょう。登場時、主人公が歯磨きで口を濯ぐ際に口から現れ出てくることから、主人公の魂のようなものであることは想像がつきますし、その「排水」というシチュエーションから、魚の形状には納得がいきます。そして「トイレに流す」というギミックからも、魚であるということは重要なのでしょう。更に言えば、金魚の鮮やかな鱗は太陽に似ます。且つ、思い出したいのが各夜の描写です。このときの BGM のタイトルは「Submerged(水没)」ですし、 Chapter 5 では金魚が溺れた主人公のシャツを咥えて水面へ引き上げ、彼を救います。このようなところから、「金魚」が選ばれたのではないか、と思います。
余談ですが、『Submerged』といえば、同題の素敵なゲームがあります。
『Mosaic』が楽しめるプレイヤーさんでしたら、恐らく好きだとおもうので、良かったら是非。
閑話休題。Chapter 5 は、実際的に言えば、主人公が会社を退職することを実にドラマチックに描いたものだと考えられます。そのことは、エピローグで主人公が作中で出逢ったミュージシャンたちと演奏する様からも推測できます。
↑服装も個性的になっています。よかった!
尚、Chapter 3 ではショーウインドウが複数ありますが、スーツには見向きもしなかった主人公が、ギターには注視しています。主人公は元々ギター弾きだったのですね。このような細かい設定も嬉しい!
斯くして、主人公は自らが押し込めてきた「個性」を解放し、「規範」を脱したのだった。良い話だ……。
主人公が「規範」のうちにあるとき、「敵」だと思っていた色の付いた不定形は、実は最も大切な「魂」だったということが最後にわかる。素晴らしい演出です。そして、社会(会社)は、「魂」を押し込め、「規範」に従うことを強制し、自らそれを行うように指導してきます。それに抗え! という主題がわかりやすく示されており、又、現実的なテーマであることから、胸を打ちます。とても良いゲーム。
余談 その1
わたしは作中でたべものをたべるゲームが好きなので(考察書きなので作中の食文化などに興味がある)、毎日確認してしまった冷蔵庫情勢。
↑Chapter 1 から 4までは空っぽだが……。
↑Chapter 5 では黄色いお皿が!!!
こういうところからも主人公の変化が見て取れます。良い演出! 何食べたんだろう! 缶詰とかだったら主題に反するので処します! お料理して!
余談 その2
わたしはインディーズゲームの多くが投身自殺オチだとおもっています(ド偏見)。と、申しますのも、インディーズゲームでは「『ICO』ライク」作品や「『Dear Esther』ライク」作品が多いわけですが、この大元となった2作品では、どちらも物語後盤で主人公が高所から落下する描写が見られるからです。
そして、ライク作品では、ここもリスペクトしているのか、とにかく物語の後盤で主人公が落っこちる!
まさかと思いましたが、『Mosaic』も然りであった……なんということだ……。
↑これはこれで絶景。
↑落下。
また「インディーズゲームの大半は投身自殺又は落下事故オチ」説が補強されてしまったようだな……。
余談 その3
作中のスマホのニュース、めっちゃ面白いです。是非読んで下さい。わたしのオススメはプライバシーの権利ガン無視記事。敢えて画像無しで。各自自分の目で見てみて下さい! めっちゃ草生えます。
最後に
こんなところでしょうか! 2000字くらいで切り上げようとおもっていたのに、6000字近く書いている謎。いつものことですが……。
特に「解釈」が、皆様の理解促進に繋がっていれば幸いで御座います。
『Mosaic』、息抜きにちょっとゲームしたいなぁ……勉学や仕事に疲れたなぁ……という方には胸を張ってお勧めできるゲームです。是非ともその目で、その手で社畜の魂を取り戻してあげてください。
それではこれでお開きとさせて頂きます。お付き合いの程、ありがとうございました!