こんばんは、茅野です。
マリインカ来日公演行ってきましたよ!(今更) 『スペードの女王』と『マゼッパ』を観ました。いや~~、流石の一言に尽きますね。
『スペードの女王』の方は、ペテルブルクに遊びに行ったときに正にこのステパニュク演出を観ていて、この演出が素晴らしいことを知っていたので、再び、それも日本で観られるとは! と小躍りしておりました。
↑実際に行った際のレポート。
スペード!!♠🃏 pic.twitter.com/XdKBbynpA0
— 茅野 (@a_mon_avis84) November 30, 2019
↑感想は簡単ですが連ツイで纏めてます。
『マゼッパ』の方は、流石にわたしも初見でした。いや、よく持ってきてくれました! ゲルギエフ氏にしか出来ない芸当だとおもいます。確かに筋に難ありなのは否めませんが()、大迫力で、堪能させて頂きました。個人的にフフッってなったのは唐突な『チェレヴィチキ』ネタで、チャイコフスキーもモーツァルトみたいなことをするんだなァとニヤニヤしてしまいましたね。
語彙力のないレビューはこれくらいにして、今回の議題は「何故グレーミンとエレツキーのアリアを混同するのか」です。そんなの混同したことないよ、って方はブラウザバック。
チャイコフスキーのオペラが好きな方でも混同しがちなのがこの二曲です。何って、このわたしもオネーギンを好きになりたての時は頻繁に「どっちだっけ?」ってなっていたので間違いありません(迫真)
マリインカ来日公演で『スペードの女王』の感想サーチをしていたとき、この混同をするのはわたしだけではなかった、ということに気がつき、ではちゃんと論理的に類似点を纏めてみよう! と思い立ち、この記事を書くに至りました。混同しがちな皆さん、大丈夫です。この二曲は似ています(?)
それではお付き合い宜しくお願いします!
キャラクターが似ている
まず、何よりも、このアリアを歌う二人のキャラクター性が似ているというのが大きなポイントでしょう。グレーミン公爵とエレツキー公爵は、いずれもヒロインを巡って主人公との三角関係を構成しています。又、二人とも主人公よりも落ち着いていて、社会的地位がある、という共通点もあります。
声域も、グレーミンはバス、エレツキーはバリトンと、重低音が基となっています。
更に、この二人は原作では重要な位置を占めません。グレーミン公は「N公爵」として一瞬名前が出てくる程度にすぎず、エレツキー公に至っては影も形もありません。
↑グレーミン公についてはこちらの記事も参照してください。
よって、ほぼ完璧なチャイコフスキーの創作、ということになるのですが、この二人が似ているのは、チャイコフスキーがこういうキャラクターが好きだったからなのかもしれません。
『マゼッパ』を観ていてもおもったのですが、チャイコフスキーってもしかして老人×若い娘のカップリングが好きなのか?
歌詞が似ている
似ていると感じる二つ目の理由は、歌詞だと言って間違いないでしょう。
歌詞の一部を抜き出してみましょう。
グレーミンのアリア
Любви все возрасты покорны,
Ее порывы благотворны
И юноше в расцвете лет
Едва увидевшему свет,
И закаленному судьбой
Бойцу с седою головой!恋に齢は関係なく
恋の発作は為になる
世を知ったばかりの青年にとっても
運命に鍛えられた白髪交じりの軍人にとっても
こちらはグレーミンのアリア冒頭部です。
エレツキーのアリア
Я вас люблю, люблю безмерно,
Без вас не мыслю дня прожить,
Я подвиг силы беспримерной
Готов сейчас для вас свершить!
О милая, доверьтесь мне!私は貴女を愛しています、とてつもなく
貴女無しでは生きていくことが出来ません
あなたの為ならいつでも 身を捧げましょう
愛する人よ、私を信じてください!
こちらはエレツキーのアリアの最後。
グレーミンのアリアは第三者(オネーギン)に語りかける形、エレツキーのアリアは愛の告白という違いはありますが、どちらも愛を歌っています。いかにもアリアらしい。
オーケストレーションが似ている
そしてこの二曲、なんと言っても類似点はオーケストレーション。
それぞれ冒頭部を見てみましょう。
グレーミンのアリア
グレーミンのアリアは変ト長調、二拍子です。冒頭部のオーケストレーションは一拍目がコントラバスとチェロのピチカート、二拍目がホルンという形で続いていきます。
エレツキーのアリア
エレツキーのアリアは変ホ長調、四拍子です。冒頭部は一拍目にコントラバスのピチカート、二拍目にクラリネットとイングリッシュホルンが、同じく三拍目から二分音符が入ります。
聴いたことがある方には絶対にわかって頂けるとおもうのですが、この、共通する「ずん……っちゃー」ってやつが凄く似てるんですね。
又、グレーミンのアリアは「アダージオ」、エレツキーのアリアには「モデラートのように」という速度標語があり、ゆったりと愛を歌い上げる様にも共通点を見いだせるでしょう。
見分け方
このように、ちゃんと聴けばわかるけれども適当に聴いていると「あれ? どっちだっけ?」となりかねないほど共通点を備えているこの二つのアリア。簡単な見分け方をご紹介します。わたしがオネーギンを好きになりたての時に使っていた見分け方です。
やはり一番わかりやすいのは歌詞です。ロシア語がわからなくても大丈夫!
グレーミンのアリアには、「オネーギン、」と呼びかける歌詞が結構冒頭に出てきますので(先程↑で引用した歌詞のすぐ次です)、オネーギンの名を呼んでいればそちらがグレーミンのアリアです。とてもわかりやすい。
「もっと最初の方で!」ということでしたら、"Я вас люблю"というこのセンテンスだけ覚えて下さい。ロシア語での"I love you"です、覚えておいて損はありません。こちらがエレツキーのアリアの冒頭に当たります。グレーミンがオネーギンにこれを言ったら軽く事故ですので、"Я вас люблю"から始まったらエレツキーのアリアだと思ってください。
最後に
ひとはグレーミンとエレツキーのアリアを何故混同してしまうのか、改めて冷静に考えてみました。お付き合いありがとうございました。
スコア譜を見ていておもったのですが、チャイコフスキーのオペラでオーケストレーションの類似点を探すのはとてもたのしそうです。特にオネーギンとスペードは同じプーシキン原作ということで、探せば色々発見があるかもしれません。
チャイコフスキーのこういったバスやバリトンの重厚で甘くて美しいアリアは最高ですよね。似てていいのであと10曲くらいこういうの書いて欲しい。ロシア語、低い声との相性が特にいいと個人的におもっているので……ロシアオペラの主人公にバリトンが多いのも納得です。
マリインカ来日を切っ掛けにロシアオペラの上演機会が増え、ファンが増えるといいなぁ~と願いつつ、オネーギン限界オタクは筆を置こう(※パソコンですが……)とおもいます。それでは、よい観劇ライフを!