世界観警察

架空の世界を護るために

新宿フィルハーモニー管弦楽団『エフゲニー・オネーギン』 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

先日の World Ballet Day でシュトゥットガルト・バレエさんが『オネーギン』のリハーサルを公開していたのですが、リハーサルということもあり、ピアノ伴奏で行っておりました。このピアノ版、オタクとしては是非とも楽譜を拝見したいところなのですが、残念ながら非公開。

痺れを切らして、ここ二日間、「鏡のPDD」を自力で耳コピして楽譜作成ソフトの「finale」で採譜しています。オーケストラ曲から編曲するのは骨折りですが、ピアノからピアノ譜へ、であれば耳コピでなんとかなる!と思いまして。素が脳筋なんですよね……(自己紹介)。いや、己の耳コピと採譜の能力はこの為にあったんだなと思っています!

 完成し次第、記事にしたかったのですが、この前著作権法を学んでしまったもので(?)、幾ら自力で作成した譜面とはいえ、著作権法規制上公開することができないことを理解しております。己が供給の少なさに喘いでいた難民オタクなので、同じ苦しみを味わう同志にせめて供給を出したかったのですが、ヘタに法を突き破って公式に迷惑を掛けるのはファンとして何としても慎みたい事項です。というわけで、後日、なんとか法に触れない範囲で、ご紹介させてくださいね。お楽しみに~!

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↑ 取り敢えず申し訳程度のサンプル。いつもこんなかんじで楽譜作ってます! 当記事執筆現在、70小節まで採譜済み。

 ご存じのように、わたしは『オネーギン』という作品を愛好しているオタク。ピアノを触っていて、自分の指先から供給出てきたら凄く興奮しますよね。というわけで、ここ二日間は夜通しずっと耳コピ・採譜作業をしていて、二徹状態。アドレナリンがめちゃくちゃ出て、睡眠の取り方わからなくなりまして……(?)。

 

 そんなわけでバレエ版『オネーギン』に現を抜かしていたら、脳をバレエ版から切り替える暇もなく、今度はオペラ版がやってきた! 二徹明けに生の『オネーギン』を浴びて生きて帰宅できるのか不安だったんですけど、なんとかなったので現在記事を執筆しております。健康だけが取り柄です。しかし、そんなに供給があってもいいんですかね? これあれですよね、この後『狂四郎2030』みたいな展開になりませんよね?(?)。

 

 というわけで今回は、新宿フィルハーモニー管弦楽団のオペラ『エフゲニー・オネーギン』抜粋のレビューになります。同日同時刻、ジョナサン・ノット指揮のコンサートがあり、周りのクラシック音楽ファンは皆こぞってこちらに行っていたようですが、ブレずに独り『オネーギン』を観に行く、それがオタクというものです。この作品とあらば取り敢えず行きます。だからもっと上演して~!

 

 アマチュア・オーケストラの『オネーギン』は二回目ですね(一回目のレビュー記事。書いたのがかなり前で、我ながら黒歴史レベルですすみません)。基準にもよりますが、オペラの『オネーギン』は合わせるのが難しい作品なので、なかなか挑戦的なプログラムであったと思います。

 公演があることを知ったのは、Twitterから。タイトルロールを務めたヴィタリ・ユシュマノフ氏のツイートで知りました。ヴィタリ氏、日本でロシア・オペラを愛好する人なら一度はお世話になったことあるんじゃないでしょうか。わたくしも、新国立劇場の『夜鳴き鶯』『イオランタ』は勿論行きましたし、『オネーギン』時の記事も既読です。

それから、昨年のオンライン講座第二回『プーシキン:ロシアの大詩人』にもお邪魔していました。

↑ こちらです。浅学なので、わたしも知らなかった情報が盛りだくさんで、勉強になりました!

 この講座でも、勿論『オネーギン』について触れられていたのですが、そこでお話を伺っていて、「で、あなたはいつオネーギン歌うんですか!? 早く聴きたい!」とウズウズしていたので、漸く舞台が整った、というところですかね。普通にめちゃくちゃ楽しみにしていました。

それでは、その感想を書かせて頂きます。お付き合い宜しくお願いします。

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キャスト

エヴゲーニー・オネーギン:ヴィタリ・ユシュマノフ

タチヤーナ・ラーリナ:那知上 亜美

ヴラジーミル・レンスキー:那知上 晃

オリガ・ラーリナ:小森 美枝

指揮:小西 功祐

演奏:新宿フィルハーモニー管弦楽団

 

座席など

 アマチュアのコンサートには行き慣れないので、手ぶらで行って当日券を買う、というのが不慣れで怖くて、「当日万が一観られなくても気落ちしないようにしよう」みたいな心構えをして行ったのですが(?)、すんなり入れて拍子抜けしました(緊張しすぎ)。

 座席は後方、ほんの少し下手側。経験則上、主役二人が下手側に立つことが多いのを踏んでのことでしたが、ビンゴでしたね。ちなみに、バレエ版でも、第1幕第2場のターニャの机も、第2幕第1場でのオネーギンさんの机も下手前なので、正面が当然一番として、それ以外で選べるなら下手側をオススメしています。と言っていると下手側の席だけ無くなりそう。

 しっかし、これは愚痴ですが、後ろの席の方が演奏中でも関係なくよく喋るし、飴の袋をカサカサさせるし、咳するし(ある程度は致し方ないとしても)、無法地帯か??と思っていました。少なくとも、わたしの真後ろでやる蛮勇さは賞賛に値……しませんね。謹んで貰って……。

 

プログラムノート

 上演前にプログラムノートを熟読。何故プログラムはフランス語なのでしょうか。ロシア語、それが厳しかったとしても英語でいいのに、何故。まさかこの日に Onéguine 表記を見るとは思わず、驚きました。

 

 そして、出ました、「タチャーナ」表記!()。『オネーギン』は、誠に誠に残念ながら、日本ではあまり馴染みのない作品ということもあり、結構登場人物名の表記揺れが激しいのですが、「タチャーナ」は中でもおもしろ表記の一種。

原語が Татьяна なので、直前の子音字と直後の母音字を区切る役割がある ьで т と я を区切っていますから、「チャ」という音にだけは絶対にならないんです。従って、普通に考えれば、「タチヤーナ」或いは精々「タティヤーナ」でしょう。英語表記では Tatiana になるので、「タチアーナ」「タティアーナ」辺りもまあわかります。「タチャーナ」って響きが「タチャンカ」っぽくて勢いよくてちょっと面白くないですか? 

 

 そして、オネーギンさんが23歳だと明言されています。過去に記事でも取り扱ったように、オネーギンの年齢はよくわかっていません。(ついでに言うとオリガの年齢もよくわかっていません)。

↑ 詳しくはこちらから。

 わたし自身、『オネーギンの旅』を手がかりに、この記事では自力で23歳説を検証していますが、研究者の間では23歳説はかなりマイナーです。出典はどこなんだろう……。

 

 キャストは「ロシアと縁深い人で固めた」ということですが、経歴が凄いですね。ダルゴムィシスキーの『ルサルカ』て。マジですか。ドヴォルザークではなく。最高すぎますね……観たい。

 

字幕の話

 字幕、どこから出すんだろう? と思っていたら、まさかの背後プロジェクター。そこかー! 従って、表示出来る字数自体は多かったはずなのに、それを活かすわけではなく、通常通りの2行表示。正直歌詞は覚えていますし、演奏会形式とはいえ演者の方々が結構演技をしてくださったので、あまり字幕は読み込んでいないのですが、特に違和感はなかったと思います。ただ、「あっそこ削っちゃうんだ!?」みたいなところは幾つかあって、有名なタチヤーナの手紙の書き出しとか、ごっそり削っていて勇気あるなぁと思って観ていました。

他にも、例えばカノンで «Нет! Нет! Нет! Нет!» と「否」が四連続するところがありますが、確か「だめだ、もう手遅れだ!」みたいな意訳になっていて、良いなと思いました。

 

 また、抜粋版ということもあり、削った部分についての説明が為されていました。これは良い試みですね! そして「タチャーナ」でやっぱりちょっと笑う。

 

第一幕

序曲

 勿論序曲から。アマチュアのオーケストラの場合、実力差が如実に出やすいですし、人数の関係から編成が指定されたものとは変わることがあるので、普段だったら埋もれてしまって聞こえない音がクリアに聞こえるのが魅力ですね。

今回は目立っていたのはファゴットで、個人的にも意外でした。楽譜も読んだことあるはずなのに、「あっここファゴットこんなことしてるんだ」みたいなのが改めてよくわかって面白かったです。

 

オリガのアリア

 合唱がないことによって何を聴いたのかがわからないシリーズ(致し方なし)。抜粋版自体にあまりお目にかかれないのでわからないのですが、オリガの出番ってほぼこの一曲なのに、よく呼んでくれた!と思いました。逆に、グレーミンがいないというのも意外。オリガがいるなら第2幕第1場の『В вашем доме(あなたの家で)』とかやってほしかったな~。ラーリナ夫人いないけど……。

 

 全体的にちょっと走りがちで、結構ルバートも掛けるんで、オケとズレることが多く、指揮者の方が「マジで?」みたいな感じで何度か振り返っていたのが印象的でした。声もかなり特徴的でしたね。

 

 オリガのアリアは、同じ音が連続するのが特徴。

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この G4, F4 の連続っていうのが厄介ですよね。というのもこれらは一般的な女性の地声の音程に近く、著しい高音や低音とはまた別に、声楽的な発声で歌うのが難しい箇所だからです。チャイコフスキーの鬼! 

ここに関して、もう少し声量があるとより望ましいかなと思いました。難しいのは承知ですが……。

 

レンスキーのアリオーゾ

 隠れた(?)人気曲、レンスキーのアリオーゾ。レンスキーもレンスキーで結構特徴的でしたね。何て言うんでしょう、ヴィブラートを掛けるのがはやいんですかね? こう、長い音を伸ばすときというより、歌詞を発音している最中からヴィブラートが始まるので、微妙に聞き取りづらさを生んでいる気がしました。

声質は明るめ。というか、今回のキャストは全体的に明るめな気がしましたね。ロシアオペラは全体的に暗め・重めを要求してくる傾向があるので、軽く明るい役柄が多いイタリアオペラなどが主流な現在のオペラ界を思うに、致し方ないことではあるとおもうのですけど……。

 

 いや、それにしてもヴィタリ氏のオネーギンがターニャをエスコートして退出するときの右手見ました?? 後ろに回すっていうね。それです、それが観たかった。やっぱり青年貴族は後ろに手を回して尊大に歩いてくれなくては! しっかし燕尾服の立ち姿が綺麗だ。前述のように、直前までバレエ版の採譜作業をしていたので、ヴィタリ氏ぜったいバレエ版でもやっていけるでしょ……(?)という謎の思考に囚われていました。

 

 気になったのは、オリガの靴音。曲の途中で走り去って行くのですが、靴音がかなり大きく響いてしまい、「いや今オネーギンさんが歌ってるんだが??」と怪訝に思いました。後ろの席のおじさんもですが、邪魔しないで欲しい~!

一方で、ターニャが走り去る時は靴音がせず、そうか、歌手の方は靴選びまで気を遣わねばならないんだ……と感じたりとか。

 

第1幕第2場序曲

 わたくしの特に好きな一曲でもある、第1幕第2場序曲! 弦楽器が大活躍する曲ですが、その分難易度も高いものです。特に、メロディラインでハイポジションを要求されるチェロには厳しい一曲。実際、音程がんばれ~~! と応援してしまいたくなる一幕も。

 この曲は指揮者によってどれくらい緩急を付けるか、表情を付けるかが大きく変わる曲でもあるのですが、今回はゆっくりめで、表情付けも少なくシンプルな感じでしたね。

 

 しかし、そこで切りますか、普通!? もう一音あったほうがよくないですか?!

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↑ 演奏されたのは赤線まで。でもオレンジ枠のところまでやった方が絶対いいですって!

フィリピエヴナの歌に被るから……という処理だったんでしょうけど、尻切れトンボ感がハンパじゃない……。

 

手紙の場

 ターニャの最大の魅せ場、「手紙の場」。ターニャはとても安定していましたね! 流石。もう少し声量があれば尚良いなあと思いますが、演奏会形式だとすぐ背後にオーケストラがいるし、大変ですよね。

 

 新宿フィルハーモニー管弦楽団さんは、木管の安定感が抜群。特にオーボエの方は一人だけプロか? という腕前。わたしはオーボエを吹いた経験がないので詳しいことはわかりませんが、管楽器のなかでも特に難しいと言われるオーボエであそこまで綺麗な音があの音量で出せたら、吹くのもきっと楽しいでしょうね……。

次いで良かったのがフルートで、チャイコフスキーオーケストレーションではこの2つの楽器が同時に演奏したり、ソロを回したりすることが多いので、木管が安定しているだけで締まりがあります。

特に「手紙の場」は、以下の音型があるところが「手紙」の本文にあたる、という特徴的なオーケストレーションが施されていますから、非常に相性がよかったのではないかと思います。

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木管の方々が曲目選んだのかな? と邪推しました。

 

 どこか盛り上がりきらないところはありつつも、全体を通して端正な歌で、良かったと思います。ちなみに二回目の «Вот он!» は下げる派でした。

 

オネーギンのアリア

 「手紙の場」の直後にオネーギンさんのアリアが来るの、展開的に少々しんどいですね。

背後の解説に、「タチヤーナがオネーギンに手紙を書いたのは彼の来訪のその日の晩で、オネーギンが返事をしたのが更にその翌日」という旨が記載されていましたが、実際はそんなにテンポのよい物語ではありません。原作第3章にあるように、タチヤーナは周りの人が自分とオネーギンの仲を推測する噂話を聞いて、更に彼を意識するようになったわけですし、手紙を出した後のオネーギンの来訪は、少なくとも2日以上は経過しており、ターニャは待ちきれずに青い顔でそわそわと彼を待っていたことも記載されています。

 

 タイトルロールにもかかわらず、あまり演奏機会のないオネーギンのアリア。わたしは勿論好きですけどね!! ヴィタリ氏のオネーギン楽しみにしていました。

柔らかい声質で、丸みのある響きが特徴。そちらも当然大好きなのですが、天下のオネーギン歌いとされたホロストフスキー様のような、よく言えば「輝かしい」感じ、そうでなければ「ギラギラ感」とでも申したらいいのでしょうかね、そういったものはなく、優しそうな感じがしました。

このことに関して、今回一緒に付き合ってくれた同期は、「『兄のようにあなたを愛しています』という歌詞があるけど、口から出任せで言っているんじゃなくて、本心から言っている感じがしたな」と言っていて、「わ、わかる~~」と思っていました。

 もう少し声量があればな~と思っていたのですが、後に判明したように、この段階ではまだ結構セーブしていますね。最後は下げる派でした。

 

第二幕

 第1場は全スキップ。ワルツやらないのは意外でしたね。鉄板だとおもっていたので……。第1場も名旋律の宝庫なので、機会があれば是非挑戦して欲しいです!

レンスキーのアリア

 というわけで、第二幕のトップバッターがまさかのレンスキーのアリア。話が一気に飛びましたね。

 う~~ん、少々発音が気になる気がします。最初の Куда から、 /u/ というより、/ou/ っぽいなあ……みたいな……。特にこの後の二重唱では、ロシア語のディクションまで担当されているヴィタリ先生と一緒になるので、ストーリー通り厳しい展開になるか……と危ぶんでいました。

 

 何と申しますか、「歌を歌っています!」という感じがして、「音楽を一から作っている」という感じがしなかったのが少々残念でした。作中で最も有名なアリアでもありますし(タイトルロール……)、美しい旋律に恵まれている分、このような歌い方だと、なんだかポップスっぽい感じがしますね。

そういえば、映像化されているポクロフスキー演出版のレンスキー役のニコライ・バースコフ氏はポップス歌手でもありますよね。レンスキーとポップス、意外と相性がよい説。詩人なのに……いや、だから、か……?

 

二重唱(カノン)

 カノンです。この辺りからヴィタリ先生の声量が増し、共演者を蹂躙していくようになります(?)。

 決闘シーンですが、ちゃんと小道具で銃用意してくれていました!! 嬉しい~! しかもしっかり銃声付きで、しかもその音がちゃちくないんです。更に嬉しい~!! 演出もよくて、レンスキーが正面向きで構え、オネーギンは後ろ向きで構えます。後者は視線も合わせませんし、片手また後ろに回してますし、明らかにやる気がない演技が大層よいです。えっこれ演奏会形式??

ヴィタリ先生ほんとに全幕演奏会形式でないやつでオネーギンやって欲しいですね……。役に対する解釈がよいですし、できるだけシンプルな演出が合いそう。カーセンは勿論ですが、スタニスラフスキーやグラハム・ヴィック演出も良いですね……やってくれないかな~~。

 

 面白かったのが、ザレツキーの扱いです。勿論、登場しないので、ザレツキーの台詞はカットされているんですが、最後はどうするんだろう? と気になっていました。というのも、最後は、«Убит?» «Убит!» と掛け合うところがあるからです。

結局どうしたのかというと、オネーギンさんが「殺ったか? 殺ったみたいだな……」という感じで、独り言のように処理していました。あなたが言うんかーい! まあ、ザレツキーさんバスですしね、いけなくはないですよね。

 

第三幕

ポロネーズ

 みんな大好きポロネーズ。前半のカリンニコフで絶好調だったトランペット隊。悪くありませんが、カリンニコフの方が調子がよかった気がしますね。一方で、トロンボーン、ホルンなどはトランペットに及ばず。

また、中間部でまたチェロが高音域でメロディを取る場所がありますが、そこも第1幕第2場序曲同様、もう少し踏ん張って欲しいところ。

 その中での、特にチェロの後に来るフルートの鮮やかさよ。やはり木管が強い。

 

オネーギンのアリオーゾ

 調子付いてきたオネーギンさんのアリオーゾ。

やっぱりロシア語と低音域の声って相性いいよな~とオネーギン聴く度に思いますよね。低音もよく響いてますし、高音も鮮やかです。

慣習的に少し加速するところは従来通りなのですが、どちらかというとオケの方が追いつけてないところはありましたね。

 もっと堪能したかったのですが、後ろの席の話し声が止まらずに苛々が募る『オネーギン』オタクの図に。注意したかったけど、それはそうとして自分が曲中に声を発するのもいやだったし……。むむむ。

 幕切れはエコセーズ派。わたしは初演版の方が好きなのですが、オーケストラとしてはきっとエコセーズに挑戦したいですよね。もう少しテンポが速くてもよいかも。

 

二重唱

 最後の二重唱。ここは甘い恋の二重唱ではありません。攻防戦です。戦いです。ストーリー上はオネーギンの「惨めな」敗北が「運命」付けられていますが、上演によってはそうはならないこともままありますよね。明らかにオネーギンさんの勝利で、歌詞が矛盾しているように感じる公演もあることも事実です。今回は正にそんな感じでした。

 人間の耳は高い音の方が拾いやすいようにできているのですが(イヤホンでないとコントラバスファゴットが聞き取りづらいのはそのせいです)、バリトンってソプラノ打ち消せるんだ……という新たな発見をしました。そんなことある?

 

 勿論、ターニャもよくて、決して悪かったわけではないですし、声量が著しく無かったとかそんなことはありません。折角のチャイコフスキーですし、もう少しドラマティックな表情付けが欲しいな、とは感じましたが、優等生的な歌唱で、粗はなかったと思います。従って、そうですね、相手が悪かった……という感じでしょうか。席が最後方部だったので、余計に音の響きや声量差を感じやすかったのもありますが。

 特に «Я плачу!» の前など、また木管が活躍していてよかったです。ちなみに、«Прощай навек!» ではなく、«Навек прощай!» 派。

 

 最後はターニャもオケもオネーギンさんが食ってしまいました。わたしは満足です!! ヴィタリ先生、全幕やって下さい!!!(二回目)。

 

最後に

 通読お疲れ様で御座いました! 9000字ほど。

わたくし、『オネーギン』の追っかけなので、特に首都圏で公演があれば必ず赴き(ここ数年は長野など国内遠征も逃していません)、「最速」且つ「最長」のレビュー執筆を志しています。普段だったら24時間以内に1万字程度で投稿するようにしているのですが、前述のように二徹明けだったので、体力的に敗北しました。遅くなってすみません。

 

 アマチュアのオーケストラ公演では、技術や他の観客についてあまり指摘しすぎるのもどうかと思ってしまい、レビューを書くのが難しいところがあるのですが、それはそれとして、オタクとしては『オネーギン』を曲目として選んで下さることが大変に嬉しいのです。機会があればまた是非お願いします!

 簡単な内容に終始してしまいましたが、何かの参考になっていれば幸いです。しかも前半のカリンニコフに全く言及していないという。あまり詳しくないので、これを機にしっかり勉強したいと思います。ちょっとスヴィリドフっぽさを感じる曲ですね。ヴィオラ弾きの同期がカリンニコフファンなので、解説を付けて貰おうと思います。ちなみに彼女は中学生の頃初めて舞台に乗った曲が『オネーギン』のポロネーズだったという素晴らしい同志なのですが、この作品のことを「オネエ」と略すので、毎度のことびっくりします。せめて「ネギ」だろ!(?)。というか、略す必要あるんですかね……。

 

 また『オネーギン』取り上げて貰えたら嬉しいですね。アマチュアでも何でも、この演目なら取り敢えず伺うので。宜しくお願いします!

 それでは、お開きとしたいと思います。ありがとうございました!