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グレーミン公爵を探せ! - キーゼヴェッター『タンゴ・パセティック』

 こんにちは、茅野です。

最近は『オネーギン』の供給が過剰で、正に嬉しい悲鳴です。アドレナリンが出過ぎて寝不足が酷い! しかしわたしが確認している限りでは、東京で次に『オネーギン』が上演されるのは来年3月です。待てない!!

 

 というわけで、今回も『オネーギン』の記事。書く予定が全く無かった突発・単発記事です。

事の発端はチェロを弾くのが趣味の父との会話から。彼はチェロ弾きなら当然とも言えますが、伝説的チェリスト、ミッシャ・マイスキー様の大ファンで、CDをコンプリートしているオタクなのですが(CDのみならずチェロケースなどにもサインしてもらって跳ねてます)、この間唐突に「そういえば、マイスキーのCDに入ってる曲で、グレーミンのアリアっぽい所あるんだよね。しってる?」と。

「知らんわ! そういうことはもっと早く言わんかい!」とCDを借りてみると、「た、確かにこれはグレーミンのアリアだ……!」と。これは完全にマイスキーオタクのお手柄です。

 というわけで、今回はペーター・キーゼヴェッター作曲の『タンゴ・パセティック』から、グレーミン公爵を探し出します。お付き合いの程、宜しくお願いします!

↑ その該当CD。マイスキーアルゲリッチクレーメルという暴力的な布陣です。オススメ!

 

 

タンゴ・パセティック

 まずは作曲者をご紹介します。ペーター・キーゼヴェッター氏は1945年生まれ、ミュンヘンで学び、活躍したドイツの作曲家です。

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↑ 大きいキッパみたいなお帽子(?)かわいい。

 現代の作曲家ですが、古典的な手法を好んだようです。世界的な超著名作曲家!というわけではありませんが、ドイツではよく知られた存在とのことです。

 

 『タンゴ・パセティック』はそんな彼の作品です。ヴァイオリン、チェロ、ピアノのトリオ曲で、名前の通りタンゴ調なのですが、聴けばわかるように、言ってしまえば「チャイコフスキー・名旋律メドレー」なのです。

 

構成の分析

 それでは実際に、その「名旋律メドレー」の内容を分析してみましょう。

 最初に登場するのは、その曲名の通り、ピアノによる交響曲第六番、通称『悲愴』ですね。一番有名な部分の旋律ではないので気付きづらいかもしれませんが、一方で第一楽章の冒頭でもあるので、わかりやすい方だと思います。

↑ このファゴットのところです。

 一方、かなりアレンジが効いていることから、ロシア歌曲『黒い瞳(Очи чёрные)』だとする向きもあります。調べてみたら、『黒い瞳』ってチャイコフスキーの活動時期に作曲されてるんですね。知りませんでした(1884年)。

↑ サムネイルが好きすぎる。あざとかわいい。

 こうやって聴くと……意外にもメロディラインが似ている……!! 曲調が全然違うので全く気付かなかった……。

 

 次に、「チャイコン」として有名なヴァイオリン協奏曲の主題をヴァイオリンが奏でます。めちゃくちゃわかりやすいですね。チャイコン、曲調にしても、当時のチャイコフスキーの状況を考えても、「恋の賛歌」って感じで特に甘い旋律が素敵ですし、何より我らが『エヴゲーニー・オネーギン』と同時期に書かれていますからね、最高ですよね。

↑ イツハク・パールマンチャイコン、いつ聴いても化けモンですよね……すき。

 

 次いで演奏されるのが、そう! チェロによる「グレーミンのアリア」。後に詳しく見ていきます。しかし、この「超ド定番! チャイコフスキー名旋律メドレー」なこの中に混ざる『オネーギン』ですよ! いやー、キーゼヴェッターはわかってますね~。しかもポロネーズとかレンスキーのアリアとかじゃなくてグレーミンで来ましたからね。それをチェロに充ててますからね。わかってますね~。

↑ アイン・アンガー氏、ワーグナーオペラのイメージが強いですが、実はグレーミン歌いでもあるんです! ありがとう好き。こんなグレーミンがいたらオネーギンさんとか要らんですよねそれはわかる(寝返り)。

 

 その後、また少しピアノによるヴァイオリン協奏曲に戻ります。

そこから「ロココの主題による変奏曲」。チェロのド定番曲ですね。しかし、キーゼヴェッター版では何故かチェロではなくピアノが弾くという。トリッキーですね~。

マイスキー様が最強みたいなところはやっぱりある。

 

 二分程度の短い曲なので、これでお終いです!

 

グレーミン公爵、現る!

 前節で見たように、『タンゴ・パセティック』にはグレーミン公爵のアリアの冒頭が登場します。タンゴ風なリズムにアレンジされていますし、装飾音があったり、バスのアリアなのに高音になっていたりと、暈かされてはいるので、ここで一度楽譜を見てみましょう。

 こちらは『タンゴ・パセティック』のチェロのパート譜上段、ハ音記号に変わる Solo. とあるところからがグレーミンのアリアです。

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そしてこちらが、グレーミンのアリアの冒頭です。

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調や音部記号が異なりますが、丸っきり同じであることがご理解頂けるかと思います!

 

最後に

 通読お疲れ様で御座いました。弊ブログでは最短クラスの2500字。こんなに短いのに記事にしていいのかな? まであります(普段が長すぎるだけ)。

 

 『タンゴ・パセティック』は言う程知名度が高い曲というわけでもないですし、調べてみたところ、ヴァイオリン協奏曲などへの言及は複数の人がしているものの、誰もグレーミンのアリアには気付いていないようだったので、書いてみました。そんなに『オネーギン』って知名度ないですか? 泣きます!!

 

 しかし、このようにオマージュ的に使われているのを探し出すのもまた楽しいですね! またこのような小ネタを発見できたらご紹介したいと思います。

 それではお開きとさせて頂きます。また別記事でお目にかかれれば幸いです。