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ヒューストン・バレエ『白鳥の湖』 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

漸くレビューの消化が進んで参りました。これでなんとか11月も観劇に出掛けられそうです。よかったよかった。

 

 というわけで今回も、レビュー執筆マラソンです。第七回は、ヒューストン・バレエの来日公演より、『白鳥の湖』を鑑賞して参りました。10月29日マチネの回です。

 

 ヒューストン・バレエは一度も拝見したことがなかったので、王道の『白鳥』から、というのは良かったかもしれません。みんな大好きチャイコフスキー

 

 それでは、簡単に雑感の方を。お付き合いの程よろしくお願い致します。

 

 

キャスト

オデット / オディール:ベッケイン・シスク

ジークフリートチェイス・オコーネル

ロットバルト:クリストファー:クーマー

スペインの姫:スーヨン:チョウ

ナポリの姫:アリソン・ミラー

ロシアの姫:アリッサ・スプリンガー

ハンガリーの姫:藤原青依

指揮:ジョナサン・マクフィ

演奏:シアター・オーケストラ・トーキョー

 

雑感

 上演時間はピッタリ3時間構成。逆に凄い。短い 3、4 幕の間にも休憩を挟むスタイルでした。

 

 今回は U25 席でお邪魔しておりました。B 席相当で、3 階 R 側。この間の新国『ジゼル』の時と席を取り替えて欲しい……(※誤って L 側を取るという失態を犯し、席選びに失敗しました)

↑ 詳細。

 しかし、席について驚かされたのは、客席が閑散としすぎていることです。これはダンサーさん凹んじゃうんじゃないか、という客のまばらさ……。

今回、既に席を取っているにも関わらず、物凄く広告流れてくるな……席売れてないのかな……と考えていたのですが、その予想は的中していたようです。

結論から申し上げれば、とてもよい公演(舞台上は……)だったので、勿体ないな、と感じていました。

 

 序曲では演技付き。オデットが白鳥にされるのですが、ロットバルトの手下(?)や、黒鳥たちが出て来るのが特徴です。確かに、黒鳥はオディール以外にも居てもよいだろう、と思うので、これは良改変。

 

 第一幕。第一幕第一部では人間社会が描かれますが、男性陣大活躍です。

王子、大柄で非常に華があります。お衣装だけではなく、「私が主役です!」というオーラがありました。

それにしても、文化会館は、特に来日全幕をやるには舞台が狭そうで狭そうで。パが明らかに小振りになっていると、勿体ない感じしますよね。

 

 今回の主演お二人は、プライベートでもパートナーなのだそうですが、お二人とも『オネーギン』をレパートリーに持つ、クランコ財団お墨付きダンサーでもあります。

わたくしは普段『オネーギン』を執拗に追いかけているオタクですので、是非ともお二人の上演を拝見したいところ。

↑ お衣装が本家とは少々異なります。それにしても、21歳の女の子の趣味ではないよな、この色。わたくしは好きですけれども……。

 

 第一幕から、バレエ的な魅せ場が盛り沢山です。

各国の大使団が早速やってきて、踊りを披露します。中心となる女性は王女設定。

今回はスペイン悪役じゃなかったです!! 良かった!(?)

↑ 悪役になりがちな『白鳥の湖』スペイン大使団の謎を解く記事。わたくしは悪役スペインも好きですよ。格好良くて。

 

 ポーランドがリストラ、代わってロシアが参加しています。ポーランド分割?

白鳥の湖』の舞台設定がいつのどこなのか、というのは議論が絶えませんが、中世末期ですと、大荒れなロシアに黄金期のポーランドとなりますが、近世くらいまで時代が下ると、今度はロシアが領土を拡大しまくり、ポーランドに苦難の時代が訪れるので、今回の演出は近世くらい……なのでしょうかね。マズルカ好きなのでちょっと寂しい。

 

 『白鳥』がロシアで生まれた作品だからなのか、振付からしてロシア贔屓が凄いです。オディールが現れなかったら、ロシアと同盟関係になったかもしれないですね。

振りからして、尺、難易度、魅せ場と三拍子揃っているロシアですが、それに合わせて、ダンサーさんの方も頭一つ抜けている印象を受けました。今回、国益を多く得たのはロシア大使団でしょう。

 一幕ではオデット / オディールは登場しないので、ロシアの踊りを観たときに、「これよりヤバいの出て来るのか……」と思いました。

 

 スペインはキレがあって良く、ナポリはポール・ド・ブラが美しい。
ハンガリーは、どんな硬いポワント履いてるんだというような音が響いておりましたが、ピルエットがずば抜けて安定していました。

 いつも思うのでですが、スペイン、ロシア、ポーランドハンガリーナポリと、(時代にも依りますが)強国からの求婚者が殺到するジークフリート王子の国って、一体全体どんなヤバい国なんだ。金山があるとか……、地理的に政治・軍事・経済的な要になっているとか? 不凍港、欲しい!

 

 第二幕(今回の演出では第一幕第二場という扱いのようですが)。

オデットお衣装がめちゃくちゃカワイイです! パンフレットにもあるように、正にウォーターハウスそのもの。それにしてもパンフレット、内容うっっすいのに値段ぼったくりすぎでは? 正直買うか凄く悩んだ。

↑ ウォーターハウス画『シャロットの女』(1888)。題材はアーサー王伝説ですけれども、確かに「水辺に呪いを掛けられた白衣の乙女」という設定はオデットっぽいかも。

 オペラグラスで覗いても、紛う事なきシャーロット姫であった……。


 従来、男子禁制感のある『白鳥の湖』第 2 幕において、王子が殆ど常時いるのは、なんと申しますか、禁忌を犯している感が。女湯覗き見的な。しかし、メルヒェンの始まりとは、得てしてこのようなものであろう。

 

 白鳥は 16 羽編成。新国の『ジゼル』(ヴィリ 24 人編成)を観た後なので、大分小編成に見えました。

照明がかなり明るいです。従って、『白鳥』第二幕には是非とも欲しい、ミステリアス感が足りないような気は致します。

 

 四羽は、基本は従来通りながらも、結構早々に手を放してました。三羽は一羽リストラされて二羽に。

 第一幕、群舞が美しいので見逃しがちですが、舞台後方では、王子の友人たちがガンガン白鳥を撃ち落としていて、急にホラー感出てきたな、と思ったり。呪いが解けたら殺人容疑で起訴されたりしないものですかね。

 

 オデットの Va. を堪能したかったのですが、オーケストラが盛大にコケるので、思わずオケピにオペラグラスを向けてしまうという失態を……。観劇下手になってきたかもしれません。

フルートが入ると、絶対指揮を見ていないだろという突然の減速っぷりで、致し方なくそのテンポに合わせた結果、オデットが踊りづらそうにしていて、これは可哀想だ……と。

 

 この流れなので書いてしまいますが、オケがほんとに酷い。文化会館で上演するバレエで、「演奏がよかったな」と感じた試しがないのですが、今回は群を抜いて酷い。ほんとうに褒められるところが一切無い。

管楽器は、ホルンを中心に、音合ってる時の方が少なくないか? というコケ具合だし、弦楽器ですら音程が危ういので、物凄く悪目立ち。コントラバスが音外してどうする。かといって、ソロも美しくない……。ハープはミュートが粗いし、強いて言えば、オーボエは可、かなあ……というような。寧ろ『白鳥』でオーボエがコケたら終了しますが……。それはどうでもいいことですが、指揮者の動きもなんだか物凄く疲れそうな力の入れ方をしていて、舞台上のダンサーさん方にポール・ド・ブラを仕込んで貰ったらどうだろうか……みたいな。

折角来日してくれているのに、この音で迎えるのは失礼だろう、という領域。これならば録音を使った方がよい。

わたくしは、レビュー書きの中では甘口というか、オブラートに包んだ書き方をするほう、という評価を頂くことが多いのですが、そのわたくしをしてここまで書かせるレベル。酷い。チャイコフスキーだぞ? 『白鳥』だぞ?? 上演機会ナンバーワンだぞ???

 

 休憩を挟み、第三幕(第二幕)。
冒頭はワルツから。スペイン大使団が悪役になっていないこともあり、ワルツの途中で登場のファンファーレが入るのですが、音楽がぶつ切りなのが頂けません。折角の名曲、ワルツなのに……。制作時、音楽担当者はこの暴挙を止めなかったのか。

 ワルツは、各国王女がジークフリート王子と少し踊っていく形。社交ダンス風バレエはいいぞ。


 騎士に擬態した悪魔ロットバルトの登場。ロシアの王女は、漆黒のお衣装のロットバルトにダンスに誘われるも、怖がって父親?(大使団の代表の男性)の後ろに隠れてしまいます。これは実質ターニャ(暴論)。控えめで、自信なさげで、如何にも愛らしいです。
 オディールの正体が判明した際、皆『眠り』のように昏倒してしまうのですが、最初に起きるのも彼女だし、やはり振付のロシア贔屓が凄い。キャラが立っていていいと思いますけれど。ジークフリート王子が求婚しないのならば、わたくしが貰い受けたいまである。共にロシアをより良い国にしませんか(誰?)。

 

 オディールです。登場時、ロットバルトの裾を踏んでいて、ヒヤッとしました。以前、同文化会館にて、黒鳥が大きく転倒する事故を目視したことがあるので、尚更……。

 今回は 32 回転もバッチリで、安定感抜群。

そうそう、今回は観客が少なかったためか、新演出ゆえに誰も勝手がわからなかったのか、主役の登場時の拍手がなく。個人的には音楽が鳴っている時に拍手をするのは嫌いなので(まあ今回ばかりは掻き消してもよいと言えるほどの音でしたけれど)、有り難かったのですが、無いと無いで、それはそれで寂しいような気がしなくもなく。慣れの問題でしょうが。

しかし、流石にオディールの魅せ場では、拍手が。気持ちはよくわかります。

 

 王子の方も、ソロは良かったのですが、リフトでは疲れが見えるような気がしました。大丈夫か。

 

 再び休憩を挟んで第四幕(第三幕)。

ロットバルトの正体はドラゴンだった! という創作で、背景に深紅の目がぎょろりと光る、禍々しい黒竜カラミットが。このセット持ってきたんですか? 強い。

 ロットバルトの存在も、掘り下げたら面白そうですよね、といつも思います。個人的には、娘オディールがいるということは、彼にも妻がいる(いた)はずで、その辺りを詳しく知りたい。ロットバルトのスピンオフ作品とか欲しい。音楽はチャイコフスキーからで、是非とも宜しくお願い致します。

 

 白鳥になる呪いを掛けられた娘たちが、皆『シャロットの女』スタイルで、大変美しいです。チュチュのイメージが強い『白鳥』で、ロングドレスも堪能できるとは、なんともお得。

 

 前述のように、ライティングが明るいので、あまりミステリアス感はありません。

また、新国『ジゼル』を観た直後ということもあり、ついつい比較してしまいますが、『ジゼル』の方が動きが揃っていて、群舞としての質は高かったように思います。

 とはいえ、今回の演出では、白鳥はそれぞれ元は人間であるという設定が強調されるので、ある意味で「個性」が見えた方が、演出の意向には沿うのかもしれません。深読み。

 

 「ハッピーエンドともバッドエンドともつかない結末」とのことでしたが(メリバってこと?)、個人的な認識では、人身御供でハッピーエンド扱いというのは、どうも腑に落ちないのですが。感動というより、胸糞悪いなと感じてしまいます。ハッピーの定義とは。

まあ確かに、あのクランコ版のような悲壮感はありません。あの凄惨な溺死エンドには割とガッツリ引きましたし、わたくしを含め観客の間でも拍手を躊躇うような間が合ったことをよく覚えています。

 

 舞台は大変良かったです。初めてのヒューストン・バレエも、ウェルチ版も、大変楽しめました。期待以上です。これで席が埋まらないのは何かおかしい。

しかし、オケよ。本当になんとかしてくれたまえ。折角のチャイコフスキーなのに……と、満足しきれないまま劇場を後にするという、なんとも評価の難しい公演で御座いました。

 

最後に

 通読ありがとうございました! 割としっかり書いてしまって、5500字あります。お付き合いをありがとうございます。

 

 どうでもよいのですが、わたくし、ロシアの王子様というか、帝政時代の19世紀に帝位継承者であったニコライ・アレクサンドロヴィチ殿下という方をお慕い申し上げておりまして、好き好んで資料を読み漁ったりしているのですけれども、この間は彼の書いた手紙の翻訳を書いていました。

その中で、彼が狩りに出た時のことを書いているのですが、白鴨、鴫、鴎など、「白い鳥」ばかり撃ち落としていることに気が付きまして……。

↑ こちらです。天才的に聡明であらせられる殿下は、古語で手紙を書いたりします。怖い。

 「あ、王子様、「白い鳥」狩るんだ! というか、一歩間違えばほんとうに『白鳥の湖』案件だったな!?(?)」と、一人で興奮しておりました。舞台のドイツではありませんが、一応『白鳥』発祥の地、ロシアの王子様ですし。

ヴォルガ河には白鳥はいないのでしょうか。鳥の生息域分布は完全に専門外なので、お勉強しておきたいと思います。

 

 さて、これにて漸く10月のレビュー執筆マラソンは終了です。な、長かった……。これにて11月分が書き始められます! なんということだ! 実質的には終わらない!!

観劇に出たら、折角ですし備忘に一筆やっておきたいなと思うのですが、溜めてしまうと大変です。しかし、なんとか11月も楽しく観劇して参りたいと思います!

 

 それでは、今回はここでお開きと致します。11月の公演評記事でもお目に掛かれれば幸いです。