世界観警察

架空の世界を護るために

Beacon of Hope - 『Paradise Lost』レビュー

 こんばんは、茅野です。

暑くて外に出る気力が全く湧かないため、可能な限り引き籠もりの日々。

 

 引きこもっていると、なにか新しいことがやりたくなってくるものです。

「サクッと遊べて楽しく考察が書けるゲームないかな~」と探していると、随分前から目を付けていた『Paradise Lost』がセール中。

Switch で 600 円程度で購入可能になっており、更に溜めていたポイントを使ったところ 300 円に。もう迷う理由が存在しないので即決購入です。

 

 わたくしは一人称視点のゲームだとかなり画面酔いする人間なのですが、一人称視点のウォーキング・シミュレータには傑作が多い! ということで無理矢理プレイ。

酔いながらも楽しくて、一気に初見プレイを終えてしまいました。

 

 というわけで今回は、ゲームParadise Lost』のレビューになります。

概要、あらすじ、総評の3節まではネタバレ控えめ4節でガッツリネタバレをするので、お好きなところでスクロールを止めて下さい。

 

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

 

概要

 『Paradise Lost』は Nintendo SwitchPS4Steam(PC)Xbox でプレイ可能のゲームです。わたくしは Switch でプレイ。

 

 分類は「アドベンチャー」になっていますが、基本的には一人称視点のウォーキング・シミュレータです。所謂『Dear Esther』ライク。

 

 わたくしは一人称視点のゲームはかなり画面酔いするタイプなのと、考察を書く気満々でじっくり探索したので5時間弱掛かりましたが、一周するのに必要な時間は3~4時間程度のようです。

 

 開発元はポーランド PolyAmorous さん。現在発表しているのは今作だけの模様。美しいグラフィックと興味深いナラティヴ、魅力が一杯のカンパニーなので、今後に期待ですね。

 

あらすじ

PS store より。一部表記修正)。

 

第二次大戦に勝者はいなかった。

戦争は20年以上続き、ナチスがヨーロッパに核ミサイルを撃ち込んだとき、ようやく炎の中に終わった。その後、ヨーロッパ中央部は完全な破壊と放射能の謎に包まれたままだった。

 

地球最後の物語。

君は12歳の少年、Szymon(シモン)としてプレイすることになる。彼は母の死後、ポーランドの不毛の荒れ地をさまよっている時にナチスの巨大な掩蔽壕(バンカー)を発見する。彼は母が大事にしていた写真に写っている謎の男を探しているのだ。

 

放棄された掩蔽壕(バンカー)。

先進テクノロジーとスラヴの土着宗教が入り混じったレトロフューチャーなバンカーに降りていき、その中に隠された地下都市を探索しよう。ポーランドレジスタンスによる占拠から住人たちの最終的な運命まで、バンカーのストーリーを解明しよう。

 

Ewa(エヴァを見つけよう。

エヴァという名の謎の少女が、バンカーのテクノロジーを通じてシモンに接触する。彼女を見つけられれば、彼女が写真の男を知っているかもしれない。彼女が見つかったら彼はやっと、一人ではなくなる……。

 

―――――――――――

 要は、現実よりもナチスがやたらと強い上にやらかした if 設定です。

ナチスがヨーロッパに核をばらまき、人がほぼ死に絶えた世界で、最後の生き残りの(可能性がある)ポーランドのシモン少年が、ナチスが創り上げた巨大な地下帝国を散策する物語。スチームパンク・SFで、好きな人にはたまらない設定だと思います。

ARMORED CORE』のVシリーズが好きな人とかにお勧め。

 

総評

 『Everybody's Gone to the Rapture(幸福な消失)』が好きな人は可及的速やかにやるべし。ポーランド版 The Chinese Room」現る

逆に、『Paradise Lost』がお好きな方で、『Everybody's Gone to the Rapture(以後「消失」)』をご存じ無い方も直ぐにこちらをプレイしましょう。「イギリス版『Paradise Lost』」があなたを待ち受けています。

↑ 好きな作品なので、これでもかという程資料やら考察やら書き出しました。超名作。

 

 他作品で言うと、『消失』、『Firewatch』、『RiME』を足して三で割った感じ。

内訳としては、『消失』の「ウォーキング・シミュレータ」「美しいグラフィック」「少々ホラーテイストな無人の街」の要素、『Fiwewatch』の「女性との通話とナビゲーション」要素、そして『RiME』の「主題」です。

 

 以後、項目に分けて詳しく見てゆきます。

 

1. グラフィック

 素晴らしいの一言に尽きます。スチームパンクSFな世界も、幻想的な自然世界も、全てが美しい。

以下、加工なしのスクリーンショットをご堪能あれ。

 

↑ ぼんやりと浮かび上がるワシとハーケンクロイツ像。この絶妙な不気味さ!

六軒島ゲストハウス

↑ ドイツ風の街並み。

↑ 自然豊かな場所も……?

 

 ただ、水面のテクスチャはもう少し凝ってもよかったかも。しかし、Switch でこのクオリティで遊べるなら全く文句ありませんね。

 

 前述のように、「少し前まで人が生活していた気配があるのに、無人」という、『消失』に非常に近い設定になっています。この生活感と廃墟感の絶妙なコラボレーション、溜まりません。

 他のゲームレビューでは、しばしば「シモン君の足が遅い」と言われていますが、ウォーキング・シミュレータファンはその点は慣れているとおもうので、問題ないかと推測されます。ゆっくりと景色を楽しみましょう。

 「頽廃した汚い工場や下水道」や、「第三帝国スチームパンク」、「美しいドイツ風の街並みやお屋敷」、「怪しげな研究所」に「幻想的な自然世界」など、マップも多種多様。お腹いっぱいになること間違いなし!

 

2. 音楽

 かなり主張は控えめです。基本は無音で、要所で効果的に音楽が流れます。

旋律重視の曲の比率から言っても、耳に残るのは数曲かと思います。

 

 一方、興味深い曲も数曲ありますので、考察記事で取り上げたいと思います。

 

3. ナラティヴ

 次項にネタバレゾーンを設けているので、こちらでは控えめに。

 

一つ言えることとしては、初見プレイだけでも充分メインストーリーは理解可能なものの、背景やオブジェクトなど、全てを理解しようとすると、物凄く知識を求められます。

たとえば、前提として、ドイツ語・ポーランド語の理解が必須です(※前述のように、メインストーリーだけなら誰でも理解できる作りになっているので安心してください)。

 かなり考察書き向けの内容だと思うのですが、わたくしがリサーチを掛けた限りだと、日本語圏・英語圏で考察を書いている人を全然見かけなかったので、不肖わたくし、先手を取らせて頂きます。考察記事の準備を進めておりますので、宜しくお願い致します。

 

 評価としては、優れている点・今ひとつの点があると思っています。

前者としては、どんでん返しという程ではないものの、予想を裏切る側面があり、展開を予想しながら進めたプレイヤーは、「そっちか~~」と感じるのではないかと思います。ミスリードが巧妙。詳しくはネタバレゾーンにて。

 後者は、ステージの表象とストーリーの根幹の不一致です。少々まどろっこしい言い方をしましたが、そうですね、何と申しましょうか、ステージとストーリーが綺麗に噛み合い切れていない側面があると感じています。

ステージはどれも雰囲気がありますし、様々な表情を見せてくれて素晴らしい。ストーリーも、重みがあって、設定などを鑑みても納得が行く。しかし、それらは独立してしまっていて、上手く絡み合っているようにはあまり感じませんでした。不規則で、ある意味リアリティがあると言えるかもしれませんが、作品としての纏まりはもう少し出してもよかったかなと思わなくはないですね。

 

 また、前述のように、『Firewatch』に於けるデライラさんのような、女性(エヴァ)との通話要素があります。『Firewatch』同様、会話に選択肢と制限時間があるため、コミュ強シモン君を目指しましょう!

 

 一点だけ、バグがたまにあります

↑ 初見で虚無を凝視するシモン君。太陽を浴びなすぎて SAN 値が削れた演出なのかと思った。

↑ リロードしてやり直したらアルバムが出現。よかった。シモン君は狂っていなかった。

 やはりちょっと興醒めするので、アプデで直して欲しいですね。

また、自動セーブは有り難くもある一方で、こうやってバグが起きたときなどに戻れなくなったりするのが厄介なので、セーブスロットを複数作るか、チャプター毎にやり直せるようになると尚よいです。周回プレイが結構面倒臭い……。

 

4. ネタバレ

 ここからは重大なネタバレをします。初見プレイを楽しみたい方は是非ともプレイ後に戻ってきて頂きたいです。

 

 

 

 

 

 

 またキューブラー・ロスか~~~!!!!

キューブラー・ロスは「死の受容プロセス」と呼ばれる理論で有名な心理学者で、世界的にも高名ですし、芸術作品でも参照されることは少なくありません。死ネタが好きな闇のオタクは必修

 

 死の受容プロセスは、死にゆく人、或いはその親族や友人などが、死を受け入れる過程を理論化したものです。理論では、「否認」「怒り」「取引」「抑鬱」「受容」の5段階に分けられます。

 して、『Paradise Lost』の章題、正にこの5つなのですね! 一番最初に「DENIAL(否認)」と表示されたとき、もう読めましたよ。「ああ、誰か死ぬな」と。

正直、この時点で「生と死の物語」であることはわかったので、初っ端は少々しらけておりました。第二区画に降りたときに「ANGER(怒り)」と表示されて、「やっぱりね」と……。

 キューブラー・ロスの死の受容プロセスは、既に知名度がかなりあるので、「わたし以外にも、最初からそんなネタバレしちゃったら萎える人出るんじゃないの~!?」と謎に心配になる初見プレイヤー。

 

 しかし、そうではなかった。寧ろ、キューブラー・ロス読者ほど試されていたのである

普通、「死を受け入れる」のは主人公のシモン少年だと思うじゃないですか。でもどうやら、彼は母の死を悲しんではいるものの、話の主題となる程のものではないことは初中盤から既にわかります。

 

 だったらエヴァか? と考えますよね。エヴァは、『Firewatch』のデライラさんや、『Portal』の GLaDOS を想起させるナビゲーターです。

「機械から音声が聞こえるだけの身元の知れない怪しい存在」ということで、植物状態というところまで思い至らなくとも、「半分機械と繋がった存在である」程度のことは途中で予想が付いたのですが、あの結末は流石に読めませんよ!

だって、そもそもシモン君が死を受容していないじゃないですか

「え、死の受容プロセスの章題を付けておいて、死を受容する前に殺せと!?」とビビり散らしました。それが、前項で申し上げた「予想を裏切る側面」です。

 今ので想像が付いたかもしれませんが、わたしは一緒に生きるルートを取りました。だって死、受け入れてないもん。Still Alive.

 

 この、「死を受け入れる主体」に関しては、完全にスリードとして機能していると感じました。絶対、普通なら「シモン君が母の死を受け入れる」話かと勘違いしますもん。

選択肢によっては誰も死なないのに(過去に死んでいる人々は除く)キューブラー・ロスを章題に持ってくる、これは恐ろしいことですよ。

 実際には、エヴァの死(というか彼女から離れること)をルツヤンが受け入れる物語であり、世界の破滅と父の行為をエヴァが受け入れる物語であり、それを追体験するシモン君=プレイヤーが、選択肢によっては、プレイ後にじんわりとエヴァの死を受け入れる物語です。かなり多重構造。

非常に複雑で難解です。考察勢ホイホイだと思います。何故今まで殆ど目を付けられていなかったのか不思議で致し方ない。

 

 それから、最初に「また」と申しましたのは、近頃、キューブラー・ロスを題材としたインディーズゲームが発売されていたからに他なりません。そう、『RiME』です。

↑ 色々考察なども書きつつ。

 『RiME』の記事で散々申し上げているのですが、『RiME』はゲームそのものとしてはかなりの良作だと思っています。しかし、「雄弁な作者の問題」とわたしは呼称していますが、制作者がインタビューで余計なことを長々と語ってしまったことが、個人的な評価を下げており(詳しくは「受容理論」)、非常に勿体ない……と感じています。

 

 して、その『RiME』ですが、こちらも章題をキューブラー・ロスの死の受容プロセスにしています。『RiME』では、ステージの構造とストーリー(ナラティヴ)の関係が密接で、わたしはこの点を高く評価しています。

たとえば、最初の「否認」では、死を受け入れられていないため、死とは無縁の楽園のようなステージ。「怒り」では、明確な敵が登場します。「抑鬱」では、終始暗く雨の降るステージ……と言った具合です。

非常にゲームステージとナラティヴとの融合が丁寧であり、作品としての纏まりを感じます。

 

 一方で『Paradise Lost』は、ステージの構造とストーリーはほぼ無関係です。徐々に物語の核心は明かされていきますが、それがキューブラー・ロスの章題とは関係していません。

『RiME』という素晴らしい先駆があるだけに、物足りなさと申しますか、勿体なさは感じました。

 

 ところで、ナチ党の優生思想と、人体実験のスチームパンクって恐ろしく相性がいいですね。メジャーどころを避けるかのように、「第三帝国もの」に触れるのは初めてだったので、感心してしまいました。

ポーランドという土地ならではの着眼点も素晴らしいです。これは唯一無二。

 

 最後の二択の連続は、あまりにも重いので、衝撃を受けますし、心に重くのし掛かります。謂わば消極的安楽死なわけで、倫理や尊厳の問題も絡みますし、12歳の少年に何をさせてるんだ?? と怒りさえ湧きますね。

一番鬼畜なのは、エヴァを生かしたまま去るルートでしょうか。え、今までの旅は何だったんだ……という無慈悲さ。お願いも聞いてあげていないし。

エヴァを殺して自分が生きるルートも中々です。シモン君、一体何がしたいんだ? マゾなのか?

殺して去るルートは、そもそもエヴァを殺した状態で上の階層まで戻れるのか? 地上に戻ってどうするんだ? と、なんというか実現性の欠如を感じさせます。

とはいえ、二人で残るのも膠着状態でしかなく、「生きているだけ儲けもの」と言って良いのかどうか……というところです。

色々難しいゲームだ……。好きですが!

 

 こんなところでしょうか。

 

最後に

 通読ありがとうございました。ただのレビューなのに6000字も書いてしまいました。

 

 考察書きにとっては非常にやり甲斐のある、満足感のあるゲームだと感じています。ウォーキング・シミュレータが好きな方、スチーム・パンクが好きな方、第三帝国ファンの方など、刺さる方にはとことん刺さる作品だと思います。お勧めです。

 

 以後、3記事くらいに分けて考察を進めてゆきますので、そちらもお付き合い願えればとても嬉しいです。

手始めに、ドイツ語とポーランド語を気合いを入れて読み下します。宜しくお願いします。

↑ 初回上げました。こちらからどうぞ!

 

 それでは、お開きと致します。また次の記事でお目に掛かれれば幸いです。