世界観警察

架空の世界を護るために

ポスター・書籍・絵画の考証 - 『Paradise Lost』考察2

 こんばんは、茅野です。

最近は絶妙に無気力症候群で、やる気を上げる何かが欲しいところ。暑いから気持ちが萎えているのかもしれません。避暑地へ疎開したい。

 

 さて、今回は、Paradise Lost』考察第二弾

↑ 第一弾はこちらから。

 

 第二回となる今回は、ドイツ語・ポーランド語の読解と時代考証の第二弾です。

今回は、「ポスター・新聞・雑誌・書籍・絵画」を取り扱います。

わたくしはゲーム考察書き歴はそこそこ長く、色々書いておりますが、今回が一番大変でした。恐ろしいゲームだ、『Paradise Lost』……。

 

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

 

ポスター

ナチ党の選挙ポスター

DAS VOLK
WAHLT LIST 1
NATIONALSOZIALISTEN
国民が選んだナンバーワン
国民社会主義

実際にあったポスターと同様。

 

兵士のポスター

Seßant immer voraus,
bleibt immer maeßsam!

常に先を征き、
常に冷静であれ!

 実際のものを見つけられず(類似のものは幾つかある)。見つけられた方はご一報下さい。

 

家族のポスター

DIE NSDAP SICHERT DIE VOLKS-GEMEINSCHAFT
VOLKSGENOSSEN BRAUCHT IHR RAT UND HILFE SO WENDET EUCH AN DIE ORTSGRUPPE
NSDAP(ナチ党)が人民を守る
助言や助けが必要な場合は、地域のグループに連絡してください

 実際に用いられていたものと同様。

 

子供と兵士のポスター

Strebt schon in jungen Jahren
nach mahrer Gräße!
若いうちから高みを目指す
より偉大なものへ

 実際のものを見つけられず。見つけられた方はご一報下さい。

 

ガスマスクのポスター

ZUSAMMENPACKEN
荷造り

 同一のものは発見できず。

 

視力検査のポスター

 視力検査用のもの。それで意味があるのかどうか疑問だが、何故か文字の配列も同じものが多い模様。

 

駅のポスター

Ein neues 
Abenteuer
新しい
冒険

 

駅のポスター2

Willkommen 
in Eden
ようこそ
楽園へ

なんと今年になって同題のドラマが始まるそうですが、十中八九無関係。

 

お酒のポスター

Spirytus skażony-trucizna
Picie denaturatu powoduje śmierć
蒸留酒には毒が入っている
変性アルコールによる死亡事故

 ポーランド語。1930年頃に実際に用いられていたもの。

 

新聞

列車内の新聞

Krakauer Beobachter
Obserwator Krakowski
Endlish geborgen!
クラクフ・オブザーバー
遂に撤退!

 同題の新聞は存在せず。恐らくモデルになっているのは『Völkischer Beobachter(フェルキッシャー・ベオバハター)』などのナチ党機関誌。

 街の入り口となる駅舎のようなところに落ちている新聞も同様。

 

雑誌

ファッション誌

MODE ZEITUNG
ファッション誌

 多少差異があるが、雑誌の題や構図などから鑑みて、元ネタはこちらでほぼ間違いない。

『Deutsche Moden-Zeitung』誌1935年2月、No. 10, 44 号の表紙。

 

ファッション誌2

SCHÖNE
DAME
美しい
女性

 明確なモデルは見つからず。

『MODE ZEITUNG』の方は『Deutsche Moden-Zeitung』誌の36年45号、30年29号辺りか。

 

書籍

美術品店の本

HISTORIA MALARSTWA
美術史
SZTUKA POLSKA
ポーランド芸術

 題からもわかるように、ポーランド語。

 

料理本

KUCHNIA NIEMIECKA
ドイツ料理

 こちらもポーランド語。

 

絵画

 主にポーランドの画家のもの、屋敷にあるものは歴史的名画が多いです。リサーチが難しく、把握できていない点もあるのでご了承下さい。詳細をご存じの方はご一報頂けると有り難いです。

 

カナリアと少女』

 左右反転していますが、こちらでしょう。

 レオポルド・ロフラー(Leopold Löffler)画、『カナリアと少女(Dziewczynka z kanarkiem)』です。1878年完成。
画家ロフラーは、1827年生まれ、1898年没のポーランドの画家です。ポーランド分割の結果オーストリア領となっていたジェシュフ生まれ。1866年よりウィーン美術アカデミー会員で、後期ロマン主義の画家として活躍しました。

 口移しでカナリアに餌を与える愛らしい少女のこの絵は、現在はカトヴィツェのシレジア美術館に保存されています。

↑ 美術館による説明。動画もあり、ポーランド語にご縁がなくても一見の価値があります。

 

『ガラリアの海の嵐』

 こちらも左右反転。

 お屋敷の内部などにあるこの絵は、かの有名なレンブラント・ファン・レイン画、『ガレリアの海の嵐』。1633年完成。

レンブラント唯一の海景画とのことです。聖書が題材となっています。

現在、恐ろしいことに盗難に遭って行方不明とのことですが、『Paradise Lost』の世界では、第三帝国が所持していたことになっているのかもしれません。作中、何度か出て来るので、単に複製かもしれませんが……。

 

『老松白鳳図』

 なんと日本画からも。伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう)画、連作『動植綵絵(どうしょくさいえ)』より、『老松白鳳図(ろうしょうはくほうず)』です。1766年頃の作品と目されます。

明治時代からは宮内庁に保管されているようなので、複製画という扱いでしょう。

 

『聖カタリナ』

 ドミニカの部屋から。ヴィンセンテ・カルドゥッチョ(Vicente Carducho)画『聖カタリナ(Santa Catalina)』です。1637年頃の作品。

聖カタリナは、その実在を疑われていますが、3世紀頃にエジプトのアレクサンドリアを生きたと言われている聖女のことです。剣、王冠などはよく彼女のモティーフとなるものです。ちなみに、正教会では聖エカテリーナ。

 

『三美神』

 同じくドミニカの部屋から。ウィリアム・エッティ(William Etty)画、『三美神(The Three Graces)』です。1830年頃の作品と目されます。

ギリシア神話に於ける、魅力、美貌、創造力を司る三女神を題材にしていると考えられます。

 

 ドミニカの部屋にある絵画は、どちらもポーランドのものではなく、歴史的な名画であり、且つ聖女や女神など、宗教的でフェミニンな印象を与えるものになっています。

 

『フツルの葬儀』

 各所に飾られているこちらの絵は、テオドール・アクセントヴィチ(Teodor Axentowicz)画、『フツルの葬儀(Pogrzeb Huculski)』です。  1900年頃の作品と目されます。

フツル人は、現在のウクライナからルーマニアにかけて居住している民族です。画家アクセントヴィチは、ポーランドアルメニア系の家系で、彼らの日常の様子を切り取った作品を多く残しています。

二次大戦当時を思っても、現在の情勢を鑑みても、思うところがありますね。

 

 次に、美術品店の店内の絵画を見てゆきます。

 右下は既にご紹介済みの『ガラリアの海の嵐』。

上の男性の肖像、左下の絵画は特定できていません。情報求む。

 

『聖母子』

 右上の作品。イタリアの画家カルロ・フランチェスコ・ヌヴォローネ(Carlo Francesco Nuvolone)画、『聖母子Madonna col Bambino)』です。1640年代の作品と目されています。

宗教画の中でもポピュラーな、聖母マリアと幼いキリストの題材です。

 

『受胎告知』

 左上、反転していますがこちらで間違いないでしょう。フランドル(オランダ~ベルギー)の画家ヤーコブ・ヨルダーンス(Jacob Jordaens)画『受胎告知(Annunciation)』です。1640年頃の作品と目されます。

 受胎告知もまた非常に重要な題材ですが、こちらのヨルダーンスのものは非常にマイナーで、探すのに苦労しました……、協力頂いた友人たちに感謝です。

 

 『受胎告知』の中でも、極マイナーなヨルダーンスの作品が選ばれた理由を推理します。

同作品は、ポーランドウッチ市歴史芸術近代美術館に収蔵されていました。

ポーランドのほぼ中心に存在する都市。

 しかしながら、戦争の影響で同地がドイツ領となると、同作品は掠奪されてしまいます。最終的にソ連赤軍の手に渡ったと考えられていますが、1944年以降、紛失状態に。

ポーランドで管理されていた作品、そして二次大戦で紛失した作品ということで、この作品が選ばれたのでしょう。

 

 続いて、向かって左側の壁を見てみましょう。

 左上の滝の絵と、右上の冬景色の絵は特定できていないので、情報お待ち申し上げております。何かポーランドと縁のある作品であることには間違いありませんが……。

 

『藁束を運ぶ少年』

 中央上は、ポーランドの画家アレクサンデル・ギェリムスキ(Aleksander Gierymski)画『藁束を運ぶ少年(A Boy Carrying a Sheaf)』でしょう。1895年頃の作品とみられています。

ギェリムスキは19世紀ポーランドを代表する画家で、同地の民衆の生活を捉えた名品群を生み出しています。彼の作品はこれ以外にも『Paradise Lost』で登場しています。

 

『ニャスヴィシュでの狩り』

 右下の大きな絵は、ポーランドの画家ユリアン・ファワト(Julian Fałat)画、『ニャスヴィシュでの狩り(Hunting in Nieśwież)』。1891年頃の作品と目されます。

ニャスヴィシュは旧ポーランド領、現ベラルーシ領の街です。

 

『馬車の旅』

 左右反転していますが、こちらで間違いないでしょう。

 ポーランドの画家ルフレッド・フォン・ヴィエルシュ=コワルスキ(Alfred von Wierusz-Kowalski)画『馬車の旅(The Coach Journey)』です。1909年頃の作品とみられます。

コワルスキは馬車の絵を沢山描いており、これもその一つです。

 

 奥の壁を見て参ります。

 左の若い女性の肖像、右上の三枚は未特定です。情報お待ちしております。

 

『オレンジを持つユダヤ女性』

 中央上の人物画。こちらも左右反転していますが、前述の『藁束を持つ少年』も描いた、アレクサンデル・ギェリムスキ画、『オレンジを持つユダヤ女性(Jewess with Oranges)』です。1880から81年頃の作品とみられます。

 

 オレンジは耐寒性が低い植物で、「ワルシャワ(当時はロシア帝国)で入手可能だったのか……?」と思いリサーチを掛けたところ、19世紀のロシアではやはり入手困難。ソチやアブハジアなどの南部しか栽培に適していません。

 この絵画の女性は明らかに貧しい身なりをしており、ワルシャワの商人としてオレンジを販売している様子ですが、この果物が当時の社会にどのように、どの程度根ざしていたのかは、もう少しリサーチが必要そうです。

 ちなみにモデルはこの女性らしい。

 

 以前オレンジについては一筆書いたことがあるので、宜しければ併せてどうぞ。

 

『1765年のスタニスワフ・アウグスト王による火災後のワルシャワ城の査察』

 左下の風景画は、左右反転していますが、カナレット(Canaletto)画『1765年のスタニスワフ・アウグスト王による火災後のワルシャワ城の査察(King Stanisław Augustus Looks at Warsaw Castle after the Fire in 1765』でしょう。同1765年頃の作品とみられます。

 画家カナレットといえば、基本的にはジョヴァンニ・アントニオ・カナール(Giovanni Antonio Canal)を指しますが、ここでの「カナレット」は甥のベルナルド・ベッロット(Bernardo Bellotto Canal)の方です。

「カナール」ではなく、「カナレット」と、指小辞が付いているのは、同じく画家であったジョヴァンニの父との混同を避けるため。画家一家です。

名前からもわかるようにイタリア系ですが、ベルナルドはポーランドの宮廷画家として活躍しました。

 

 尚、この絵は、二次大戦中にドイツ軍に掠奪され、以降行方不明となっています。

 

 ポーランド王スタニスワフ・アウグストは、芸術と教育に理解のある君主でしたが、三度に渡るポーランド分割によってポーランド王国そのものが消滅し、自動的に退位となってしまいます。

 

 ワルシャワ城は彼の治世の期間中に火事になり、その様子を見に来た王を題材としています。

その後、城は再建されますが、二次大戦で再び壊滅的な被害を受けます。この絵画が『Paradise Lost』に登場するのは極めて示唆的であり、現実でも、この世界の中でも再びワルシャワ城は無残な姿になってしまっているのでしょう。

 

 ちなみに再び再建された現代の姿はこちら。行ってみたい。

↑ 手前のモニュメントが絵画でも奥に見えます。

 

『ボナ女王の舞踏会でスモレンスク陥落の報を受けるスタンチク』

 右下の人物画です。恐らく『Paradise Lost』で登場する絵画では最も有名なものの一つ、ヤン・アロイズィ・マテイコ(Jan Alojzy Matejko)画『ボナ女王の舞踏会でスモレンスク陥落の報を受けるスタンチク(Stańczyk w czasie balu na dworze królowej Bony wobec straconego Smoleńska)』です。題が長いので、通称『スタンチク』。1862年の作品です。

 

 最も有名なポーランドの宮廷道化師、スタンチク。彼は道化師(Fool)でありながら、非常に聡明な人物で、政治や哲学などに多大な影響を与えたといいます。

こちらは、リトアニア大公国に仕えたスタンチクが、華やかな舞踏会の真っ最中、控え室で、モスクワ・リトアニア戦争に於けるスモレンスク包囲戦によって「スモレンスク陥落」の報を受け取ったシーンを切り取った一枚。道化師らしからぬ、衣装とは全く相反した緊迫した、暗い表情で物思いに耽っています。

 

 他国の占領下に置かれることが多かったポーランド。『Paradise Lost』では、二次大戦を扱うことから、ナチス・ドイツによる被害を仄めかすものが目立ちますが、ポーランドをその領土に食らったのはドイツだけではありません。

『スタンチク』がこの場所にあるのは、モスクワ大公国ロシア帝国ソ連もまた侵略者である、という暗示かもしれません。

 

 ちなみに、表情に反してファンキーなお衣装については過去に調べたことがあるので、もし宜しければこちらから。

 

『雪中の修道院跡』

 イーゼルに乗っているもの。カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(Caspar David Friedrich)画、『雪中の修道院(Klosterruine im Schnee)』です。1819年頃の作品とみられます。

 フリードリヒは廃墟や墓など、頽廃的なものを題材に選ぶことも多く、この作品はその一つと言えます。

 

 フリードリヒはドイツの国民的な画家であり、有名作も多いです。一方、ドイツ・ナショナリストな側面も強く、頽廃的な題材こそ馴染んでいますが、他作品がポーランドの悲劇を物語る中で、ドイツを賞揚する人物の作品が紛れ込んでいること、またそれがイーゼルの上に乗っている=書きかけの状態である、ということは極めて示唆的です。

 

 最後に、反対側の絵画を確認します。

 下部の三連の絵画は未特定なので、情報お持ちでしたら是非とも智慧をお貸し下さい。

 

『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』

 上部の真っ金金な肖像画。こちらは有名なグスタフ・クリムトGustav Klimt)による『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I(Portrait of Adele Bloch-Bauer I)』。1907年頃の作品です。
 ブロッホ=バウアーはウィーンの銀行家で、アデーレはその妻であった人物です。

 

 煌びやかながら頽廃的な「ベル・エポック」「黄金時代」を想起させるこの作品は、二次大戦中にナチス・ドイツに接収されてしまいます。従って、『Paradise Lost』では、ナチス・ドイツが建設した地下帝国にこの作品が存在しているわけですね。

 

まとめ

 複製画であろうものもありますが、特に美術品店にあるものは、単に「ポーランド出身の画家によるもの」というわけではなく、当時のナチス・ドイツ、或いはポーランドに存在した作品で固められており、かなりしっかりと時代考証が為されていることがわかります。恐ろしいゲームだ……。

 各作品毎に簡単な解説を書きましたが、題材の背景を知っていると、深読みできる側面も多々あり、個人的にも非常に勉強になりました。

 

 また、左右反転しているものとしていないものがあり(作中に複数回出て来るものは、同じ物でも左右反転している場合としていない場合がある)、それに何か意味があるのかどうかは論点と成り得そうです。見栄えの問題だとは思いますが、何か深読みをすることも可能かもしれません。

 

最後に

 通読お疲れ様でございました! 7000字です。

絵画、特にポーランド絵画は完全に範囲外なので、リサーチとても難航しました……。小さく、画質が悪いスクリーンショットと睨めっこしながら、その特徴を元に検索、検索、検索の日々でした。

未だ判明していない作品が幾つかあるので、願わくば全てを解明したいところ。精進致します。詳細をご存じの方がいらっしゃいましたら、是非とも智慧をお貸し下さい。

 

 さて、次回、第三回目は、今のところ「音楽」を取り扱う予定でおります。引き続き宜しくお願い致します。

 

 それでは、今回はお開きと致します。また次の記事でお目に掛かれれば幸いです。

↑ 続きを書きました! こちらからどうぞ。