こんばんは、茅野です。
わたしは「革靴ウォーキング部」と称して革靴で街をほっつき歩くのが趣味なのですが(10km~20km近く徘徊します)、咲き誇る桜の美しい季節になりまして、我が双眼も風光絶佳に悦んでおります。
さて、当方は普段マイナージャンルの極北を根城にする考察書きなのですが、最近は友人に勧められてディズニー映画を観たり、ポケモンを再履したりと、我ながら信じられないことにメジャージャンルに参入しています。
今回はそんなメジャージャンル参入シリーズ第三弾。正に「今をときめく」としか表現出来ない時代の申し子、『ウマ娘』です。
このジャンルは一生触れないと思っていました。と、申しますのも、わたくし普段アニメは一切観ない上、漫画も読まない、ソシャゲには基本全く関心がありません。更に言えば、擬人化は地雷、特に死者を題材にしたものは絶対にNGの厳格派、それに加えて競馬という競技自体にアニマルライツの観点から懸念まで持っています。……そんなわたしが、何故「ウマ娘」に触れることになったのか。
限界廃人オタクにゴリゴリに布教されたからです。ほぼ強制的に始めさせられた。
……尤も、それだけではなくて、「馬主の許可を取っている」ということが大変興味深く感じられたからです。わたしは当ブログで「死者の人権」という記事シリーズを展開していて、死者の手紙や荷物を暴くことや、彼らをフィクションで描くことについて、法や文献学などの様々な視点からアプローチし考察することを目的に執筆しています。
馬は人ではありませんから、「人権」はありませんが、『ウマ娘』で取り上げられる競走馬は既に亡くなっている馬も多く、この観点から思考するに値すると判断しました。
↑ 「死者の人権」シリーズ。
わたしは歴史上や伝説上の人物であっても、一個人を面白おかしくフィクションで祭り上げる行為に非常に嫌悪感を憶えるのですが(具体的な作品名などは出しませんが、お察し頂けるとは存じますね)、「(意志の疎通が難しい馬に代わり)馬主に許可を得ている」「二次創作にある程度の規制が掛かっている」という点から、この界隈にどのような変化が見られるのか、興味が湧きました。今後どうなっていくのか、影ながら見守っていきたいですね。
さて、前置きが長くなりましたが、今回はそんなわけで『ウマ娘』についてです。普段は考察を書いているのですが、今回は雑学と申しますか、直接的には関係しないけれども、知っておくと人生がほんの少し豊かになるかもしれない事柄について。具体的には、世界に分布する「神馬信仰」と「人馬変身譚」について書いていこうと思います。それではお付き合いの程、宜しくお願い致します。
雑談(アプリ版のプレイログ)
筆者が五億年ぶりにソシャゲをやった話です。ご興味ない方は読み飛ばして下さい。
アプリ、入れましたよ。その感想を少しだけ。
突然ですが、わたくし、運が頗るよいようです。『Demon's Souls』シリーズでいったら、「運」極振りかもしれません。ブルーブラッドソード、最大火力です。
つまり、何を申し上げたいのかというと、プレイを開始して3日の時点で SSR を10枚引いたということです。無料10連を回す度に2枚ずつ引いていたらこうなっていた……何を言っているかわからないとおもうが、わたしも確率がバグっているのだと確信をした……。
触った感覚としては、こういったソシャゲでは珍しいことに、育成の難易度がかなり高くて驚きました。今はヌルッヌルに甘いゲームが多いですからね。又、放置する要素が全くないことも特筆に値しますね。そのせいで、めちゃくちゃ時間が溶ける……よくないゲームだ……。そろそろ撤退しないと無限に時間を吸われそうだ。しっかし、折角出した SSR はちゃんと回したいな。ぐぬぬ。
こんなところでしょうか。グラフィックや動きもえげつないですし、知らぬ間に、ソシャゲの進化を感じました。欲を言えば、もう少しだけロード早くなってくれると嬉しいな。
さて、それではそろそろ本題へ。
神馬信仰
まずは神話世界を確認してみましょう。「神馬信仰」とは、神が跨がる馬に対する信仰を指します。これは古今東西広く見られる信仰です。日本に於いても、絵馬に「馬」が描かれるのは、大元を辿るとここに由来します。

多神教世界では、馬を象徴する、或いは守護する神が存在している場合があります。ギリシア神話では海の神ポセイドン、及びローマ神話で同一視されるネプチューン、ケルト神話では女神エポナです。
古来よりヨーロッパでは水と馬を結びつける、及びそれらを神聖視する傾向があります。このような傾向は各地でみられ、北欧、ガリア、東欧など、ヨーロッパでは広く分布しています。
有名なギリシア神話の海の神ポセイドンは、自身が馬に変身することもあれば、馬を使役することもあります。

↑ ウォルター・クレイン『ネプチューンの馬』。
高名なホメーロスの『イーリアス』では、正にこのクレインの絵に相当する、ポセイドンの海上騎行の描写を確認することができます。
ポセイドンとウマ娘といえば、テイエムオペラオー育成シナリオの夏合宿(シニア級)にて、エルコンドルパサーとのプロレスイベント() がありますが、そこでポセイドンへの言及があります。ブッ飛んだイベントの多いウマ娘育成シナリオの中でも5本の指に入る怪イベントですが、もし狙ってこういうネタを仕込んでいるのだとしたら、とてもよく練られているとおもいます。
一方、ケルト神話では、「騎馬する女」エポナが、水の神であり、馬の神でもあります。

元々は水及び豊穣を司る女神でしたが、「騎乗の女神」という点から、信仰が拡がるにつれ、「騎馬の守護神」というような要素が加わるようになりました。従って、馬上にある騎士らに信仰されていたようです。エポナ信仰はガリア(現在のフランス)地方に広く分布し、特に河など水が豊富な地域では顕著であったとされています。
海の神々について更に詳しく知りたい方は是非こちらがオススメです。神話研究を行っている大林先生こそが最早神(業績が偉大すぎて)。
水馬の伝説
次に、伝説や民話を確認します。水馬の伝説はヨーロッパに広く分布しており、数々の呼び名があります。

スカンジナビアに伝わるネック、或いはネッケは、河の精であり、水の上にでた部分は美青年の姿、水に浸かった部分は馬のようだといいます。アイスランドではニックル、或いはニンニルと呼ばれ、青灰色をした馬として描写されます。蹄が逆を向いており、海岸に現れるとのことです。ドイツ北部フェール諸島では、ニカルと呼称されており、人を溺れさせて愉しむ邪な性格の強い精となっています。スコットランドのシェットランド諸島では、シューピルティと呼ばれ、愛らしい仔馬の姿をしているが、人を乗せるや否や水中に飛び込んでしまうという伝承があります。スコットランド本土では馬の姿の水の精ケルピーの伝説があり、これはシューピルティの伝承と酷似します。
このように、馬の姿をした水の精の伝説は枚挙に暇がありません。
更に詳しく知りたい方はこちらがオススメです。↓
人馬変身譚とは
次に、人馬変身譚を確認します。神話・民話・伝説の類いで、人が物や動物などに変身する物語群を「変身譚」と呼びます。「人馬変身譚」は、人が馬になる、というもの。今回は、世界各国に分布する人馬変身譚を検討することを目的とします。
馬は古来より人との関わりが深い動物で、家畜化の歴史は紀元前3500年前にも遡るといいます。動物変身譚では、狼・犬や狐、鳥など様々な動物に変身する物語がありますが、馬はその中でも数多くの物語が確認できます。
日本では、泉鏡花の『高野聖』などでその伝承が取り上げられていることは広く知られています。又、メールヒェンの分野では、グリム兄弟の手になる童話で有名ですね。
馬の伝説には大きく3つの流れがあります。1つが前述の水馬伝説。次に、そこから派生し、「黄泉の国へ連れ去る」と言った、死の伝説と密接な関わりを持つもの。最後に、淫乱な性質を持つものです。
変身譚では、様々なものに変身するものがありますが、特に人馬変身譚で多いものが、獣性、即ち淫乱な性質を持つものです。狼や狐が死や狂乱と密接に関わるのに対し、馬や驢馬への変身では性的な描写を多く孕みます。『高野聖』においても、薬売りが馬に変えられていますが、その理由はここに求められます。よく「夜、獣になる」なんて言い方をしますが、この場合の「獣」とは、馬を指すわけですね。思えば、ズーフィリアの世界でも馬は特にポピュラーですし、古来から人々は馬を見て、そういった伝承を創り上げてきたのでしょう。………………。これ以上「ウマ娘」のカテゴリの記事で書くのは危険な気がするので、そろそろ切り上げようとおもいます。
更に詳しく知りたい方はこちらの論文がオススメです。↓
悪魔の馬、呪われた娘
先の論文では取り上げられていないのですが、わたくしが個人的に指摘したい人馬変身譚を取り上げ、この記事は終わりとしたいとおもいます。
ケルトはケルトでも、現フランスのブルターニュに伝わる伝承は、特に死や怪奇に纏わるもの、ほの暗いものが多いことで知られています。その中に、人馬変身譚があります。
『悪魔の馬』と呼ばれている伝承で、死んだ若い娘が悪魔により馬にされてしまうというお話です。その馬は喋りますし、足(蹄部分?)がほっそりした女のものなので、見分けが付くといいます。流石ブルターニュと言ったところで、淫乱な要素は一切無く、人馬変身譚でありながら死後変身譚でもあるという、欲張りセットです。
日本語で読める文献としては、こちらがオススメ。画像だとよくわからないかもしれませんが、ほんっっとうに装丁が美しい本で、飾ってもよいくらいの本なので、是非。わたしは中学生の頃この本に一目惚れしてフランス語専攻に進む決意を更に強めたまである。↓
して、この伝説、有名な歌手が取り上げてもいます。日本では『借りぐらしのアリエッティ』の主題歌で知られるフランスの歌手セシル・コルベル Cecile Corbel 氏はブルターニュの出身で、ブルターニュ民話を頻繁に歌詞の題材に選んでいます。
『悪魔の馬』を題材にしたものが、『呪われた娘 La Fille Damnée』。MVもとても素敵なので、是非一度ご覧になってみてください。
↑ ルネサンスドラムの一種? と思われる太鼓がめちゃくちゃ好き。個人的にセシル・コルベルで一番好きな歌とMVです。
折角なので、歌詞を訳しておきます。誤訳してたらすみませんね。
« Dis-moi combien, combien de deniers
forgeron, pour ferrer mon coursier ? »
「鍛冶工よ、幾らなのだね
わたしの駿馬に蹄鉄に施すには?」
« C’est cinq sols pour vous, mon prince
seulement cinq sols et un denier. »
「5ソルで御座います、旦那様
たったの5ソルと1ドゥニエです」
※ソルもドゥニエも古いフランスの貨幣の単位。J’entends chanter,
la fille damnée
j’entends chanter.
歌が聞こえる
呪われた少女の歌が
À la lune montante
j’entends l’oiseau chanter.
月が昇る頃
小鳥の歌声が聞こえる
Ma jolie, ma si jolie,
file dans la nuit.
愛しい我が子、
夜へ駆け出して行く« Au premier fer que tu mettras
“mon bon père” il va t’appeler.
Au premier clou que tu poseras,
il va t’appeler “mon père”. »
「最初に蹄鉄を履かせるとき
それは『わたしの優しいお父さん』と呼ぶだろう
最初の鋲を打つときに
それは『わたしのお父さん』と呼ぶだろう」« Qui est-ce, diable, qui m’appelle “père” ?
Dis-moi qui est-il sur-le-champ. »
「わたしを『父』と呼ぶ悪魔は何者なのだ?
直ちに答えてくれ」« C’est ta fille, ta chère fille Jeanne,
ta fille morte et enterrée. »
「おまえの娘、
おまえの愛しいジャンヌだよ、
死んで埋葬されたおまえの娘」« Dis-moi, ma fille, qui t’a damnée
là-bas sur la lande et les blés ? »
「答えなさい、我が娘よ、
荒れ地と麦畑で
誰が呪いを掛けたのか」« C’est cet homme, le long de la mer,
chaque jour, il venait me trouver. »
「海沿いにいるあの男
毎日彼はわたしを訪ねてきました」« Prenez mon corps, mon cœur et ma robe,
sous la lune, il faut les brûler.
À la brume, vous jetterez mes cendres.
Enfin, au vent vous les jetterez. »
「わたしの身体を、心臓を、ドレスを掘り起こして
月夜に燃やしてください
霧深い日、その灰を撒いてください
そして、風にそれを散らしてください」J’entends chanter,
la fille damnée
j’entends chanter.
歌が聞こえる
呪われた少女の歌が
À la lune montante
j’entends l’oiseau chanter.
月が昇る頃
小鳥の歌声が聞こえる
Ma jolie, ma si jolie,
file dans la nuit.
愛しい我が子、
夜へ駆け出して行く
世界の人馬変身譚の中で、「娘」「歌」の条件が揃うのはこのブルターニュ民話の『悪魔の馬』と、そこから派生した作品『呪われた娘』しか確認できていないのですが、初回から激重伝承の解説となってしまい、失礼しました。こういった伝承がお好きな方は、是非ブルターニュ民話に触れてみて下さい。個人的には『イスの伝説』が大好きなので、同志がいれば幸いです。
最後に
通読お疲れ様でございました。6000字強。
ただの雑学となってしまいましたが、纏められて良かったです。読んで下さった皆様の知的好奇心が刺激されていれば筆者冥利に尽きます。
『ウマ娘』の記事は今のところもう1本予定しています。そちらはもうちょっと作品内に踏み込んだ内容になる予定です。
それではお開きとさせて頂きます。次の記事でもお目にかかれれば幸いです。
続きの記事があがりました。こちらからどうぞ。






