世界観警察

架空の世界を護るために

月は海へ向かう - DARK SOULS 考察

 こんばんは、茅野です。

まさか連日記事を書くことになるとは、わたしもおもわなんだ。しかもこの記事、本来書くつもりはなかったんですけど、資料漁ってたら面白いもの見つけちゃったので、思考の整理も兼ねて書いておこうかな~と。いや、しかし、比較宗教学、楽しいですね。

 

今まで書いてきたダクソ関連記事はこちらから↓

sylphes.hatenablog.com

 

 今回はですね、好き嫌いの分かれる「モチーフ考察」を、厳格派考察勢もしてみむとするなり。「モチーフ考察」ってご存じですか? 作中に提示されたモチーフ、イメージから、比較文化学や美術史と照らし合わせて含意を読み解く、という考察アプローチのことです。

 ダクソ界隈では、5年くらい前に我が出身地、「世界観設定議論・考察スレ(通称: 2ch 考察板)」に通称「モチーフ君」というのが現れて、正しく文字通りの大炎上をしたのですが、覚えていらっしゃる方は御座いますでしょうか。というか、未だいるんだろか、「モチーフ君」。あの場にわたくしもおりました、現役時代は 2ch 板ヘビーユーザーだったので。全スレ読んでいたどころか、reddit などの海外板も見てました。任せろ。

 当時、「モチーフ君」は太陽の光の長子と嵐の竜を日本神話の素戔嗚尊八咫烏に関連づけ、自分の説を絶対に譲らなかったので議論にならず炎上したのでした。いや、よく覚えているな、と自分でも感心する。

 モチーフ考察は、取り扱いの難しいアプローチ方法です。書き手は、絶対に「元ネタと考えられる○○ではこうだから、作中でも同じだ」と断言してはなりません。そして、読み手もそれを鵜呑みにしてはいけません。そもそも、考察というのは、その性質上、絶対に断定出来ないようになっているのですし、モチーフ考察の場合は作外に根拠を求めることになりますから、更に根拠が弱い状態です。断定口調で書いておきながらそもそも「考察勢」を名乗ること自体が笑止千万。

 一方で、元ネタやイメージの源泉を探ることで、あきらかになることが多いのも事実です。ですから、「お取り扱い注意」というわけ。そもそも、善悪二元論で成り立っている世界ではないので、複数の面があるのは当然ではないですか。ご利用方法を守って正しく摂取してくださいね

僭越ながら、過去に「ゲーム考察の書き方」を解説したこともあります。書き方・読み方がわからなくなったら参考にしてください。

sylphes.hatenablog.com

 こんなことは自分の考察の前なんかに書いたらハードルを上げるだけなのでほんとうは書きたくないのですが、読み違いをされるのも困るので明記しておきます。よく知りませんが、最近「考察勢」のモラルが懸念されているようなので、古参老害厳格派が一言添えてやるのがよいのだろう。

 モチーフ考察で大事なのが、学術的研究を基とした徹底した根拠の提示です。上記の記事でも書いていますが、「似ている」は根拠になりません。それを念頭に置いて、考察を読み書きされるのがよいでしょう。

 

 さて、ここまで釘を刺しておきながら、今回行うのはモチーフ考察です。「お取り扱い注意」なので、話半分に読んで頂ければ結構です。全く別件の資料を読んでいた際、興味深い事実に辿り着いたので、情報共有をするのが考察勢の責務かと考えます。

 論題は、モチーフの宝庫すぎる我らが主、暗月の神 グウィンドリン様について。「月」「蛇」「性」の三つのモチーフを、比較宗教学を用いて読み解きます。それでは、お付き合い宜しくお願い致します。

 

 

暗月の神の必然性

 まずは問いを立てるところから。過去の記事で、このようなことを書きました。

 エルドリッチに纏わる議論でポピュラーなものに、「手頃な神だったらなんでもよかったのか問題」があります。要は、喰った対象が「神」であればなんでもよかったのか、「暗月の神グウィンドリン」でなければならなかったのか、という疑問です。

 この問題、余りにも深遠なので、また別記事でじっくり取り込んだほうがよいとおもうので、ここで結論を急くことはしませんが、今回は『聖痕』と絡めて考えてみましょうか。

巡礼者エルドリッチの聖痕 - DARK SOULS考察 - 世界観警察

 「別記事」ですので、結論を急きましょうか。今回はこの問題に取り組みます。自分で立てた問いは回収しないといけませんね。

 前述のように、「これが答えだ」と宣うつもりは全くありませんが、共通項を発見し、それがこの問題の一つの仮説として通用するのではないかと感じた為、ご紹介していきたいとおもいます。

 

月のモチーフ

 世界で二番目に大きい島、ニューギニア島に広く分布するのが、「月と海」に纏わる神話です。特に、ボング族の神話では、このようにあります。

ある老婆は、月と海をそれぞれ容器に入れて保管していた。しかし、ある日子供の悪戯によって月の容器が空けられ、月は空へ昇っていった。海を収めていた壺もひっくり返され、世界へ流れ出てしまった。

                   (大林太良『海の神話』など)

ニューギニアでの組み合わせは、絶対に「太陽と海」ではなく、「月と海」とされています。この理由として、月の満ち欠けと潮の満ち引きの関連が考えられています。

 

 「月と海」、そしてそれを司る神が同時に生まれ出た、とする神話は数多くあります。先日の記事で日本神話について触れましたが、月読尊が司るは月と夜の世界素戔嗚尊が司るは嵐と海原です。

sylphes.hatenablog.com

↑先日の記事。

 他にも、ミクロネシア神話でも、太陽の神タイ、月の神ナマカエナ、海の神デボカ・ティ・ブタニが同時に産み落とされたとされます。これはギリシア神話のハデス(冥界)、ポセイドン(海の世界)、ゼウス(天界)が支配権を決めた話なども含む、「三界分治型神話」に属します。

神話モチーフにおいて、「天体」と括ってしまうのは視野狭窄で、「太陽」「月」「海」は同じ性質を持つもの、と捉えている神話が多くあるのは興味深い事実です。太陽や月は、海に沈んでいくように見えますしね。そう考えると、旧王家神話に於いて、これまで一度も「海」というモチーフが出現しなかったのは、寧ろ不思議にもおもえてきます。

 

蛇のモチーフ

 バヌアツ共和国に伝わる神話では、以下のようにあります。

蛇を夫とした女がいた。蛇の夫は死亡したが、その死体から美味しい水が湧き出てきたので、女はそれを堰きとめた。彼女の息子はこの秘密を周囲にもらしたので、女は怒って石を投げて堰を破壊し、その水が流れ出て海になった。

  (Alphonse Riesenfeld『The Megalithic Culture of Melanesia』など)

バヌアツは SIDS (小島嶼開発途上国)にも列する小島嶼。水・海に纏わる伝承も多くあります。その中で、海は蛇の死体から発生した、としたのは非常に興味深いことです。

 

 又、「蛇と海」に纏わるモチーフでは、「海は世界を取り巻く巨大な蛇だ」とする神話が数多く残っています。これは世界的に見てもかなりの量の伝承があり、且つ、世界中に分布しています。正にモチーフとして確立している、と言えるでしょう。アステカ神話では、海は世界を取り巻く蛇だと考えられていました。古代ギリシアでは、同じように、男神オーケアノスが世界の海と同義であり、このオーケアノスは英語の Ocean の語源だといいます。オーケアノスは「世界蛇」とも考えられています。

 

 ついでなので、「世界蛇」について概説しましょう。世界蛇とは、多くの神話で見られる「世界を取り囲む、あるいは世界を支えている巨大な蛇」を指します。世界各地に分布しており、北欧、インド、日本を含む東アジアでも盛んに登場します。フラムトやカアスも、あの『DARK SOULS』世界を取り囲んで支えているのでしょう。であれば、時空が歪んだりするのはどういう説明をするのでしょう。奴らの落ち度か。

 

性のモチーフ

 これは「旧王家神話体系」シリーズの「暗月編」で概説する予定なので、深入りはしませんが、月の神は男神よりも女神であるとする神話の方が数自体は多いです。これは、月経を理由としていると考えられています。確かに、月の満ち欠けと女性の月経の周期の平均は一致します。「"月"経」と言っているくらいなのだから、古来からその関連は明らかであったわけです。そして、月経と関連づけて考えられるのが、潮の満ち引きです。はじめての月経を「初潮」と言ったりしますね。「月のモチーフ」の節でも述べたように、月の満ち欠けと潮の満ち引きは引力の関係がありますから、そこに女性の月経の周期も合わせ、「月」「潮(海)」「女性」という三つのモチーフが重なります

その月の力から、娘として育てられた彼の衣装は
極めて薄い魔力の衣であり
物理的な防御力はまったく期待できない

                  (月光の長衣『DARK SOULS』)

どんなに女性らしく育てても、少なくとも人間の男性に月経は来ないのですが……とか、そもそも神に月経という概念は存在するのか? など、色々ツッコミどころはあるのですが、最もシンプルに解釈しようとすれば、このような推理となるのが筋でしょう。

 

海へ

 ここまで通して、何が言いたいのか。もしこの「月」「蛇」「性」というモチーフが、個別であったなら、こじつけも甚だしいと捨て置いたとおもいます。しかし、この三つのモチーフはキャラクター一人に与えられたものであり、三つのモチーフ各々と緊密に繋がるモチーフが一つだけあります。そう、それこそが「海」なのです。

 「月」「蛇」「性」というモチーフが形作る暗月の神。そのモチーフが密接に関わる「海」。ここから導けるものは何か。最初の問いはなんでしたか。「エルドリッチは何故他の神ではなくグウィンドリン様を狙ったのか」でしたね。エルドリッチが求めているのは深海の時代。即ち。

それはつまり、この神の「海」という寓意を読み取ったからではないのか

 

最後に

 お終いです。今回は書く予定のなかった単発ネタなので短め。とはいえ、4500字は超えているので一般のブログ書きからしたら長い方であろう(普段8000~12000くらい書く民並)。

 冒頭に口を酸っぱくして述べたように、モチーフ考察は根拠が希薄ですので、「世界にはそんな神話もあるんだ~、そういう寓意が読み取れるんだ~、関係があるかもしれないんだ~」くらいの受け止め方をしてください(というか本来、あらゆる説についてそうあるべきなのですが)。書き手たるわたし個人と致しましても、仮説の一くらいにしか考えていないので。

 今回の記事で、「水」について感心を抱かれた方は併せてこちらをご覧下さい。↓

sylphes.hatenablog.com

又、神を喰うた主体である、エルドリッチについてはまたマニアックなアプローチをした記事があるので、ご興味があれば。↓

sylphes.hatenablog.com

 次の記事はもっとガッツリリサーチを積んでから書きたいので、少々遅くなることが予想されますが、こんな風に適当に単発書くかも知れません。気紛れなので。

 それでは、お開きとします。ありがとうございました。また別の記事でお目に掛かれれば幸いです。