世界観警察

架空の世界を護るために

新国立劇場『サロメ』2023/5/30 - レビュー

 こんばんは、茅野です。

続けてレビューを一気書き。溜めるのはよくないので……発散!!

 

 定期的にオペラを浴びねばならぬ、ということで、先日は新国立劇場のオペラ『サロメ』にお邪魔して参りました。5月30日マチネの回で御座います。

↑ 休憩無し・1時間40分の強攻策。

 

 今回は友人と伺ったのですが、席に行くと、偶然、反対隣が別の友人でした。来るなら言ってくれ!!

劇場で知り合いに遭遇すること自体は珍しくないのですが、彼は遠方に越していたはずですし、国際政治の研究会の同期であってオペラガチ勢という認識ではなかったので、まあ驚きましたね。曰く、オペラの為に有休を取って強硬日帰り旅であった様子。

如何にも最初にオペラを勧めたのはわたしですが、そんなに沼底に突き落としたつもりはなかったのに……!?

↑ この記事を読むような方には無用の長物かもしれませんが、新規さんを沼に堕とそうと日々画策しております。

 

 そんな偶然の出逢いに喜びつつ、さて観劇で御座います。今回はこちらの公演の雑感を簡単に記して参ります。

 それでは、お付き合いの程宜しくお願い致します!

 

キャスト

サロメ:アレクサンドリーナ・ペンダチャンスカ(アレックス・ペンダ)

カナーン:トマス・トマソン

ヘロデ:イアン・ストーレイ

ロディアス:ジェニファー・ラーモア

ナラボート:鈴木准

指揮:コンスタンティン・トリンクス

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

演出:アウグスト・エファーディング

 

雑感

 一言で言うと、オーケストラが良い意味でも悪い意味でも暴力的! 全てを覆い尽くす破壊力でした。

金管が大活躍で、欲しい音を大音量でスパーン! と気持ちよく決めてくれるので、爽快感がえげつないです。

 『サロメ』は序曲こそないものの、オーケストラが聴かせる場面も結構あるので(ヨカナーン登場シーンや、勿論『七つのヴェールの躍り』など)、「ここは爆音で全てを掻っ攫って酔わせて欲しいよ~!」という点がバッチリ守られていて、非常に良かったです。

 一方で、ということはつまり、歌手に対する配慮はゼロ。コンサートで『七つのヴェールの躍り』をやってこれならば非常に好評価ですが、歌手陣を吹き飛ばしているので、調和という意味ではどうかな……というところですね。全体のバランスはあまり宜しくないです。歌が聞こえない時は本当に何も聞こえん。前回サントリーホールだったので、無意識に比較してしまっている、というのもあるかもしれませんが……。

今回は U25 で一階席でしたが、指揮者の方の上半身がよく見えたので(単純に指揮者の背が高いだけ説もある)、オケピも大分上がっているのかもなあ……と思ったり。

 

 とはいえ、歌手陣も、ネームドキャラ勢は非常に良かったですけれどもね。

休憩無しなので特に体力勝負でもあるタイトルロールも見事でしたし、ヨカナーン殆ど浮浪者ルックなのにも関わらず「仕方ない、これは惚れますわ」という説得力を持っていましたし。

ヘロデ王歌舞伎町の変態おじさんを好演演技も上手くて素敵でしたし、意外にもヘロディアスが良くて! ヘロディアスまでとは流石ですね。

 

 サロメは登場後出突っ張りで、しかもこの演出では踊りもあるので、本当に体力勝負です。容赦無いオケの中、よく耐えました。『七つのヴェールの踊り』の際、恐らく幕の内側の時はダンサーさんなのでしょうが、出てからも結構長いですからね……。『踊り』では肌の露出も多いので、この間の『ペレアスとメリザンド』と同様、演者を選ぶだろうなあと思ったり。

 最後の生首コロコロ一人舞台も見事で、場合によっては少し冗長さも感じるこの場面ですが、全く飽きが来ませんでしたね。爆音オケがこの場では少し落ち着くということも手伝ってか、一番緊張感がありつつも、歌に集中できるのは終幕間際かと思います。

 高音から低音まで満遍なく力強いし、ドイツ語の子音でも潰れません。オケが爆音なので、呑まれることは往々にしてありましたが、これは歌手が悪いというよりバランスが宜しくないのでありまして。

 サロメのソロ~ヘロデによる殺害命令までの間が甘美で甘美で。今回はここの音があまりにも柔らかく、不協和音感がなくて、「ああ~イイハナシダッタナー」で終われそうまでありました。

↑ 断じてイイハナシではない。

 最後は結構ガッツリ死んで終わりました。暗転するかと思いきや。

 

 井戸というよりマンホールからご登場な預言者カナーン氏。体格がよく、大変舞台映えしますね。

 ロシアオペラでは、『スペードの女王』でトムスキーをやるとのことです。オネーギンもやってくれ。

↑ Три сарты, три сарты, три сарты!!

この動画だと、ちょっと高音が篭もっているように聞こえますが、『サロメ』では特にそんなこともなく。存在感ありましたね。

 手錠を破壊しちゃうところは、ヨカナーンというより寧ろサムソン。『サムデリ』も観たい。

 

 新国では、バレエにて登場したばかりの生首。

↑ この間のバレエのレビュー。ラインナップを見たとき、急に新国が生首フェチになったのかと思った。

生首が登場すると、周囲の客が(わたしを含めて)一斉にサッとオペラグラスを構えるのが面白いですね。劇場というよりも観客が生首フェチなのか……(?)。いや、小道具じっくり見たいですからね、小道具。

 『サロメ』って、官能と品のバランスが絶妙ですよね。

猟奇的な斬首という行為に対し、キスという余りにも処女的な行為が組み合わさることで、何かが相殺されている。これがもっと具体的なネクロフィリア的嗜好だったら生々しすぎて受け入れられなかったんだろうなあと思います。思いませんか?

 

 大野芸監の大好きなヘロデ王は、歌よりも演技でしたね。もう完全にエロじじいでしたね。凄く良かったです(?)。そりゃあ年頃のサロメちゃんも嫌がりますわ、というエロじじい振りでしたね。演技派。

王としての貫禄は殆ど無く、小物感があって、猟奇的なお話である『サロメ』のある意味での緩和剤というか、いやセクハラはおぞましいんですが、コメディ枠というか。

 

 ヘロディアスが物凄く良くて、驚きました。断トツでドイツ語が綺麗だったんではないかなと思います。残念ながらわたくしはドイツ語さっぱりなので、憶測でしかありませんが。発音しっかりくっきり綺麗です。

声量もあるし、なんというかキャラが立っていて、演技も素敵。ヘロディアスが良いと、後半は全体的に引き締まりますね。

 

 最後に観た『サロメ』は、二期会の上演です。階段サロメ

↑ パンフレットが良いと評判だったのに、買って客席に忘れてきた切ない想ひ出。悲しい。

 こちらはシンプル-現代寄りの演出だったので、新国の比較的古典的な演出も観られて良かったです。

とはいえ、美術でよくわからない部分も幾つかりましたけれどね。奥の天幕は我々には馴染み深い(?)タマネギ屋根ですし(紀元前の建築については詳しくないのでどういう扱いなのかわかりませんけれども)。

謎に螺髪のカツラを被っていたり、赤鬼、青鬼的なボディペイントもありましたし。

「銀の皿」に載っていたのはリンゴにブドウ、パイナップルなどで、考証をしたいけど多分してはいけないやつ……! と思ったり。

 サロメのお衣装も、最初は黒一色で、よく見たら凝っているのだろうけど、遠目だとかなり地味に見えます。頭飾りは可愛いのですが。お衣装替えで赤になると映えますけれどもね。なんか「七つのヴェール」って赤のイメージですよね、わたくしだけでしょうか。

 

 休憩がないので、弛むことなく緊張感を保ったまま駆け抜けます。舞台セットの転換もないですし、これはこれでよいと思います。歌手は大変だと思いますが。

 冒頭が序曲もなしに、完全な暗転・暗闇から舞台が始まるので、大変ゾクゾクしました。こういう始まり、非常に良いですねえ。演出の妙です。

 

 この日はバックステージツアーをやっていましたが、当たらず。倍率高いですよねあれ。『オネーギン』の時に当たらなかったの、流石に悔しかったですね。松本では当たったんですけどね。カーセン演出の葉っぱ、家宝に指定します。

 

 オケが絶好調で気持ちが良い公演でした! バランスは難ありですが、インスト部分はとても良いです。逆にオケが静かなところも歌がよく聞こえて良いです。

 演出も古典的で写実寄りであり、『サロメ』入門にも非常にお勧めできますね。楽しめました。

 

最後に

 通読ありがとうございました。4000字弱です。

 

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 次は、オペラ全幕の予定は特に立てていないと思います。暫くはコンサートラッシュになるでしょうかね。

どのコンサートの席を取ったかもう記憶があやふやなので、危険です。劇場ゴウアーはすぐチケット重複買いしたり、買ったのに行かなかったりする事故を起こしますからね……。気をつけねば!

 

 それでは、今回はこちらでお開きと致します。また別の記事でもお目に掛かることができましたら幸いです。